短編小説集   作:nite

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傘 全力疾走 持ち出し禁止

「…休みなし、早退なしっと…」

 

学級日誌の書き込みを終えて席を立つ。後はこれを職員室の担任の机の上に置いておけば今日の仕事は完了だ。

いつもよりちょっと遅れてしまったために、少しだけ早足になりながら職員室に向かう。ふと窓の外を見てみれば今にも泣き出しそうな雲が広がっている。傘を持ってきていないのでまだ降らないでと祈りながら職員室へ急いだ。

 

「先生は…いないから付箋でも貼って帰ろう」

 

日誌を提出したという旨と名前を書いて担任の机の上に置いておく。うちの担任は運動部の顧問を担当しているので放課後は結構すぐに職員室からその姿を消す。そもそもできるだけ早く部活に行くためにわざわざショートホームルームを高速で終わらせるような先生だ。部活への熱意は並ではないのはクラスの誰もが分かっていた。

 

「わっ、こんにちは」

 

職員室から出ようとしたら違うクラスの担任とぶつかりそうになった。なんとか体勢を立て直して挨拶をする。

廊下の角なんかでもそうだが、見えないところから先生が現れるのは心臓に悪い。比較的優等生としての振る舞いを心掛けている私にも苦手な先生や嫌いな先生はいる。表には出さないけど。

さて、仕事も終えて荷物をまとめて外に出た。そして案の定雨が降っている。うーん、傘持ってきてないんだけど…濡れてしまうのでもやむを得ないかな。

 

「おい、委員長」

 

ふと横を見たら同じクラスの横田くんが立っていた。因みに委員長とは私のあだ名である。別に本当に委員長でも、なんなら学級委員でもないのだけど雰囲気からあだ名をつけられた。小学校の頃から雰囲気が委員長みたいだと言われ続けてきた私なのであまり不満はない。ただし私自身そこまで真面目であるかと言われると、優等生ではあるけど真面目ではないのでなんとも言えない。

 

「傘忘れたのか?」

「そういう横田くんは持ってきた傘を見せびらかしているのかしら?」

 

横田くんはなんというか、トラブルメイカー。喧嘩とかそういうことはしないのだけど、とにかく不真面目。課題を出さない、忘れ物は多い、そして先生によく怒られる。まるで絵に描いたかのような不真面目。

 

「別に?」

 

横田くんが持っている傘は彼に似合わないビニール傘。彼のことだからもっと子供らしい柄とかでも似合うと思うのだけど…まあ感性は見た目通りとならないことが多いのはよく分かっている。

 

「もし必要ならこの傘を委員長に貸してやろうと思ったんだけどなぁ」

 

そういって傘をこちらに差し出してくる横田くん。やっぱり見せびらかしてるんじゃない。

と思ったら横田くんはそのまま私に傘を押し付けた。

 

「困っているようだからこれは委員長にあげよう。それじゃあな!」

 

そしてそのまま雨の中を全力で走っていった。あのまま走って家まで帰るのだろうか。明日風邪をひかなければいいけど…バカは風邪をひかないと言うし大丈夫か。

横田くんの思わぬ優しさにちょっとだけほっこりしつつ傘を差したときに気が付いた。

 

「これ、学校の持ち出し禁止の備品じゃない!」

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