去年内にも投稿できませんでした。平安京がねぇ、終わらなかったのぉ!
こんなんですが、今年もよろしくお願いします。
「うおおぉ!」
オルクス大迷宮第一層。
そこでは、召喚された勇者たちの戦闘訓練が行われていた。
大広間を戦場に、光輝は聖剣を握り先陣を切る。雫と龍太郎がそれに続き、後方では香織と、彼女の友人である谷口鈴と中村恵理が魔法の詠唱を始める。
彼らの武器の先には灰色の毛玉。毛玉といっても、大きさは彼らが知る
「ちっこいつらちょこまかと!」
龍太郎の振るわれた拳は、毛玉を捉えることはなく、地を抉る。攻撃を躱した毛玉は、動きを止め、その姿を見せる。
彼らが相対している魔物は、ラットマンと呼ばれる小型の魔物だとメルドから説明されている。
「くそっ当たらねぇ!」
「落ち着くんだ龍太郎!メルドさんが言ったとおり、奴らはすばしっこいだけだ。落ち着いて対処すればやれる!」
攻撃が当たらないことに苛立ち、狙いがどんどん荒くなる龍太郎を、別のラットマンを切り捨てた光輝が諫める。その言葉で彼もどうにか落ち着こうと、深く息を吸った。
その無防備な姿を責め時と判断したのか、ラットマンは龍太郎へと襲い掛かる。そして、その素早さを活かした突撃が彼の急所を食いちぎろうと飛び上がった。
直後、灰色の小さな体躯に、真正面から龍太郎の拳が振るわれた。
逃げ場の無い空中で振るわれた拳は、衝撃を余すところなくラットマンを襲い、吹き飛ばされる。直線上にいた他のラットマンを二、三体吹き飛ばし、飛んでいったラットマンは壁に激突し、潰れてピクリとも動かなくなった。
「なるほどなぁ……こっちから殴って当たらねぇならあっちから来てもらえばいいってか」
一匹片付けた彼は、残ったラットマンを挑発するように手を招く。
挑発された挙句に仲間をやられたことに憤り、ラットマンたちは龍太郎へと襲い掛かる。
「いくぜえぇ!」
先ほどとは違い、数の増えたそれを相手に彼は己の手足を振るう。
「よし、いいぞ龍太郎!」
その様子を見て大丈夫だと判断した光輝は、己もリーダーとして戦いに貢献すべく、聖剣を振るいラットマンへ切りかかる。
彼が龍太郎と違い、攻撃を当てられているのは剣と拳というリーチの違いと、彼自身が握る聖剣の能力だ。
その能力は、一定範囲の敵を弱体化させ、自身の身体能力を強化させるというもの。これにより、ラットマンは自慢の素早さを十全に発揮出来ず、逆に強化された光輝に切り捨てられる。
もちろん、聖剣があるから攻撃が当たるというわけではない。これは彼自身の実力あっての結果だ。
飛び道具を持たないラットマンからすれば、攻撃のために近づくことは死を意味し、かといって何もしなければ、逆に接近され切られてしまう。まさに積みという状況だった。
では、同じく剣を持ち、聖剣の加護も無い雫はどうか。
結論から言うと、彼女が一番の
剣を一振り、首が飛ぶ。剣を二振り、身体が裂ける。
彼女が振るう剣は確実に急所を捉え、相手に生きることを許さない。
敵を見据える彼女の目は、冷静に冷酷に、敵の動きを見切る。
それに加えて、誰も彼女の動きを捉えられない。いや、見えてはいるが、認識出来ない。
彼女がラットマンへ迫っているのはわかる。だが、その過程をメルドですら認識出来ていなかった。
それはラットマンも同じようで、ラットマンも雫の動きに全くついていけてない。
そこに一つも言葉は無く、黙々と彼女は斬り殺す。
その姿は敵だけではなく、味方にもどこか恐怖させるものがあった。
やがて、形勢不利だとわかってきたのか、ラットマンたちは逃走すべく後退を始める。
「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――螺炎」」」
その逃亡を許すまじと、香織たち三人が炎の渦を同時に放つ。渦に巻き込まれ、断末魔を上げるラットマンたちは、灰と化し、全滅した。
広間いっぱいにいたはずのラットマンは僅かな時間で全滅、これにはメルドも苦笑いしかない。
割とあっさりと倒されているが、これでも王都近辺の魔物よりはよっぽど強い。新人たちはあの素早い動きに慣れるまで結構時間がかかるものだが、彼らはすぐに対処してみせた。
「あ~、うん、よくやったなお前ら!だが、後衛組は少々やりすぎだ。次は魔石を残して回収することを考えてくれよ?……雫もな。あれじゃあ魔石が砕けちまう」
「うっ、はい……」
「わかりました。……魔石を残さなきゃいけないのは面倒ね」
香織たちが反省するなか、その光景を他の生徒たちと同じようにみていたハジメはふと呟く。
「これ、僕たちいる……?」
その呟きは、ほかの生徒たちほぼ全員が思ったことであった。
「あぁ……流石です、雫先輩……お姉様……」
