錬成師と支援師   作:月蛇神社

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ハジメの強化ステータス公開。

すっげえ難産だったからおかしいところあってもユルシテ。


二人の決意

「そっか……そんなことが……」

 

 草木も眠る丑三つ時。

 

 月明りが窓から差し込む、青白い部屋でハジメは香織の話しを聞く。

 

「うん、風華ちゃんも結構錯乱してた。あんなに大きな声初めて聞いたよ」

「それで……風華は?」

「治癒師の人が睡眠魔法で眠らせて何とかしたよ。目が覚めたあとも自分のせいだって自分を責めてた」

「そうか……」

「……風華ちゃん、もう少しで封印されそうだったの」

「そんな!なんで!?」

 

 まさか、風華が封印されそうになるとは思わず、ハジメは香織に迫る。思い人の顔が急接近したことに香織は若干頬を赤らめた。それでも、ハジメの目を見て言葉を紡ぐ。

 

「王国の偉い人たちが風華ちゃんを、支援師を危険に思ったの。光輝くんやメルド団長が必死に止めてくれてなんとかなったんだけど……」

 

 

 

 香織はそういうが、その先を言うことに抵抗してしまう。実際の内容はひどいものだった。

 

 元々、国の上層部は、幻ともいえる天職である支援師が非戦闘系の天職である錬成師、それも無能とも言える最弱のステータスを持つ者の支援にまわっていることを良く思っていなかった。

 

 その無能が支援を受けた結果が、荒れ果てた訓練場を一瞬で作り出す程の力の暴走だ。上層部は反逆が起きた場合、その力が自分たちに振るわれることを恐れたのだ。

 

 表向きは国民の安全。しかし、その裏は自分の保身。

 

 風華の処遇を決める場でそれに気づいていたのは、メルドと、生徒代表として出席していた光輝たち勇者パーティーの内、香織と雫だけであった。メルドは、その力を魔人族へと放てば戦争に勝てる、と反対を主張。

 

 そのときの彼の苦々しい表情を香織は忘れることはないだろう。

 

「風華は悪くないじゃないか!悪いのは力を制御できなかった南雲じゃないんですか!?」

 

 光輝も風華の封印に対して意見を言っていたが、それがこれである。香織が怒りを抑えることに全力を尽くしたことは言うまでもない。

 

 しかし、ここでハジメの最弱ステータスが役に立った。いくら錬成が強くなろうが、無能ステータスが変化することはない。それに、耐久が低いのだから物量で押せば殺すことはたやすいだろう。

 

 それに、エヒト神が召喚した勇者は封印に反対している。今、彼らの機嫌を損ね、敵対するわけにはいかない。

 

 そう判断した上層部は、勇者である光輝が反対していることもあり、これが初の試みだったこと、次同じことが起これば風華を封印するという判決を下し、一先ず封印することを取りやめたのだった。

 

 

 

 それを知らないハジメは、壁に背を預け、全身から力を抜く。

 

 彼は、風華の支援魔法が失敗したとは思わない。原因があるとすれば、自分の錬成技能が風華の支援に追いつけなかったのだろう。

 

 無言でベッドに拳を叩きつける。その手を香織は、悲し気に見つめる。

 

「僕に……僕にもっと力があれば!こんなことにはならなかった!なんでだ!なんでだよ!」

 

 彼は己の無力さを呪うように、何度も何度も叩きつける。

 

「南雲くん……でも」

「なんでこんなに弱いんだよ!こんなステータスで何が守れるっていうんだ。僕に、力が、ちからがあれば……」

「……南雲くん?」

 

 何をすれば強くなれる?何をすれば風華を守れる?

 

 ただ守るだけじゃダメなんだ。だったら逆だ。風華の障害を全て排除すればいい。

 

 排除すれば、殺せばいい。

 

 天之河(・・・)のように、もっと殺せる力があれば……。

 

「そうだ、守れないならいっそ……」

 

「ッダメ!いかないで!」

 

 ハジメの目に狂気に満ちる寸前、香織はハジメに抱き着き、押し倒した。その衝撃でハジメは正気を取り戻す。

 

「あ、白崎……さん?」

「えっあっご、ごめんね急に!?でも、なんだが、南雲くんが遠くに行っちゃいそうで……」

(私、なんで……?)

