しずかちゃんのえんげきぶ。~I'll do a play Dogville~   作:はせがわ

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Chapter EIGHT ~In which there is a meeting where the truth is totd and Nobita leaves~(前編)

 

 

「丸尾くんに断られるかもしれなかったもん。仕方なかったんだよ」

 

 しずかが額に汗を浮かべながら家まで辿り着き、首輪のせいで横たわる事すら出来ずに、ただベッドに腰かけていた時、のび太が訪ねてきた。

 彼はお金の件について問われると、真面目な顔をして、そう言ってのけたのだ。

 

「仕方ない……? 私がお金を盗んだって、そう思われているのよ?」

 

 しずかは呆れてしまう。のび太は真摯に頼み込む事もせず、ただ子供のように怒られるのを恐れ、黙ってお金を盗ったというのだ。

 それは、彼の気弱さから来た事なのか。はたまた「そこまでしたくない」という意思の表れだったのか。判断がつかなかった。

 しかし、しずかの困惑とは裏腹に、のび太は更に信じられない言葉を放つ。

 

「ああ、僕がそう言ったんだよ(・・・・・・・・・・)。君がお金を盗んだんだろうって」

 

 自分の耳を疑う。いま告げられた言葉が、理解出来なかった。

 少し間をおいて、しずかは思わず非難の声をあげようとしたが、それは酷くかすれた声で、上手く言葉にはならなかった。

 改めて理由を尋ねるも、この首輪が締め付けているせいで、かすれた小声しか出すことが出来ない。

 

「実は、一番最初に僕が疑われたんだよ。丸尾くんと一緒に住んでるからって。

 でも君が盗んだことにして、みんなを言いくるめたんだ」

 

 のび太は悪びれもせず、さも当然の事のように応える。

 そのあっけらかんとした顔にしずかは混乱し、もうどんな感情でいれば良いのか、分からなくなった。

 恋人に盗みの罪を被せる、そんな事をする人間など、彼女の常識外の存在だ。こんな者がいるなど想像すらしなかったし、理解など出来ようハズもない。

 

「もし僕が盗んだとバレたら、もう会うことが出来なくなるだろう?

 そしたら君を助けられなくなるじゃないか。

 僕らが親密で、そして君を助けようとしてることは、秘密じゃなくちゃいけない。

 みんなに知られたらいけないんだよ」

 

 この人はいったい、何を言ってる? なぜそんな悪びれない顔で、ぬけぬけと言える?

 私は盗みの罪をきせられ、こんなヘンテコな首輪を着けられた。人ではなく、犬のように扱われているというのに……。

 貴方はこれを見て、なんとも思わないのか?

 

 まったく罪悪感の見えないのび太の態度に、しずかはもうワケが分からなくなり、眩暈がしてきた。

 そんなふざけた説明では納得出来ないし、まるで幼子にでも言い聞かせるような口調にも腹が立つ。

 

 混乱のまま、思わずしずかは枕を手に取り、ポスンとベッドに打ち付ける。処理できなくなった激情を、無意識に発散させようとしたのだろう。

 だがその動きによって、しずかの耳のすぐ横で、首輪に取り付けられたベルがチリンと、すごく間抜けな音を鳴らした。

 

(……っ!!)

 

 

 思わず、両手で顔を覆う。

 あまりの情けなさに、涙が滲んだ。

 

 町の人々に囲まれていた時ですら流さなかった涙が、しずかの頬を伝ってポロポロと零れていく。

 

 この間抜けなチリンという音を聞いた瞬間、ふいにしずかは現状を思い知った(・・・・・・・・)

 こんな物を着けられてしまう程に、今の自分の立場は弱い。それこそ人間以下の存在だ。

 町の者達のための、嬲られ役。まさに慰み者でしかないのだと。

 

 もうひとりでは、生きられない――――逃げる事すらも出来ない。

 たとえ騙されようが、裏切られようが、自分はこの人に頼るしかない。縋り付くしかないのだ。

 

 

「お願い、私といっしょにいて……! 居なくならないでっ……!

