注意点として、今回はR17.9がまあまあ火を噴きます。
「……なに……し、てる?」
突如訪れた来訪者の男女二人組、その男の方が(精神的に)床に沈む様を見ながら埋められた少女は相方であろう風華と呼ばれた人物に問いかける。
その当人である風華は、まるで一仕事終えたとでも言うようにふぅ、と汗を腕で拭う仕草をしていた。汗など少しもかいてないのだがまあ気分の問題なのだろう。
「お仕置き……にぃが
「?……ご主、人様とか、じゃ……ないの?」
「にぃは、にぃ……ふぅのにぃ、奴隷とかじゃ……ないよ?」
風華の答えに、少女の口から「え……」と困惑の声が零れる。事実、少女は風華のことを奴隷か何かだと勘違いしていた。
しかし、彼女がそう思ってしまったのも無理はないだろう。
現在の風華の見た目は、乱雑に扱われたかのようなぼさぼさの髪に、ほぼ全身を被う火傷跡。極めつけは、身に纏っていたのは先ほどの折檻に使用された上半身を覆うのがやっとの外套のみで、その下には下着の類すらないという。少女の知識にある奴隷の方がまだ待遇はいいだろう。火傷跡だらけだが風華の顔立ちが良い方に分類されるのも少女の判断を後押ししていた。
ここが
「……今度は、こっちの番。お前は……誰?ここで何してる……?」
彼女の思考を知るよしもない風華は、己が言われたことを問い返す。ここでハジメもやっと少女に意識を向け始めた。
その問いかけに少女は俯き、黙り込んでしまった。くすんだ金髪に隠れて表情は見えないが、あまりいい顔をしていないのは確かだろう。
互いに無言の状態がどれだけ続いただろうか。その間にハジメは顔の外套を取り去って風華に着せた。もちろん少女の方を見ないように背を向けながら。
正直なところ、ハジメとしては「無理して答えなくてもいい」と言ってやりたい。しかし、この迷宮の奥で、仕掛けつきの扉にその扉の前には
まあ、この時点で彼女を無視してさっさと踵を返して出て行かない辺り、ハジメの答えは決まっているようなものだが。
やがて、少女はポツリ、ぽつりと少しずつ口を開いた。
「名前……アレーティア……ここにいる、理由……裏切られた」
「裏切られた?どういうことだ?」
「……どっかの国の王族か貴族、だった?」
アレーティアは小さくコクリと頷いて言葉を続ける。
「吸血鬼族の、王……それが、叔父様には邪魔、だった……お前はもう、いらないって」
「だったら、何で生きてるんだ?邪魔だったら生かしておく理由はないし、普通は殺されると思うんだけど」
「私は、先祖返りの吸血鬼……魔力さえあれば、首が飛んでも生き返れる。だから死なない、し…………死ねない」
「……だから、封印された?」
風華の言葉にまた頷く。
彼女の言葉が嘘という可能性は0ではないが、少なくとも不死身というところは本当だろう。その証拠に最初はかすれた声しか出ていなかったアレーティアの声量はこの短時間で大分回復したように感じられる。
「……あと、魔法に詠唱、いらない」
その言葉には、ハジメも思わず振り向いてアレーティアの方を見やる。風華も声には出してないが、目を見開き驚いていた。
そんなもの、召喚されたクラスのチートスキル全てが霞む代物だ。詠唱がいらないということは相手より先に魔法を打てるということであり、詠唱から魔法の種類を悟られることもない。勇者以上に最強の能力だろう。
二人の危険感知に警鐘を鳴らした正体がアレーティアだったことに納得する理由だった。
「なん……だと。それじゃあ逆にお前どうやって封印され……あっ」
「そのときの敵、家臣……攻撃、しづらかった?」
「……それもだけど、突然のこと、だった……裏切り、結構混乱する」
「言葉の重みが違うなぁ……」
その言葉にハジメは思わず脳裏で自分たちの境遇と比較していた。
実際のところ、彼には自分たちがこの状況になった原因の人物に心当たりがある……というか十中八九そいつが犯人だと確信している。しかし、それはハジメがそういった環境下で過ごしていたから気づいているのであって、アレーティアの受けた裏切りはまさに寝耳に水だったのだろう。
「まあ逆に言えばそれだけ信頼される王様だったってことだろお前は。いいな、その国。一度でもいいから見てみたかったよ」
「……ん、気になる」
そういう二人の様子にアレーティアは何か引っかかるものを感じた。
「……ねぇ、外は今、どうなってる?吸血鬼族は……どうなったの?」
静かに問いかけるその言葉に、今度は来訪者が黙る番だった。その様子から彼女は吸血鬼族の今を察した。
