家庭教師PRINCIPESSAユニ!   作:霧ケ峰リョク

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銃撃者と観客

 それは何となく気になったが故の行動だった。

 夕食を終えた綱吉とユニの二人が用事があると言って、こんな夜遅くに外出したのだ。

 一体こんな夜更けに何をしに行くのだろう、と思った凪は身を潜めながら二人の後ろをついて行った。

 本来ならば、つい先日までただの一般人――――と言えば御世辞になる程の劣等生だった綱吉なら兎も角、戦闘力が無いとは言え裏社会で生きて特異な力を宿すユニであるならば尾行に気付けた筈だった。

 しかし、ある程度の距離を保っていた事、そして凪の中にある才能があったことで気付かれる事は無かった。

 そして凪はその瞳で見ることになる、今までの常識が覆る出来事を――――。

 

   +++

 

「死ね。ボンゴレ10代目、ジッリョネロの姫」

 

 その言葉と共に銃声が鳴り響いた。

 迫り来る銃弾は多く、とてもではないが人が生存出来る程の隙間は無い。一秒にも満たない短い時間で綱吉とユニの二人は死ぬことになるだろう。

 だが、それはあくまで普通だったらの話。

 

「ぐるる…………GAOOOOOOOOOO!!」

 

 綱吉の腕の中で大人しくしていた小さな子ライオンが咆哮を上げる。

 瞬間、二人に殺到していた弾幕は一瞬で石化し、勢いが無くして地面に散らばった。

 

「ありがとうナッツ」

「がうっ!!」

 

 攻撃を全て防いだ事に綱吉は腕の中に居る天空ライオン――――ナッツに感謝の言葉を告げる。

 ナッツはさっきまでのおどおどとした自信無さ気な態度から一転、誇らし気に吠えた。

 

「名前つけたんですね」

「鏡みたいだったからツナを反対にしてナッツて名付けたんだよ。安直だとは思うけど」

「いいえ、良い名前だと思います」

 

 そう言うとユニは懐から二つの(ボックス)兵器を取り出す。

 一つはマッドクラウンが使っていた嵐チェンソーで、もう一つがこの前襲撃に来た少女が持っていた雲ダーツだ。

 

「使いますか?」

「…………あまり使いたくはないんだけどなぁ」

 

 ユニが持っている二つの匣を、特に嵐チェンソーの方を見て嫌そうな表情を浮かべる。

 だが今の銃弾が其々別の方向から来ていたのを察するに、恐らく敵は複数人居る。

 使わないで勝つと言うにはまだ強さが足りていない。

 

「じゃあダーツの方をお願い。そっちならまだ問題無いと思う」

「分かりました」

 

 雲ダーツが入った匣を受け取り、代わりにナッツをユニに手渡す。

 

「ナッツ、ユニの事頼む」

「がうっ!」

 

 ユニの腕の中に収まったナッツにそう告げると、綱吉の額からオレンジ色の死ぬ気の炎が灯り、それに呼応するかの如くリングも燃え上がる。

 綱吉は大空の属性の死ぬ気の炎が灯ったリングを受け取った紫色の匣の注入口に宛がい、炎を注入する。

 

「開匣」

 

 綱吉は紫色の匣を森の方に向ける。

 瞬間、匣の蓋が開いて中に入っていたダーツが大空の死ぬ気の炎と共に飛び出した。

 その勢いはたった今自分達に向けられて撃たれた銃弾にも負けておらず、散森の木々を貫き抉り、身を潜めていた襲撃者達に直撃した。

 

「ぐぁっ!?」

「ギャアッ!!」

 

 大空の炎が灯った雲ダーツの攻撃を受け、襲撃者達は短い悲鳴を上げてその場に倒れる。

 死んではいない。命を奪わない程度に手加減している。

 

「こういった調節も出来るなんて…………これが匣兵器」

 

 実戦で初めて匣兵器を使い、その便利さに綱吉は内心舌を巻く。

 確かにユニの言う通り画期的な武器だ。今まで自分が使う事は無かったし、苦しめられてばかりいた。加えて今まで匣兵器やリングの炎を使っていないマフィア関係者と戦った事が無かった。

 だからこそ、こうして匣兵器を使う側になって使わない相手と戦い、改めて匣兵器と死ぬ気の炎の力を理解する。

 

「…………よくこんな物を使う奴等と戦って、死なないで済んだな」

 

 本当に自分は運が良い――――いや、襲撃者が来ている時点で運が良いとは言えない。

 どちらかといえば運は悪いだろう。それでも死なずに済んだのは悪運があったからだろうか。

 

「今、考える事じゃないか。それよりも今は」

 

 襲撃者を倒す方が優先だ。

 そう考えながら綱吉は自分に向かって放たれた銃弾を容易く回避する。

 

「不思議だ。身体が軽い」

 

 言葉で言い表せないような、それでいながらも決して悪いわけではなく、むしろ絶好調ともいえる奇妙な感覚だ。

 そう思いながら綱吉は自身をライフルで狙っている男の下に移動し、その顔面を拳で打ち抜いた。

 

