最近書いていて思うのがマジで話が進まない。
もうちょっと明るい感じで書けば話が進むのかもしれないけど、この作品を書く時は心を鬼にして出来る限りツナの心を踏み躙るようにしてるからなぁ。
優しい人間が心を踏み躙られてボロボロになっていく様は胸が熱くなるとは思いませんかね、兄上?
凪が沢田家の一員となって一日が経った。
たった一日程度の短く、出来たばかりの関係性だがここの家の人は誰も彼も優しい。
義理の母親となった沢田奈々はとても優しく、温かく、理想の母親と言っても過言ではないくらいだ。それこそ自分の母親とは比べる事すら烏滸がましいだろう。
家主であり義理の父親となった沢田家光にはまだ会っていないが、こんな良い人が好きになったのだから、きっと同じくらい良い人なのだろう。
そして義理の兄に当たる沢田綱吉。彼はとても不器用だ。
自分もそこまで器用では無いし、そもそも不器用だと思っている。だけどあそこまで、一目見ただけで不器用だと印象を覚える程ではないだろう。
だけどそれ以上にとても優しい人だ。あの母親の血を引いていると断言できるくらいには優しかった。
そうでなければ車の前に飛び出して庇ったりなんかしないのだから。
そして最後の一人、ユニもまた優しいと言える。正確には違うのだが、沢田家で暮らしている為、家族と見て良いだろう。
ただユニに関しては少し不思議な雰囲気を感じる。良くも悪くも普通じゃない魅力といえば良いのか、只者ではないといえば良いのか、そういった独特の何かがあった。
――――そんなユニがソワソワとしていた。
「…………ユニ、どうしたの?」
普段落ち着いているユニとは思えないくらい落ち着いていない様子を見せているユニに対し、心配から凪は問い掛ける。
するとユニは凪が心配している事を察したのか、申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「す、すみません。実は今日届け物が来る予定なんですよ」
「届け物?」
「はい。大事な物なのでいつ来るのか不安になってしまって」
凪にそう告げるとユニは再びソワソワとし始める。
別に届け物ぐらいでそんなに落ち着かなくなるとは思えない。他の人ならばそうなる事だってあるだろうが、彼女の性格を考えるのなら人前でそんな姿を見せるとは思えない。
つまり、彼女が待っている荷物というものはかなり特別なやつなのだろう。
凪がそう考えていると窓からコツコツと何かを叩くような音がした。
「ついに、来ましたか」
ユニは立ち上がり窓を開ける。
窓の外には一羽の鳩が居り、その足元には小さな
「ありがとうございます」
ユニが転がっている匣を手に取る。
匣を取った事を確認したからか、鳩は空を飛び去って行った。
「ようやく、届きましたね」
鳩が持って来た匣を握り締め、ユニは待ち焦がれていたと言わんばかりに握り締める。
「それは?」
「沢田さんへのプレゼントです。そろそろ沢田さんにも必要だと思ってましたので」
「プレゼント…………」
ユニの手のひらに収まっている匣を見て凪は疑問を抱く。
そんな小さな匣がプレゼントで、義兄になった彼に必要なのだろうか。はっきり言って玩具にしか見えない、というよりガラクタにしか見えない。
だがユニがそんな嘘を言うとは思えない。恐らく、匣の中に入っている物が彼女が言うプレゼントで、綱吉にとって必要な物というのは嘘じゃない。
――――あの時見た、炎が関係している?
脳裏に過ったのは車に轢かれそうだった時に助けられた記憶。
綱吉が凪を助ける為に拳に纏わせていた炎。全くの無関係ということは無いだろう。
凪はその事をユニに聞こうとして、口を閉ざす。
あの炎は間違いなく二人の秘密。聞いたところで答えてはくれないし、はぐらかされる。
なら――――。
+++
全ての授業を終え学校を後にした綱吉は軽やかな足取りで帰路についていた。
上機嫌だった。ここ最近、というよりもここまで気分が良くなったのは本当に久しぶりで、テストの点数で100点を取った時以来だった。
「友達、かぁ…………」
今まで生きてきて友達と呼べる関係性を築き上げる事は出来なかった。
良くて自分の事をダメツナと揶揄ってくる奴で、悪ければパシリにしたり仕事を押し付けたりしてくる奴だ。
今日、山本と互いに悩みを相談しあったりするのは綱吉にとって初めての経験だった。
「思ってたよりも嬉しかったなぁ」
ああいった関係を友達と言うのだろうか、だとするならばとても良いものだった。
あんな風に気兼ねなく話せるのなら毎日が楽しくなる。
そう考えながら歩いているといつの間にか自宅に着いていた。
「ただいまー」
「お帰りなさい沢田さん」
玄関の戸を開けるとユニが出迎えに来る。
それを見て思わず結婚したばかりのお嫁さんみたいだという邪な感想を抱いてしまう。
目を閉じ、邪な考えを振り払おうと首を横に振る。
「どうかしましたか?」
「い、いや、何でもないよ」
「そうですか。と、沢田さん。今日の夜、時間は空いてますか?」
「夜? 宿題とかも無かったし特に予定とかも無いけど」
「それなら今日の夜、少し離れた山に行きましょう。この前、修行をした場所です」
「ちょっと待って。行くのは別に構わないんだけどさ。何か理由でもあるの?」
勉強、というわけでは無いだろう。自宅でも出来る事なのに、態々外に、それも山に行く必要が無い。
ならば修行なのだろうか。修行ならしてもおかしくはない。
しかし、自分は既に死ぬ気モードをコントロール出来る様になっている。
