短編小説集   作:nite

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水泳 盆踊り よくあること

強い日差しの中、妹と一緒に海まで続く道を歩いていた。小学四年生の妹からすると夏の海というのはマストなんだそうだ。俺としてはこんな暑い昼間に外に出るという思考すらも理解できないが折角帰省してるのだから妹と遊べと親に言われてしまい追い出されてしまったから仕方ない。

俺が大学で勉強している間に妹は随分とサブカルチャーに詳しくなったようでマストなんていう表現もそこで学んだようだ。まだ英語を本格的に学び始めていないだろうからマストの本来の意味もよく分かっていないだろうがそこはご愛敬ということで。

 

「お兄ちゃん歩くの遅い!」

「無茶言うなよ。走ったらもれなく俺が死ぬ」

 

取り敢えず海にたどり着く前に息絶えるのは間違いない。まあこんなところで倒れる方が苦痛になるのは目に見えているのでなんとか海までは行くけど。水の中に入ってしまえばもう少しはマシになるだろうという考えである。

そして歩くこと十分ほど。実家から海が近くて本当によかったと思いながら砂を踏みしめる。海に来るのも何年振りだろうか。今年は親が農作業で忙しいっていうから俺が来たわけだけど本来は妹の世話をするのは両親である。例年なら涼しい室内でオンラインゲームでもしているのだが…

今更考えたことで詮無き事なのでささっと水着に着替えてしまう。更衣所を出て妹を待つが、まあ長い。女性は着替えるのが長いというのは通説、というか事実のようで更衣所の前ではカップルで来ているのであろう男性がスマホ片手に相手を待っている。

 

「おまたせお兄ちゃん」

 

大体五分くらいだろうか。俺が日焼け止めを塗っていると妹が現れた。ヒラヒラがついてるワンピースタイプの水着だが…小学生にしては若干露出が多くないか?こういうのが今の流行りと。なるほど…

妹にはしっかり日焼け止めと準備運動をさせたあとに海に行かせる。どうやら俺の家族は総じて焼けにくい体質らしいが油断大敵である。

妹が海に入っているのを俺は浅瀬で見守る。荷物を見る必要もあるからあまり遠くまで泳いでいられないし妹の見守りもしないといけない。インドア派な俺に比べて外で遊ぶ妹は俺よりも泳ぐのが上手いので心配はいらないだろうが、こういう人が集まるところでは何かと問題が起こりやすいからな。なお小学生らしい見た目の妹に手を出したら速攻でそいつは警察に突きだす所存である。

 

「お兄ちゃん泳がないの?」

「見てるだけでいい。それにここでも涼めるからな。海の上で体力切れて沈むリアルターミネーターを見たくないなら俺を無理やり泳がせるなよ?」

「そんなことしないよ。お兄ちゃんが泳げないのは知ってるし」

 

泳げないのではなく泳ぎたくないだけである。別にクロールとか立ち泳ぎとかは全然できる。体力がないだけで。

その後しばらく妹は泳いでから持ってきたサンドイッチで昼食。少し休憩したら妹はまた泳ぎだした。地表温度の関係で太陽が真上に来る十二時よりも二時くらいの方が暑いので俺は日陰に避難。妹曰く今日は海水浴以外にもイベントがあるらしいのでここでは体力を温存しなければならない。ついでに着替えてしまうか。俺もちょっとだけ泳いだし。

妹に声をかけてから元の服に着替える。やっぱ塩でベタベタするな。仕方がないので有料のシャワーを使って体を洗い流す。本当は家で体を全部洗いたいところではあるのだが妹の話だと夜まで家に帰らずにこのまま次の目的地に向かうらしい。はてさて、できる限り体力を消費しないように行動しているものの夜まで体力が保てるだろうか。

依然としてべたつきがある髪をなんとか整えて砂浜に戻ってきた。まだ太陽は高い位置にあるが妹はそろそろ海水浴を終わらせるらしく浅瀬のところでチャプチャプしていた。

 

「もういいのか?」

「うん。次の場所はちょっと遠いし準備も時間がかかるからねー。というわけでお兄ちゃん荷物見ててね」

 

何かあったときに妹では確実に対処できないとは思うが一応荷物の監視をしていたらしい。妹くらいの背丈だと荷物と一緒に誘拐されそうである。

妹の着替えは水着に着替えるとき以上に時間がかかった。そのおかげで少し涼しくなったので遠いという次の目的地までは大量が保ちそうである。遠いとは言っても妹もそこまで体力があるわけでもないのでそこまで歩くわけではないだろうしな。

