しずかちゃんのえんげきぶ。~I'll do a play Dogville~ 作:はせがわ
のび太との語らいから、数週間が経過した。
しずかはあれからも懸命に働いているが、町の人々の態度は軟化するどころか、日に日に辛辣さを増すばかり。
ほんの数分の遅刻や、疲労からのミスが出る度に、人々は彼女を激しく叱咤した。
彼女が反省し、真心を込めて謝罪をするほど、それに付け込むかのようにして、彼女への扱いはどんどん悪くなっていく。
「ちょっとしずかちゃん! いつまで待たせるのよ!」
「こんな事も出来ないの? 貴方やる気はある? まったく使えないったら」
男達が見ていない場所では、女性たちは特に辛辣にあたった。失敗を繰り返す彼女を棘のある言葉で罵倒した。
男達にちやほやされている彼女への嫉妬、悔しさ、劣等感がそうさせた。
まるでしずかを叩く事によって、彼女を弱者にする事によって、自尊心を保っているかのように。
そして辛い立場にあるしずかへと、男達は皆、優し気な言葉をかけた。
さも自分は味方だと言うように、同情を示しながら隣に座り、身体に触れようとした。
しずかが控えめに諫めようと、構わず偶然を装って手を伸ばし、そのまま放そうとはしない。
彼女の立場の弱さ、そして抵抗が出来ない事を、もう理解していたから。
「きゃあ! もう! のび太さんのえっち!」
「ちょ……! うわごめんよしずかちゃ……ぐえっ?!」
まぁのび太に関して言えば、全くの偶然からしずかのお風呂を覗いてしまったり、着替え中にドアを開けてしまったりする程度。
風呂桶だの本だのを投げつけられ、その都度しっかりとお仕置きされているので、彼の場合は例外と言えるが。
とにかく、あの『しずかちゃんありがとう』というスピーチから数か月としない内に、彼女を取り巻く環境は、まるで坂道を転げ落ちるように変化していった。
そして、しずかに対する大人達の態度は、当然のように子供達にも伝わる。
まるで鏡映しのように――――
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「ブー太郎くん?! 何をしているの、おやめなさい!」
ある日、たまちゃんの子供達へ勉強を教えに来ていたしずかは、思わず悲鳴を上げた。
ブー太郎が教材であるタテ笛を振り回し、そこら中の家具を叩き始めたのだ。
「それはSHINAIじゃないわ、バンブーブレードじゃないの!
振り回してはいけないわ!」
ところかまわず叩き、いま危うくアキレス坊やのいるベビーベッドに当たりそうになった。あわててしずかがタテ笛を取り上げるも、ブー太郎は悪びれない顔で他所へと駆けていく。
「ちょっと、ブー太郎くん?! なにをしているの!」
チョークではなく、消す事の出来ないクレヨンを使い、ブー太郎が知っている限りの卑猥な言葉を黒板に書きこんでいく。
算数の数式を上書きするように、いかにも幼児が好みそうな、単純で汚い言葉がたくさん黒板に並ぶ。
「いたずらをしてはダメ! 今は算数の時間でしょう? 真面目にやらないと……」
「算数なんかより、こういうの覚えた方が役に立つんだブー!
エッチな言葉を教えてよ先生! たくさん知ってるんだろう?」
しずかは真剣に言い聞かせるが、ブー太郎はまるで聞く耳を持たず、平然とうそぶく。
周りに座る女の子達からのクスクスという忍び笑いが響く中、しずかはなんとか毅然とした態度を貫くが、内心は酷く混乱していた。
「なぜこんな事を? せっかく割り算も覚えたのに。いつも頑張っていたのに……」
「ほら先生! そんなのどうだって良いんだブー!
大人が使う言葉を教えてよ! Pussyとかの!」
目の前が真っ白になり、激高しそうになる。子供達の一際大きな笑い声がこの場を包む。
「みんな、今日はおしまいにしましょう。
……ブー太郎くんは残って頂戴。話があるの」
だがしずかは冷静に自分を抑え込み、女の子たちに他所の部屋に行っているように指示を出した。ブー太郎をひとり残して。
「いったいどうしたの? なぜあんな真似を……」
「ぼくは悪い子なんだブー!
