日が傾き、鉄塔のような存在感を放つ巨大なピンがパトカーを影で隠した。
パトカーからおりてきた一人の警察が建物を見上げて溜息。
「…なんでこんなとこで事件なんぞ」
そう呟くと警察は建物の中に入っていった。
いつもなら家族やカップル、友達同士など様々なグループによって愉快な喧騒が聞こえてくるはずのそこは今、重々しい空気と他の警察が醸し出す雰囲気により静かなものとなっていた。
事前に貰った情報を頼りに右から三番目のレーンへと向かう。今日の事件はとても奇怪ということで上層部から何度もたらいまわしにされてきた挙句私に回ってきた。なんせ今回の事件で死体がレーンを汚し随分と見るも無残な姿になってしまっているのでどうも見るだけで気分が悪くなる人が多発して継続して捜査することすら困難だと言われているのだ。そんなものを私に押し付けないでくれとも思うが、この際それは無しにしよう。私がそういった残酷な事件に対応し慣れているのは警察の中でも有名になりつつあった。
捜査官から事情を聴きつつ状況を把握する。
なにがどうしてピンの処理するところに飲み込まれてぐちゃぐちゃになるのだろうか。ボウリング場のスタッフはそういった操作には慣れているはずだし、そもそも狙わない限りそこに入ることはない。死体の捜査が難航しているものの、現場の状況から殺人事件として扱われているらしい。
「本来は閉まっているはずの扉が開いていました。そこはここの最高責任者のみが鍵を持つことを許されている扉で、その時間最高責任者は別の場所にいたことが確認できています」
ただしその扉はこの事件現場の近くではない。
だが多分何の関係もないということはないだろう。事件の時に起きた異常というのは何かしら因果関係があるものだ。特に最高責任者だとか鍵だとかそんな重要なものが絡む事柄は。
「その扉は何のためのもので?」
「その先には金庫などここの経営にかかわる権利書があります。ただ責任者曰くそこから持ち出されたものはないとのことです」
だがそれでもその鍵を開けた誰かがいる。いたずら、なんていうことはないだろう。元々は何か用があって鍵を開け、そして何かしらの事情によりそれができなくなったということだ。流石に犯行したあとに鍵を開け放したまま放置するなんて愚行を自らするとも思えないのできっと鍵を閉めることができない状況でもあったと思われる。
…状況証拠だけを見れば犯人がその鍵を開けて犯行しているところを被害者に見られたために殺し、そして逃亡したと考えるのがいいだろう。
死体が発見されたのはスタッフのほとんどが帰り、責任者が見回りをしていた時だと言う。被害者の死亡推定時間はおよそ発見の一時間前。その時はまだスタッフは働いていたので全員が犯行可能ということになる。
死亡推定時間にアリバイがないスタッフが予想よりも多く、未だに絞り切れていないのが現状らしい。それでもなんとか証拠や証言により三人まで絞っているらしい。まるでお膳立てされたミステリー小説のようである。
あ、因みに言っておくと私は捜査するだけで犯人を特定するとかそういうことをする担当ではない。課が違うのだ。必要以上の仕事はしない。
さて、時間がかかったが死体を見に行こう。先に鑑識が来て大体の部位は回収されているようなのでそれを見させてもらおう。部位だけでは特にわかるものはないかもしれないがな。
「うっ…」
今まで様々な死体を見てきた私でさえも忌避したくなるような有様の死体を拝見。
殺人を目的とした行動ではなかったにしては凄惨なので、案外犯人もこの状況には恐々しているかもしれない。
身元の特定は済んでいるし、特に怪しげな部分はない。犯人に押されて機械の中に落下してこのような姿に変わり果ててしまったのだろう。
「緊急停止とかあるだろ?そもそも人が落ちてエラーが出ないとは思えないが…」
「どうやら緊急停止のあとに無理やり稼働させたあとがあります。きっと犯人は目撃者を徹底的に消したかったのでしょう。明らかに過剰であったことは見た限りですが」
まあ、確かに見ればわかる。
きっと犯人はここまで酷くなることは知らなかったのだろう。となれば新人とかこっちの方に仕事を割り振られていなかった人物…だろうか。もしかしたらここまでなることを理解した上での犯行かもしれないが。
「こりゃまた徹夜かねぇ…」
私は既に完全に落ちた太陽の方向を向きながらため息をついた。