もうすぐで完結なのに……! 時間が欲しいよぉ!
さて、今回のお話は……龍琥が漢になります。
龍琥は非情に困っている。それはもう、大変に困っている。どれほど困ってるかというと、それはもう………どう比喩したらよいのか分からないほど困っているのだ。
先ほど、星彩から告げられた彼女の想い。それを聞いてしまった龍琥は汗をタラタラと大量に流し、去っていく星彩の背中を見ながら気を失った。
「まさか……そんな……どうして星彩様は俺のことを……」
そんな素振り一度も……いや、もしかして俺が見落としていただけなのか? いやまさか、そんな……。ああ、ダメだ。考えれば考えるほど自分が鈍感系主人公に思えてくる……!
た、確かに俺は前世ではそれなりに女性から好意を向けられていた……はずだ。だがそれはそういう状況下であったからだ。考えてみろ。女性だけの場所に男を放り込んでみたら、男と女の本質によって必然とそうなる。加えて俺と一刀は戦場で戦い、数々の武勲を挙げてきた。あ、一刀はそこまで戦っていなかったけど。
だからそれなりにこういったことに関しては鈍感ではないと思っていた。そう、思っていたんだ。
「なぁ、一刀……複数の愛人を持つお前なら分かるだろう? いや、俺とお前では女性の価値観が違うよな」
「よっ、どうしたんだ、龍琥? そんな青い顔して」
「張苞様……」
「おいおい、もう様はいいって。俺達、義理の兄弟になるんだからよ」
「ホワッツ?」
「ほわ? ああ、龍琥が変なことを言う時って大抵、分かんない時だったな。ほら、星彩から告白されたろ? そんで、星彩と契りを結ぶんだからさ」
「………」
な、何でさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 何で、何でそうなってんのさぁぁぁぁぁぁ!?
え、なに? 貴方の中ではそういうことになってんの!? つか、何で知ってんの!? 星彩様の性格上、誰かに言うことは無い。それを何で……。
「……張苞様、どこでそれを知ったので?」
「え、だって親父達がそう仕向け……ぁ」
「ほぅ……? それは、一体どういうことなのですかい?」
「い、いやっ!? それはだな!? えっとおお!?」
俺は張苞様の胸倉を締め上げ、地から浮かせた。
今の俺の顔はどうなっているだろう? たぶん……そういう顔をしているんだろうなぁ。
「さぁ、洗いざらい全部話してもらいましょうか? ええ? 張苞様?」
「ちょちょっ!? こえーよ、おい!? 何か後に黒い龍が視えるんだけど!?」
「三つ数えるまでに言わないと黒竜が喰っちゃいますよ?」
「ちょ、おい!?」
「いーち!」
『グラァァァァ!!』
「まだ一しか数えてないじゃん!? 二と三は!?」
「漢は一だけを覚えてればそれで良いんですよ。で? 早く答えてくれます?」
「わわわわ分かった! 分かったから降ろしてくれ! 苦しくて話せねぇ!」
「チッ」
仕方なく手を離し、代わりに黒竜を待機させる。
氣で黒龍を具現して待機させれるなんて、ホントこの世界の仕組みは分からん。
「お、親父ってーか、関羽殿が最初に言い出したんだよ」
「関羽様が?」
「何でも、娘との婚儀はまだ認めたわけじゃない。考え始めただけだって言って。それで相応しいかどうかを試す為にって、星彩に親父が発破をかけたんだよ」
「……どうしてそこで星彩様が出てくるんですか?」
「どうしてって、お前が銀屏以外の女子に迫られて、どういった態度を取るのか見たかったんだろ?」
「ですから、それだったら星彩様でなくとも良いではないですか。そこら辺の女官や遊女を使えば良い話です」
「お前、知らない人には関心持たねぇじゃん」
「当たり前じゃないですか。興味の欠片も持たない女に、どうして誑かされるんですか?」
「だから、元々お前に想いを寄せていた星彩に頼んだんだよ」
だから何でそこで星彩様を出すんですか!? 星彩様のお気持ちを知っているのなら、尚更出してはいけないでしょうが! なに? 馬鹿なの? 蜀の重役って馬鹿なの? 死ぬの?
