短編小説集   作:nite

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これはとあるサーバーで書いた小説です


自由お題小説
春過ぎゆく新たな者


夕方の学校で…人影を見た。

私はいつもこの時間に帰ることにしている。下校時間ぎりぎり、完全下校のチャイムがなる数分前…

そんな時間だから部活動に汗水流す人も勉強に精を出す人もこの時間にはいなくなっている。

家庭の事情で早く帰りたくないがための行動であり、下校時間だった。

だから人影を見るなんて珍しかったのだ。

先生である可能性は高い…けどなんとなく違う気がした。影の大きさが先生と呼べるような大きさではなかったのだ。まあ小さいことに定評のある林先生ならまだ可能性はあるかもしれないけど、彼女は本日主張中で学校には来ていない筈だ。

私は帰る準備を終わらせてまだ家庭が平和だった時に誕生日プレゼントとして貰ったリュックを背負って教室から出て、人影を追うように移動しはじめた。

夕日の異様な明るさのせいで顔は見えない。でもあれは…制服。

この学校ではどの学年でも一律で同じ制服を着ているため、顔を見るまでは同世代なのか先輩なのかは分からない。まあ同級生だとしても入学して一か月程度しか経っていないため、他のクラスはおろか同じクラスの生徒の名前も覚えていない私では顔を見たところで判断はつかないのだが。

人影は体育館に続く道の途中で止まった。私もつられて立ち止まる。

ここは先生も中々通らない。部活動が最も盛んな時間帯であれば体育系の先生が通ることもあるのだが、下校時間ぎりぎりの今となっては仕事を終わらせ帰っている頃だろう。

春の終わり…虫も特に活動するわけでもなく外にはただただ静寂が立ち込めている。

夕日の日差しが入り、やっと人影の顔を見る事ができた。

 

「やっほっ」

「え、えっと…やっほー?」

 

突然かけられた言葉に驚き返答がどうしても疑問形になってしまう。

元々根暗である私が話す相手と言えば家族程度であり、家庭内が荒れ始めてからはその唯一の相手ともいえる家族とすら滅多に話さなくなってしまった。その影響で学校でも話しかけることもかけられることも無くなってしまった。

そんな私に突然かけられた挨拶…?

私はただあなたを追いかけていただけで別には無そうと思ったわけではなくてですね、私は一体誰かのかが気になっただけなんです。

その言葉は口から一言もでなかった。

話すことが少なくなったせいで生まれたあがり症。そのせいで一対一で対面すると全くと言っていいほど声を出せなくなってしまう。

私の口から出るのはあれ、とか、あ、なんていう嗚咽じみた音ばかり。

そんな私の様子を見ておかしくなったのか笑い出す人影。

制服が見えた時から思っていたけど女学生。身長は私とそこまで変わらないかな…私の方が少し小さい?私の身長は言っても平均なので別に不思議なことではない。

 

「どうしたのー?ふふ」

「えっと…その…誰なのかって…気になって…それ、で…」

 

やはり言葉の途中で詰まってしまう。

 

「私も気になっていたんだよね。あなたのこと。まあ隣のクラスだから知らないかな。私は古賀美咲。あなたと同じ一年生」

「えっと…私は…」

「田中楓ちゃんだよね?いつもこの時間に帰っているって聞いて気になっていたんだよねぇ~」

 

なんてことないように答える美咲ちゃん。まさか私の事が他クラスにも知られていたなんて…誰にも知られないようにこの時間に帰っていたというのにこれでは全くの無意味ではないか。

 

「何か悩みでもあるの?初対面で図々しいけど…私なら相談に乗るよ?」

 

穏やかな声で、私に語り掛ける美咲ちゃん。初対面なのに、家庭のことを話してもいいのだろうか。それとも彼女が言っているのは家庭関係ではないものなのだろうか。

正直言って成績が良い方ではない。そのことを言っているのかもしれない。でもなぜか私の口は思いを曝け出すように美咲ちゃんに話し始めていた。

 

「私…ね…家が…嫌なの。家に帰りたくない。学校にいたい…だから私帰りたくなくて…」

 

語順も、内容もぐちゃぐちゃだ。これでは何が言いたいのか全然分からない。

それでも…

 

「いいよ。ゆっくり、自分のペースで話して?ここは先生が通らないから、チャイムが鳴ってもしばらくは大丈夫だから」

 

優しい声でそういう美咲ちゃん。

私を急かさない為に私をここまで誘導したのだろうか。チャイムがなるというだけで私はドキドキしてしまう。それを見越していたのだろうか。

 

「でも学校も…友達いなくて…話せなくて…それで…」

 

そこまで言うと何かが頬を伝った。

涙だ。家でも学校でもここまで本心を言ったのはいつぶりだろうか。

今まで我慢していたのだろうか。私自身その自覚はないのだけど…

なぜかここまで、泣いてしまうまで話していたのかは分からない。けど、彼女の声が持つ温かさ、優しさが私に働きかけた。

美咲ちゃんは私の話を聞いてしばらく頷ていていたが、しばらくすれば優しい笑顔を作り話し始めた。

 

「大丈夫だよ。きっと大丈夫。慣れるまでは私と話そう?」

「美咲…ちゃん?」

「私もそう。今では結構元気だけど。中学生の頃は暗くて…でもね、支えてくれる友達に会って、元気になったの。だから…」

 

友達になろう?

そう言ってくれた美咲ちゃん。

当時の私はおどおどしつつも頷いたんだと思う。あの時見せた美咲ちゃんの嬉しそうな、楽しそうな、でもそれでいて優しい笑顔を生涯忘れることはないだろう。

そんな友達を作った高校一年生の春の終わり…その親友に会うことはもう叶わない…

 

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