やっぱこの時期は忙しいものです。という訳で遅れましたがやっと投稿です。
変なところあったら申し訳ないです。
オルクス大迷宮
トータスに存在する七大迷宮の一つで、全部で百の階層が地下に伸びる巨大な迷宮だ。迷宮の中には王都の外など地上に生息する魔物より強力な魔物が闊歩し、それは階層が進むにつれて強くなる。
だが、強い魔物ということは、それに見合う質の魔石を持っているということであり、質の良い魔石ほど金になる。この迷宮を資金源とする冒険者や傭兵は数多くいるらしい。
さらに、魔物の強さは階層ごとに細かく分けられている。そのため、この迷宮は新兵の訓練兼魔石収集にもよく利用されるらしい。
収集された魔石は、市場に流れるか、新米の魔術師が魔石を用いた魔法陣を作成する際の練習台に使われる。この魔石を用いることで魔術師たちは効率よく魔法を発動させることができるのだ。
馬車で移動中にされた説明を思い出しながら、ハジメは宿泊している部屋のベッドに寝転がっていた。その上にはハジメの腹を横断するように寝そべる風華の姿があった。二人の恰好は共に寝間着である。
現在、生徒たちはメルド率いる騎士団と共に、オルクス大迷宮の近くにある街であるホルアドに宿泊している。このホルアドは、大迷宮のすぐ近くということで冒険者に人気があり、王国直営の宿屋まである。その宿屋を御一行は利用していた。
寝転がりながら、ハジメは自分のステータスプレートを何とはなしに確認する。
南雲ハジメ 17歳 男 レベル:3
天職:錬成師
筋力:35
体力:50
耐性:45
敏捷:15
魔力:70
魔耐:50
技能:錬成[+地形操作][+精密錬成]・守護[+鉄壁]・言語理解
ウォルペンの元でアシスタントを続けた結果、鎚を振ったり重い鉄を運んだりすることが多かったためか、筋力や体力といった肉体的なステータスが主に上昇している。また、錬成を本来の目的で使用することもかなりあったためか、魔力の伸びもまあまあだ。敏捷にあまり変化が無いのは、走るようなことがあまりなかったからだろうか。
派生技能に精密錬成が出現したことに、ハジメはウォルペンに感謝しかない。彼の教えが無ければこの派生技能は出現しなかっただろう。
また、ウォルペンに鉱物の知識を少しずつ教えられていたため、今のハジメはメジャーな鉱石限定ならば鑑定技能無しで鉱石の判別が可能だ。戦闘の役に立つかは不明だがあって損は無い知識だ。
「そういえば、なあ風華」
「……ん?」
「今のお前のステータスってどうなってる?」
自分のステータスを眺めていたハジメはふと気になったことを腹の上の風華に尋ねる。その質問に、風華はハジメから降りて自分の荷物を取りに行き、そこからプレートを取り出しハジメに見せた。
小鳥遊風華 16歳 女 レベル:5
天職:支援師《錬成師》
筋力:10
体力:20
耐性:7
敏捷:25
魔力:220
魔耐:120
技能:支援《錬成》・支援補助・魔法耐性・言語理解
相変わらずの魔法特化のステータス。それでも、肉体面のステータスが上昇しているのは確かだ。というのも、ハジメ以外の王宮訓練場組の全員が行う基礎訓練には基本的な筋トレも含まれており、それが結果を出しているということだろう。
その中で敏捷が特に高いのは、まあ……。
(逃げようとしてたんだろうなぁ……筋トレ)
ハジメの思った通り、風華は筋トレからの逃走を毎回試みていた。しかし、逃げることに成功したところでそれをわかっている美穂にその都度捕まり連行されていた。というか、風華の初期の敏捷値ならば誰でも捕獲は容易いだろう。
「魔力すごいな。これだけあれば明日は余裕かもな」
「……にぃも、結構伸びてる」
「それでもあんまり強くはないだろ。風華がいなきゃ基本的に戦えないし、そもそも裏方の錬成で戦おうってんだからステータスはまだまだほしいさ」
風で聞いた噂だが、光輝のステータスはオール200だとか。この成長率の差は何なのかとハジメが考えだしたところで、風華にポスッと叩かれる。
「……にぃは、にぃ。にぃは頑張ってる」
「……ありがとな」
義妹からの励ましにハジメは、「そうだな」と思い直す。自分は自分、光輝は光輝だ。どれだけ強さに差があっても、自分のペースで成長していけばいい。
「……そして」
「うん?」
「……フウも頑張った」
「そうだな、えらいぞ」
「……だから」
そう言って風華は、再び自分の荷物を漁る。ハジメの頭に?が浮かぶ中、そこから取り出した物を風華はハジメに突き出す。
