今回も短いですが、やっと同じような展開から抜け出せそうなのでご容赦ください……。
「……」
「……」
魔法陣の焚き火が静かに洞穴を照らす中、ハジメと風華は互いに背中合わせで座り、無言でウサギ肉をかじっていた。
焦げて真っ黒になっていたウサギ肉だが、少々大きめに切り分けていたおかげか完全に炭化してはなく、僅かだが食べられそうな部分は残っていた。
それでも味や食感は最悪の一言に尽きるのだが。
「……不味いな」
「……硬い」
焦げ肉のため、苦みが強いところまでは二人の想像通りだった。しかし、下処理もしていないナチュラルな焼き肉の味というのは、便利な日本社会で育ったうえに、つい最近まで王国の豪華な食事がメインだった二人には精神的苦痛を与えるには十分のインパクトがあった。
その上、焼きすぎたおかげでとても硬く、飲み込むためにはよく嚙みしめなければならない。そして、噛めば噛む程、溢れてくるのは血生臭さと獣臭さである。正直、食べられたものではない。せめて、塩の一つまみでもあればよかったのだが、この奈落の底にそんなものが存在するはずもなかった。
それでも、餓死するよりはましだ。二人は生き延びるという一心で黙々と肉を食していた。
それだけを考えなければ食ってられない、というのもある。
「くそう……地球に戻ったら真っ先に美味いウサギを食ってやる……」
「……さんせー」
ある程度噛んでから、飲み込むにはまだ少々大きい肉の塊を不思議な水で流し込む。すると、口の中の気持ち悪さが途端に消えていく。この水がなければもっと苦しい食事になっていたかもしれない。
しかし、落ち着いた食事を取れたおかげで、彼に少し余裕が出来たことは確かである。
手元のカップの中身に目を落とし、続いてそれの源泉である水流に目を向ける。
その先には、青白い輝きを放つ球形の結晶があった。最初は肉を一噛みするたびに水で喉に流し込んでいたので、すぐに足りなくなってしまったので、もっともらおうと思って壁を錬成で掘ったら出てきたのがこの結晶である。この水はその結晶から放出されているようだった。
「僕の予想が当たってたら、あれは神結晶で間違いないと思う」
「……なに、それ」
風華の問いにハジメは、自分の知識を思い出すためにゆっくりと口に出す。
「ウォルペンさんに教えてもらったことがあるんだ。大地を流れる魔力が何年も時間をかけて結晶化したもの……だったかな」
それは、かつてウォルペンのもとで働いていたときに聞かされた話しだった。今はもう全て失われたと思われており、古い文献でも少ししか知ることができないくらいの幻の結晶らしい。
彼も、鍛冶の役に立つかは知らねぇがここまで珍しいならせめて一目見てから死にてぇもんだと笑いながら話していた。
「……じゃあこの水は?」
「そっちは神水って呼ばれるもので、神結晶に魔力がどんどん溜まって魔力が飽和状態になると秘薬みたいな水になる……で合ってるはず」
ふぅん、と背後の義妹が興味なさげに呟いたところで、会話が途切れる。丁度、ハジメの手元の肉が無くなったので他に焼いていた肉を食べようと立ち上がったときだった。
「う……あっ……うァ!?」
「!?どうしたふう……ガァ!」
背後にいた風華が突然苦しみだした。その様子を見たハジメはすぐさま駆け寄ろうとし、突如、全身を激痛に襲われる。
彼らは激痛から逃れようとして叫び、転げまわる。どうにか、カップの中に残っていた水を飲み干すと、全身を襲う痛みは引くが、再び激痛が襲いかかる。
「どう……して……」
「にぃ……にぃ……」
今まで彼らを何度も救ってきた神水の効果が無かったことにハジメの思考が疑問と激痛でぐちゃぐちゃになる。しかし、彼を呼ぶ風華の声が、反射的に彼に正気を取り戻させる。
風華は彼に助けを求めて縋り寄る。彼の身体を抱きしめる力は普段の彼女からは想像もつかないほどに強く、ミシミシと彼の身体が悲鳴を上げる。
「待っ……てろ、今、み、水を……」
そういうと、彼はカップを握りしめる。直後、彼の身体が激しく脈動を始めた。
「ガアアァ!?」
ハジメの身体の底から急激な力が溢れ出す。彼が握っていたカップはその握力に耐えられず粉々に砕け散り、破片が彼の手のひらに突き刺さった。
手のひらの痛みに構うことも無く、彼はようやく神結晶へとたどり着き、手で神水を掬うと己の血が混じるそれをすぐさま風華の口へ流し込む。風華がそれを飲むとき、勢い余ってかじりつき、手のひらの肉が持っていかれたが、その傷が即座に再生する。
風華に神水を与える作業を2、3回行ったところで、手のひらの傷から神水がしみ込んだおかげか、彼は少し正気を取り戻し、今度は自分の口元へと神水を運んだ。
神水のおかげで一瞬だけ痛みから解放されたハジメは、全身から力が溢れ出す感覚に奇妙な既視感を覚えていた。
どこで経験したのか。そう考えて、結論はすぐに出た。
(そうだ、初めて風華の強化を受けたみたいな――っ!?)
そこまで思い出したところで、三度、彼を激痛が襲う。
出来ることなら、狂って全部投げ出したい。いっそ、舌を嚙みちぎって死んでやろうかとも思った。
しかし、その選択を選べば彼は死んでいても後悔するだろう。
彼女をこの奈落の底で孤独にするわけにはいかない。彼女と一緒に地球に帰るために死ぬ訳にはいかないのだ。
風華からの自身への痛みが激しくなる。時折、何かが折れる音と共に新たな痛みが彼を襲うが、その痛みを上塗りするように一段上の激痛がそこを襲う。
風華の意識は無いようだった。ハジメからの神水で気絶することが出来ず、激痛に耐えられなくなった彼女は、考えることを放棄し、激痛に反応して叫び、力加減が出来ずに全力でハジメを締め付けるモノとなり果てていた。
やがて、ハジメを襲う激痛が治まり、風華からふっと力が抜け、ふらり、と倒れる小さな身体を自身の身体で受け止めたとき、彼はようやく意識を手放すことが出来た。
バルファルクのしばきに入るので次回は今度こそ遅れると思います。……次はいつかしら。