 

 ハジメの目を見たとき、香織は変わり果てたハジメの姿が連想された。

 

 ただひたすらに強さを求め、他者を見捨て、殺すことも厭わない冷たい目。

 

 それは、自分が恋焦がれた南雲ハジメの姿ではない。

 

 自分でも予想外の行動をしたことに香織は自分に問うが、今はその疑問を彼女は置いておく。

 

「とにかく!南雲くんが弱いなんてことはない!あの場に南雲くんよりも強い光輝くんがいても、雫ちゃんがいても!それでも風華ちゃんを守れるのは南雲くんだけだよ!」

「で、でも!」

「それに、暴力みたいな力じゃ、誰も守れない。南雲くんの守護技能は風華ちゃんのためのでしょ?それとも、その技能は飾りなの?」

「……違う、飾りなんかじゃない」

「そうだよね?だったら、風華ちゃんを守る勇者は光輝くんたちじゃない。南雲くんなんだよ」

 

 香織の言葉で、ハジメはようやく落ち着き、決意する。風華を守るための力を得ることを。

 

 ハジメが決意した顔を見て、香織はヨシッとうなずいた。

 

「今は、雫ちゃんたちが風華ちゃんのところに行ってる。雫ちゃん、面倒見いいからきっと大丈夫。南雲くん、明日ちゃんと話すんだよ」

「うん、わかってる。ありがとう、白崎さん」

 

 明日、しっかりと話し合う。そのためにハジメは今は眠ることにした。

 

 

 

 

 

「……ところで、白崎さん?」

「何かな?」

「いつまでこうして(抱き着いて)いるおつもりで……?」

「あっごめんね重かったよね……よいしょっと」

「い、いやそんなことはって、何故に布団を被っているのでしょうか……」

「私、今日はここで寝るよ?それにもし、何かあっても治癒師がいるなら安心でしょ?」

「いや、確かにそれはありがたいけどそれとこれとは……」

「それとも……私じゃ嫌?」

「あ、いや……(いえ!そんなことは決して!)」

「なら大丈夫だよね、それじゃあおやすみ!」

「ちょっ待って!?せめて床に布団敷かせて!?僕がそっちで寝るから!?」

 

 ハジメ(童貞)の慟哭むなしく、香織はがばっと毛布を被ってしまった。

 

 どうやって寝ればいいんだ……とハジメは頭を抱えながら布団に入るのであった。ちなみに、勢いで押し切った香織は香織で顔が真っ赤だったりする。

 

「あ、それと南雲くん丸一日眠ってたから、それだけ心配かけたこと忘れないでね?」

「そういう大事なことは最初に言ってよ!?」

 

 ちなみに、疲労が抜けきってなかったためか、結構ぐっすり彼は寝れた。

 

 

 

 その日の朝。

 

「……やっぱねむたい」

 

 ハジメは、寝ぼけまなこをこすり、ぼんやりとした頭で朝を迎えていた。

 

 ハジメが起きたのは普段朝食をとる時間を少し過ぎた頃だった。

 

 隣で寝ていたはずの香織の姿は無く、テーブルには先に朝食をとりに行くことと無理をしないでという旨の記された書置き。

 

 とりあえず、制服に着替えようとベッドから移動する際に嗅ぎなれない、義妹とは別の女性の残り香に思わず心臓がどきどきする。

 

 実のところ、彼が異性と同じ布団で寝ることは初めてではない。

 

 週に1、2回は風華が寂しいからと言って勝手に入ってくるのだ。それこそ、幼少期に小鳥遊家でお世話になるときは必ずと言っていいほど一緒に寝ていたわけだが、流石に今となっては、そろそろ一人で寝れるようになってほしいと兄として思う。

 

 それを断れないし、断らないハジメもハジメだが。

 

 そして、義妹と寝慣れているからといってそれが女性全般に通じる訳ではない。というか風華以外の女性と寝たこと自体初めてだ。

 

 それはともかく。

 

 ハジメが食堂に顔を出したときのクラスメイトの反応は様々なものだった。

 

 誰も目をあわせようともせず無視する者やこちらをにらみつける者、こちらをちらちらと見てやめてを繰り返す者。

 

 あまりよく思われてないけど当然か、と彼は思う。まあ、あれだけ暴れた挙句に自分の義妹を封印の危機に晒したのだ。そりゃこうもなるか。

 

 そして、その義妹の姿はここにはない。彼は、食事を終えたら部屋に行ってみることを決めた。

 