それは櫛だった。それを見て、彼は何をすべきかすぐに理解する。
「はいはい」
身体を起こし、櫛を受け取る。胡坐をかいたハジメの前に風華は背を向けた。
まずは髪を手櫛で梳かす。義妹の髪を梳きながら、ハジメは地球での出来事を思い出していた。
風華の髪を梳かすことは昔からハジメの仕事だ。最初は小鳥遊家にお世話になるとき限定だったが、それ以外のときも要求されることが多くなり、最近は週に3~4回は頼まれている。最初はいきなり櫛を入れて、痛いと怒られていたが今では手慣れたものだ。
彼女の背を流れる長い黒髪。その色艶は綺麗なもので、触り心地もさらさらとしていて大変良いものだ。邪魔にならないように纏めたり短くしたりないのか?と昔聞いたことがあるが、彼女はそのままがいいらしい。
程よくほぐれたかな、と手櫛をやめ、一旦髪から手を離す。そばに置いていた櫛を取ろうとしたところで、扉をコンコンとノックする音が部屋に響く。
現在時刻は深夜と言ってもいいところだ。こんな時間に誰だろうか?と思ったがすぐに扉の先から叩いた主の声が聞こえる。
「南雲くん、起きてる?白崎です」
来訪者は白崎香織。
兄の手櫛に微睡んでいた風華の目がクワッと見開かれた。
鍵を開け、扉を開けたハジメの前には白いネグリジェにカーディガンを羽織った香織の姿があった。
普段の見慣れた制服とは違い、生地の薄いネグリジェという恰好が香織の育ちの良さを制服以上に分かりやすく表現している。さらに、羽織っているカーディガンはそれを覆い隠すどころか前面に押し出す手助けをしている。
それに加えて、ハジメと香織の身長差の関係から、ハジメが香織を見下ろす構図になっている。それはつまりハジメが香織を見ようとすると、彼がどうしようとその目に立派に実った果実が、それも
そして、白色というところがじつによくない。目を凝らせば内側を透かして見れそうなところが大変
彼女のどこか思いつめた表情も相まって、結論、大変魅力的な光景が彼の視界を占領していた。
「し、白崎さん、どうしたの?こんな夜更けに?」
緊張で若干声が上ずる。今の香織の恰好は、思春期男子にはかなり刺激が強かった。
「その、少し南雲くんとお話ししたかったんだけど……お邪魔だったかな?」
苦笑いしつつ疑問形で終わった香織の言葉に一瞬?を思い浮かべたハジメだが、直後にその背を冷たい視線が突き刺さりハッとなる。例えるならば、背中に氷柱を入れるどころかぶっ刺された感じだ。
「……にーいぃ?」
背後から兄を呼ぶ声がする。
ギギギと擬音のしそうな動作でハジメは振り向いた。
そこには、ベッドではなく、真後ろに張り付くように立っている風華の姿があった。
「うぇい!?」
まさか真後ろにいるとは思わなかったハジメは僅かに飛び上がる。風華が二人を見据える目に光は無く、ただ闇が広がるのみ。伸ばされた腕はハジメの腕をつかんで全力で握りしめていた。
「な、なんでしょうか、風華サン?」
掴まれた腕は痛くはないが、その目から目線を外せない。やっとの思いで顔を横に逸らしてみれば、義妹に向けて笑顔で返す香織の顔。
何故香織はあれに対して笑顔が出来るのか?ハジメの思考は混乱と恐怖に埋め付くされる。
「……続き」
そう言ってハジメの顔に向けて櫛を突き出す。ちなみに、もし顔に届いていたら目つぶしは確実の方向だ。
震える手でそれを受け取るハジメ。それを見た風華は香織に一度手招きをし、ハジメをベッドへと引っ張っていく。
「それじゃあ、お邪魔します」
香織はそう言って部屋に入ると扉をギィと閉じた。
備え付けのテーブルセットに香織が座る。ベッドへ連行されたハジメはとりあえず正座しようとしたが、風華の「……胡坐」の一言で胡坐をかく。その組まれた足に風華は座り、後ろの兄へと頭を突き出す。
どうやら、この姿勢での続きを義妹様は御所望らしい。ハジメは髪を梳きやすいように上体を後ろに傾け、髪に櫛を入れた。
「ごめんね、こんな状態での話しになっちゃって」
「ううん、気にしてないよ。それにしても南雲くん上手だね」
ハジメの手際の良さに香織は意外だと驚く。
「そうかな?風華にしかやったことないからわからないけど」
「風華ちゃんの顔を見ればわかるよ。とても気持ちよさそうにしてるもん」
香織から見える風華の顔は、先ほどのものとは全く違い、香織が来る前のように安らいでいる。
そして、香織を見て勝ち誇ったようににんまりと笑う。