「張苞様、俺が銀屏様以外に心を動かされないって分かってますよね?」
「お、おう。お前は、そんな男じゃないさ」
「……なら何で星彩様を差し向けるんですか?」
「……おう? そうだ、な?」
「馬鹿です……ああ、馬鹿でしたね。理解してないでしょう?」
「……おう」
「俺は銀屏様にしか心惹かれない。なら、星彩様を愛することはできない。そんな分かりきっていることで貴方の妹を傷付けるのですか?」
「そ、それは……。だけどな、お前も将軍になったんだし、そういうことが出来る身分になったんだぜ?」
「そういうこと?」
「子孫を多く遺す為に、多くの女子と子作りしなくちゃならないんだし」
「……そういう、貴方は?」
「俺? 別に今はそんな気は無いし。戦いだけでいいし」
「………はぁ」
まぁ、張苞様の言う事はともかく、確かに俺は将軍になり、何人もの女子を娶ることが出来るようになった。別に一夫多妻制があるとかそういうのではなく、子孫を遺す為に結果的にそうなるという話。
だが俺にそんな器量は無い。ただ一人を愛することしか出来ないこの俺に、銀屏様以外を愛して生きることなど到底無理な話だ。
「なぁ、別に星彩が嫌いなわけじゃないんだろ?」
「それは、まぁ……しっかりしているし、気遣いもしてくれる。戦では強く、その美しさも際立っている」
「だったら! 第二夫人でもいい! 星彩を娶ってくれないか!?」
「……どうしてそこまで言うのですか?」
「俺は星彩の兄だ。妹の幸せを考えてるさ。だったら、その幸せを叶える為なら何だってやるさ」
「………」
張苞様の眼は本気だった。本気で星彩様の幸せを考えている。
俺が、星彩様を娶ることで星彩様の幸せになる? そんな、馬鹿な。そんな馬鹿なことが。
仮に、仮にだ。星彩様を第二夫人として娶ったとしよう。なら、銀屏様の幸せはどうなると言うんだ。
銀屏様はとてもお優しい方だ。表ではお認めになっても、見えないところで泣いてしまう。
そんなこと、そんなこと俺に出来るわけないじゃないか。
「―――龍皇覇はその一生をもって、関銀屏を唯一愛する」
「お前……! 龍琥ッ! どうあっても星彩を娶らない気か!?」
「然り。俺はこの一生を懸けて、唯一人の女を愛する!」
「……ッ。分かった、お前がそこまで言うんなら、もう何も言わねぇ。ここまで一途な漢もそうはいねぇしな」
「……申し訳ありません」
「いいって。じゃ、俺はもう行くよ。次の戦の為の準備もあるし」
「………」
これで、良かったんだよ。俺は銀屏様を選び、銀屏様を愛して、銀屏様と共に一生を終える。
俺は少し哀愁を漂わせた張苞様の背中を見つめ、暫く空を眺めた後、黙って銀屏様下へと戻った。。
★
「え? 義姉上とも契りを結ぶんじゃないの?」
「…………………………………………………へ?」
あ、ありのまま今起こった事を話すぜ! 俺は暫く色々と考えて銀屏様の下へと戻り、屋敷の庭の木下で銀屏様に今日の事を話して見れば、星彩様とも婚儀を結ぶことをさも当然のように仰った。な、何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何を言われているのか分からなかった。頭がどうにかって違う!!!
「ぎ、銀屏様? な、何を仰っているのですか?」
「もうっ! 様付け禁止! 私達は夫婦になるんだから、名前もちゃんと呼び合わないとだ~め!」
「……萌え―――って違う違う。んんっ、じゃあ……ぎ、銀屏。ど、どうして俺が星彩様とも契りを結ぶと?」
「どうしてって、だって龍琥はもう将軍だよ? 私以外の人も娶って、それなりの立場を示していかないと駄目なんだよ?」
「い、いや、しかし―――」
「だいじょーぶ! 妻になるからには夫を立てることには手を抜かないよ!」
「そういう問題じゃ―――」
「それに義姉上なら私も嬉しいし!」
「ちょっ、話を―――」
「もし父上が何か言ってくるんだったら私が―――」
「銀屏ッ!!!!」
「ッ―――!?」
つい大声を出してしまった。しかも呼び捨てで、怒鳴り声みたいに。
だけど、これだけはちゃんと話し合わなければならない。
「銀屏……お前はそれで良いのか? 俺はお前を愛している。お前だけを見ているんだ。なのに、そこに他人を置くなんて……」
「……龍琥、ううん、一颯。私も貴方に私だけを見ていて欲しい。私だけを考えて欲しいよ。だけど、それだけじゃ駄目なんだよ」
「どうしてだ?」
「私ももう子供じゃないんだよ? 分かるよ、色んな事情が。もう一颯は将軍で、これからももっと上に行く人なんだよ」
