「私たちで逃げよう!」
彼女がそう言ったのは今日の朝。
同居を始めて既に二年。もう結婚もしようとでも思っていた僕たち。しかしそこには大きな障害が存在した。彼女の親が反対するのは分かるが、まさかの僕の親も結婚を許してくれないのだ。ただ結婚するだけなら勝手に婚約届を出して結婚式をすればいい話だ。だが今回はそれだけで終わらない。
なんと僕の親が彼女に対して悪口を言ってくるのだ。わざわざ手紙を書いてこちらへと送ってくる。しかも引っ越しとかなんとか全部を教えろと彼女に言ってくる。僕にはずっと優しいままなのだが彼女に対しては明らかに敵意むき出しだ。
その現状に僕も彼女もそろそろ限界であった。そしてとうとう今朝、彼女が逃げることを提案してきたのだ。言うなれば駆け落ちである。
親にはとても感謝しているし、僕の人生の中で何不自由ない生活を続けてこれたのは両親のおかげである。ただ彼女のことを悪く言い、僕たちの邪魔をするというのであれば逃げるのもいいかなと思っている。毒親ってわけじゃないけど…うんざりしているのは本当のことだし…
「そうだね、そうしようか」
そして僕がそう返事したのはその日の夜。一日考える時間をくれた彼女に感謝しつつ僕も駆け落ちすることを了承した。気持ちの部分以外にも経済的な面や時間的な面を考えての行動だ。ありがたいことに僕の仕事は家の中だけで完結するのでどこにでも行けるのは行幸だろう。彼女の提案で次の日から準備をしようということになったのだけど…
次の日、僕は風邪をひいてしまった。
朝起きると体が重くて準備ができる状態ではなかった。申し訳ないなぁ…ごめんね。
「そんな顔しないでよ、もう!」
「でも…」
彼女は計画も放り出して僕の看病をしてくれた。僕と付き合うために家事をとっても頑張ったとちょっとだけドヤ顔で話していたことを思い出す。看病もお手の物…誰で経験値を積んだんだろう。
彼女が料理をしてくれたそのお粥の味がとても美味しくて、熱を持った頭に乗せてくれた保冷剤がとても冷たくて、何もない時も近くにいてくれてその安心感がとても心地よくて。熱を出して彼女の邪魔をしてしまったというのに僕は幸福感をおぼえてしまうのである。
「準備は家でもできる!どこに行く?」
そんなことを言って棚の奥から引っ張り出した日本地図。段々と会話が盛り上がってきて世界地図まで持ってこようとして、でも世界地図なんてものはないから書斎に置いてある安い地球儀を持ってきたりして。
そんな献身的な介護のおかげか僕は夕方くらいには元気になっていて、僕と彼女はベランダで休んでいた。
「ごめんね。色々してもらっちゃって」
「いいよ別に。なんだか弱っているの見て逆に私は元気が出たよ」
空を眺めるだけで、僕たちは少しの幸せを思う。
親から逃げるっていうちょっとの問題に僕たちは悩まされたと思いつつ、それでも僕らにかかる重圧が逃げるために計画を立てて。
こうやって支えあいながら僕たちは駆け落ちる。