家庭教師PRINCIPESSAユニ!   作:霧ケ峰リョク

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術士

 先に攻撃を仕掛けたのは凪だった。

 藍色の死ぬ気の炎を額に灯した凪は拳を綱吉に叩き込もうとする。

 見ただけで分かる。基礎体力を作る為に鍛えたとはいえ、つい先日まで幻術の才能があるだけの少女とは思えない程の力だ。

 しかし、先に死ぬ気モードを会得し制御している綱吉の方が上手であり、凪の攻撃は容易く受け止められた。

 

「凪、死ぬ気になるのは…………一瞬で良いから!」

 

 凪の拳を受け止めた綱吉は身を低くし、凪の身体を突き飛ばす。

 突き飛ばされた凪は大岩にめり込み、短い悲鳴を上げる。

 それでも凪は戦意を失う事無く、此方に戦意を向けている。

 

「もう一回、お願い…………!」

「分かった」

「凪さん。今度は幻覚も使ってください」

 

 ユニの言葉を受け、今度は幻覚も交えた模擬戦を始める。

 今度は自分のアドバイスを生かし、攻撃や防御の瞬間だけ死ぬ気になっている。

 流石にたった一回で上手くいっているわけではないが、会得する速度そのものは自分よりも早い。

 やっぱり自分はダメツナだ。ユニの前ではとても言えないが、やっぱりそう感じてしまう。

 それでも負けるわけにいかない、そう自分に言い聞かせて綱吉は集中してある場所に視線を向ける。

 

「――――そこっ!!」

「あぅ!」

 

 そして幻覚を使い身を潜めた凪の気配を察知し、組み伏せる事に成功する。

 

「勝負あり!」

 

 ユニがそう告げると同時に綱吉と凪の額に灯っていた死ぬ気の炎が消失する。

 そして組み伏せた凪の手を取り、ユニの前に移動した。

 

「お疲れ様でした」

 

 労わりの気持ちが込められた言葉を告げると、ユニは凪に服を渡す。

 凪は短く「ありがとう」と感謝すると服を着始める。

 正直とてもありがたかった。修行中はそんな余裕が無かったが、終わると嫌でも気になってしまう。

 

「さて、凪さん。沢田さんと戦ってどう思いましたか?」

 

 ユニの言葉に凪は少しだけ考えて、思った事を話し始める。

 

「死ぬ気モードの状態で幻術を使いながら戦うの、とっても大変」

「そうですね。霧属性のリングの炎で幻覚の精度は上がっていましたが、そのせいで死ぬ気になりきれてないところがありましたね。幻術はイメージが大切ですから。余裕が無くなれば無くなる程、幻覚の精度も落ちていきますから」

 

 そういう意味では死ぬ気モードと幻術の相性はあまり良いとは言えないのだろう。

 

「それに、ボスには幻覚が殆ど通じなかった」

「えっ? そ、そうかな?」

 

 凪の言葉に綱吉は「そんな事は無い」と言おうとする。

 確かに集中すれば幻覚だと見分けられたが、あれ程のリアリティがあれば分かっていたとしても脅威にしかならない。

 そう考える綱吉に対し、ユニは何事も無かったかのように呟く。

 

「沢田さんは超直感がありますからね。幻覚は通じにくいんだと思いますよ」

 

 ユニが言った聞き覚えの無い言葉に綱吉は小首を傾げる。

 

「ち、超直感…………?」

ボンゴレの血(ブラッド・オブ・ボンゴレ)に伝わる見透かす力の事です。歴代ボンゴレファミリーのボス、またその近親者は常人を遥かに凌ぐ直感があります。優れた使い手なら筋肉の僅かな動きから相手の行動を先読みしたり、心や過去を見たり、幻覚を見破る事が出来るんです」

「何それずるい」

 

 今の説明を聞いて凪は綱吉に非難がましい視線を向ける。

 一方の綱吉は自身に向けられる視線を無視して聞き逃せない言葉を言ったユニに詰め寄った。

 

「待ってユニ。初耳なんだけど」

「言ってませんでしたからね。と、いうより言う機会が中々ありませんでしたからね。私も沢田さんが超直感に目覚めていると今気付きましたし」

 

 少しだけ困った様子のユニの姿を見て、多分本当の事を言っているのだろうと判断する。

 ユニの性格から考えてこんな大事な事をずっと黙っているわけがない。確かに目覚めて使えない状態でそんな事を話されても困るだけだ。

 いや、そもそもその超直感とやらが目覚める事自体、彼女にとっては予想外の事態だったのだろう。

 

「取り敢えずこれからの修行は超直感を活かせるようにしなくちゃ…………でも基礎体力とか匣を使った戦闘もやらないと…………」

 

 そう言ってぶつぶつと独り言を呟きながらこれからの事を考えるユニを見て綱吉はそう思う。

 どうやら自分は彼女の想定よりも強くなっていたらしい。

 その事実に綱吉は少しだけ嬉しくなる。別に強くなった事が嬉しいとかそういうわけではないし、ましてや戦いなんて痛いだけで嫌いなものだ。それでも、強くなる事で大切な人達を守る事が出来るのであるならばやった意味があったというもの。

