どうも、龍琥です。さてさて、関羽様からの猛攻を受けて翌日。私はボロボロの身体で銀屏様の前には出られないと思い、肉まんを食べました。凄いですよね、この世界の肉まんって。食べただけで体力が回復するんですから。いや、食べ物を食べたらそら回復するんでしょうけど、次元が違う。とにかくまぁ、回復して銀屏様の下へと朝一に行きましたよ。一緒に居た関羽様の眼が怖かったです。
ああ、そうそう。銀屏様が仰っていた夫婦の事ですが、後で関羽様がお聞きになったところ、「仲が良い男女」だと銀屏様は思ってらっしゃるようでした。いやー、ホッとした自分とショックを受けた自分がいるのはなんでだろう?
「いぶき! おはよー!」
「おはようございます、銀屏様。それと、その名前は秘密にしておいてください」
「ひみつ?」
「はい。私と銀屏様だけが知る、二人だけの秘密です」
「うん! わかった!」
なんて可愛らしいんでしょう。こんな主に出会えて私は幸せですよ、桃香。
さて、今日の予定は……戦の日です。なので、私は銀屏様の傍に付き、護衛です。まぁ、いつもと変わりないのですが、緊張感が違う。余り考えられないが、曹操軍の伏兵がこの集落付近に現れてしまうと危険だ。曹操軍は船同士を連結させて水上で迎え撃つつもりなので、陸にある此方までは手が届かないと思いますが、万が一、億が一ということがあります。そんな時に銀屏様のお傍にいないなんて、そんな愚行は出来ません。
「銀屏様、今日は出来るだけ外には出ないでください。最悪、集落からは出ないでくださいね?」
「……うん。ちちうえがたたかうんだよね?」
「はい……。安心して下さい、関羽様ほどの軍神です。必ずご無事に帰ってきますよ」
「うん……。ねぇ、りゅーく……」
「はい?」
「て、ぎゅっとして?」
「……はい」
私は胡坐をかき、銀屏様を脚の上に座らせ、後ろから抱き締めるようにして手を握りました。銀屏様は震えていました。本能的に恐怖を感じているのでしょう。私は銀屏様が安心できるよう、強く優しく手を握り締めました。
「銀屏様は私が……俺が必ず守るから」
「うん……」
★
赤兎馬。一日に千里を駆け抜けるといわれる名馬。赤い毛と体格の良さが特徴的な馬で、彼の鬼神・呂布が乗っていた馬であり、世間からは「人中の呂布、馬中の赤兎」と言われるほどでした。その馬は今は関羽様の愛馬となっております。昔、訳あって関羽様が曹操のところに居る時に、曹操が関羽様に上げたそうです。曹操が呂布を処刑し、赤兎を手に入れたのはいいが誰にも扱えずにいたところを、関羽様が見事乗りこなしたそうです。というか、前世ではただの犬でしたよ、犬。馬鹿じゃないの? いや、可愛いから許すけど。
で、その赤兎なんですが、今回は水上戦ということなので劉備軍の厩舎で大人しくしている。ってか、ゲームでは普通に乗ってなかったっけ? まぁ、とりあえず厩舎で大人しくしている。している……筈なんだが……。
「………」
「………」
「………」
「……何だ、貴様は?」
「いやいや、貴様が誰だよ?」
何と、俺の目の前にいるじゃねぇかよおい。しかも謎の美女を乗せて。思わず素に戻っちまったじゃねぇか。ゴホン……。え~、厩舎で大人しくしている赤兎が今私の目の前にいて、赤兎には推定年齢二十代前半の女性が跨っている。何か、赤と黒の鎧と……ミニスカ? を穿いている女性だ。銀色の短髪で、もの凄く力強い眼を持ってる女性。それが、集落の裏にいた。
「おい、邪魔だ。退け」
「退くわけにはいきませんねぇ。その赤兎、我が主の父君の物じゃないですか」
「なにふざけた事を……赤兎は我が父の物だ。貴様らの物ではない」
「父? なっ、まさか……呂布の娘!?」
槍を構えて目の前の女性を睨みつける。ってか、ええ!? 呂布の娘!? そんなとんでもない人までもいるの!? 絶対強い! 絶対強いよこの人! 今、銀屏様はそこの厠で用を足しているところ。こんなところで暴れられたら拙い。それに、赤兎に乗ったまま逃走されたら絶対に追いつけない。
「ほぅ? 子供にしては随分と強い覇気を持っているな。貴様、名は?」
「龍琥、字は皇覇。お前は?」
「呂玲綺だ。手合わせ願おう……と言いたい所だが、構っている暇は無い」
そう言い、呂玲綺は赤兎を叩いて走り出す――――ってさせるか!
