と、いうか凪編はお色気たっぷりでいきます。
凪という少女はあまり家族との関係性が良くなかった。
身体的に直接傷つけるような事こそされていないものの、半ば
事実、凪の母親は彼女の前で「貴女が車に轢かれれば良かったのに」と言ったのだから。
それを聞いて奈々は居ても立っても居られず、凪を引き取る事にしたのである。
「――――それが凪ちゃんを引き取った理由よ」
「そ、そうなんだ」
母親の説明を聞いて綱吉は内心少し引きながらも、凪を引き取った理由に納得する。
沢田奈々という人間はかなりの天然だ。感性も普通の人からずれており、胡散臭く怪しいあの父親に惚れるという正直ちょっとどうかと思う事が多々ある。だが、身内贔屓になるかもしれないが、息子である自分の目で見てもとても優しい人間だ。
そんな母親だからこそ、凪の両親の言動に我慢できなかったのだろう。
「でも大丈夫なの? いきなり引き取るなんて…………向こうが何て言うか」
「大丈夫よ。向こうは何も言ってこなかったわ。むしろ良かったと安堵してたもの」
断言する母親の言葉に綱吉は何にも言えなくなる。
親元から引き離すのはどうかと思っていた。だがその親があれではどう説得しても無意味だろう。
「そういうわけだから、凪ちゃんのことよろしくねツっ君」
そう言って料理を作り始めた母親の後ろ姿を見て、綱吉は溜め息をつく。
「…………分かったよ」
綱吉は奈々に一言告げ、台所を後にする。
「よろしくって…………オレにどうしろって言うんだよ」
別に彼女を、凪を助けた事を後悔しているわけではない。
ただ家族として迎え入れると言われれば戸惑わずにはいられなかった。
自分は一人っ子だ。だから弟や妹というものを知らないし、そもそも相手は同い年の異性だ。それを突然今日から妹になると言われれば誰だって戸惑うに決まっている。
と、いうか戸惑わない者は居ないだろう。
「…………ユニに相談してみるか」
こういう時は同性の方が接しやすいだろう。そう結論付けた綱吉はユニが居るリビングに移動する。
リビングではユニがソファーの上に座り、本に視線を落としている。
一体どんな本を読んでいるのだろうか。気になった綱吉はユニの背後から覗き込むように本のページに視線を向ける。
その本は絵というものがなく、日本語ではない言語でビッシリと埋まっていた。
「それって、イタリアの本?」
何気無くそう呟くとユニの身体がビクンッと一瞬震えた。
そしてゆっくりと振り返り、此方に視線を向ける。
「沢田さん、驚かさないでください」
「えっと、ごめんなさい…………」
どうやら自分は彼女を驚かせてしまったらしい。
非難がましい視線を向けるユニに綱吉は申し訳ない気持ちになる。
「と、ところで何の本を読んでたの?」
「この本ですか? この本は武器やそれにあった戦術等が記されたものです」
「思ってたより物騒なものだった!?」
優しいユニが読んでいたとは思えない本の内容に綱吉は思わず声を上げてしまう。
するとユニは憂いを帯びた表情を浮かべた。
「沢田さんばかりに負担を押し付けるわけにはいかないですからね。私も、自分で自分の身を守る方法を考えていたんです」
「ユニ…………」
「ただでさえ人手が足りない今、家庭教師である私が沢田さんに守って貰ってばっかりじゃダメですから」
その言葉を聞いて思わず泣きそうになる。
どうやら彼女はその事をずっと気にしていたらしい。
「その気持ちだけでも嬉しいよ」
だが、嬉しいからといって素直に歓迎出来る訳では無かった。
綱吉としてはユニに戦って貰いたくない。自分と同じくマフィアの血を引いていて、それから逃れる事が出来なかったとしても――――あのような辛い事を彼女に味合わせたくは無い。
人を傷付ける事は嫌な事で、人を殺す事は苦しい事なのだから。
「それはそうと、凪は何処に?」
「凪さんは今お風呂に入ってもらっています。雨でびっしょりでしたので」
「そっか」
あんな土砂降りの中に居たのだ、身体だって冷えているだろうし長くなるに違いない。
話す機会があるとするならば今の内だろう。
「ユニ、凪の事なんだけど…………お願いして良いかな?」
「分かりました。私も沢田さんと奈々さんの会話をここから聞いていましたので」
「本当に助かるよ。ありがとう」
一先ずはこれで良いだろう。
綱吉は安堵の息を漏らし、ユニの隣に座る。
「何か…………疲れたよ…………」
「左腕に罅が入りましたからね」
「それとは違うよ。まぁ、腕も痛いからそれの疲れも無い訳じゃ無いんだろうけど」