 貴方が……貴方が必要なのっ……!」

 

 

 少なくとも、彼はこうして訪ねて来てくれた。あのお金だって私欲ではなく、ただ私を助ける為の物だった。

 だからもう、彼を信じるしかない――――他に道は無い。

 しずかはさめざめと泣き、必死にのび太に訴える。私を助けてと。

 

 そして、その誠意が通じたかはともかくとして……。

 のび太は彼女の首輪に手を伸ばし、優しく撫でながら告げる。

 

「大丈夫、僕がなんとかするよ。方法を考えるから……」

 

 

 

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 夏が過ぎ去り、季節が秋を迎えても、結局しずかの首輪ははめられたままだった。

 のび太は毎夜のように「考える」というばかりで、何をどうする事も出来なかったのだ。

 

 いつしか、しずかの顔からは、あらゆる表情が消えていた。

 いま彼女を支えているのは、信念でもプライドでもない。そんな物は犬の首輪をはめられた時に、粉々に砕かれて失っている。

 

 その精神だけでなく、しずかの身体は次第に活力を失っていった。この首輪のせいで、夜に眠るのさえ困難となったからだ。

 幾度か試してみたものの、この状態では仰向けでしか眠れなかった。ベルについている無駄に大きな把手が、横向きになるのを妨げ、下手すると首が締まる。

 夜中に無意識の内に寝返りをうとうとすれば、途端に首元に激痛が走り、目を覚ましてしまう。もちろん耳障りなチリーンという音と共に。

 

 日々の過酷な労働、重い車輪を引きずらなければならない労力、慢性的な睡眠不足。

 そしてついに一切の慈悲を捨て去り、苛烈さを極めた町の人々の対応が、しずかの心身を容赦なく削った――――

 

 

 

「わー! 逃げろブー!」

 

「わーい! わーい!」

 

 朝の目覚めは、ガラスの割れる音。

 子供たちが悪戯に投げた石が、家の窓ガラスを割る音で、彼女の一日が始まる。

 昨日は、ベッドに泥が塗りたくられていた。疲労困憊で帰宅した夜に、それを苦労してなんとか寝られる状態にしたばかりだった。

 

 ブー太郎は、もうしずかの膝に乗るのをせがんだりはしなかった。

 だがその代わり、兄妹たちと一緒に、しずかが引いている車輪に乗って遊ぶようになった。

 

 苦労して歩くしずかの周囲を、からかうように奇声を上げて走りまわり、時に物を投げつけたり、代わる代わる車輪に乗って馬車のように引かせたりする。

 しずかが疲弊し、重みに耐えかねてオロオロ立ち往生する様を見て、子供達は楽しそうにキャッキャと笑った。

 

 

 

「――――ぜんぜん綺麗になってないよ!

 ちゃんと洗ってよ、しずかちゃん! まじめにやってるの?!」

 

 たまちゃんが、林檎の木の枝でしずかを叩く。

 子供への体罰には反対しても、しずかに対しては容赦という物がなく、事あるごとに難癖をつけては、何度も何度も打ち据えていった。

 

 たまちゃんは、ついに真実を知った。しずかが誘惑したのではなく、ジャイアンが望んで彼女を抱いていた事を。

 そして、それは今なお続いているという事を。

 

 夫が優しかったのは、あの泣きながら謝罪してきた夜だけ。それ以降はもう妻には見向きもせず、以前にも増して夫婦仲は冷え切っている。

 それどころか、家に帰っても一言の会話もなく、まるで自分の存在など無いかのように振舞われているのだ。

 

 近頃、夫の身に着ける下着や衣服などは、当てつけのように全部しずかに洗わせている。

 今のたまちゃんは、己の不安定な精神や憎悪の捌け口を、全てしずかに向ける事によって、なんとか心を保っていた。

 

 

 

「汚い手……。あかぎれだらけじゃない。

 そんな手でオルガンを触らないで欲しいよ。汚れたら嫌だもん。

 もういいから、伝導所の掃除だけしてて」

 

「娘がね? 貴方に世話されるのは嫌だってぇ。

 アバズレの手に触れられると、身の毛がよだつって言ってるわぁ~。

 でもちゃんと説得しといてあげたから、明日からも介護に来なさぁい。

 あの子をご主人様だと思って、心を込めて尽くすのよぉ~?」

 