父さんもそう言ってたでしょ? “いかれてる”ってさ」
身を屈め、彼とまっすぐ視線を合わせて、真剣に問いかける。
だがブー太郎はふてぶてしい態度を崩さず、楽しそうに笑うばかり。
今日の女の子たちの態度、そして彼の態度は、明らかに最近の大人達を見ての物。子供達はしずかを弱者と見做し、馬鹿にしているのだ。
「いいえ、私はそうは思わない。
ブー太郎くんは、いつもしっかりと家のお手伝いをしてる、とても良い子よ。
きっと何か理由があるんでしょう?」
「……」
その理由は察していた。しずかは子供たち皆と平等に接する為に、ブー太郎を膝に乗せる事を拒んでいたから。
ひとりを贔屓すれば、必ずそれは歪みとなって現れる。だから授業中は、ブー太郎を甘やかすような真似をしていない。
彼がそれを不満に思っている事は、見ていて明らかに思えた。
「みんながいる時はダメ。膝に乗せてあげられないの。
私だってブー太郎くんの事は好きよ? でもね……?」
しずかは包み込むように、優しくブー太郎の手を握る。だがそれに納得してくれる様子は無かった。
彼はまだ子供、しかし“男”だった。まだ6歳の坊やはよくない色を瞳に宿し、試すような目でしずかを見つめている。
「嘘だブー。ぼくの事なんか、嫌いだって思ってるんでしょ?」
「そんな事ないわ。ブー太郎くんも、ほかの子達も、私はみんな大好きよ」
「でも優しくしてくれない。膝にのせてくれない。
なんでか分かるよ? ぼくが悪戯っ子だからだ」
「そんな事……」
どんな子だって癇癪を起すし、叱らなければならない時もある。でもそれは子供にとって「気持ちを伝える手段」でもあるのだ。しずかは決してそれをないがしろにはしないし、いつだって愛情を持って向き合ってきた。嫌いになどなるハズがない。
「悪い子なんだブー。いつも赤ん坊のアキレスに意地悪してる。
だってコイツはやり返せないから。誰かに言いつけたりも出来ない」
ブー太郎がおもむろにベビーベッドに近寄り、タテ笛で叩く。
小さな寝床が乱暴に揺らされ、ガンガンと耳障りな音が鳴る。途端けたたましく赤ん坊が泣き始めた。
「駄目ッ!! 何をしてるの! ベッドから離れなさいッ!」
しずかが血相を変えて駆け寄り、即座にブー太郎を取り押さえる。
いま彼が何をしたのか、いったい何を考えているのか、微塵も理解が出来ない。
「これって悪い事でしょう? ぼくは悪い子だブー」
「ええ、そうよ。悪い事よ……。なんでこんな……」
「じゃあ罰が必要だよね。ぼくのお尻を叩いていいよ――――」
ニヤニヤと、まるで自分に理があるかのように、平然と。
ブー太郎が猫を被るのを止め、ついに本性を現す。
「叩く……? なぜ?
私はぶったりなんてしない。貴方のお母さんと同じで、体罰には反対なの」
「うん、きっと母さんが知ったら怒るだろうね。うちの息子をぶったって」
うろたえるばかりの、しずか。だがブー太郎は狡猾に言い募る。
「しずかちゃんは、母さんを味方にしておきたいんだろ?
もし敵に回したら大変だよね?」
「……」
「ぶってくれないんなら、母さんが帰って来たときに言っちゃおうかな?
しずかちゃんにぶたれたブーって」
上目遣いの、まるで猫のような瞳。醜悪さを感じる声色。
「味方だなんて……。町の人達が私を嫌うのなら、それは仕方のない事なの。
貴方をぶったりは、出来ないのよ……」
「でも罰はいるだろう? ぶってくれなきゃ、あんたのこと尊敬できないブー」
「……」
「母さんはぼくを信じるブー。きっとものすごく怒って、しずかちゃんを追い出すブー。
でもぶってくれたら、何も言わないよ?」
邪悪――――子供の純粋な悪意。
しずかは口を開く事も出来ず、目を見開いてその場に佇む。
今まで見てきた物、信じてきた物、その全てがガラガラと崩れ落ちる音を聞いた。
「あっ!! ダメ! やめなさいッ!!」
「ん? コレなかなかひっくり返らないね? 頑丈だブー」
その姿に業を煮やしたか、ブー太郎が激しくベビーベッドを揺さぶる。またアキレス坊やが、助けを求めるように泣き出した。
しずかは大慌てでブー太郎の腕を掴むが、悪びれずにとぼけた事を言う彼の様子に、めまいを憶える。
今まで真心を持って接してきた事、愛情を持って語り掛けてきた事、それを全て裏切られ、心が悲鳴を上げた。
「……分かったわ! 貴方がぶたれたいのなら、望み通りにしてあげる!
