今更ですが、風華とユエ(アレーティア)のどっちが話しているかわからない、となってはいないでしょうか。キャラ被りは承知の上で書いてるので出来るだけわかるように意識して書いていますが、もしそうなってしまったら申し訳ない……
「あっぶねぇなぁ!」
上からの急襲を間一髪で回避したハジメは声を荒げる。それに対して、新たな乱入者は彼にただ敵意を向けて応答した。
乱入者の姿を一言で表すならば巨大サソリだろうか。4本腕や8本の足、尾が2本あるなど、相変わらず地球の生物とどこかずれているトータスクオリティだが、サソリ以外に見えるかと言われたらノーと答えるだろう。もっとも、雄たけびを上げるサソリなど信じたくもないが。
「おいおいこんなやつまでいるのかよ……アレーティアさんや、あれに見覚えとかある?」
「いや……私、封印されてからここにいる……から、わからない」
それを聞いた彼は「わかった」とだけ答えると、巨大サソリを素早く観察し始める。情報がないならこれまで通り、戦いながら手探りで攻略するしかない。
「……にぃ、扉閉まった。逃げれない」
そして、背中から風華の撤退は許されないとのお達し。どうやら、アレーティアを封印した「おじ様」とやらは本気で彼女を逃がしたくないらしい。
「一先ず散開、多分アレーティアに近いやつを優先して狙うだろうから、僕がおとりをやる。風華は魔法を色々撃って効果ありそうなのを見つけて」
ハジメが風華にそこまで言えたところで、巨大サソリが尾から紫色の何かをこちらへ飛ばし、彼らの作戦会議を強制的に終わらせた。ハジメはアレーティアを抱きしめたまま右へ飛び退き、風華はその反対へと飛ぶ。
回避した跡を見てみれば、先ほどまでいたところにじゅわじゅわと嫌な音を立てる液体が付着していた。どうやら、毒液のようなものを飛ばしてきたようだ。
「そこまでサソリに似てるなら見た目もそのまんまにしてくれよなっ!」
そう悪態をつく彼へ、巨大サソリは毒液を連射する。何発も飛んでくるそれを、ハジメは空力を使用して僅かな隙を縫って回避する。これまでの階層攻略で、何度か風華を抱いたり背負ったりして移動していたためか、その動きに無駄はない。
「くぅ……!」
しかし、かなりアクロバティックな動きをしているため発生するGのせいでアレーティアは苦し気に呻く。先ほどまで封印されて衰弱していた彼女にはかなり負担が大きかった。全力で抱き着きしがみつくが、手足から徐々に力が抜けていく。彼女を落とすまいと、ハジメは彼女を抱く右腕に一層力を込める。
「あ……」
「ごめん、もう少しだけ耐えて!」
一方で、風華は自身のステータスにものを言わせて巨大サソリから距離を取って背後に回り込む。魔法職タイプの彼女の敏捷はハジメよりは劣るのだが、魔物肉の影響で強くなってるためトータスの一般人から見ても異常と言われる数値を出していた。
彼女は巨大サソリへ初級魔法を属性をばらけさせて放つ。初級といっても使用した魔力量のせいで中級魔法と言われてもいいくらいのそれは対象に全弾命中する。
風属性、効果無し。
土属性、効果無し。
水属性、効果無し。
雷属性、効果無し。……だが
そして炎属性……効果あり。
「……?」
雷属性の時に違和感を感じたことに風華はそれが何かを考えようとしたが、攻撃に反応した巨大サソリの2本目の尾が彼女の方を向いたため、考えることを中断せざるを得なくなった。
巨大サソリの意識が風華へ向く。その隙を逃すハジメではない。
「目をつむれ!」
ハジメはズボンのポケットから魔光石を取り出し、魔力を込めて投げつけた。過剰な魔力投与によって即席の閃光玉となったそれは、巨大サソリの目の前で爆発し、部屋全体を一瞬だけ明るくする。
突然の強い光にひるんだのか、2本目の尾から何かを放とうとしていた巨大サソリは悲鳴を上げてのけぞる。尾から何かが暴発し、あらぬ方向へと無数の針が突き刺さる。
自分へと飛んでくるはずだったものを横目に、風華は巨大サソリが視界を奪われている間にハジメの元へ向かい合流する。途中で顔に向けて炎属性の魔法をぶつけて顔面を焼いておくのも忘れない。これでしばらくはこちらを認識出来ないだろう。
ハジメは、地面を錬成して作った即席の半球状のドームに身を隠していた。
ドームの壁に背をつけ、神水を飲んでいたハジメは、半分飲んだそれを風華へとパスする。彼女もそれを飲み干した。
「にぃ、ありがと」
「いいよ、魔法どうだった?」
「炎、効いた……あと、雷が、変」
「変?どういうこと?」
彼女の言葉にハジメは怪訝な声を上げる。
「うん……地面に、流れてる、感じ」
「地面に流れる……って、まさか
「そこまで、わからない……でも、一つだけ言える」
「ああ、そうだね……」
「「錬成が効く」」
相手に直接錬成が効くとなると、この兄妹に敵はいない。あとはどうやって錬成を叩き込むかだが、それについてもハジメは一つ策を思いついた。それには協力者が必要だ。
「とりあえず風華の支援は必須として……アレーティア」