「逃がさん!」
左手の槍を赤兎の足元に投擲し、足を止める。その一瞬の隙に呂玲綺を蹴り飛ばす。
「ぐっ……!?」
「赤兎! 戻れ!」
赤兎は呂玲綺と私を交互に見た後、トコトコと厩舎の方へと帰っていった。
「なっ!? 赤兎!?」
「はっ! どうやら赤兎は今のご主人が誰か分かってるみたいだな!」
「くっ、この……!」
「……えぇー?」
なに、その武器? つかどっから出した? なに、その方天画撃が四つ付いた武器? え、投げるの? 投げちゃうの!?
「はぁっ!」
「チィッ!?」
回転しながら投げられた武器を横に飛ぶことで避け、右の槍を投げようと―――。
「甘い!」
「なっ!?」
方向が変わった!? 何だよそのチートブーメランみたいなのは!?
「クソッ!?」
怪我を覚悟して前に転がり、襲い来る刃を避ける。避けた際に、左手首を下手に着いたのか、グリッと言う音がした。恐らく捻挫をしてしまったのだろう。
「吹き飛べ!」
「っ、嘗めてんじゃねぇぞ!!」
呂玲綺がブーメランを分離させ、両手に持ち替えて突きを放つ。すると旋風が襲い掛かってきた。俺は右手の槍を強く突き、同じように旋風を飛ばす。二つの旋風はぶつかり合い、辺りに衝撃を撒き散らし分散する。
「なにっ!?」
「驚いている暇は無いぞ!」
地を強く蹴り、呂玲綺に接近する。左手は使えないが、右手だけでも戦える。伊達に二槍を扱っていない。
「
突きの連撃。黒い炎を纏った刃で呂玲綺に喰らいつく。
「ぐぅ―――!?」
「まだまだぁ!」
槍で呂玲綺の武器を絡め取り、上に飛ばす。それと同時に俺の槍も上に飛んでいってしまう。
「なっ!?」
呂玲綺の視線が上へと逸れる。その隙を、俺は逃しはしない。右手で呂玲綺の胸倉を掴み、足を引っ掛ける。呂玲綺の体勢が崩れたところを一気に引っ張り、地面に投げ付ける。
「ぐはっ――――!?」
「動くな!」
懐に仕込んでいた小刀を呂玲綺の首筋に当てて喰い込ませる。殺しはしない。俺は戦場でも女は殺さない。
「子供に負けた、だと……!?」
「悪いがただの子供ではないんでね。さて、どうしようか? このままこの刃を滑らせて―――」
「うぅっ……! ヒッグ……! ちちうえぇ……!」
「………」
え……えぇぇ………? 泣いた? 泣いたよこの娘。何で? 何で泣くの? こんなことで泣いちゃうの? なんか印象と違うんですけど?
「えっと………?」
「もうじわけありまぜんっ、ちちうえ……! 玲綺はっ、玲綺はっ……!」
「………」
ど、どうしよ……? 大の大人を泣かせちゃった? なんか、俺が悪い……のかな?
「ころずならころぜっ……! わたじはけっじておまえにくっしは―――」
「アァ?」
「ヒィッ!?」
違う。絶対に違う。こいつは違う。何かが決定的に違う。俺はそう感じる。感じるぞ。この呂玲綺は呂玲綺であって呂玲綺ではない。絶対にだ。俺の本能がそう叫んでいる!
『りゅーくー? どこなのー?』
「………」
「ヒッグ、うぇぇ……!」
「……はぁ、行けよ」
も、やってらんね。ン、ンンッ……やってられないですわ。何か疲れました。銀屏様に癒してもらいましょう。
「こ、殺さないのか……?」
「ああ、殺しませんよ。大の大人が、ビービー泣かないでください。見苦しい」
「うっ……!?」
「こっちの道を真っ直ぐ行けば戦場に出くわさないから、早くいきな。もうすぐ赤壁で戦いが始まるから、上手くいけば誰にも見つからな――――」
「覚えていろよ龍琥!! この屈辱は絶対に忘れないからな!!!」
ピュ~……。
「………」
……もう、ホント……疲れました。
「りゅーくー? あ、こんなところにいた! ねぇねぇ、さっきすっごいおとがしたけどなんだったの?」
「……何でもありませんよ、銀屏様。ささ、奥方様の所へ帰りましょう」
「………?」
はぁ、また彼女に会いそうな気がするのは気のせいでしょうか? そうなればまた、泣かないでほしいなぁ……。
――あ、せきとだー!
――ちょ、銀屏様!? 危険です! 走って近寄っては……!?
――きゃははっ! はやいはやーい!
――………え? 乗りこなしてる……!?