しずかちゃんのえんげきぶ。~I'll do a play Dogville~ 作:はせがわ
――――あったまテッカ テーカ♪ さっえてピッカ ピーカ♪
突然この場に鳴り響いたお気楽なエンディングテーマに、キテレツ達は椅子からひっくり返る。
まさにドテー! っという感じで。
「いやぁ~観覧お疲れさまぁ! ありがとねぇ~キテレツ達たちぃ!」
そう言って、ゾロゾロと舞台に出てくる演者たち。
先ほどの凄惨さはどこへやら。あのグロテスクな傷はどこへやら。みんな元気に「いえーい♪」と手を振っている。
ドラえもんの道具ってすごい(驚愕)
「どうだったぁ~? あたし達の最初で最後の劇!! 楽しんでくれたかぁ~い?」
座長のまる子がこちらに駆けより、「あっはっは!」と朗らかに笑う。
ちなみに先ほどの血糊が、まだ服や顔にべったり付いていた。非常に怖い。
「コロちゃ~ん! ごめんね怖かったよね~!?
私たち、ホントはあんなのじゃないからね~?!」
こちらに駆けよってきた城ケ崎さん達は、コロ助を抱きしめて「~♪」とご満悦。きっとこれが彼女たちにとって、演劇をがんばったご褒美なのだろう。
コロちゃんかわいい、コロちゃんかわいいと、もう大はしゃぎである。
「あー……トンガリくん、大丈夫だった?
途中、退席しちゃってるのを見かけたけど……ごめんね?」
「うん、こちらこそごめんよ。……でもすぐに戻って来たからさ?
見て無かった部分の話も、しっかりみよちゃんに聞いたから」
まる子に謝られるが、トンガリも朗らかに返す。
先ほどまでの雰囲気とのギャップに目をひん剥きながらも、なんとか平静を装って対応しているみたいだ。トンガリもけっこう友情に厚いヤツである。
「よぉ~し! じゃあ片付けは明日にするとして、みんなでゴハン食べにいこっか!
うっちあげだぁーー♪ 野郎ども、出陣だよぉ~!!」
まる子の号令を受け、演劇部のみんなが「わーい!」と声を上げる。
その姿を、キテレツ達はなんとも言えない顔で見つめるのであった。
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『ありがとう、しずかちゃん。今日は楽しかった――――』
そう告げて、キテレツ達が駅に向かった後……。
現在、静香とのび太の二人は、手を繋いで帰り道を歩いていた。
『見事だったわ、しずかちゃん。
おんなじ女の子として、貴方を尊敬する』
『すげぇ面白かった! 特にラストなんか、もうめちゃめちゃスカッとしたぜ!!
嫌な奴らが全員、バタバタと死んでってよ!
あ、これそういう話じゃねぇかもしれねぇけどさ?
でもやっぱ、あれはスッキリするよ。レモン齧ったみたいによ!』
『ぼくは……怖かった……。
もしあの町にいたら、僕もきっと一緒になって、静香ちゃんをイジメてたハズだよ。
……もちろん酷いことだって思うし、ああはなりたくないって、そう思うよ?