 

「おまたせー」

「で、次はどこに行くんだ?」

「恵ちゃんのところに行くよ。恵ちゃんっていうのは私の友達ね」

 

どうやら次の目的地は妹の友達の家…かと思ったら店らしい。ついでに言うとその店も目的地というか必要な経由地って感じらしい。

未だに少し人が残っている海水浴場を後にして歩くこと十五分ほど。恵ちゃんという妹の友達の店へとやってきた。妹には店の前で待っててと言われたので休憩がてら近くのベンチに座って待つ。あ、ここ近辺では珍しく電波の通りがいい。

電波状況の問題で実家ではできなかったことをここで済ませておく。そんなこんなで待つこと二十分。まさか移動時間以上に待つことになるとは思わなかったが、やっと妹が店から出てきた。ここに来た時の服装とは変わっているが、まあ予想通りではある。

 

「どうお兄ちゃん、似合う?」

「いいんじゃねえか?知らんけど」

 

夏目呉服店。それがこの店の名前である。どうやら着物のレンタルもしているようで妹はきれいな着物に身を包んでいる。ここまでくれば次の目的地も分かるというもの。そういえば縁日の祭りがここらへんだったなぁと思い出しつつ妹と歩き出す。

恵ちゃんとやらの姿はないが、どうやら着物関連の仕事の手伝いの関係で祭りに一緒に来ることはできないらしい。小学校の友達というからには同学年だろうし、小学四年生で親の仕事を手伝うなんて立派なものだな。

 

「お兄ちゃん、何その目」

「なんでも」

 

特に仕事も何もしていない妹に対して冷ややかな目を送りながら道を歩く。

近くの神社で行われるわけだが、まあまあ規模が大きい。なんと今時に櫓が存在している。屋台も普通に出るらしいし、周辺の市では結構有名な祭りらしく人も多い。個人的にそんな風に人が多い場所に行くことすら嫌なわけだが妹の付き添いなので仕方がない。

歩いているうちに太陽は傾き空が赤みがかってきた。きれいな着物の妹に対して普通に洋服な俺はちょっと浮いているような気もしないでもないが、まあ周囲の目を気にするわけでもない。

 

「おおー!」

「来るのは随分と久しぶりだが…こんなに大きかったんだな」

 

妹が祭り会場を見て目を輝かせている。

神社で敷地が広くて祭り運営もできる人数が揃うっていうのは本当に珍しいことであるのは間違いない。折角だから妹に付き添いながら楽しむとしよう。

 

「お兄ちゃん、色々買ってくれるんだよね?」

「親からお金は貰ってるからな」

 

取り敢えず一万円。祭り価格とはいえこの値段を消費するはずがないだろうし、一応海水浴の諸々も含めた金額なのだろう。経費としては妥当な金額なのではないだろうか。

 

「じゃあまず綿飴」

「はいよ」

 

食べるだけでべたべた。砂糖の甘味しかしないこんなものをなぜこうも美味しそうに食べることができるのかは謎だが一個買ってあげる。四百円とまあまあ値段が張るわけだが、大きさが妹の顔以上にあった。妹はスタイルがよく顔も小顔なので大きい綿飴が余計に目立つ。

ぺろりと綿飴を食べきり、射的やらくじ引きやらにも付き合う。どれも特にパッとした結果は出なかったが妹は楽しそうであった。

日も沈み人が増えてきた頃。妹に引っ張られて櫓までやってきた。まさか本物を見る機会があるとは思わなかったが盆踊りをしている。うーん、この祭り会場だけなんだか昭和の空気がするような気がする。

 

「お兄ちゃん、行こ!」

「踊り方なんか知るわけないだろ。お前こそ盆踊りなんか踊れるのか?」

「恵ちゃんに教えてもらった!」

 

強いな恵ちゃん。呉服屋をしているくらいだし祭り運営であるのは確実だろう。

 

「俺はいいから一人で行っておいで」

「はーい」

 

そしてそのまま列に加わる妹。小学生を謳歌してるなぁ。きっとお前が大人になるころにはこういう祭りは日本から淘汰されている可能性があるから今のうちに楽しんでおけよ。

とある夏の日の、よくある話。

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