そして、己の剣を振り血を払う雫の姿を、美穂は恍惚の表情で見ていた。
彼らはするすると迷宮を下る。
階層が浅いことと、迷宮のマッピングが完全に終わっていることで想定外の事態が起こることもなく、順調なペースで進めていた。
生徒たちは交代しながら戦闘を行う。それはハジメも例外ではなく、彼は風華は絶対としてその他のメンバーに美穂を加えた三人のチームを組んでいた。
他の生徒たちは光輝たちのように五、六人のパーティを組んでいるが、何故ハジメたちだけが少ないのか。その原因は、ハジメの戦闘スタイルにある。
ハジメが基本としようとしているのは、風華の支援で強化された錬成による地形操作だ。そのため、後衛に然程影響は無いが、前衛職からすればいつ足場が無くなるかわからないという恐怖が付きまとう。
接近戦の最中に地面が突き出したり、穴が開いてくるのはたまったものではない。
そのため、今回の訓練では、ハジメ・風華と組むのは、両者と特に親しく、なおかつ前衛職である美穂が組むこととなった。
「それじゃあ、さっきと同じようにいこう」
「……ん」
「りょーかいです」
オルクス大迷宮第十五階層。
本日何度目かのハジメたちの手番が回ってきた。
相手はこの階層の主であるヒュージヘッジホッグと呼ばれる魔物だ。全身を被う無数の針はとても硬く、丸まって転がる攻撃は単純に厄介だ。それに加えて、針を飛ばす攻撃も所持しているらしい。
ここまで戦っていた敵とは違う強敵だ。
「グオオオォォォ!!」
ヒュージヘッジホッグが敵を見据え、威嚇の雄たけびを上げる。その最中にハジメたちは可能な準備を進める。
「――支援」
「えーと、何だっけ。あ、そうだ。敵を砕き、なぎ倒す力をここに。重撃」
美穂が前衛、残る二人が後衛に配置する。風華がハジメに支援を、美穂がどうでもいいように強化魔法を自身へと付与する。
実際のところ、美穂の魔力の伸びは本当に微々たるものであった。それでも、魔力が無いわけではないから最低限は習得しておけと言われ、何とか強化魔法を一つ辛うじて覚えたくらいだ。
ヒュージヘッジホッグとハジメたちの距離は離れている。ヘッジホッグは身体を丸めると回転を開始し、そのまま突撃を仕掛ける。
美穂へ迫る針球。しかし、美穂は焦ることなく構える。
「錬成!」
ヘッジホッグが戦闘開始位置から半分程進んだところで、四方八方を岩がせり出し、ヘッジホッグを捕らえる。ヘッジホッグはその場で岩を削りながら回転するが、削られるたびに錬成で補強される。やがて、回転力が尽きた針球は動きを止めた。
ハジメたちのチームの戦い方がこれだ、ハジメが風華の支援を受けて錬成の地形操作で敵を拘束する。そして、隙が生まれたところを美穂が直接トドメを刺す。場合によっては、ハジメの錬成で敵を直接倒すこともある。
弱点としては、魔法属性の攻撃が行えないことと、美穂のように壁となる前衛職が必須なことだろう。メルドの話しでは、魔法攻撃のみが通用する魔物もいるらしい。この三人でそれらを相手にする場合は圧倒的に不利だ。
他にも、錬成を行う際の地質も関係はあるだろうが……それらはパーティメンバーを変更すれば済む話しだ、今回の訓練では、ハジメたちの戦闘スタイルを他の生徒たちに見せ、連携のイメージをつかんでもらうこともメルドは考えていた。
体勢を整えようにも固定されてヒュージヘッジホッグは動くことができない。どうにかしようと球体がもがく姿はかわいらしいところがあるが、その姿を美穂は見逃さない。
「ソイヤッ!」
美穂は真上から拳を叩き込む。その攻撃は硬い針をものともせず砕き、柔らかい身体に直接ダメージを与える。くぐもった悲鳴が針球から漏れる。
「そんじゃあ、お願いします!」
「わかってる。錬成!」
一発入れた美穂は即座に離脱。それを見たハジメは、動けない針球に今度は真下から岩を突き出す。
「グえァあ!?」
上から強い衝撃を入れられた挙句、下からも重い衝撃を入れられたヒュージヘッジホッグは空中に飛ばされ、体勢を崩す。
それを、美穂は、ハジメがヘッジホッグを囲うときに作った足場から飛び上がり、襲い掛かる。
「これでぇ……」
襲い掛かる美穂にヒュージヘッジホッグは気づいたがもう遅い。初見殺しと呼ばれる針飛ばしも腹部を晒しているせいで射線に入らない。
「とどめぇ!」
見事な空中回し蹴りがヒュージヘッジホッグの
階層主をものともしない彼らに、生徒たちは唖然とする。
敵を倒した美穂がニコニコ笑顔で手を振る。
ハジメたちもそれに合わせて、手を振るのだった。
タグのガールズラブがそろそろ仕事をしてきたかなと思う。
以前、唐突に百合を入れて怒られたことがあるので先に言いますが、このタグをつけたのは美穂のためです。