「あの畑はもう駄目だねぇ。実は付けないよ。あんたがろくに手入れをしないせいでさ。

 まっ、そんな重い車輪を引きずってたんじゃ、畑になんか入れないだろうけど!」

 

 しずかの“友達”は、もういない。みんな木の葉のように散っていってしまった。

 今はただ、皆しずかを罵倒しながら、高圧的に仕事を言いつけるのみだ。

 

 城ケ崎さんに至っては、手が荒れるような仕事は全部しずかに任せるようになり、彼女が荒れた手で苦労して作業する様を、笑みを浮かべて見ていた。

 自分ひとりだけ、椅子に腰かけて寛ぎながら。

 

 

 

「ほら、腰を浮かせろよ。終わるまでじっとしてろ」

 

「綺麗だね、しずかちゃん……。ホントかわいいねぇ……。

 ほら、しずかちゃんも気持ちいいだろう?」

 

「俺は君の味方だよ、しずかちゃん。

 だから、な? ……いいだろう?」

 

 町の男達は、夜な夜な彼女の家を訪れては、己の欲求を満たした。

 しずかが無抵抗なのをいい事に、代わる代わる食い散らかしていった。

 

 男達のおぞましい行為に身体をゆすられる度に、彼女の首は忌まわしい首輪の中でこすれ、皮膚が擦りむけた。

 血が滲み、痛みに顔がこわばるが、それを男達が気にする事はなく、行為は続けられた。

 

 身体をもてあそばれる恥辱、屈辱。

 今のしずかはそれのみならず、首の痛みや、揺らされる度に耳元で鳴る不快なベルの音にも、耐えなければならなかった。

 

 ジャイアンや藤木のみならず、教え子だったはまじや、丸尾、無口な永沢。そして盲目であるハズのスネ夫でさえも。

 全てを諦めたように、力なくベッドに横たわる彼女を、好き勝手に使った。

 

 もうこの町の男でしずかを抱いていないのは、のび太一人になっている。

 

 

 

「あ、またチリンチリン鳴ってる!」

 

「あはは! しずかちゃんのエッチー! あははは!」

 

 そしてこの“性の訪問”は、もう暗黙の秘密では無かった。

 夜になり、しずかの家からベルの音が鳴ると、それを聞きつけた幼い子供たちが、笑いながら家の外へ出てきた。

 子供らはいつも伝道所に集まり、しずかのベルの音に合わせるようにして、何度も鐘を鳴らした。

 

 これは時報がわりに使われている、とても大きな鐘。その音は町中に響き渡る。

 子供達はまるで、「今しずかちゃんがエッチしてるよ!」と人々に知らせるように、楽しそうに鐘を鳴らすのだった。

 

 

 

「何してるの! 早く来なさいよ! また叩かれたいの!?」

 

「尻をこっちに向けろ。自分でスカートを捲れ」

 

「やーいやーい! しずかちゃんのグズー! きゃははは!」

 

 この鎖のおかげで、町の人々にとって、全てが容易になった。

 痛めつけ、凌辱し、悪意の対象に――――

 このヘンテコな首輪は、彼女を思うがままにする為に、非常に役立った。

 

 脱走防止や、抵抗の術を奪うばかりでなく、この“犬の首輪”という象徴的な物は、人々から罪悪感さえも奪った。

 彼女への凌辱も、もはや罪などではない。彼らに言わせれば、それはもう性行為とは呼べないからだ。

 

 これは、田舎にすむ人間が、牡牛を使って性処理をするのと同じ行為――――

 彼女は人ではなく、首輪をつけた“犬”だから。

 

 

 ………………………………

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いまやしずかは、本能で生きていた――――

 

生命の危機にある動物がおちいる、ある種のトランス状態

物を思わずとも機械的に身体が動き、もう苦痛すらも感じないのだ

 

その様はまるで、成す術なく病に支配されている患者のよう――――

 

 

 

 

 

 

「僕が間違っていた。

 僕のした事は、全て過ちだった……」

 

 その夜、衣服の乱れを直しながら帰宅する永沢と入れ替わりに、のび太がしずかの家を訪れた。

 

