毒ガスが充満している建物を探索すること十分。未だに明確な物的な情報を見つけることができていなかった。
私たち探索隊は戦闘のあとに放置された建物内を検査し何かしらの戦闘痕を見つけ今後の戦闘に役立てることをメインとした部隊だ。この建物では毒ガス兵器が仕様されたようで全四階建ての建物全ての場所に毒ガスが充満していた。匂いなどは探索する過程でとても重要な証拠になりえることもあるのだが、毒ガスが充満しているこの建物ではその匂いを完全にシャットアウトするためにガスマスクを装着することを余儀なくされていた。
一階、二階と探索を終えて三階フロアへ。建物自体はそこまで大きいわけではないので探索に要する時間は然程ないのだが、毒ガス以外にもライフルや爆薬などを使用した形跡も見られるのでそれを逐一報告書代わりとなるメモ帳に記しているとやはりこれくらいの時間となってしまう。それでも今日は早い方ではあるのだが。
建物自体の老朽化は著しく、場所によっては強く踏み抜くだけで地面が抜ける部分もあるので隊員に注意を促しながら進む。毒ガスが可燃性でないことは戦闘の跡から推測することができるが、そもそもこの毒ガスの調査もしなければならない。流石に三階までくると毒ガスも薄くなってきているしここらへんで調査器具を出して調査を…
「隊長、こちらに」
「ん、どうした」
無線によって連絡が来たので調査を一度ストップし報告があった場所へ向かう。
その部屋は金属製の部屋で、どうやら元々牢屋があった場所のようだ。しかし既に檻を構成している金属は錆びに覆われ見る影すらもない。既に老朽化していた建物を舞台に行われた戦闘だったのでこの牢屋は使われることもなかっただろう…と眺めていたら奥に隊員がいるのを発見した。
「どうした」
「隊長、これ…」
隊員が腕を動かすとその下から、死体が現れた。
体全部が錆びで覆われ、その姿はさながら朽ちたロボットのよう。僅かに残っている腕や脚の先から人間であったことは分かるが…それさえなければそもそも発見さえ難しかっただろう。実際私がここに来た時には既に死体の姿は見えていたはずなのだが隊員が手を動かさなければ気付かなかったほどだ。
どうやら全身を金属系の装備で固めていたようだが…こんな時代に全身金属などどこの騎士だと言いたくなるものの…死亡したあとにここで檻と共に錆びに覆われたようである。
「ここまで腐食が進んでいると誰なのか特定することもできませんが…」
「全身鉄装備など目立つに決まっている。それなのに報告が何もないのだとすると彼は敵でも味方でもない人物。それに檻と共に錆びているところから察するに私たちの戦闘とは無関係のこの建物に住んでいた人物かなにかだろう」
この建物が建てられたのはおよそ百五十年前。使われなくなったのがいつ頃かは分からないが、その当時の人物だろう。つまり私たちの調査対象ではないので報告する必要性はない。
「どうしますか?」
「捨ておけ。ここまでずっと眠っていたのだ。ここで動かすのはむしろ冒涜だ」
きっと彼にも何か守るべきものがあったのだろう。でなければこのような場所でこんな格好でこんな死に方はしていない。彼がその大切なものを守ることができたかは定かではないが、そうであることを祈るばかりである。
「この階は完了だ。次の階に移動するぞ」
当時に建物にエレベーターなどあるはずもなく、もしあったとて使うことはできないので階段を使って慎重に上る。この建物に屋上はないようで、階段はここで打ち止めとなっていた。
「これは…」
そこは鉄で覆われた、鉄の表面に生成された錆びで覆われた一室だった。
今までの階層と違い部屋という概念はない。仕切りはなく、ただただ鉄で覆われた空間が広がっている。どうやら敵軍はこの部屋を拠点としていたようで薬莢やら軍議で使われたであろうボロボロの羊皮紙などが落ちていた。期待するだけ無駄だと思いつつ何か情報がないかを探す。
時間にして約数分。めぼしい手掛かりもなく、敵軍がどこに行ったのかを現すものも落ちていなかった。
「撤収だ」
そしてその建物を後にする。
その昔、私たちとは違う戦闘で命を落とした男を少しだけ思い出しながら。