「南雲。目が覚めたんだな」

 

 居心地の悪い中、朝食を終えたハジメに声がかけられる。声の主はしかめっ面の光輝だった。その後ろには龍太郎と、申し訳なさそうな顔をした香織の姿もある。

 

「おはよう、天之河くん。色々と迷惑かけちゃってごめんね」

「単刀直入に言う。これ以上風華と関わるな」

「……それは、いくら迷惑をかけたからといって聞けるものじゃないね」

「そんなことを言ってる場合じゃない。君が力を暴走させたせいで彼女は危険に晒された。能力の都合上、君の傍にいないといけない彼女は一番危険な場所にいるんだぞ!」

「なら、練習すればいいでしょ。二度と暴走しないように」

「だがその低いステータスでは守るのに役不足だ!風華を守るならステータスが高い俺たちといるべきだ」

「ッ光輝くんそれは!」

「それが言いたいだけだったら、僕は行かせてもらう」

 

 

 どっこいしょ、とハジメは椅子から立ち上がる。

 

「待て南雲!話しはまだ」

「僕にもやらなきゃいけないことがある。それこそ練習とかね」

 

 ハジメは、後ろであれこれ言う光輝を無視し、スタスタと食堂を出る。あのままだと自分から殴りかかりそうだ。

 

「おはよう南雲くん。少しいいかしら」

 

 そんなハジメにまたもや話しかける者。

 

 雫がそこに立っていた。

 

 

 

 

 

 ハジメと横に並ぶ雫。二人は王宮の廊下を歩いていた。

 

 目指すのは風華の部屋である。場所はそう遠くはない。

 

「……風華のことをありがとう、八重樫さん」

「別にいいわよ。私はやりたいことをやっただけ……風華ちゃん、自分を責めてたわ。にぃに会えない、会いたくない、ともね」

「それでも、会わなきゃいけない。風華は悪くないんだ。悪いのは……制御できなかった僕だよ」

「さっきの光輝との話し?食堂の外まで聞こえてたから知ってる。んで、言わせてもらうけれど、役不足なんてことないわよ」

 

 ステータスプレートを見てみなさい。そういわれたハジメは自分のステータスの存在を思い出し、確認する。

 

 色々なことが起きすぎて確認を怠った彼を待っていたステータスに彼は目を見張る。

 

 

 

 

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:2

天職:錬成師

筋力:13

体力:40

耐性:40

敏捷:13

魔力:60

魔耐:40

技能:錬成[+地形操作]・守護[+鉄壁]・言語理解

 

 

 

 

 

 光輝のようにオール三桁といったおかしい数値ではないが、それでも以前に比べて劇的に上昇している。さらに、派生技能までもが発現しているではないか。

 

 この変わり様にハジメはステータスプレートを振ってみたり、逆さにしてみる。

 

 その様子がどこかおかしかったのか、雫は笑いをこらえていた。

 

「なん……だこれぇ!?」

「ぷっくくく。あなたが搬送されるときに落ちたのを拾ったの。そのときにプレートが更新されて、思わず見ちゃったの」

 

 勝手に見てしまってごめんなさい、と彼女は謝るが、その言葉はハジメの耳を右から左へ流れていく。

 

 そして、ある考えに至る。

 

 魔法使いが剣を振るよりも魔法を練習する方が成長出来るように、錬成師は錬成技能を使うことをした方がステータスを成長させやすいのではないか?

 

 あとでメルドに相談してみようと彼は思った。

 

「とまあ、あなたはちゃんと成長している。守護技能だって派生技能が出ているし、風華ちゃんをしっかりと守れるわよ」

 

 そう言って彼女は立ち止まる。

 

 目の前には、風華の部屋があった。

 

「あとは頼むわよ、お兄ちゃん?」

 

 ハジメの背中をポンと叩き、雫はどこかへ行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コンコンコン、と扉を三回ノックする。

 

「風華、入ってもいいか?」

 

 扉から返ってくる返答は無言。鍵はかかっておらず、扉を開けることは可能だ。

 

 八重樫さんのフォローが無ければ、鍵がかかって面会謝絶だっただろう。そう考えると彼女に頭が上がらない。

 

「入るよ」

 

 彼は無言を肯定と受け取り、部屋に入る。

 

 部屋の内装はハジメの部屋と変わらず、この数日で見慣れた調度品に、見慣れた天蓋ベッド。

 