 彼にとって、町の男達がおこなう“性の訪問”は、心が引き裂かれる程に辛い物だった。

 だが町の人々を観察し、傍観者を気取る彼は、その行為を咎める事をしない。例えしずか自身に諫められたとはいえ、結局は何一つ行動しなかった。

 恋人が他の男達に好き勝手にされるのを、ただ自宅に引きこもり、黙認するだけ。

 なのに彼は、自分こそが悲劇の主人公であるかのように、哀れっぽくしずかに縋り付く。

 

「分からないんだ、どうすれば良いのか……。

 どうやっても、求めてる答えが出ない」

 

 のび太はベッドに腰かけ、力なく項垂れる。

 そんな彼に対し、まるで清らかな聖女のように力なく横たわるしずかが、優しくささやき掛ける。

 

「だいじょうぶ……今に答えが出るわ……。

 貴方ならきっと……」

 

 身体を動かせないほど疲労し、声すらまともに出せない。とても弱々しく、儚げな姿。

 そんな彼女を見て、今さらのようにのび太の胸が痛む。

 

「みんなを刺激しただけだ。狼の群れの中に、君を放り出してしまった。

 馬鹿な僕は、皆の善性を信じて……」

 

「私は大丈夫……気にしていないわ……。

 ……自分を責めないで、のび太さん……」

 

 消えそうなほど小さな、しずかの声。

 それを聞き、のび太は決意を固めたかのように、俯いていた顔を上げる。

 

「しずかちゃん、やろう! 今度は彼らを刺激する番だ!」

 

「?」

 

「つまり、彼らの良心を刺激するんだよ!

 これは集会で始まった事だ、だから集会で片を着けよう!

 みんなに話すんだ、しずかちゃん。彼らには聞く義務がある!」

 

 突然火が着いたように、のび太は熱っぽく語る。

 瞼を開いているのさえ辛い様子のしずかは、未だ彼の真意を掴めずに、弱々しく問いを投げる。

 

「何を……話すの?」

 

「全部さ! これまでのことを、全部ぶちまけるんだよ!

 ひとりひとり、みんなの真実を!」

 

「でも……そんなのみんな、きっと聞きたがらない……。

 自分の犯した悪事なんて……」

 

「だろうね。けどそれは、薬を飲みたがらない子供と一緒さ!

 最初は嫌がるし、怒るかもしれない。でも最後には自分の間違いに気付く!

 真実を語る君の言葉が、自分たちの為なんだって気付くよ!」

 

 今も力なく横たわるしずかは、もう町の人々には何の期待もしていないんだろう。のび太もそれをひしひしと感じている。

 けれどのび太は己の閃きを信じ、このアイディアに希望を見出そうと躍起になる。

 

「いいかい? 決して怒りや憎しみで話してはダメだよ?

 彼らの心に問いかけろ。良心に訴えかけるんだ。君なら出来るさ!

 ……そうすれば皆、自分たちの不当な行為を理解して、己を恥じる。

 君こそがホントの犠牲者なんだって、ようやく理解する!

 それが第一歩だ! そこから赦しが生まれるんだよ!」

 

 まるでフリスビーを取って来た犬のように、「捨てないで」と恋人に縋りつく女のように、しずかの手を取って訴える。

 これまで何一つしなかった、口先ばかりの彼が、今また楽観的で、底の浅い考えを語る。

 

 衰弱し、打ちのめされ、もう起き上がる事もままならない。そんな状態でしずかは、慈愛の込もった瞳で彼を見つめる。女神のように優しく。

 

 

「……がんばって考えたのね、のび太さん……。

 ありがとう……。きっとこの計画は、素晴らしいに違いないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………………………

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「――――うそ! ぜんぶ嘘ばっかり!!」

 

 最初に声を上げたのは、たまちゃんだった。

 

「なんて恥知らずなの! 私達への恩も忘れてっ……! 信じられないっ!」

 

 

 その翌日、町の人々は暗い顔で伝道所へと集まった。

 のび太の招集にみんな気乗りはしなかったが、もし行かなければ陰口を叩かれる。それを恐れて渋々集まって来た。

 

 無言で席に座る人々を前に、しずかはこれまでの事を全て告白した。

 怒りを込めず、だがそっけなくなり過ぎずに。彼女はその聡明さを持って、これ以上ないほど明快に、優しく語り掛けた。

 

