ゲームオーバー。その表記が画面に映し出され、私はコントローラーを投げだした。
画面の中では勇者が敵にとどめの一撃をさされ、その場に頽れる。負けた勇者は何者にもなることもなく、その場に討ち捨てられるらしい。
「まあ、勇者ってそんなもんだよな」
勇者は魔王を倒すことで初めて人々から褒めたたえられる存在になるのだ。道中の魔物に負けてしまうような存在は、どうせ誰からも勇者と言われることもなく歴史の中に消えていくのだ。
代わりなんていくらでもいると、世界は新しい勇者を選ぶ。唯一、なんて肩書にやたらと重い希望を抱き、青年は勇者となって新しい世界に旅立つ。もし彼が魔王を倒すことができたなら、きっと思い描いた未来にもなるだろうけど。
「でも、ここで諦められないよねー」
コンティニューを押すと、先ほど死んだはずの勇者は、仲間と共にセーブポイントであるクリスタルの前に立っていた。
現実でもこんな風に時間を巻き戻すことができたらな。過去のやりたくないこと、やり直したいこと、そのすべてを戻して生まれた頃からやり直すのに。
「あ、ここ宝箱あるじゃん。さっき気付かなかった」
そうしてやり直すことで初めて見えてくるものもあるだろうと思いつつ、膝の上にふと乗ってきた猫を優しく撫でた。
この子は私が過去にいじめを受けていたから、両親がせめて家では心穏やかに過ごせるようにとある日連れてきた猫であった。もし私が過去のいじめを受けない世界にやり直したら、この子は一体どうなるんだろう。
過去に戻ってやりなおすっていうのは、色々と考えないといけないことが多すぎる。どうせやり直したあとも、またやり直したいって思うんだろうし、そしたらこの子との出会いはもっと遠くなる。
おやつとして机の上に置いてあるさくさくパンダに手を伸ばすと、猫も匂いを嗅ぐように首を伸ばしてきた。これもお前と同じく、いじめのころを支えた仲間なんだよ。
さくさくパンダの粉が猫の鼻にかかると、猫は嫌がるように顔を伏せた。逃げてしまうかと思ったけれど、意外と猫は逃げずに膝の上で丸まった。
「まあ、お前がいるなら私はやり直さなくてもいっかなー」
猫はごろごろと穏やかに喉を鳴らす。変に媚びたり、すりよってくることはないけれど、私はこの子のおかげで今も生活している。猫ってやっぱり、全人類飼うべきセラピー動物だと思う。
「ただ、同じ道でも気づくことはあるかもね」
勇者は先ほど躱すことができなかった攻撃を回避し、会心の一撃で反撃を行う。仲間の追撃も含めて、敵はよろめき今にも倒れそうだ。
この勇者は一体何を希望に戦ってるんだろうなと、さっきとは逆にとどめの一撃を敵にさして戦闘が終わるのを見て思う。
勇者の仲間は、ただの仲間だ。命を預けあっているようには見えるけど、それ以上はないように思える。もしかしたら、勇者にも猫がいるのかもしれない。魔王が世界を滅ぼしたら一緒にいられないような猫が。
「猫のために命をかける……私にはできないけど」
それができるから勇者なんだろうと、最初の疑問に戻ってきた。勇者の肩書に憧れを抱いているわけじゃなく、ただ飼い猫を守るために滅亡と戦っているのだと思うと。
「かっこいいじゃん、勇者」
さっき負けた勇者がやけにかっこよく見えた。そんな勇者に憧れるしかない私は、きっと勇者になれないなと思った。
いつの間にかおやつはなくなっていた。私の希望はお菓子と猫。それだけで十分だ。
因みに、次の戦闘でまた勇者は負けた。やっぱ思いだけじゃどうにもならないこともあるよね。