※ハジメ達の高校の名前がわからなかったのでオリジナルでつけました。
月曜日の正午。
学生も社会人も昼休憩・昼休みに入る時間。それはこの国夢高校に通う小鳥遊風華も例に漏れず、授業終わりのチャイムが鳴ると同時に彼女は凝り固まった身体を伸ばし、教科書を閉じる。
「お疲れ~風華」
「……ん」
風華が教材を片付け終えたときに親友の山上美穂が彼女の席までやって来た。
美穂の手には弁当の入った小包。いつもこの時間を楽しみにしている彼女らしく、その顔はニッコニコの笑顔だ。もっとも、片側の頬が赤く染まっているのは美穂が授業中寝ていた証拠でもあるのだが。
「……また寝てたでしょ」
「うっい、いやあれは数学が悪いし」
「……」
睡眠常習犯の弁明する様子をジト目で見ながら風華は自分の弁当を鞄から取り出し席を立ちクラスを出る。
待ってよーと美穂もその背を追うように出て行った。
小鳥遊風華は美少女である。少しの力で折れそうな小柄な身体に長い黒髪、いつも無表情だが整った顔立ちは人の心をつかんで離さない何かがある。今年入学したての一年生であるが、入学一週間で校内二大女神と対抗するかの様に二大天使の片割れとして有名になっている程だ。もっとも、本人は迷惑がっているのだが、ここまでの評価を消し去るのはとても不可能なので渋々受け入れている。
そのとなりを歩く山上美穂もまた二大天使の片割れと言われる程に有名である。ばっさりと切られた短髪と169cmという高身長は彼女の明るさを無駄無く表現し、制服の隙間からわずかに見える身体は細身ながら健康的な肉付きをしている。
そんな彼女たちが廊下を歩くだけで人の視線をくぎ付けにしてしまうのは無理もない。故に
「小鳥遊さん、今日はお昼一緒に食べないかい?」
「山上さん、付き合ってください!」
こういった男子生徒からの告白や誘いが後を絶たない。
風華は表情のない顔からさらに表情を無くし、はぁ、とため息をつく。入学当日からこういったアプローチは何度も受けており、その度に断っているのだが流石にうんざりもしてくる。
だから、今回も返事はこうだ。
「……じゃま、どいて」
断るにはあまりにも辛辣な返答。周囲で見ている生徒は「ああ、またか」とわかりきった反応をし、誘った側の生徒は笑顔が固まる。
美穂の方も「ごめんね!」と一蹴し二人は先へ進もうとする。
「待ってくれ!せめて約束だけでも」
しかし、通りすぎたところで風華の肩を生徒は掴んで引き留めようとする。
だが、その手は空を切り、逆に美穂に掴まれていた。
「!?」
「ごめんね~風華のじゃまを排除するのがあたしの役目だからさ」
そういって彼女は掴む手に力を籠める。そして、痛みに顔をしかめる様子を見た直後にパッと手を離し「じゃあね~」とさっきのやりとりを無視して進む風華のあとを追いかける。
「もーおいてかないでよ風華ぁ」
「……ん」
「にしても今日は諦めが悪かったねぇ。転校生だったのかな?」
「……知らない」
「ま、だよね」
そう言いつつ彼女たちは階段で二年生のフロアへと足を進めていた。
その際、風華の表情が少し緩んでいることに美穂以外に気づく者はいなかった。
同時刻。
クラスが騒がしくなると共に南雲ハジメは目を覚ました。周囲を見渡すと愛ちゃん先生こと畑山愛子先生が教室に残って生徒と談笑しているほか、席を移動して弁当を広げている様子が見える。
もうお昼か。そう判断したハジメは鞄からゼリー飲料を取り出し、それを胃に流し込む。食事と言っていいのかわからないそれをしながら今朝の様子を思い出す。
少女漫画家である母の作業を可能な範囲で手伝っていたら徹夜してしまい、眠い身体を引きずるように、というか半ば引きずられて登校。日課のように絡んでくる檜山大介たち四人からの言葉を流し、二大女神の片割れで有名な学校一の美少女、白崎香織から女神(であり悪魔)の微笑みで周囲から殺気を受け、天之河光輝という勘違い強めの超人の言葉にさらに気分を落とす。
この二人のコントロール役である八重樫雫からの謝罪に、彼女の疲労具合が見て取れたことには心の中で彼は泣いた。
