短編小説集   作:nite

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チーズ 猫 正月

寒い寒いと思いながら、小さなこたつに足を突っ込む。足を伸ばすとすぐに反対側に足先が出てしまうほどの大きさだが、この寒い季節においては必需品である。

そして限界まで使おうと足を動かすと、すぐにふにっとした感触にぶつかる。それと同時に、こたつの中から唸り声が聞こえてくる。

 

「ああごめんごめん、キチ」

 

布をめくって中をみると、不満そうな顔でこちらを見てくる愛猫キチの姿。どうやらピンポイントにお腹に足がぶつかったらしく、非常に不機嫌だ。

暖房器具がまともにない我が家では、この季節はキチがほぼ百パーセントの確率でこたつの中に入っている。私はそれをもふもふ暖房器具だぁと思いながら撫でるのだけど、キチはいつも不満そうにこちらを見てくる。

 

「もっとふれあいに楽しみを持たせなさいよねー」

 

引っ掻いてくるとかそういうことはないけど、ただずっと不機嫌そうな顔をする。そして私の顔をじっと見つめてくる。

その視線に居た堪れなくなり、ナデナデタイムは十秒くらいで終わってしまうのだ。いつの日か許されることを夢見て、私は毎日チャレンジをしているけれど、今のところ秒数が伸びたためしはない。

 

「ふふふ、だが今日の私にはとっておきがあるのだ」

 

覚悟せよ、キチ。今日の私はいつもとは違うぞ。

私はポケットから、チュールを取り出した。しかも、今日はマグロ味のちょっとお高めのやつだ!いつもあげてしまうと特別感がなくなるから、今日という日のためにずっと寝かせておいたのである!

尚、別に今日が何か特別な日かと言われたら、別にそんなことはない。

 

「さあ、これを食えい!」

 

チュールの先端を切り、キチに匂いを嗅がせた。キチは鼻をひくひくさせながらそれを見ている。キチが先端を舐め始めたのを見たら、私はそのお腹に手を置き動かし始める。

わー、ふわふわだぁ。

 

「……なによ」

 

キチが、こちらを見ていた。チュールはまだ残っているというのに、私のことをじっと見つめている。

チュールを少し多めに出す。視線は動かない。チュールを少し動かす。視線は動かない。私の手をキチから離す。キチはチュールを食べ始めた。

 

何よ!チュールとの等価交換で撫でさせてくれてもいいじゃない!どうしてそんなに私のことを嫌がるのよ!

じゃあ今度はおやつを……と、ここでインターホンが鳴った。あれ、何か宅配でも頼んでたかな。

チュールをあげきってしまって、私は玄関の扉を開けた。

 

「やっほー」

 

そこにいたのは私の友人。珍しいな、いつもはわざわざ家まで来るなんてことしないのに。

 

「あけおめー」

「え?」

「……え、ちょっと、その反応はおかしくない?まさか今日の今日まで日時を確認してないなんてわけないわよね?今日、正月よ?」

 

私はスマホを取り出した。そこには十時十五分の時刻表示と共に、一月一日の文字が。ふむ、昨日も明日も仕事だから、全然気にしてなかったな。確かに、いつもよりも通勤する人が少ないとは思ったけど。

ってことは……

 

「よかったなキチ!今日は特別な日だったみたいだ!」

「また猫と戦ってるの?いい加減諦めなさいよ」

「私はあの毛並みを存分にモフモフするまであきらめない!」

 

ひとまず、玄関は寒いので中に入れる。暖房がこたつしかないから部屋の中の方が暖かいのかと言われると別にそんなことはないけど。

 

「あれ、その袋何?」

「これはお土産だよ。ほら」

 

キッチンの上を片付けて、彼女が袋から取り出したのは、とっても大きな……チーズ?ショートケーキみたいに、カットされたやつだ。あのホールみたいなチーズから切り出したような形をしているけれど……

 

「これ実家から来たんだけど一人じゃ食べきれないから」

「待ってどれだけ来たの」

「半ホールって言えばいいのかな。まだこの大きさのやつが別に四つくらいあるよ」

 

一人暮らしの娘に一体何を送っていらっしゃるのでしょうか。いやいいんだけど。

 

「だからまあ、これを食べて正月を過ごして……およ?」

 

友人が足元を見る。そこには、いつの間にかキチが来ていた。じっと大きなチーズを見ている、と思ったら台の上に跳び上がってきた。包丁とか片付けておいてよかった。

キチはとても熱心にチーズの塊を嗅いでいる。劣化防止のためにラップされているのだけど、それでも熱心に嗅いでいる。

は、チャンス!

 

「もふもふー」

 

私がキチのことをモフモフする。キチは、未だにチーズに夢中だ!

なんなの、チュールよりもチーズの方がいいっていうの?今度からはベビーチーズをあげたらいいの?

 

「悪くなりやすいから、早めに食べてね」

「これがあるとキチが撫でさせてくれる!一生置く!」

「早く消費しろって言ってんでしょうが!」

 

まさかキチの防波堤がいともたやすく破壊されるとは……チーズ、おそるべし。そして、正月に友人にチーズを送り付けた親、ナイス!

 

因みに、その十秒後くらいにはキチは私のことをじっと見つめていた。もっと夢中になってなさいよ!

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