錬成師と支援師   作:月蛇神社

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予告
次回の投稿と同時にタイトルを少し変更します。


最弱のステータス

「……知らない天井だ」

 

 ハジメたちが異世界トータスに来て初めての朝が来た。

 

 晩餐会が終了した後に案内された部屋は「豪奢」の一言に尽きた。部屋の内装はファンタジー物あるあるな感じだろうと思っていたハジメの予想は豪快に、というか豪華に外れた。

 

 誰が天蓋付きベッドがあるなんて想像するだろうか。勇者である光輝がこの待遇ならまだわかるが、所詮おまけで召喚されたハジメの部屋にこれがあるなら全員の部屋にもあるだろう。

 

 予想外すぎる情報に愕然として、案内してくれたメイドさんの言葉を生返事で返しつつ、フラフラと吸い込まれるようにベッドに倒れ込んで「あ、フッカフカ」という感想が出たところでハジメの記憶は途切れていた。

 

 異世界に召喚されたり、妹の前で泣いたりと人生史上最大に色々とあって疲労が尋常じゃないほどだったのだろう。

 

 身体を伸ばしながらベッドから身を起こす。いくら寝心地がよかったとはいえ、慣れないところで寝たせいか身体が硬く、頭も痛い。いや、頭痛は昨日泣いたせいだろうか。

 

 一先ず、備え付けの洗面所で顔を洗って目を覚ます。さっぱりとしたところでどうしたものかと思い、何となく部屋を出る。

 

 外で待機していたメイドさんにぎょっとしつつ、次の予定までの時間を訊ね、今がまだ早朝だということを知る。なんせ、自分のスマートフォンは教室の机の上に置いてきて手元に無いし、一日が24時間という保証もないから時計を信用することも難しい。一応、腕時計の短針は7と8の間を指しているが早朝ということは現在時刻と時計が合ってない証拠だろう。

 

 その後、ちょっと庭園まで、と一言かける。そのことにメイドさんはただ一言「かしこまりました」と頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「綺麗だな……」

 

 庭園の様子は、これまたファンタジーにありがちなものだった。大きな噴水にベンチ、地面は芝生で覆われており、自分が見たことの無い花が咲き誇っている。

 

 まさに自分が画面越しに見ていたヴァーチャルのような光景。しかし、身を屈めれば芝生に触れることが可能であり、身体を優しくなでる風は花の香りをハジメに届ける。

 

 

 

 つまり、これは現実に起こっていることであり、昨日のこともまた現実なのだ。

 

 

 

 戦争。自分の世代は教科書でしか知ることのなかったこと。それを自分たちが、それも異世界ですることになるなんて思ってもいなかった。

 

 改めて、自分が戦わなければいけないことにハジメの心は不安がのしかかる。

 

 殺しなんてしたくないし、死にたくない。ゲームでは何度もしていたことだが、いざ現実にやるとなると、怖気づいてしまう。

 

 だが、ハジメが恐れているのは風華がいなくなることだ。彼女を無事に地球に帰すことがハジメの目標だ。

 

 それでも最悪の状況をどうしても幻視してしまう。当の本人から昨日励まされたばかりだが、彼はまだ紅いイメージを払拭できないでいた。

 

「クソッ止まれ、止まれよ……!」

 

 ハジメの腕が一人でに震えだす。それを抑えようと必死に力を籠めるが震えが止まることはない。

 

「あら?貴方は……」

「ッ!?」

 

 突然後ろから話しかけられ、振り向く。

 

 そこには金髪碧眼の、ハジメより少し年下であろう少女。

 

 ハイリヒ王国第一王女リリアーナ・S・B・ハイリヒの姿があった。

 

「あの、お気分がすぐれないのですか?酷い顔色ですg」

「い、いえっ!大丈夫です!それでは自分はここで!」

 

 リリアーナ心配する言葉をやや食い気味に否定し、ハジメは逃げるように立ち去った。

 

「あっ……」

 

 庭園にはやり場のない手を伸ばすリリアーナだけが残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝食は、特に何が起こるということもなく、ただただ時間が流れていた。

 

 あのあと、部屋に戻ったハジメを待っていたのはいつも通りの無表情で椅子に座っていた風華だった。

 

 何をしていたのか聞かれたので散策と答えると彼女は「……ふーん」と答え、「……明日から一緒に連れてく」と言われた。

 

 これにより、ハジメの思わぬところで朝の散歩が日課に加わってしまったが、まあ健康に良いからいいか、と彼はそう思うことにした。

 

 そして、朝食が終わって少しした今、光輝を始めとした勇者一行に訓練と座学が始まろうとしていた。

 

「よし、全員に配り終わったな?このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

 非常に気楽な話し方をするこの男性は、ハイリヒ騎士団団長、メルド・ロギンスという。この彼が率いるハイリヒ騎士団が生徒たちに訓練をつけるらしい。

 

 集まった生徒たちに団員たちが銀色の小さなプレートと針を配って行く。

 