こっちに来なさいブー太郎くんッ!」
しずかはブー太郎の手を掴んだまま、近くの椅子に座る。そして彼を膝の上にうつ伏せにさせた。
「……ッ! ……ッ!」
目をギュッと瞑り、2回ほど尻を叩く。
目を閉じたのは、子供が叩かれている所など見たくないから。そしてあまりの情けなさに、涙が零れそうだから。
「ぜんぜん痛くないよ? 痛くしないと罰にならないブー」
「……ッ!!」
――――なんて醜悪! なんて気持ち悪い!
もう視界が真っ白のまま、力強く腕を振りかぶる。
「ぶっ、ブーブー! ブーブー♪」
恍惚とした表情で、ブー太郎が鳴く。
その声、その体温、手に伝わる感触……全てが気持ち悪い! 吐き気がする!
「ブーブー♪ ブー♪ ……ってあれ、もうおしまい? もっと叩いてよしずかちゃん」
「もういいっ……! もう充分でしょう!? はやくどいてちょうだいッ!」
ついに零れ落ちた涙を拭いながら、しずかは椅子から立ち上がる。
もう我慢できないと扉の方に駆け出すが、その背中に彼が、あっけらかんと声を掛ける。
「ねぇ、もう罰はないの?
あ、ズボンを脱いで隅っこに立ってようか? おちんちんを出して」
絶句した。もう何を言っても無駄なのだ、この子には。
心を通い合わせたと思っていたのは、しずか一人だった。彼はただただ、己の欲望と快楽だけを見ていた。
しずかに対して親愛などなく、彼女の心など、どうでも良い事だったのだ。
――――黙って! もう好きにして頂戴!
思わずそんなヒステリックな声が、口をついて出ようとする。だが必死に口元を押え、それを押し留める。
惨めだった。
こんな小さな子供にすら軽んじられ、足元を見られ、正してやる事すら出来ない。
そんな己の無力さを想い、また涙が零れた。
それと同じく、しずかにも抵抗の術は無かった
男達の欲望、女達の嫉妬、子供の悪意
その全てを、甘んじて受け入れる他なかった
「餌を与えれば、腹が破れるまで貪る貪欲さ。獣と同じ」
いつかの夜に聴いた言葉は、まさに証明された
まるで“エデンの園のリンゴ”のように
しずかは、のび太という心もとない枝に、かろうじてぶら下がっている状態
もう果汁など残っていない、傷ついた果実
それを町の人々は、いつも執拗にこづき回し、愉悦の表情を浮かべた―――
「……あ! ねぇ父さんだよ! 帰ってきたブー!」
しずかが顔を覆って泣き崩れる中、ブー太郎が窓の外を見た。
「なんでだろ? まだお外は明るいブー。
お仕事はもういいのかな?」
この時間、ジャイアンは果樹園にいるハズだ。仕事熱心な彼がこんな早いうちに戻って来ることなど、今まで一度もありはしなかった。
しずかは顔を上げ、涙に濡れた瞳のまま、ドアが開く音を聞く。
やがてこの場に、どこか険しい表情をし、瞳に暗い光を宿すジャイアンが現れた。
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「おい、いま警察が来てるぞ」
ブー太郎を部屋から追い出し、ジャイアンがしずかと向かい合う。
「少し前、キャニオンロードから、車がこっちに向かってるのを見かけてな。
土橋には、俺がみんなに伝えるから、鐘は必要ないぞって言ったんだが……」
ジャイアンは目線を合わせず、何でもないような口調。
「けどよ?
悪ぃなしずかちゃん。連中はもう表にいるよ」
しずかは驚愕し、一瞬言葉を失う。
彼の言葉を理解するまでに、数秒の時間を要した。
「忘れて……た?
たけしさん、貴方なにを……」
「おう、果樹園が忙しくてよ。仕方ねえだろうが、忘れちまうくらい」
しずかは窓に駆け寄り、外の様子をうかがう。
いま廃坑の前に2台の車が停まっていて、のび太が関口という保安官や、数人の見慣れない男達と話しているのが見えた。
「2台目のヤツは、FBIらしいぜ? ヤツラも本腰だな」
「……っ」
あまりのショックに、しずかは立ちすくむ。だがジャイアンは悪びれもせず、淡々と説明するばかり。まるで他人事のように。
「さっき俺も、色々と訊かれたぜ?
