(今回もだめだった……)
長い黒髪にセーラー服のような服装をした少女、明美ほむらは目の前の状況を冷めた目で見ていた。
かつて地方都市とは思えないほど近未来型都市として発展を見せていた見滝原。それが今では見る影もないほどの破壊の限りを尽くされていた。
彼女はそんな光景から目を離し、それを起こした原因へと目を向ける。いくつもの線が連なり山のようになり、頂上では手のようなものを広げているそれは、かつて守りたかった大切な少女の成れの果てであり、何度も見た最悪の結果だった。
明美ほむらはそれをじっと見た後、左腕についた盾に手を掛ける。傾ける瞬間、小さく震える声で呟く。
「ごめんね、まどか……」
※
「やれやれ。せっかくここまで育ててくれたのだからお礼を言おうとしたのに行ってしまうなんてね」
明美ほむらが消えた直後、倒壊した建物の残骸から白く小さい生物が現れた。猫ともハクビシンとも違うが愛らしい見た目と感情を感じさせない赤い瞳を持ったそれ【インキュベーター】は、起伏のない声で喋り続ける。
「まぁ、彼女にとってここはもう終わった場所だから仕方がないか」
僕たちのノルマも関係ないだろうしね。そう呟きその場から離れようとした時、強烈な耳鳴りが襲った。
「ん?」
辺りを見渡すが特に変わった物はない。そもそもそんな音を立てる生物や物体はないはずなのだ。しかし、耳鳴りは止む事なく続く。
「あれのせいかな」
そう思い、インキュベーターが少女の成れの果てに目を向けた瞬間、背後の水面で変化が起こった。
風も吹いていないのに波紋が波立ち、水面から音もなく一つの影が現れた。インキュベーターはその気配に振り返り姿を捉える。
6つの目を思わせるような仮面、手に杖を持ち、翼を広げた鳥類を思わせる金色の鎧姿がそこに存在していた。
「……」
それは目の前のインキュベーターを見下ろしながら、その場に佇んでいた。
「君は一体何者だい?この耳鳴りは君が起こしているのかい?」
目の前の存在はインキュベーターの問いには答えず、代わりに腰に付けていたカードケースから1枚のカードを引き抜いた。
杖の正面が開き、カードをその中に入れる.カードには時計の文字盤の絵柄が描かれていた。
「遅かったか」
低く威圧的な声でそれだけ言うと、杖が勢いよく閉まり、同時に機械的な音声が杖から発せられた。
『タイムベント』
言い終わった瞬間、まるで鏡が割れて飛散するかのように目の前の存在が消えた。そう認識したのがインキュベーターの最後の感覚であった。
まるで巻き戻るかのように飛散した破片が元に戻った時、目の前な光景は全て動きを止めていた。その光景を見ながら黄金の鎧は1人、誰に聞かせるわけでもない言葉を紡いだ。
「鹿目まどかは私の物だ」