今回の話が終われば、流石にちょっとしたハプニングとかを書けるので、甘いのを求めてるのはもうちょっとの辛抱を!!
「貴方は…………敵、ですか?」
自身の眼前に立ち、殺気を放っている老人に綱吉は問いを投げる。
ここまで殺意を向けられているのだから敵には違いない。だが今まで見てきた裏社会の人間とは思えない程に紳士だった。
それこそ今まで差し向けられてきた刺客とは比べることすら烏滸がましい、そう思ってしまうくらいには理知的に見える。
「ええ、そうですとも」
老人は綱吉の問いに頷き、腰に差していた剣を抜いて左手に携える。
それを見て綱吉もまた額に死ぬ気の炎を灯し、死ぬ気モードになって構える。
「成る程、死ぬ気弾を使わずに死ぬ気モードになれると。やはり前評判等当てにならないものですね」
綱吉の炎を見て老人は感心したかのような声を漏らす。
そして右腕を前に出し、指にはめているリングを見せびらかした。
リングは二つあり、内一つは人差し指に装着している緑色のリングストーンのリングだ。そちらは緑色のリングストーンであることから大空七属性の内の一つ、雷属性である事が分かった。
雷属性は他の死ぬ気の炎とは異なり、雷そのものの性質を帯びている。嵐の炎と並んで非常に攻撃的で、特性の硬化も相まって厄介な属性だ。
だがそれ以上に目を引くのは中指に装着している眼球をそのまま付けたかのような非常に不気味なリングだろう。
リングストーンの色から属性を判断する事が出来ない。そういったリングは沢山あるが、その中でもあのリングはかなり異質だ。
「霧属性のリング?」
「ほぅ、分かりますか」
「ユニに色々と教わったからな」
事前に聞かなければ分からなかったが、リングの中には特殊な力を持ったリングが存在する。
気配を消すステルスリングや身体を視認しにくくするカモフラージュリング等、通常のリングとは異なる力を宿している。そして其れ等は主に霧属性のリングに見られている効果であるらしい。
尤も、綱吉はそういったリングを見た事が無い為、詳しい事は知らない。だが、一眼見ただけであのリングがそうなのだろう、と思ってしまうような奇妙な存在感をそのリングは放っていた。
「ユニ、凪…………後ろに下がってて」
本当ならば安全なところまで逃げてほしいが、それは難しいし他にも敵がいるかもしれない。
目の前の翁に警戒を向けながら、綱吉は二人を下がらせようとする。
しかし――――、
「ダメです。沢田さんも逃げましょう」
ユニは酷く狼狽した様子で戦おうとした綱吉の腕を掴み、静止させた。
「ユニ…………?」
「ダメなんです沢田さん、あのリングだけは…………」
普段のユニからは信じられない程に怯えており、綱吉はその様子を訝しむ。
あのリングに一体どんな力があるというのだろうか?
疑問に思う綱吉と凪に対し、向かい合っている老人は関心したような表情を浮かべた。
「ほう、次の世代のアルコバレーノはこのリングを知っているのですね」
「…………そのリングはヘルリング、霧属性の呪われた六つのリングの一つですね?」
「ヘル、リング?」
アルコバレーノにヘルリング、ユニの口から語られた初めて聞く謎の単語に綱吉は首を傾げる。
ただユニの反応から察するに碌な物じゃない事は確かだ。
「そこの彼、ボンゴレ10代目にも説明してあげましょう。ヘルリングとはこの世に六つしかない死ぬ気の炎が発見される以前から存在していた霧属性のリングの事です。ボンゴレリングやマーレリングといった名高いリングよりも歴史があるのです。曰く付きではありますがね」
「曰く付き…………?」
「ええ。元々は温厚な人間が残虐な独裁者に変わってしまったのにはこのリングが関わっているとされていますからね。実際、ヘルリングには使い手の精神を地獄に落とす能力もありますので強ち間違いじゃないでしょう。このリングも独裁者が持っていた物ですしね」
老人の話を聞いていて綱吉は顔を顰める。