ここ半年で何か見なかったか、どっかに野宿の跡はなかったか、とかよ。
ヤツラ必死だぜ。何がなんでもお前を見つけようって、躍起になってやがる。
そこまですんのかって感じだよ」
「……」
改めて眼前に示された脅威。いつもとは違う、緊迫感に包まれた町の空気。
しずかの心は不安や恐怖に支配され、ただ黙って窓の外を見つめるだけ。
……そんな彼女に、ジャイアンが語り掛ける。
「なぁお前――――
息が止まる。
ただでさえ哀れな程に怯え切っているしずかは、ゆっくりと彼の方を向き、弱々しく否定する。
「私は何も。……何もしていないわ」
「そりゃあ、お前はそう言うだろうな。けど連中はそうじゃねぇ。
やれ悪党だの、質の悪い女だの、いろいろ言ってたぜ? 信用できるもんかよ」
まっすぐ、品定めするように睨みつけられ、しずかはたじろぐ。
彼の放った“信用できない”という言葉が、頭の中で何度もリフレインする。
たしかに最近、町の人々との関係は悪かった。だが彼とは以前、しっかり心を通じ合わせたハズだ。なのに何故?
「だから俺はしゃべったよ。心当たりがない事もない、ってな」
「……」
「最近、森で拾い物をしてな?
これはのび太が忘れてった古い帽子だ。そんな事は俺も分かってる。……けどよ?」
ジャイアンが懐から、見せつけるようにして帽子を取り出す。だが次の瞬間、しずかの首元に巻かれたスカーフに手を伸ばし、すっと抜き取った。
「もし仮に、このスカーフを見つけたって連中に言ったら……いったいどうなるだろうな?」
今の首元の感覚で、しずかは我に返る。そしてようやく現状を理解する。
――――脅すつもりだ。この男は私を脅迫している!
ジャイアンは汚れた手でスカーフを握り、その感触を確かめるようにして、告げる。
「高級品だぜ。それにお前のイニシャルまで入ってるときた。
もしこれを渡せば、連中はどう思うだろうな?」
それは、しずかが町に来た時から身に着けていた物。作業の時はまる子などのお下がりの服を借りていたが、これだけは彼女のトレードマークとして、いつも胸元につけている。
こんな田舎町の人間が持つハズのない、高級な品物だ。
「連中には、すぐ見つけて持ってくる、と言ってある。
ちょっと森に行って拾ってくるから、暫くしたら家の方に来てくれ、ってな。
あと10分か15分もしたら、連中ここに来るぞ」
だから“逃げても無駄だ”と、ジャイアンが告げた。
「なぜ……? なぜこんな事をするの、たけしさん……。
私たちは友人だった。いつも協力して作業を……」
「ちなみに、叫んでも無駄だぜ?
連中は遠くにいるし、誰も来やしねぇよ」
「なぜ逃げるの……? なぜ私が叫ぶの……?! たけしさん……!」
じりじりと、ジャイアンが距離を詰める。
顔を突き付け、部屋の隅に追い詰めるようにして、しずかに近づいていく。
彼の目は血走り、呼吸はどんどん荒くなる。
やがてしずかは退路を無くし、壁に背中を押し付けた。
「なんでここに来た? お前はこの町に相応しくねぇ。
こんなのがポツンと町にいたら、誰だって心を乱される。欲情しちまうさ。
なぁ、なんで来たんだよ?