「ガファ!!?」

「後2人」

 

 大きく仰け反る男を尻目に倒れている男に刺さっているダーツを引っこ抜いて距離の離れた男に向かって投擲。

 先端に死ぬ気の炎が灯ったダーツは勢い良く突き進み、標的の男の肩を貫く。

 

「後1人」

 

 顔面を殴って気絶した男が持っていたライフルを拾おうとする。

 ライフルの使い方は分からない。そもそも拳銃だって触れた事の無い一般人だったのだから。

 だが、鈍器として使う事は出来る。

 そう考えながらライフルを拾うと、綱吉の背後から男が現れる。

 男は拳銃を持っており、既に指は引き金にかけている。

 

「死ね!!」

 

 そして男は引き金を引こうとする――――が、それよりも早く綱吉の振るった攻撃が男の手に直撃し、拳銃が宙を舞う。

 

「なっ――――」

「これで終わりだ」

 

 武器を失った男にライフルの持ち手を振り下ろす。

 死ぬ気モードによるリミッターが外れた攻撃は頭に直撃し、一撃で男の意識を刈り取った。

 

「…………ふぅ」

 

 崩れ落ちた男の姿を見下ろし、綱吉は死ぬ気モードを解除して一息をつく。

 殺し屋複数人による襲撃、その勝者は綱吉だった。

 

   +++

 

「終わったよ、ユニ」

 

 一箇所に集め、山のように積み上がった襲撃者達を見下ろしながら綱吉はそう告げた。

 その顔には僅かながら疲労を感じさせるが、思っていたよりは消耗していない。

 

「早いですね」

「うん。オレもそう思った」

 

 想定していた時間よりも早く襲撃者達を倒した事にユニは少しだけ驚く。

 だが、それ以上に直接倒した綱吉の方が信じられないと言わんばかりの顔をして襲撃者の山を見ていた。

 

「何ていうか、身体が凄く軽かったんだ。まるで自分の思い通りに戦えるっていうか」

「絶好調だったんですね」

「多分、その通りなんだろうけど…………少し信じられないんだよ」

 

 両手で頭を抱え、綱吉は自分のやった事に頭を悩ませる。

 その姿を見てユニは笑みを浮かべる。

 

「別に不思議な事では無いと思います。今までの特訓と実戦は、沢田さんを成長させました。匣を持っていない、ましてやリングも持っていない相手なら問題なく倒せるかと」

「そ、そうかな?」

「はい。沢田さんは、自分が思っているよりも凄いですよ」

「あ、ありがと…………」

 

 ユニの言葉を受け、綱吉は顔を赤くして目を逸らす。

 そして少しだけ距離を取った。

 その後ろ姿を見て、ユニは申し訳無さそうに俯く。

 

「…………あまり嬉しい話では無いですけどね」

 

 今ユニが綱吉に対して言った言葉は嘘では無い。

 だがあまりにも成長が早過ぎるのだ。

 良くも悪くも今の綱吉が置かれている環境はマフィアのボス候補として見ても普通では無い。身を守る護衛はおらず、襲ってくる相手は最新の兵器を持っている頭のネジが一本も二本も外れた者達。

 そんな環境に置かれれば嫌でも強くならなければならない。勝ち続けなければ死ぬ。

 結果としてそんな異常な環境が沢田綱吉の成長を促している。

 

「本当に皮肉な話です」

 

 マフィアになりたくないと言っているにも関わらず、一般人として生きていくには不要な力を身につけざるをえないこの状況は、彼にとってあまり良いとは言えない。

 否――――最悪と言っても過言では無い。

 身に覚えの無いことで、ただ後継者に選ばれたからというだけで、ボンゴレⅠ世の直系の子孫であるというだけで常に命を狙われなければいけないのだから。

 

「何とかならないものでしょうか…………?」

 

 本来ならば家庭教師が彼の身の安全を守る必要がある。

 だというのに自分は守られてばっかりだ。命懸けの戦いをさせて、傷だらけになって、挙句の果てには人を殺させる。

 そんな目にあわされれば憎まれて当然だ、恨まれて当然だ。

 けれど、彼は自分を恨む事は無い。それどころか感謝すらしている。こんな役立たずの自分を守ると言ってくれたのだ。

 嬉しいと思う反面、何にも出来ない無力さにユニは苛まれる。

 だが考えたところであまり良い案が思い浮かぶわけもなく、ただただ時間が過ぎるだけだった。

 

「…………今日は帰るとしましょうか」

 

 良い考えも思い浮かばず、ユニは浮かない表情を浮かべながらそう呟く。

 そして綱吉と共に沢田家に帰ろうとしたその時だった。

 ふと視線を向けた先に、凪の姿があったのは。

 

「凪さん?」

「え、えっと…………うん」

 

 この場に居ない筈の人間が居た事にユニは驚き、それに凪は何とも言えない表情をした。

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