「どうしてそんな事が分かるんだ?」
「分かるよ。戦乱の世が終われば、次は私達が国を築いていく時代。その時代に、貴方はとても重要な人物になるの」
「俺は片腕を失った。もう満足に戦う事なんて出来ない」
「嘘だよ。だって一颯はそれで私を守ってくれたじゃない。新しい力を手に入れて戻って来た」
黒龍が俺の中でざわついた。
銀屏に黒龍が認識されている。
黒龍も銀屏を認識して意識を向けている。
「貴方は蜀にとって重要な人物になる。だから、それに相応しい振る舞いをしなくちゃいけない」
「だからって……そんな……」
銀屏はそこまで俺の事を考えてくれていたのか? でも、それはあまりにも大人過ぎる。
銀屏はまだ二十も越えていない。この時代では大人の仲間入りであるが、それでもまだ十六の少女だ。
俺はもっと自分に我儘になって欲しいという気持ちと、そんな事を考えさせてしまった自分が悔しくてたまらない。
なんだ、このザマは。銀屏には幸せになって欲しい、必ず守るといっているのに、銀屏になんて重い考えをさせてしまっているんだ。俺のクソ野朗。何が驪竜だ。ただの馬鹿じゃないか。
「だから、いっぱい良い人を探さないと―――」
「銀屏。分かった、その考えには賛成するよ」
「……そ、そう……良かった……」
「………」
「じ、じゃあ! 義姉上との婚儀も同時にやっちゃおうか!」
「嫌だ」
「え……?」
「銀屏、お前はそんな顔で俺と結ばれる気か?」
「そんな顔?」
俺は手鏡を出し、銀屏の顔を映す。
そこに映っているのはいつもの明るい銀屏ではなく、涙を流して悲しんでいる銀屏の顔である。
「あ……」
「銀屏、本当は嫌なんだろう? 俺が別の誰かを娶るのが」
「そ、そんなわけないよ。だって一颯の為だもん」
「だったら何で泣いているんだ?」
「そ、それは……あれ? 何でだろう……何で涙が出てくるの?」
気が付けばあっという間。涙がボロボロと流れ始める。
何度拭っても意味はなく、終いには顔を両手で覆ってしまった。
「俺は……まぁ、いつかはそういう立場になるやもしれない。そうなれば威厳を示す為にそういうこともしなければならなくなるだろう」
「うんっ……だからっ……」
「でも、それはその時が来たらで良いじゃないか」
「え……?」
眼を真っ赤に染めた銀屏が俺を見る。
その表情すら俺には愛しく思える。
「その時が来るまでは、銀屏だけを愛させてくれないだろうか?」
「っ……!」
銀屏の肩に手を置き、銀屏の眼を見つめて静かに、しっかりと俺は告げる。
「銀屏――――俺を独り占めしてくれないか?」
「――――ずるいよ、そんなの。そんなこと言われたら、私……我慢できなくなっちゃうよ」
「我慢なんて、そこら辺の犬にでも喰わせてしまえ」
「うん……じゃあ、一颯――――――今は私だけを愛して下さい」
「ああ……
――んっ……は、恥ずかしいよ、こんな所で……。
――悪い、もう我慢できない。
――んなっ!? りゅ、龍琥の奴あんな所で何やってんだよ!?
――兄上……煩い。
――だ、だって星彩! あ、あれ!!
――あれはただ抱き合って寝転んでいるだけ。流石にソレはない。
――っつか、お前は良いのかよ!?
――……兄上、本当に馬鹿なの?
――は?
――おおっ! 龍琥はなんと漢らしいのだ!
――玄徳様の方が良いけど、イイ漢になったじゃない!
――やりやがるぜ! 流石は俺が見込んだ野朗だ!
――己ぇ!! 嫁入り前になんと破廉恥な!!
――彼は認めましたね。自分の立場を。
――それと、龍琥は宣言しちまったね~。
――ああ……龍琥の胃に穴が開かないように俺がしっかりしないと。
――おおおおおおおっ!? なんと破廉恥な!? だがっ!! 漢としてあれは……感動した!!!
――若~、少し黙らないと龍琥の槍が飛んで……遅かったか。
――龍琥よ……あんなに小さかった子がここまで大きくなるとは。師としても嬉しいぞ。
――二人とも……幸せそうだ。
――兄上、幸せそうではなくて、幸せなんですよ。
――あぁ、関索ぅ、私達も~!
――わ、私も趙氏といずれあんな風に……っ! い、いや! やっぱり無理だ! 恥ずかしい!
――……ふん、龍琥の馬鹿者。
――わ、私だってお前が……。
――やはり……私はずっと独りなのか……。
――いや、私だって……!
――やべぇ……外野が鬱陶しくて苛々する。
――は、恥ずかしいよぉ……!(ミシミシミシ)
――あ、ちょ、そんなに力を入れな――――(ボギリ)