ドシン、ドシンと巨大サソリが暴れる音を聞きながら、そろそろ動かなければ不味いと判断したハジメは、策への協力を得るために自身に抱き着いたままのアレーティアへと声をかける。しかし、彼女からの返答はなかった。
「……アレーティア?」
返答がないことを不審に思い、彼は身体を軽く揺らし、密着しているアレーティアをちょっとだけ剥がす。彼女の頬は赤く染まり、息は少し上がっているのか「ハァ……ハァ……」と小さい声が聞き取れる。
「あの、アレーティアさん?」
「あなた、名前は……?」
三度呼びかけるハジメの声に被せるように、アレーティアは彼の名を問う。何故今?と思いながらも彼は反射的に自分の名前を答える。
「ハジ、メ……ハジメ……ごめんな、さい」
「え、ちょ!?」
「もう、限界……!」
急な謝罪に戸惑うハジメ。そんな彼を無視して、アレーティアは彼の首筋に顔を埋め、
ガブッと牙を突き立てた。
「ぐあっ……!?」
「にぃ!?」
突然の痛みと身体の中から何かが抜けていく感触にハジメは思わず悲鳴を上げる。痛みには慣れてきた自信はあるが、血を吸われるというのは初めての体験だ。
しかし、痛いのは最初だけだった。血が抜けていく感じはするが、噛まれた首筋を中心にどこか心地よいものも感じる不思議な感覚だ。
「あ……ああ……」
「風華、僕は大丈夫だから……」
「にぃの、血……まだ、飲んだ、こと、ないの……に……!」
うん義妹よ、落ち着いたら後でゆっくり、本当ゆっくりと話し合おうか。
どこかずれたところで身体を震わせる義妹を見て、逆に精神が安定したハジメは脱力感を感じた。
吸血を開始して10秒くらいが経ってからアレーティアは首筋から口を離した。その顔は恍惚の表情を浮かべており、どこか満足しているように感じた。
「ごちそう、さま……でした」
「う、うん……アレーティア、今のは……」
「魔法、撃てる」
突然の吸血の理由を聞こうとしたが、アレーティアの一言で頭のスイッチが切り替わる。
少し想定外のことが起きたが、彼の必要なピースはそろった。
「よし、僕と風華であの巨大サソリを攻撃するから、アレーティアは指示したときに魔法で攻撃して」
「ん、了解」
彼女の了承を得たところで、巨大サソリの暴れる音が消え、かわりに咆哮が響き渡る。どうやらこちらの位置を把握したらしい。
音を立てて突進した巨大サソリは4本腕の鋏をドームへと叩きつける。それに対し、ハジメは風華との支援錬成で極限までドームを硬くした。それでもそう長くは持たないだろう。
しかし、それだけ時間があれば十分である。ハジメはポケットからかつて階層主だった熊相手にも使用した金属棒を取り出した。
あれから迷宮攻略の合間に良質な鉱石から、さらに良質なものを厳選して混ぜ込み、アップデートした結果、より長く、より太くなったそれを地面へと突き立てる。
「支援」
「錬成!」
そして金属棒に対して、兄妹は支援錬成を行う。すると金属棒は徐々に細くなっていき、先端は巨大サソリへ向かって
ドームが猛攻を防いでくれている代わりに目で場所はわからないが、地面を伝わる振動が彼に敵の居場所を知らせる。
やがて金属棒は地面から巨大サソリの脚に目がけて勢いよく突き出される。しかし、金属棒は巨大サソリの外殻を貫通せずに深く突き刺さるだけで内部にまでは到達しない。
だが、
「自分の鎧に刺される気分はどうだい?」
ハジメはそう不敵に笑うと、金属棒越しに外殻自体を錬成する。自分と風華の見立てが合っていれば、錬成は可能なはずだ。
そして、その目論見は巨大サソリの悲鳴が響いたことで、彼らに成功したことを知らせた。
手足の外殻は内部を突き刺すアイアンメイデンへと様変わりし、顔や背中といった胴体を覆う外殻の一部は強制的に外される。
たまらず巨大サソリの攻撃を止める。決めるなら今しかない。
「アレーティア!」
ハジメが吸血姫の名前を呼ぶと、彼女はドームの上に飛び上がり、片手を掲げる。彼女の身体から黄金色の魔力光が漏れ出すのが見える。
「蒼天」
その言葉と共に巨大な青白い光が頭上に現れ、強烈な熱波が女王以外に降り注ぐ。その熱にハジメは工房の温度を思い出したが、この熱量はそれ以上だ。
そして、光が巨大サソリへと落とされる。その破滅の光は敵対者に悲鳴すら許さず焼き尽くした。
「……ん、終わった」
魔法の発動から数十秒後、ようやく光が収まった。それから少しして、アレーティアはドームの二人へ飛び降りて告げる。
ハジメがドームを解除すると、まだ所々燃え残っているのかほのかに光る外殻と、それに照らされる炭化して真っ黒なサソリだったものが兄妹の視界に飛び込んだ。
「最上級魔法、久しぶりに使った」
あまりの光景に言葉が出ない二人に、女王は気分良さげに笑うのだった。
という訳でサソリもどき戦が終了。ペース上げていきましょう。
300年食欲我慢したところに極上のごちそう出されたら流石にかぶりつくと思うの。
今回の風華の敗因:アレーティアに神水を飲ませるの忘れた。