短編小説集   作:nite

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役を演じるということ、その心理

人の気持ちを理解するというのは非常に難しいものである。日常生活の中で、他人の気持ちを慮り配慮するなんていうのは、到底できない話なのである。

しかし、人の気持ちを予想するというのは簡単である。それが正しいか、そうでないかは関係なく、予想するという点でいえば容易にできる。これが、いわば「口だけ」だったり「ただの同情」だったりする。

 

「うーーん、この人なら、こっちの役の方が合うかなぁ……」

 

私は、今次にやる公演での役決めをしている。台本を書いているのは私ではないけれど、ここで座長をする者として、劇団員の役を決めるという大役を担っているのだ。

演劇において、役の決め方というのは色々とあるけれど、私はその人に合った役を割り振るという方法をとっている。「この人はいつも気だるげだから、あまり喋らない役をしてもらおう」とか、「いつもうるさいから、体育会系に」なんて風に。

 

「あ、じゃあこの人にやってもらおう。これは楽しみだなぁ~」

 

でも、たまにこうして、いつもの性格とは全然違う役をしてもらっている。それは、その人の性格に合った役がないのも原因の一つではあるのだけど、それ以上に、私がその人の新しい一面を見たいというのもあるのだ。

演劇というのは、ただの舞台だ。いつもと違う性格の役だったとしても、やり遂げる必要がある。もしいつもと違った役だとしても、相当嫌がらない限りは私は決めた当初の予定を貫きとおす。

 

「となると、モブ役に敢えてこっちを持ってきて……ナレーションは私でいっか」

 

そして、最終的にいつも違う役柄の人が一人は生まれるのだ。

役が決まったあとの練習のときに、そういった人はいつも苦しそうにしている。役に感情移入することが難しいからだろう。役を作るのは、その人物のことを内面まで知る必要があるからだ。

でも、それを乗り越えた先にある、その人の演技というのは……いつも私の心を打ってくれる。感動と呼んでもいい、その感情は、座長としての責任を果たそうという強い意思を呼び覚ましてくれる。

 

「さてと、となれば少しシナリオを書き換えますか」

 

私は、すべての役を決めたあとに、少しだけ台本を書き換える。今回苦しむ人が、辞めないようにするための措置であり、試練だ。

真逆の性格のキャラなんて、私でもどうすればいいのか分からなくなる。だから、登場人物に少しだけ設定を付け加えたり削ったりして、その人にちょっとだけ近づける。ほんの少し、僅かな接近ではあるけれど、それをとっかかりにしてみんなが役を楽しんでくれたらいいなと思っている。

 

……

 

しばらくしたとき、突然副座長から声をかけられた。

 

「座長、次の役はこれをお願いします」

「……え!?これあなたがする予定だったじゃん!」

「座長、どうせ今回もナレーションとモブじゃないですか。たまには他のが見たいって座員たちが。それに、いつも僕たちにやってることですよ」

 

配られたのは、やる気溢れる若い女学生の役。主役とまではいかないけれど、この演劇における重要人物だ。

 

「じゃ、あとはたのんまーす」

「ちょっと~!」

 

周囲の座員も期待するような目でこちらを見ていて、逃げることはできそうにない。やるしか……ないのか。

私は、台本を読んで、役柄を叩き込む。うーん、私とは全然違う。

私は元々、裏方で楽しんでいたい派なのだ。それこそ、傍観者のような立場で、劇団員の役を見ていたい。そんな私が、積極的になんでも挑戦しようとする役なんて……

 

「えぇ……」

 

私は途方にくれる。だが、配られた以上逃げることは許されない。そもそも、座長が役から逃げるなんてみっともないことはできない。

私は連日、役柄を掴むことを意識した。日常生活や、家でも。

そんな中で、私は人間観察をすることにした。この役柄と似ている人物を観察して、それを参考に自己投影するのだ。

 

「任せて!私やる!」

 

座員の中にちょうどいい人がいるので、ちょっと観察。

やる気にあふれ、日頃から色んなことに挑戦しようとする姿勢は、私には少し眩しく見える。そんな彼女の行動をしばらく眺めていると、ふとあることに気が付いた。

 

「仕事を断られたときに、結構へこんでる……?」

 

こういう人は、普通断られてもすぐに気持ちを切り替えて次の仕事をしようとするのだと思っていたのだけど……この子はそういうわけではないらしい。

新しい発見があるとともに、そこに私の可能性を感じる。私だって頼んだことが断られると少しへこむから。

これでも日頃から色んな人のことを見てきているのだ。だからこそ、こういうところに気が付く。ついでに、この子には断られてもへこたれないような役をいつかやらせようと思う。

 

「よし、見えた!」

 

リハーサルでは、ほとんど完成した私を。そして、本番で完璧な『役』の私を見せることができた。

副座長からは賞賛と謝罪を貰って、私はいつもの座長の仕事に戻る。もっと、座員のことを見たあとだから、みんなの性格がなんとなくわかる。

 

「よーし、役を割り振るぞ~」

 

私は台本と、役一覧に向き直って、気持ちを引き締めなおした。

 

取り敢えず、副座長には真逆の性格の役を担ってもらうことにした。

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