もっと強くならなくちゃいけないのは分かっているが、一日にも満たない短い時間で強くなれるとは思えない。本当に強くなりたいのならもっと時間が必要になる。
それをユニが分かっていないとは思えないのだが。
綱吉がそう考えていると、内心を察したのかユニは軽く首を横に振る。
「別に庭先でも問題はありません。ですが、もしもの事を考えると家、というより住宅街ではなく、周辺に人が居ない場所の方が良いと考えたからです」
「…………もしかして、それって危ないこと?」
「はい」
間を挟む事なく、ユニは綱吉の言葉を肯定する。
「そっかぁ…………それってやらなくちゃいけない事だよね?」
「やった方が良いのは確かです」
「分かった。なら晩御飯を食べてからにしよう」
ユニがこういう時は本当に大切な事だ。
なら言う通りにした方が良いだろう。
「でもさ、その理由を教えて貰っても良いかな? 家でも問題無いってどういうことなの?」
「はい。実は今日、これが届いたんです」
そう言うとユニは綱吉にある物を見せる。
ユニの手のひらの上にあるそれは
しかし、その匣は見覚えの無い物だった。
現在自分達が所有している匣はユニが所有している狼の匣兵器であるコスモ、マッドクラウンが所有していた嵐チェンソー、以前襲撃してきた少女が所有していた雲ダーツの三つだけ。
今ユニが持っている匣はそのどれでも無い。色はオレンジ色である為、大空属性の匣だという事だけは分かる。
「これは沢田さんの匣兵器です」
+++
匣兵器と一口に言っても様々な種類があり、多種多様な使い方が存在する。
基本的には武器や鎧、道具等が存在する武器タイプ。生物を模して作りだされた動物タイプ。
その中でも動物タイプの匣兵器はジェペット・ロレンツィニが作り上げた343の設計図を基に作り出されており、本物の動物と同様個々の性格が存在する。その為、数ある匣兵器の中でも特別、オリジナルと言われている。
そして、オリジナルと言われている動物タイプの匣兵器の中でも更に特別なのが大空の属性の匣だ。
大空の匣はとても繊細で、使用者の精神状態によっては暴走する事もあり得るのである。
「ガウ…………」
「ぜぇ、はぁ…………何とか、落ち着いた?」
今目の前には鬣が死ぬ気の炎で包まれている小さな子ライオンが居り、何とも言えない表情で自身を見ていた。
このライオンこそユニが持っていた匣であり、綱吉自身の匣である。
「ガウ…………」
百獣の王である獅子とは思えない程に情けなく、そして弱々しく見える子ライオンは綱吉を伺うように見上げた。
「気にしなくて良いよ。オレもさ、ちょっと不安に思ってたわけだし…………お互い様だよ」
綱吉はそう言うと子ライオンの身体を抱き抱える。
そして周囲に視線を向ける。
「でも、本当に家で開けなくて良かった」
綱吉が居る周囲一帯は最初にここに来た時とは違う光景になっていた。
所かしこに爆撃でもあったかのような破壊の痕が刻まれていた。
木は薙ぎ倒され、地面は抉られ、岩は木っ端微塵に砕かれている。
「家で開けていたら、家がぶっ壊れてたかも」
ユニが言っていた通り、ここに来ておいて良かったと綱吉は心の底から安堵する。
事前に大空の匣は繊細で暴走の危険性もあると聞いていなければ、何も考えずに開けてしまっていただろう。
聞いていたおかげで覚悟を決めて開ける事が出来た。
「大丈夫ですか!? 沢田さん!?」
腕の中で震える子ライオンを抱きしめているとユニが心配そうな表情をして駆け寄って来た。
暴走すると聞いて事前に距離を取っていたのだが、どうやら傷らしい傷は無いみたいだ。
傷一つ無いユニの姿に綱吉は安堵する。
「大丈夫。まぁ、ちょっと怪我しちゃってはいるけど」
「手当てするのでじっとしててください」
「いっつ…………!」
ユニが持っていた救急箱で手当てをされ、思わず顔を顰める。
「がう…………」
「だ、大丈夫だから気にしなくて良いからね」
腕の中で申し訳なさそうにする子ライオンにそう言い聞かせる。
大空の匣は所有者の精神の状態によって左右され、暴走する事もある。ならば、この子ライオンが暴走したのは全て自分のせいだ。ユニから暴走する危険性があると言われたからってわけでもない。多分、教えられてなくても暴走したような気がする。
と、いうよりも――――。
「大空の匣って、鏡みたいだ」
本人の不安や恐怖がそうさせているのなら、間違いなく鏡だ。
だから恐れたりしなければ暴走する事は無い。
「大空の匣は他の属性のとは少し違うみたいですからね。私のコスモもそうですが、沢田さんの天空ライオンも試作品の4つだけで、複製も出来ていないらしいですし」
「へぇ…………そうなんだ、って、そんな貴重な物を貰っても良かったの?」
「大空の属性を持っている人は少ないですし、死蔵するぐらいなら沢田さんが使った方が良いかと」
「…………無茶、してない?」
「沢田さん程無茶はしてないですよ」
「それって無茶してるってことだよね?」
その問いにユニが答える事は無かった。
「さて、と…………取り敢えず匣も無事に開けられましたし、帰りましょうか」
「そ、そうだね。早くお風呂にも入りたいし」
「がぅ」
腕の中で短く鳴き声を上げる子ライオンを連れて自宅に戻ろうとする。
匣の中に戻す事だって出来ないわけではない。だが、何故かそうする気分になれなかった。
疲れていたからなのか、それともこの子ライオンが自分にとっての鏡だからなのかは分からない。
ただ、そうするべきだと直感した。
「死ね。ボンゴレ10代目、ジッリョネロの姫」
そして、その答えは間違っていなかった。