 だがやがて彼女の話が終わっても、この場の者達は誰一人として口を開かず、目を逸らしたまま。何の手ごたえも無かった。

 分かり切っていた事ではあるが、それにしずかは小さくため息をついてから、傍に立つのび太に小さく詫びて、一人この場を退出していったのだった。

 

 しずかが居なくなった後、すぐにたまちゃんの怒声が響いた。

 夫の卑劣な行為と、馬鹿な息子のしでかした事を、皆に暴露されて酷く憤慨した。

 そんな事はもう、この場の誰もが知っているにも関わらず、羞恥と屈辱を掻き消そうとするように声を荒げた。

 

「同感、ですね。ワタクシの認識と違い過ぎますよ。

 この町の人々が、そんな事をするハズがないのだ」

 

 丸尾も憤っていた。自身が代表を務める町の人々を批難された事に。

 そして診療と称して彼女にしてきた行為を暴露され、面子を潰された事に。

 

 それを機に、この場の人々がやかましく騒ぎ始める。

 先ほどまで貝のように押し黙っていたのに、まるでスイッチでも入ったみたいに、好き勝手なことを言い始める。

 

 格下であるハズの、人間以下の犬が、生意気にも噛みついた――――

 彼らにとって怒る理由など、それだけで十分。とても許しがたい事だ。

 

「のび太くん、貴方の考えはどうなの?

 貴方は私達の味方? それともあの女の肩を持つの?! はっきりしなさいよ!!」

 

 あんなにも愛らしかった顔を醜く歪め、城ケ崎さんが食ってかかる。

 

「城ケ崎さんの言う通りだ。僕らはのび太に甘すぎたんだよ! 好きにやらせ過ぎた!」

 

 藤木も便乗する。普段は立場が弱く、発言さえ許されないというのに、ここぞとばかりに責め立てる。

 いつも気にかけてもらい、数少ない友人であったハズの、のび太に対して。

 

「ふぅ。いくら寛大な僕でも、もうあの女の擁護は出来ないね。

 オイのび太、お前がアイツをこの町に引き込んだんだろ?

 その結果、あの女は町中に不幸と憎しみをまき散らした! 責任取れよのび太!」

 

「そうよ! どうしてくれるのよ、のび太くん!」

 

「君が連れてきた女だろ! 追い出す方法を考えろよ! どうするんだ!」

 

「のび太くん、やってもらうわよ。嘘も批判も許さない――――」

 

 スネ夫、笹山さん、永沢が責め立て、城ケ崎さんが言い募る。

 

「…………!」

 

 のび太は打ちのめされた。この予想もしていなかった状況に、目の前が真っ暗になった。

 信じていた善性、自身の努力、これまで説いてきた道徳、その全てが幻のように崩れ、口も開けぬまま立ち尽くす。

 

 今や彼の自信は、跡形も無く消し飛んでいた。

 罪を反省するどころか、口汚くこちらを罵っている邪悪な人々を前に、自分の考えが甘かった事を認めざるを得なかった。

 今まで偉そうに指示してきたにも関わらず、彼女の為に何もしてやれない。そんな自分の無力さを、痛烈に突き付けられた。

 のび太は、いま自分がまっすぐ立っているのかさえ、分からなかった。

 

「なんて……なんて事なんだ……」

 

 罵声を浴びせ、こちらを睨みつける人々。そんな中でのび太が力なく呟く。哀れなほど虚ろな瞳で。

 

「みんな……自分の事しか考えてない。

 自分を守る事しか考えて無いじゃないか……。

 真実なんて……誰もが知っているのに……」

 

 誰もが彼女から奪い、傷つけた。

 それを知りながら、我が身かわいさに他人を攻撃する。道理に背き、真実を捻じ曲げる。

 それが、この町の人々。愛した人達の姿。

 

 

「残念だし、ショックだ。

 まさか友人たちが、こんな態度だなんて……。あまりにも心が狭い。

 僕は、失望した――――」

 

 

 

 

 

 

 

ヨロヨロとふらつきながら、のび太は退出する

 

肩を落とし、視界さえ定かではないままで、楡通りを歩く

 

外は、雪が降っていた

 

彼の絶望を表すように、愛した全てが白く染まっていた――――

 

 

 

 

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