いいだろう、ここは私だけの特別だ。とでも言うかのようだ。
その様子を、小動物を愛でるような目で見る香織だが、内心ではそれを羨ましがっていた。
(いいなぁ、南雲くんにお世話されてて。私もやってもらいたいなぁ……)
なんとはなしに自分の髪をいじる香織。その様子を見て風華は香織の内心を理解していた。
「それで、白崎さん。話しってなにかな?明日のこととか?」
「あ、うん。それなんだけどね……」
「……どうしたの」
ハジメの声で香織は再び思いつめた表情になり、顔を俯く。その様子に流石に疑問に思った風華が聞く。
「うん……私、明日が不安で仕方ないの。明日、全員が生き残って帰れるのか。無事に終わってくれるのか不安なの」
「それは……僕たちだって不安だよ。でも、みんな強くなってるし、メルド団長だってついてるしきっと……」
「さっきね、夢を見たの」
「……夢?」
「そう……南雲くんと、風華ちゃんがいなくなる夢」
その言葉にハジメは思わず櫛を動かす手を止める。風華も、神妙な顔つきで続きを促していた。
「さっき眠ってたんだけどね……みんな、一つの道を歩いていたの。でも、二人の姿がどこにもなくて、振り返ってみると……」
「……みると?」
「……二人だけ後ろにいて、だんだん奈落に落ちていって、最後にはいなくなっちゃうの」
「それは……」
香織の見た夢の内容にハジメは声を失う。
「夢は夢だってわかってる。だけど、目が覚めたときにもし、二人がいないんじゃないかって思ったら、どうしても二人の顔がみたくって……」
香織は風華の右手を取り、懇願するように包み込む。
「南雲くんは、生きて帰ってくるよね?風華ちゃんのこの手は現実のものなんだよね!?」
「落ち着いて、白崎さん」
「……ん、落ち着け」
興奮する香織の手に、二人は両側からそれぞれの手を重ねる。
「あ……」
「僕たちはちゃんとここにいるし、明日も生き残る。この世界で死ぬつもりはないよ」
「……死んで、たまるか」
香織を安心させるように、二人は静かに声をかける。それでもなお、香織の不安気な表情は晴れなかった。
「じゃあさ、何か約束をしようよ」
「約束……?」
「そう、そのために明日を絶対に生き残ろうっていう約束」
「……ん」
約束という言葉に香織はキョトンとし、少し笑う。
「それってさ、私が決めてもいいの?」
「もちろん、僕と風華に出来る範囲のことでならだけど何でも」
「……ん?」
兄の「何でも」という言葉に妹は嫌な予感がした。
香織は少し考えるそぶりをすると、突如顔が赤くなり、首をブンブンと横に振る。それが落ち着いたのか、彼女は口を開いた。
「それじゃあ……まず風華ちゃん」
「……ん」
「結構ありきたりかもしれないけれど、一緒に買い物に行かない?実は色々と行ってみたいところが多くって」
「……まあ、それくらいなら」
そして南雲くん、とハジメの顔を見やる。風華とは別の雰囲気の美貌に彼は少し緊張する。
「南雲くんには……その、膝に乗らせて……」
「だめ!」
香織の言葉を風華は遮るように叫ぶ。
「そこはフウの、フウだけの……!」
風華の嫌な予感は的中していた。彼女は、自分だけの特別が無くなるかもしれないと危機感を感じ、渡すまいと兄に抱き着く。
「……白崎さん、ごめん。流石にハードル高いかも」
風華の頭を撫でながらハジメは少し困った笑顔を浮かべた。
「そっかぁ……じゃあ、髪を梳いてもらいたいかな。どんな感じか興味あるし」
「それくらいなら。あ、でも風華にしかやったことないから上手くできなかったらごめん」
「……ん」
約束が決まったところで、風華が小指を差し出す。日本での約束事といえばやはりこれだろう。
それを理解した二人も小指を出し、それぞれの指に絡める。
指切りをする三人。その指はしばらく離れることはなかった。
「それじゃあ、そろそろ寝なきゃね」
「うん、そうだね」
「……おやすみ」
……。
「……風華ちゃんって南雲くんと部屋違うよね?」
「うん。だから髪を梳き終わったら送ってこうかなって」
「……ここで寝る」
……。
「……連れていったほうがいい?」
「お願いしようかな」
出来る限りの抵抗虚しく、香織は風華を抱きかかえ、ハジメの部屋をあとにした。
そして、その様子を無言で眺める者が一人。
壁に拳が叩きつけられた。
因みに風華と同室の美穂はベッドにダイブして三秒で寝てた。
年内はあと一回投稿出来るか出来ないかってところです。