「魔人族とは戦争が続いてる。……そして、吸血鬼族は300年前に滅んだって言われている」
「多分……アレーティアが、最後」
そう、とだけアレーティアは言った。
300年、それは決して短くはない月日だが、それだけ経っても外は何も変わってないどころか同胞は誰もいない。そう告げられた彼女の心境は、ハジメたちが思っている以上に複雑だろう。
またしばらく経ってからアレーティアは礼を言った。
「……ありがとう、教えてくれて」
「いや、ああは言ったけど僕たちも滅んだっていう確証は持ってない。だからさ」
ハジメは一つの提案を口に出す。
「ここから出て、生き残りを探してみてもいいんじゃないか?」
「要約……出してやるから力、貸せ」
自分は今何度驚けばいいのだろう。彼女はそう思った
確かにここから出たいという気持ちはある、というか最初の余興じみたやり取りのせいで言い出せるような雰囲気ではなかったのもあるが、こちらから願いたいところだ。それがまさか彼らの方から出してやると言われると彼女は思ってもいなかった。
「いい、の……?」
「いい加減その状態じゃあ色々と辛いだろうし。それに、ここまで話してみてわかった。お前……いや、君は信用出来る人だ。僕たちはこの迷宮から出るために先に進まなければならない。そのための戦力は多い方がいいだろう?」
「……300年前の魔法、気になる」
「まあそういう情報も欲しいしね。さて、どうする?」
どうするだと?そんなもの、答えは一つに決まっている。
「……お願い……ここから、出して……!」
「うん、任せて」
「……まあ、拒否っても……無理やり出してた」
アレーティアの願いを聞いたハジメは、義妹の容赦の無さに苦笑しながら(まあ彼も同じ考えなのだが)立方体に右手をつける。手のひらから伝わる感触に少し違和感を感じるのは封印の魔法がかかっているせいだろうか。
「これは結構苦労しそうだな……風華、全力でお願い」
「ん、わかった」
ハジメの指示に従い、風華は彼の背中に両手をつける。その行動に何をする気なのかとアレーティアはじっと見つめていた。
「支援、最大」
「錬成!」
そして、ハジメの錬成による解放作戦が始まった。立方体からの抵抗は彼が想定していた数倍強かった。
だが、それも支援魔法を受けた錬成師の敵ではない。
(思ったより抵抗が強い、けど、風華の支援と精密錬成と魔力の量で!)
「押し通す!」
絶えず行使される暴力的な錬成に立方体は抵抗もむなしくドロドロと融解していき、やがてそこには、ペタリと座り込む少女と、彼女を封印していた何かがあった。
ふぅ、と一息ついたハジメは座り込んで神水をゴクリと飲んだ。
ところで、一つ問題がある。
「……何か、着るもの……ない?」
それはアレーティアの今の姿である。
今の彼女は、ハジメの予想通り一糸纏わぬ姿であり、彼女のキレイな傷一つ無い白い肌と身長にしては
それに加えて、少々傷んでくすんだ色の長い金髪と、対照的に妖艶に輝く紅い瞳はこれはこれでいい
大人の階段を1つだけ登っただけの思春期野郎には劇物レベルの刺激だった。
「……ねぇ?あなた?」
「あひゃい!?」
ハジメがボーっと見惚れていると、気づけば彼の目の前にまでアレーティアは迫っていた。まだ手足の感覚が戻らないのか四つん這いで来たため、垂れ下がった金髪の隙間からもっと見えてはいけない色が見え隠れしている。
その姿にハジメは慌てて目を隠そうとし、背中から首に回された手に今度は別の意味で身体を硬直させた。
「……にぃ?これ以上浮気は……ダメよ?」
「いや、風華さん、これは違うんです。今後をどうしようか必死に考えていただけでやましいことなんて何もっ」
「……サブカル的ドストライクのくせに」
「!?!?!?!?!?」
何故バレている!?とハジメは目を白黒させる。その様子が面白く見えたのか、アレーティアはクスクスと笑っていた。
そして、吸血鬼の女王はゆったりとした仕草でからかうようにハジメの胸板に指を滑らせる。
「……吸血鬼族の国、あなたと作るのも……いいかも、ね」
「へあっ!?」
「……先に、することが、出来た……!」
その仕草にハジメは混乱をさらに加速させ、風華の殺意のボルテージがぐんぐんと昇りあがる。
直後、上から降ってきた何かをハジメはアレーティアを引き寄せて飛び退くことで回避した。
という訳で、ユエさんの名前はそのまんまになりました。
理由とかは特にないけど書いてたら自然とこうなっちまったんだ。
あと最後の方書いてるの楽しかったれす()