そんな風にユニと二人で話し合っていると、お風呂場の方からぺたぺたと足音が鳴った。
どうやらお風呂から上がったらしい。
「凪さん、湯加減はどうでし――――」
ユニはお風呂から上がった凪の方を向いて話しかけようとする。
だが視線を向けた瞬間、ユニの表情が笑顔のまま凍り付いた。
「えっ、ユニ? 何かあったの?」
突然ユニが固まった事に綱吉は訝しみ、視線をお風呂から上がったばかりであろう凪の方に向ける。
そこには凪が一糸纏わぬ姿で立っていた。
ついさっきまでお風呂に浸かってた華奢な身体は濡れており、綱吉は彼女の産まれたままの姿を直視してしまった。
「ぐはっ!!?」
「沢田さん!!?」
あまりの刺激に耐え切れず、綱吉は鼻から血を出し、仰向けに倒れる。
以前のユニと同様に同い年の、それもユニと比べてスタイルの良い少女の裸体は中学生男子にはあまりにも強い刺激だった。
「さ、沢田さん! 大丈夫ですか沢田さん!! これ、本当に大丈夫なんですか!? 鼻血とは思えないぐらいに出てますよ!! 顔が血だらけですよ!! 沢田さん!!?」
薄れ行く意識の中、心配するユニの声が耳に届くものの返事を返す事が出来ず、綱吉はそのまま鼻血の海に沈んだ。
+++
「凪さん。男の人が居る前で裸で彷徨いてはいけません!」
「えっと…………ごめんなさい」
意識を取り戻した綱吉の前でユニが注意し、凪が綱吉に向かって謝罪をした。
「い、いや、むしろオレの方こそ…………その、見ちゃってごめんなさい…………」
今はパジャマ、サイズの関係から綱吉のパジャマを着ているが、さっきの光景が脳裏に浮かんでしまう。
そのせいで綱吉は凪の顔を直視する事が出来ずに顔を真っ赤にして目を背けた。
以前にもアクシデントからユニの裸を見た事があるが、ユニと凪は全く違う。
どちらも可愛いのは違いないが、凪はユニと違ってスタイルが良い。
同い年であるにも関わらず、妙な色気があった。
「沢田さん。今失礼な事を考えませんでした?」
「考えてない。考えてないから」
ユニの睨み付けるような、針のような鋭い視線からも綱吉は顔を晒す。
その結果、キョトンとしている凪と視線があった。
「あ、あぅあぅ……………」
「どうしたの? そんなに顔を真っ赤にして」
「いや、その、恥ずかしくて顔を合わせられなくて…………凪は怒ってないの?」
「どうして? 裸を見られたくらいで?」
「…………えっ?」
凪の言葉に綱吉とユニは思わず凍り付く。
とてもではないがこの年頃の女の子が言って良い言葉ではない。
「…………ユニ、任せた」
「何処に行くつもりですか沢田さん。寝るにはまだ早いですよ」
取り敢えずユニに全てを任せよう。
そう判断した綱吉はこの場から逃げ出そうとするも、服の端を掴まれて失敗する。
「いや、さっきから腕が痛くて痛くてしょうがないんだよ。早く寝て治さなくちゃ」
「左腕の骨に罅が入っただけじゃないですか」
「罅は骨折って言ったのユニだよね?」
「骨折よりも酷い傷を負った事あるから大丈夫ですよ」
「あの時は死ぬかもしれなかったからね!!」
何とかしてこの場から逃げ出そうとする綱吉、それを引き留めようとするユニ。
そんな二人の掛け合いを見て凪は困ったような表情を浮かべる。
「えっと、二人ともどうしたの?」
「なんでもないですよ。そうですよね、沢田さん」
「えっ、あ、うん…………そうだね」
ユニの同意を促すような発言に綱吉は力無く頷く。
正直な事を言えば今すぐにでも逃げ出したい。と、いうより上手く説得できる自信が無い。
以前にも似たようなトラブルが生じた事もあったが今回は違う。ユニの時は裸を見られて恥ずかしいという羞恥心があった。だが凪にはそれが無い。裸を見られても気にしていないのだ。
下手な事を言えばセクハラ発言になりかねない。
どうやって説得すれば良いのか、綱吉には分からなかった。
「仕方がありませんね」
一人頭を悩ませている綱吉の姿を見かねたのか、ユニが凪に話す。
「凪さん。女の人が恋人でも無い異性の人に裸を見られるのは恥ずかしい事なんです」
「それは分かってる。私もお義父さんだった人に見られたくはないから。けど――――」
凪は視線を綱吉に向ける。
「貴方なら別に見られても恥ずかしくないから」
「それって男として見られてないってことなの――――!!?」
だとするならそれはそれでかなりショックである。
「と、取り敢えず次からは気を付けましょうか」
「分かった」
ユニは凪の発言にショックを受けている綱吉の姿を尻目に、この話を終わらせた。