嘘や冗談というわけでは無いのだろう。ユニの反応を見れば分かるし、何よりあのリングが放つ威圧感は呪いとしか形容出来ない。
「しかしその分リングの性能は破格。レア度5つ星の名に恥じない力を持っているのです。精製度はA+ランク、世界を見続ける為に一度も瞳を閉じた事が無い冒険者が自らの眼球を抉り、作り上げた
老人が最後まで言い切ると同時に瞳のヘルリングから無数の鉤爪と瞳で出来た触手が出現した。
触手はギチギチと金属と生物が入り混じったような不気味な音を奏でる。
見る者全てに畏怖を植え付ける悍ましい鉤爪が綱吉達に向けられる。
「その力を確かめてみなさい」
そして綱吉達が回避する間も無い程の速度で触手が襲い掛かった。
+++
瞳のヘルリングは世界で唯一の肉食リングである。
他に肉を喰らう機能があるリングがあるかと聞かれればその答えは否ではあるが、その食欲は凄まじいもので象ほどの大きさの肉塊を僅かな時間で捕食してしまう程だ。
他のリングとは異なり、人間の眼球で造られたという特殊な生まれ故なのか、瞳のヘルリングは非常に攻撃的な能力を持っている。
それこそ人間に向ければ死体さえ残らないくらいの威力を持っている。
「ふむ…………」
老人は土煙が上がっている、ボンゴレ10代目達がさっきまで居た場所を見て顎を撫でる。
そこには人の姿はおろか、人だった残骸も血の一滴すらも残ってはいなかった。
「どうやら逃げられたみたいですね」
コンクリートと瓦礫と土だけしか無い場所を見て老人は淡々と呟く。
如何に瞳のヘルリングが貪欲な食欲を持っていたとしても血の一滴も残さずに捕食する事は不可能だ。
「あの少女の仕業でしょうね。恐らく術士だったのでしょう」
ボンゴレ10代目である沢田綱吉とジッリョネロファミリーの次期ボスであるユニ・ジッリョネロ。その二人と一緒に居た少女が何の力も持っていない表社会の一般人と考えるには早計だった。
裏社会で無名の人間であったとしても何かしらの力を持っていないというわけではない。
むしろその逆で、術士になるような人間は力があったからこそ裏社会に流れて来るのが多い。
「これは私のミスですね。老いると頭が固くなってしまう」
そもそもの話、今の裏社会ではリングや
約一名を除いたボンゴレの後継者で沢田綱吉が今も生き残っているのは他の三人とは異なり、今の時代の流れに適応する事が出来た人間なのだろう。
「本当に予備の剣を持ってきて良かった。彼ならばきっと――――私を殺してくれるでしょう」
そう言って老人は逃げた三人を追い掛けようとしたその時だった。
「そこの男! 両手を上げて大人しくしろ!」
老人の背後に拳銃を携えた警察官が姿を現したのは。
「流石は日本の警察、仕事が早い。いえ、これは前任者達が杜撰過ぎたからその皺寄せが来ているんでしょうね」
話で聞いた限り前任者達は堅気にも被害を出し過ぎており、警察も既に動いていた。
自身がこの日本にやって来た時点で捕まえようとしていた辺り、日本の警察を怒らせ過ぎたのだろう。
面子を潰し過ぎたのだ。
「まぁ、だからどうしたとしか言いようが無いのですが」
「抵抗するのなら撃つ! これは脅しでもなんでもないぞ!!」
「分かっておりますとも――――もう対処しましたが」
「え?」
老人が剣を鞘に収めると警官の銃を持っていた方の腕が地面に落ち、鮮血が飛び散った。
自らの腕を斬り落とされた事に警官は叫び声を上げようとするが、それよりも先に無数の鉤爪と触手が警官に殺到する。
「貴方のミスは警告等せず撃たなかった事ですよ。尤も、既に聴こえてはいないでしょうが」
触手が消失するとそこには大量の血溜まりだけが残っていた。
「やはり彼等は逃げたようですね」
自分の考えが間違っていなかった事に安堵しつつ、老人は懐から匣を取り出す。
「さて、鬼ごっことまいりましょうか」
そして霧属性の死ぬ気の炎が燃え盛るヘルリングを匣の注入口に押し当てた。