竈門ベーカリーとは、隣町にあるパン屋の名前だ。
家族で経営しているらしく、パンの味も店員さんの人柄もすごくいいと評判である。両親を失ってからトレーニングばかりでろくなものを食べていなかったので自分の体がこれを食えと脳に信号を送っている。
特に何を考えることなくぼーっとしながら竈門ベーカリーに到着。店から随分離れたところからパンのいい匂いがしていたのでもう空腹で倒れそうだ。
「いらっしゃいませー」
店内には一人の女性と奥でパンを焼いている痩せ型の男性。
(なるほど、夫婦で経営しているのか、それにしてもうまそうなものばかり・・・) フラッ
「だ、大丈夫ですか!?」
女性が大急ぎで駆け寄ってくる。
「だ、大丈夫です・・・。ちょっと立ち眩みがしただけです。」
女性の声を聞いて男性も厨房から出てくる。
「今の声はなんだ!?大丈夫かい!?」
「あぁ、あなた・・・この人が倒れそうになって、」
男性が俺の肩を抱きよせながら言う。
「君・・・何日食べていない?やせ細っているではないか・・・とりあえずうちにあがって待っていなさい。」
正直大丈夫だと見栄を張る余裕もないのであがらせてもらう。
「もう2日ろくなもの食べていなくて・・・すみません、お言葉に甘えさせてもらいます・・・。」
パン屋という店の内装とは裏腹に家の中はとても和風だった。
客間のような場所に連れて行ってもらい、そこで待っていると男性にお盆いっぱいのパンをもらった。
「あの・・・もう親がいなくてそこまでお金がないです。」
「お金なんて取る気は元からなかったよ。2日も食べていないんだ、何か事情があるのはわかるよ。」
うちの親はどちらも優しい人だった。
小さいころから裕福な暮らしではなかったし父親は朝早くから夜遅くまで仕事なのであまりしゃべれる機会はなかったが、その分休日になったら存分に構ってくれたという。
両親を亡くしなにか心の大事なものが壊れてしまった感覚だった、竈門夫婦にもらった優しさは期間でいえばたった数日だが、楓にとっては久しく感じたことのないやさしさだった。
楓は涙を流しながら今までのことを吐露した。
両親のこと、鬼のこと、ヒーローに憎しみともいえる感情を持ってしまっていること。
奥さんのほうはお客さんが来てしまったので行ってしまったが、旦那さんのほうは何も言わずに話を聞いてくれた。
「ゆっくりしていきなさい」と旦那さんを部屋を後にし、楓はゆっくりとパンを食べ終わった。
楓は今までの疲労もあり、倒れるように意識を手放した。