 

「ボス、もう一回やろう。今度は負けない」

 

 とはいえ戦う事自体はあまり好きじゃない、というよりも嫌いである。

 

「取り敢えずそろそろ帰らない? もう夜だし」

 

 リベンジに燃える凪を無視してユニに話を切り出す。

 今日は殆ど一日中死ぬ気で模擬戦をしたのだ。流石にこれ以上続けると明日の学校に響く。

 ましてやあの色々と気まずい下着姿の凪を見ながらの戦闘等好んでやりたいものじゃない。

 そんな綱吉の意図を察したのか、ユニは苦笑いしながら同意する。

 

「そうですね。良い時間ですし帰りましょうか。凪さん、特訓はまた今度にしましょう」

「…………分かった」

 

 ユニに言われて諦めがついたのか、凪はしゅんとした残念そうな顔になる。

 お風呂で裸を見られても気にせず、下着姿で自分と戦っても羞恥心すら感じていない。

 本当に心配になってくる。自分と出会わずにこのまま過ごしていたらどうなっていた事か。

 恐らく、ユニが言っていた通り碌な目に合わないだろう。本人の性格的にも変な男に騙されそうだし。

 

「そういや今日母さんが町内会の人達と話があるらしくて夜居ないんだけど、どうするの?」

 

 凪の将来に不安を覚え、胃が痛くなるのを我慢しながら綱吉はユニに話を切り出す。

 するとユニは「ふっふっふ」と普段の彼女らしからぬ笑い方をする。

 

「実はボンゴレから家庭教師としてのお給料を貰ったんですよ」

 

 そう言いながらユニは懐から財布を取り出して見せる。

 財布の中は万札が大量に入っていてパンパンに詰まっていた。

 

「今から夕飯を作ると遅くなっちゃいますし、今日はお寿司を食べに行きましょう!」

「別に良いけど…………それユニが食べたいだけだよね?」

「はい! 実は前々から興味はあったのですが中々食べる機会が無かったんで…………実はちょっと楽しみなんです」

 

 ニコニコと笑みを浮かべるユニの姿は普段の聖女染みた彼女とは違い、歳相応の少女らしい笑みを見て綱吉は自分の事じゃないのに嬉しくなってくる。

 出来る事ならばこの平穏が永遠に続けば良い――――そんな事を思いながら山を後にした。

 

   +++

 

「ふぅ…………美味しかったですね」

「うん」

 

 寿司屋『竹寿司』で夕食を終え、ユニと凪は満足そうな表情を浮かべていた。

 確かに美味しいお店だった。ただその分値段が高かったがボンゴレからのお給料というやつで全額支払う事が出来た。

 女の子に奢られてるというのは男として少し、いや、かなり情けないが今回は仕方がないと自分に言い聞かせる。

 いかに戦闘力が上がっても、懐事情が良くなるわけではないのだから。

 本当に世の中というものは世知辛い。

 

「はぁ……………」

「どうしたんですか沢田さん。溜め息なんかついて…………もしかしてお口に合いませんでしたか?」

「いや、そういう意味で溜め息を吐いたんじゃないんだよ。ただ…………世の中は世知辛いなって思っただけだから」

 

 哀愁漂わせる綱吉の言葉にユニと凪は揃って首を傾げる。

 

「と、取り敢えずそろそろ帰ろうよ」

「そうですね。こんな夜遅い時間に私達が外に居たらあまり良くはありませんしね」

 

 それもあるがそれ以上に風紀委員、もしくはクラスメイトに見つかったら面倒だ。

 風紀委員は言わずもがな、クラスメイト達は此方に詰め寄ってくるに違いない。

 出来る事なら見つからない内に帰りたい、そう思いながら帰路に着こうとした瞬間だった。

 凄まじいまでの悪寒と何者かの殺意を感じたのは。

 

「っ、誰!?」

 

 殺意を向けられた方向に視線を向け、ユニ達の前に出る。

 突然の行動に凪は綱吉に疑問を抱くが、ユニは何があったのかを理解する。

 

「敵、ですか?」

「多分、そうだと思う。姿は見えないけど、何か違和感がある」

 

 視線を向けた先には人が居ないにも関わらず、其処に何者かが居ると綱吉の脳は警鐘を鳴らしている。

 

「――――ふむ、気付かれましたか」

 

 男のものと思われる声が視線を向けた先から聞こえると、何も無い空間から藍色の炎が現れる。

 藍色の炎――――霧属性の死ぬ気の炎が人間大の大きさになると、炎の中から老人が現れる。

 

「流石はボンゴレ10世、といったところですか」

 

 姿を現した老人は幼子を見守るような優しい眼差しを綱吉達に向けながら、鋭い殺意を纏っていた。

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