「プレートに刻まれた魔法陣があるだろ?一緒に渡した針で傷を作って、そこに血を垂らしてくれ。一滴でいいぞ?それで所有者が登録されるから、あとはステータスオープンと言えば自分のステータスが表示されるはずだ」

 

 メルドの言葉に従い、生徒たちは魔法陣に血を垂らす。すると、プレートが一瞬淡く輝き、文字が表示された。恐らくこれがステータスなのだろう

 

 各々が自分の表示されたステータスを確認する。ハジメも自分のステータスを確認した。

 

 

 

 

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1

天職:錬成師

筋力:10

体力:10

耐性:10

敏捷:10

魔力:10

魔耐:10

技能:錬成・守護・言語理解

 

 

 

 

 

 自分の名前とステータスが表示される。思わずハジメの口からおぉ、と声がもれる。

 

「うわっすっごーい!これどうなってるんですか?」

 

 ハジメの横で、興奮したのであろう美穂がメルドに勢いよく質問する。メルドからの答えは簡潔に一言だった。

 

 

 

「ああ、全くわからん!」

「ずこー!」

 

 

 

 自分はわからないと堂々と言い放つメルド。彼は一人虚空でズッコケた美穂を見やりながら言葉を続ける。

 

「なんせ、そのステータスプレートは神代に作られたアーティファクトの類でな。ああ、アーティファクトってのは現代じゃ再現出来ない強力な魔法道具だ。なんでも、神々が地上にいた時代に創られたとか言われている」

「なるほど、これはそういったものなのか……」

 

 光輝たちが一先ず納得したところで、今度はステータスについて説明される。

 

「じゃあ、説明だ。まず最初にレベルがあるだろう?それは各ステータスの上昇と共に上がる。その数値がその人間の限界、つまりは到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。今のところ確認されている最大レベルは100で、どいつも人間として極限の能力値を発揮している」

「レベルが上がるからステータスが上がるってわけじゃないんだな」

「そういうことだ。ステータスは日々の鍛錬で上昇するし、魔法や魔道具とかで上げることも出来る。それと、詳しいことはまだわかってないが、魔力の高い者はステータスが高くなりやすい。魔力が身体を無意識に補助しているってのが有力な説だ」

 

 そこまで言って、一呼吸おき、メルドは説明を続ける。

 

「次に、天職ってのがあるだろ?それは言うなれば才能だ。末尾にある技能と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。だが、転職持ちは人数が少ない。主に生産職が持つ非戦闘系なら百人に一人、ものによっちゃあ十人に一人は持ってるものもあるんだが、戦闘系は本当に少ない。千人に一人、中には万人に一人ってのが普通だ」

 

 そこで、ハジメは己の転職を見る。錬成師、という単語から某錬金術師の漫画を想像し、何となくだがどうやって戦うかのイメージが脳裏に浮かびあがっていた。

 

 

 

 

 

 しかし、ハジメのイメージはメルドの次の言葉で瞬時に固まった。

 

 

 

 

 

「あとはステータスだが……まあこれは見たまんまだな。大体レベル1の平均は10くらいだな。でもまあ、お前たちならその数倍から数十倍は高いだろう!あ、それとステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなければならん」

 

 ん?間違いかな?と一瞬耳を疑う。

 

 ステータスプレートをにらみつける。しかし、数値は何も変化することはなく、ただひたすらに平均的なステータスを表示している。

 

 じゃあ他の人はどうなんだと周りを見渡したところで、光輝がステータスを報告する。メルドから驚きの声が上がった。数値の詳細は不明だが数値が三桁のステータスがあるらしい。おまけに、技能も普通は二つ三つしか表れないらしく、彼がそう言うということはかなりの数の技能があることがうかがえる。

 

 そうして次々と報告していく生徒たち。

 

 光輝が特別なんだろう、いや、そうであってくれ。

 

 そう思っていたハジメの願いとは裏腹に、光輝ほどのステータスではないが明らかに平均な者はいないとわかるメルドの反応。表れた天職の説明をするときの内容も戦闘系ばかりだ。

 

 報告を聞くたび、ハジメの顔が絶望に染まる。視界がぼやけ、呼吸が乱れる。

 

 兄の異常な様子に、妹はそれが何かを察した。無言で握られる手の感触でなんとか正気を取り戻す。

 

 やがて、残るはハジメと風華と美穂だけとなった。

 

 ハジメはメルドへステータスプレートを渡す。そのときの彼の心境を例えるならば、断頭台へ登る無実の死刑囚といったところだろう。

 

 メルドも、ハジメの様子を訝しげに見ながら、ステータスプレートを受け取った。

 

 彼はハジメのプレートを何度も、何度も何度も見返し、ハジメへプレートを返した。

 

「まあ、そのだな。錬成師ってのは、要は鍛冶職のことだ。その名のとおり、鍛冶をするときに使われる技能だな」

 

 歯切れ悪く説明するメルド。その様子にハジメを目の敵にしている檜山たちが食いつかないわけがない。

 