こんなトコにいる、お前が悪いだろうが――――」
そう叫ぶなり、しずかの腰を掴んで抱き寄せる。
彼女は身をよじるが、ジャイアンは決して放そうとせず、耳元に顔を近づけていく。
「やっ! ……たけしさん?! なにをっ……!」
「動くな、俺に敬意を払え」
「尊敬してるわ! 私いつもっ……」
「――――敬意を払うんだッ!! あいつじゃなく、この俺にッ!!」
ジャイアンがスカートの中に手を入れる。そして大きくざらついた指で、彼女が自分でも触れた事のない部分を、乱暴にまさぐる。
しずかの顔に、臭くて荒い息がかかる。だが彼女は抵抗らしい抵抗も出来ず、身を硬くするだけ。
興奮状態にあるジャイアンを怒らせてしまう事が怖かった。そして以前彼と交わした“もう逃げたりしない”という約束が、どうしても頭をチラついたから。
「い、いけないわ……! ねっ、たけしさん? やめましょう……?」
彼女は健気に誓いを守り、出来るだけ優しい声で、弱々しく諫める。
しかしそれで彼が止まる事は無い。むしろそのやんわりとした拒絶は男心をそそり、征服欲に火を着ける物だった。首元に顔を押し付けながら、彼は荒い息を吐き、彼女をまさぐり続ける。
持ち上げられるようにグッと指が喰い込み、思わずしずかは爪先立ちになる。
「林檎は俺の思い通りになる。お前もそうさ。
……へっ、悪いなのび太。“お前のものは俺のもの”ってな」
身体の大きな彼にとって、しずかを好きにする事など、林檎をもぐように簡単だ。
ジャイアンは彼女の身体中に手を這わせ、強引に唇を押し付ける。そして彼女がくぐもった声で叫ぶ中、乱暴にブラウスを引きちぎり、床に押し付ける。
「お願いッ、やめてッ! やめてちょうだい、たけしさんっ……!」
上の下着を剥ぎ取られ、胸元に顔を埋められる。耐え難い嫌悪感と、痛いだけの不快感。
その行為の最中も、ジャイアンは彼女の身体をまさぐり、ついには下半身の下着に手を伸ばす。
上にのしかかられ、身動きも出来ないしずかは、必死に彼に語り掛け、懇願する。
「おねがい、たけしさん……! やめてっ……!」
「ねぇ、私をみて……? 話をしましょう?」
「私たち友達でしょう? 仲間でしょう? 家族と同じだわ……!」
「おねがい、やめてちょうだい。おねがいだから……! たっ……」
だが、それが叶う事は無い。
ジャイアンはズボンをずり下ろすと、しずかの腰を力づくで引き寄せ、一気に深く突き上げた。
「 ――――ッ!?!? 」
痛みに視界が白く染まる。身体がビクンと痙攣し、大きく仰け反る。
口元を押えられたまま、くぐもった悲鳴を上げる。
「……っ!! ……ッッ!! ……っ!?」
どれだけ逃げ出そうともがいても、身体を動かす事すら出来ない。
ジャイアンの体重に押し付けられ、何度も腰を打ち付けられていく。
「……っ!! ……! ……………………」
やがてしずかの声は、諦めとともにだんだんと小さくなり、途絶えていく。
今は力なく横たわり、虚ろな目で天井を見つめるばかり。
そんな彼女の身体を、ジャイアンが何度も何度も揺らす。
抵抗しようがしまいが、おかまいなしに突き上げていく。
「…………」
激しく揺れる視界の中、しずかは口を強く閉じ、込み上げる吐き気と戦った。
屈辱、嫌悪、悲しみ――――
そんな全てから心を閉ざし、なにも考えないようにしながら、嵐が過ぎ去るのを待った。
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獣のような声を出して果てた後、ジャイアンはゆっくりと腰を引き、ズボンを戻した。
「……」
ひとり身支度を整えて立ち上がり、震えながら床に横たわるしずかをじっと見降ろし、持っていたスカーフを投げる。
まるで「約束だ」と、これはもう用済みとばかりに、乞食に与えるようにして。
天井を見つめ、言葉なく身を震わせている彼女をこの場に残し、ジャイアンは何事も無かったように帽子を被って、ひとり家から出ていく。
「やぁジャイアン、しずかちゃんを見たかい?」
外に出てすぐ、のび太が通りかかる。彼は気さくに右手を上げてジャイアンに歩み寄る。
「いま俺の家にいる。入れよ」
「ん、仕事中かい? なんでこんな時に、君の家に?」
「もう用は済んださ。いけよのび太」
そうぶっきらぼうに言い捨て、ジャイアンは立ち去っていった。
警察のいる方へ歩いて行く彼を、のび太は訝し気に見送る。だがジャイアンの未だ荒い呼吸と、高揚した赤い顔、そして身体から発散されるオスの臭気を感じ取り、何かがあった事を悟った。
のび太は家の前まで行くが、ドアの前で立ち止まり、開けるのを躊躇った。
先ほどのジャイアンの様子、そしてかすかに彼から感じた、しずかの甘い匂い……。それを思い、ドアに手を伸ばす事が出来ない。
もしここを開ければ、良くない物を見てしまうという予感。
これまで自分が積み重ねてきた事、そして町の人々に対する想いが、全部崩れ落ちてしまうという確信めいた思いに、立ちすくんだ。
結局のび太は、家に入る事なく、急ぎ足でその場を立ち去る。
その中ではしずかが、屈辱と悲しみにまみれながら、身体を丸めていたのに。
自分を汚した男の家で、誰の助けも無いまま、身を震わせていたのに――――
皆は口裏を合わせ、硬く口をつぐんた
ジャイアンも、森で見たのは男物の帽子だった、と答えた
今回も、皆はしずかを守ったのだ
友ではなく、利用価値のある“物”として――――