そして現在。
「南雲くん。よかったらお昼一緒にどうかな?」
香織からお昼ご飯のお誘いを受けていた。
「あ~誘ってくれてありがとう、白崎さん。でも、もう食べ終わったから天之河君たちと食べてきたら?」
「ダメ!ちゃんと食べないとあの子に怒られるよ?」
何度も交わされてきたやりとり。去年までは昼休みの始まりのチャイムと同時にそそくさとクラスから出ていたハジメだが、今年からはそうもいかなくなっていた。
香織という人気者のお誘い。誘われるだけでも羨ましいのにそれを断るという、暴挙に(主に男子の)クラスメイトからの殺気をビシバシと感じながらのハジメの抵抗。無意味だとわかっていてもやってしまうのは去年の名残か。
そして、彼女の口から出た「あの子」という単語に彼は今日が何曜日かを思い出す。
「香織。こっちで一緒に……」
「……にぃ。来た」
「雫先輩。こんにちは~!」
スタスタと速足に歩く小柄な影が、香織を誘いに来た光輝を押しのけ、いつもの気障ったらしいセリフを遮る。
ハジメの机の前には、いつの間にか用意されたこちらを向いた椅子。その椅子に少女は躊躇なく座り、ハジメの机に手に持った弁当を置く。
「……お昼、食べよ?」
彼女の名は小鳥遊風華。
クラスに天使が降臨した。
南雲ハジメと小鳥遊風華の関係は、幼馴染だ。元々、母親同士の仲が親友とも呼べる間柄であり、それはお互いが結婚して子供が生まれても変わることはなかった。ハジメの両親は仕事の都合上、ハジメを一人にしなければならないときがあり、ハジメが小さい頃は、忙しい時には小鳥遊家に預けられていたことがよくあった。
歳が一つ上のハジメは、年下の風華の兄としての意識から、風華の面倒をみることが多く、また、風華も昔は引っ込み気味だったので交流がある同年代はハジメくらいであり、そんなハジメを兄と見ていた。そのため、二人の間には自然と兄妹のような関係が出来上がっていた。
「風華ちゃん!南雲くんったらまたゼリーだけでお昼すませようとしてたんだよ!」
「…………ほら、にぃ。口開けて」
「いやだから僕は大丈夫だから風華がもぐぁ!?」
「ちょ、風華!?無理やりはダメだっていつも言ってるでしょ!香織先輩も落ち着いてぇ!」
「……にぃ?たーんとお食べ。ふふっ」
……もっとも、妹の方は兄への距離間をバグらせているのだが。
ちなみに、この時間は唯一といっていいほどに貴重な、風華の笑顔が見れる時間である。そのため、風華の笑みを知る生徒は一年生より二年生のほうが多いという珍事になっている。
さらに言えば、クールビューティで通っているが意外と可愛いもの好きである雫が胃痛を回復させる光景でもある。今風華が使っている椅子も彼女が用意したものだ。
流石に下級生に醜い嫉妬というものを見せられないのか、クラスメイトもこのときだけは表立った殺気を隠している。内面では香織に気に入られ、さらには風華と幼馴染という境遇のハジメへの恨みつらみでいっぱいなのだが。
そして、渦中にいるハジメはというと、香織の密告によりキレた風華によって口の中に卵焼きを突っ込まれ、さらにはミートボール(どちらもニンジン入り)で追い打ちされるという状態でいた。
ちなみに、光輝は香織をまだ誘おうとしていたが、全くもって相手にされていなかった。
そんな平和な光景は突如として終わりを告げる。
「な、なんだ!?」
クラスの誰かが声を驚いた声を上げる。その理由はようやく口の中を空にして水を飲もうとしていたハジメにもすぐにわかった。
教室の床が純白に光っている。それは、幾何学模様を形成し光輝の足元を中心としていた。
自分たちへ迫る未知の減少。愛子先生が「皆!教室から出て!」と叫ぶと同時に光は視界を塗りつぶす。
やがて、光が収まる。
そこには、食べかけの弁当、机に置かれたスマートフォン、机のわきに置かれた鞄といった、それまで誰かがいたという形跡しかない。
人間だけがその場から全員消失していた。
激遅カメ更新になりそうですが、頑張って書きます。
拾われは……もうしばらくお待ちください。