「おいおい南雲よぉ。お前のそれって非戦闘系か?鍛冶職(そんなの)でどうやって戦うわけ?メルドさん、その錬成師ってのは珍しいんすか?」

「……いや、鍛冶職人の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているぞ」

「うわっ完全に裏方じゃねーか!お前ここでもつかえねーやつじゃん」

「……やってみるさ。何にでも使い方はあるだろ」

 

 ハジメは、檜山の絡んできた手をぶっきらぼうに払いのける。その反応にイラっとしたのか、檜山はハジメからステータスプレートをひったくった。

 

「そこまで言うならいいステータスを!し・て・ん?だ……ろう……なぁ?」

 

 突然言葉に詰まる檜山。取り巻きたちはその様子にどうしたのかと訝しむ。

 

 次の瞬間、爆笑し出した檜山は取り巻きたちの方へプレートを笑いながら放り投げる。

 

「だっはははは!!見ろよ、こいつ全部10だぜ!!」

「え、まじ!?……ほんとだ!なんだよ!完全に一般人じゃねぇかこれ!」

「無理だな!防御系スキルあっても肉壁にも使えねーよこいつ!」

 

 その言葉に次々と笑いだす生徒が増えていく。当のボロクソ言われているハジメは、その様子をどこか諦めたような目で見ていた。

 

 メルドたちの苦々しい顔にも気づかず笑い続ける小悪党組。リーダー格の檜山は、これで香織に惚れているというのだ。しかし、彼の行動はほとんど彼女の好感度を下げるものであり、それは今も尚マイナス記録を更新している。

 

 香織の心はもう我慢の限界だ。笑う生徒を止めようと動きだそうとしたところで、風華が動きだす。

 

 彼女はまだ笑い続ける檜山に近づき、

 

「ふんっ!」

「あ?なんだてめえ゛んがどあぁ!?!?!?」

 

 

 

 

 

 彼の股間目がけて全力で足を振り上げた。

 

 

 

 

 

 風華の行動に場は鎮まる。男性陣は、檜山の暴れ具合から被弾箇所のダメージを想像し顔を青ざめ、女性陣も思わず(うわぁ……)と今回だけは同情する。美穂を始めとする、風華がハジメへ抱く気持ちを知っている者はよくやったと頷いていた。

 

「にぃを、笑うな……!」

「風華ちゃん……」

 

 ハジメをかばうように立つ風華。彼女の目は潤んでおり、その小さな身体は悲しみと怒りに震えていた。

 

 その気持ちを香織は痛いほど理解していた。好きな人を馬鹿にされれば、誰だって良い気はしないだろう。

 

「て、てめぇ……」

「お?風華に手ぇ出すってんなら、あたしが相手になりましょか?て言っても風華がやらなきゃあたしがやってたけど」

 

 なんとか立ち上がった檜山へ、美穂の拳が顔面に寸止めの形で繰り出される。それにびびった彼は情けない声と共に尻餅をついた。

 

 小悪党組4人分の殺気が美穂一人へ襲い掛かる。当の本人はそれを何でもないかのように平然と受け止めて睨みかえしていた。

 

 両者の間に緊張が走る。

 

「そこまでだ」

 

 それまで傍観に徹していたメルドが口を挟む。

 

 彼もハジメと檜山たちのやりとりを不快に感じていた。しかし、それと同時にハジメがこの集団でどういった立ち位置にいるのかを知る機会だとも考え、彼は観察することを選んだ。

 

 そして、場を鎮めるならここだろうと彼はこのタイミングで介入する。

 

「それ以上やりあうなら、俺もこいつを抜かなきゃならん」

 

 そう言ってメルドは腰から下げた剣を鞘ごと抜き、地面へ突き立てる。突き立てた音はけっして大きくないが、檜山たちにプレッシャーを与えるにはそれだけで十分だった。

 

 メルドはハジメへと向き直る。

 

「確かに、錬成師は鍛冶師が持つ天職だし、とても戦闘系とは言い難いし、ステータスが低い者がほとんどだ。だがな、今俺が持ってる剣も、鎧も、そんな錬成師たちが作り上げ、整備してくれているものだ。そして、これらが無きゃ俺たちは満足に戦うことも出来ない。ある意味、戦闘系の天職以上に大切なものだ」

 

 メルドは、ハジメの肩に手を置き、励ますように話す。

 

「非戦闘系の天職はそれぞれの仕事場が戦場だ。なにも前線に立って戦うことだけが戦いじゃない。お前さんの言うとおり、何にだって使い道はあるし、それは何一つ欠けちゃいけねぇ」

 

 それに、これは誰かを護る力でもある。その言葉は、風華を護り切れないかもしれないと絶望していたハジメの心に深く響いた。

 

「護る力、か……」

「……にぃ以外に護られる気はない。あとついでに美穂も」

 

 ハジメの小さな呟きは風華だけが聞き取れた。




本当は風華たちのステータスまで行くつもりだったけど予想以上に長くなってしまった。
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