 そのベッドの上には毛布を被った丸い小さな塊が乗っている。

 

 ハジメはベッドへと近づく。その塊は小刻みに震えていた。

 

 無言でベッドに座り、塊の上に手を乗せる。それの震えは止まり、そこからか細い声が聞こえてくる。

 

「……にぃ?」

「どうした?」

「……怒ってないの?」

 

 その言葉に彼は吹き出しそうになる。まるで、母親の説教を恐れる子供のようだ。

 

「どこに怒れっていうんだい。そんなこと無かっただろ?」

「だって!フウが支援しなきゃ、にぃが傷つくこと無かった!フウが失敗したから、にぃが死んじゃうとこだった!」

「大丈夫。兄ちゃんはここにいるよ」

「……フウは悪い子」

 

 言葉を遮るように風華をあやすように撫でる。ヒートアップしかけた風華の心が少し落ち着く。

 

「フウは悪くない。自分のやることをやっただけだよ」

「……」

「兄ちゃんだって、錬成を制御できなかった。悪いのは兄ちゃんだ」

「……それは、にぃも同じ。にぃは悪くない」

 

 包まっていた布団から風華が顔だけ出す。赤く腫れた目元と、泣いたあとで綺麗な顔が台無しだった。

 

「……にぃはやることをやっただけ。でも、フウからいなくなることは違う」

「じゃあ、そうならないように強くならなきゃな」

 

 布団から身体を全部出し、風華はハジメに抱き着く。

 

 彼女も彼女で、自分の非力を嘆いていた。

 

 自分は、支援師は、パートナー()がいなければ意味がない。そのパートナーが傷つく姿を見ていることしかできないのは歯がゆい思いだ。

 

「……もし、フウより先に死んだら、フウも死んでそっちに行く」

「それだけはやめろ。やめてくれ」

「じゃあ、もう戦うような危険なことはしないで」

「それは無理だ、フウ」

 

 その声にハジメを見上げる風華。ハジメは彼女の目を見て言う。

 

「兄ちゃんはフウを危険から……敵はもちろん、もしかしたらこの国からも守らなきゃいけない」

「……ん」

「そのために兄ちゃんは戦わなくちゃいけない。けれど、僕は弱い。風華の助けがなきゃ何もできない。だから、一緒に強くなろう」

「……!!」

「僕が錬成で風華を守って、風華はそれを支援して僕を守る」

「ん!!」

「二人で強くなろう」

 

 たった二人だけの部屋で、兄と妹は互いに護り合うことを決意した。

 

 

 

 

 

「……ところで、にぃ?」

「な、なんだい?」

「……ほかの女の匂いがするのはなんで?」

 

 光のない目がハジメを貫く。風華はそんな彼のブレザーを取っ払い、シャツのボタンを外す。

 

 そこから覗く肩には、小さな赤い跡がついていた。絶妙にハジメから見えない位置にそれはあり、兄は気づいていない。

 

 そして、彼女は確信する。匂いの正体はいつも兄にすり寄る(香織)のものだと。

 

「ふ、ふふ」

「あの~風華さん?」

「……にぃぃ……覚悟ぉ……!!」

 

 浮気者(勘違い)には鉄槌を。

 

 兄の首筋に妹は噛みつく。情けない叫びが一つの区画に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、メルドに会ったハジメは自分の無事を告げる。

 

 メルドもメルドで、風華が封印されるかの会議の際、ハジメと風華を戦争の道具にするようなことにしてしまったことを謝罪する。ハジメは、そこで風華が想像以上に危ないことになっていたことを知る。

 

 それならば、とハジメは先ほど自分が思いついたことを話す。

 

 メルドの方も失敗したことの原因に心当たりがあったためか、なんとかしてみせると胸を張った。

 

 

 

 そして、翌日の早朝。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、がきんちょお!さっさとそこの鉄取ってこいぃ!」

「は、はいいいいぃぃぃ!!!」

 

彼は、熱い熱い鍛冶場の中で、重い鉄の塊を運んでいた。




鉄壁について:ようは色んなゲームでいう「かばう」です。今回は、アジアンパンクRPGサタスペというTRPGのカルマにある用心棒の異能を参考にしました。セッションする仲間いないのにルールブック集める趣味に目覚めた過去の自分に感謝。

ところで、このペースだと奈落落ちまでものすっごい時間かかりそうです(白目)
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