でもきっと……彼らとおんなじ状況にいたら、誰もが“ああなりえる”んだと思う。
良い人も、悪い人も、僕も……あのドッグヴィルにいたら。
……それが分かって……とても怖かったんだ』
みよちゃん、ブタゴリラ、トンガリ。
彼らが言ってくれた言葉が、二人の頭に浮かぶ。
『ごめん、しずかちゃん……。
わがはい、
あのコロ助の言葉には、みんな揃って〈ドテーッ!》とひっくり返った。
あんなに頑張ったのに、一生懸命に演技したのに。……でもそれも良い思い出だ。
『でもやっぱり、“悪いことは良くない”ナリ。
わがはいは、人に優しくしたいし、なかよくしたいナリ。
悪いことして、自分ひとりが得をするんじゃなくて、みんなにも笑っててほしいナリ』
その後に言ってくれた感想が、嬉しかった。
シンプルだけど、すごくコロ助の心が籠った、よい感想だったと思う。
『僕は、静香ちゃんの心境の変化が、とても興味深かったよ。
彼女は最後、信念を捨てた。
大切にしてた人間性を、“無意味だ”って断じて投げ捨てたんだ。
その是非は……まだ僕には分からない。
同じ状況になったら、自分がどう決断するのかも、まだ分からない。
……でも、これからも考え続けていくよ、静香ちゃん』
握手を交わし、キテレツはそう言ってくれた。
誠実な彼らしい、まっすぐな感想だった。
「ねぇ、のび太さん?」
「ん?」
そんな今日の思い出を胸に歩いていると、静香がボソリとのび太に声を掛けた。
街灯の明りに照らされた静香の顔は、どこか暗い、物憂げな表情に見えた。
「本当はね? 私がトムの役をやるべきだった。……それが相応しいの。
貴方こそがグレースなのよ、のび太さん――――」
トムとは、今日のび太が演じた役。あの哲学者気取りの青年のこと。
そしてグレースとは、静香の役――――みんなに虐げられ、自らの信念を捨てた女性のことだ。
静香は女の子だし、どうやったってトムは無理だ。それは分かっているハズ。
だが彼女の言葉のニュアンスに、どこか不可解な物を感じ、のび太は少しキョトンとしながら、次の言葉を待つ。
「ねぇ、のび太さんは“私達を殺してしまおう”と思った事は、ないの?
小学校の時……私に憎しみは抱かなかった?」
その言葉に、のび太の足が止まる。
こちらを見れず、俯いている静香の方を、黙って見つめる。
「ドラちゃんの道具があれば、きっとどんな風にでも出来た。
あんな軽い仕返しなんかじゃない……。
殺してどこかに捨てたり、私を産まれなくさせたり、二度と歯向かえない身体にしたり。
きっと貴方は、好きなように出来た……復讐する事が出来た」
「罪にも問われず、誰にもバレずにやる事だって……きっと出来たでしょう?
あの時は子供だったって言うなら、
「貴方を虐げた、たけしさん達を。
そして、それを黙って見ていた私を――――グレースのように」
暫く、時が止まった気がした。
静香は今も俯き、ただ立ち尽くしている。
まるで、罪の裁きを待つ、罪人のように。
「――――思わない。友達だもの」
だが、のび太が、
「僕とあの女の子は違うよ。
僕はあんなに頭が良くないし、カッコよくもないもの。
それにしずかちゃん達だって、あの人達とは違う」
いつものように、あっけらかんとして、言い放った。
「でも……のび太さん……」
「ん、信じられない? なんでさ?」
またキョトンとしつつ、不安げな表情をする静香を見つめる。
彼はどこまでも飄々と、けどちゃんと心を込めて、自らの気持ちを語る。
「全然ちがうよ! 似ても似つかない!
特にジャイアンなんて、もし僕が誰かに傷つけられてたら、きっと物凄く怒ると思うよ?
自分の理屈でやるならともかく、誰かに便乗して嬲ったりしない」
「彼なら助けるよ。『ふざけるな!』って言って怒る。
俺はガキ大将で、俺こそがこいつのボスなんだって。
どんな強いヤツが相手でも、かかっていく。ジャイアンは自分の友達を守る――――
これは昔から、変わらないんだ」
ニシシと笑って、ニッコリと微笑みかける。
大好きな少年の顔を。
世界で一番素敵な男の子の顔を、静香は目に焼き付ける――――
「何より僕には、ドラえもんがいてくれた。
彼がそばにいて、ずっと支えてくれてるのに、道を踏み外すハズがない」
「少しくらい誰かに意地悪されたって、それで文句を言ってたら、バチが当たるよ。
それに、今は君もね? 静香ちゃん」
――End――