家庭教師PRINCIPESSAユニ!   作:霧ケ峰リョク

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「沢田さん達にはリングの精製度について話していませんでしたね」

 

 ユニと凪の二人を抱えて襲撃者たる老人から夜の街を逃げ回っていた最中。

 綱吉の右腕に抱えられているユニが唐突に呟いた。

 

「リングの精製度?」

「はい。リングには精製度と呼ばれる、使われているリングストーンの格というものがあります。詳しいことはリング職人にしか分かりませんが、リングの精製度が良ければ良い程、死ぬ気の炎の出力や純度が良いものになるそうです」

 

 ユニから一通りリングについての説明を聞いた綱吉は先程の老人の言葉を思い返す。

 

「じゃあ、さっきのヘルリングは?」

「精製度A+。これ以上ない程極めて高い最高峰のリングに他なりません。これと同格のリングは世界に数えられる程度しかないです」

「…………オレ達が使ってる、リングは?」

 

 綱吉の問い掛けにユニは何とも言えない表情を浮かべる。

 

「精製度Cランク。悪いリングじゃありませんが、比較対象が悪過ぎます」

「…………それだけ、ヘルリングが強力ってこと?」

「はい。リングの精製度だけで優劣はつけられませんが、それでも大きな差があるのは明確です。それに加えて、所持者が厄介です」

「ユニはあの人のこと知ってるの?」

「はい。あの人はモルト。裏社会で戦剣という異名で恐れられた殺し屋です。元々は過去の大戦で軍人という経歴の持ち主でしたが裏社会に流れたと聞いています。リングや匣の出現するよりも前に引退したと聞いていましたが…………」

 

 ユニの告げた言葉に綱吉は表情が強張る。

 リングや匣の出現よりも前から活動していた元軍人の殺し屋。

 既に引退しているとはいえ、そういった前時代の人間はリングや匣の力に敵わず淘汰されたという。

 だが、もしそんな人間がリングと匣を使う事が出来たなら――――。

 

「はっきり言って今の私達じゃ手に負えない相手だと思います。今の私達に出来ることはこのまま逃げ回りながら機会を窺って」

「――――残念ですがそうはさせませんよ」

 

 ユニとの会話を強引に打ち切るようにして先程の老人、モルトの声が綱吉達の頭上から聞こえた。

 何故真上から声が?

 疑問に思う間も無く、綱吉は反射的に声がした方向に視線を向ける。

 そこには剣を携えたモルトが何も無い虚空に立つようにして浮かんでいた。

 両脚には変わった金属が付いたブーツが装着されており、そこから霧属性の死ぬ気の炎が放出している。

 

(フレイム)シューズ…………!? 飛行用の匣兵器っ!」

「そんなのも、あるのか!!?」

 

 空中を浮遊しているモルトを見て発したユニの言葉に綱吉は顔を顰める。

 あんな空を飛ぶ事が出来るようになるものがあるなら、逃げる事なんか絶対に不可能だ。

 

「その通り。では――――」

 

 内心絶望感に満たされる綱吉達に向かってモルトは死ぬ気の炎の放射を止め、剣を真下に向けたまま落下する。

 刃の先端には霧属性の死ぬ気の炎が一点に集中しおり、その上に覆い被さるように雷属性の死ぬ気の炎も纏っている。

 霧属性の死ぬ気の炎はその特性上攻撃力が低い。しかしそれも一点に集中さえすれば鋼鉄も焼き切る事が可能になる。加えて、大空七属性の死ぬ気の炎の中で一番の硬度を有している雷の炎を加えてある。

 霧属性唯一の弱点を雷属性が補うという、極めて相性の良い組み合わせだった。

 

「っ!」

 

 両脚に力を込め、自分達に向かって落下するモルトの攻撃を回避する。

 攻撃先を失ったモルトの剣はそのままコンクリートの地面に深々と突き刺さる。

 まるでコンクリートが豆腐のようだ。そう思ってしまうくらいにはモルトの剣は異常なまでに鋭かった。

 だがそれも当たらなければ意味がない。

 綱吉は抱えていた二人を下ろし、刃を地面から抜こうとしているモルトに攻撃を仕掛ける。

 深々と地面に刺さった以上、引き抜くのには僅かな時間がかかる。それは明確なまでの隙であり、綱吉は見逃さない。

 

「良い判断です。ですが甘い」

 

 しかし綱吉の攻撃がモルトに届く事は無く、突如として出現した盾に防がれてしまう。

 幻覚――――綱吉の超直感が自身の攻撃を防いだ盾を幻覚だと告げる。しかし、幻覚でありながらもそれには実体があった。

 

「まさか、有幻覚!?」

 

 有幻覚――――それは霧属性の死ぬ気の炎の特性である構築により強化する事で出来る実体を持った幻覚の事である。

 しかし、有幻覚にはいくつかの欠点が存在する。

 強固なイメージを持っていなければ実体を作れない事。そして有幻覚はその性質上実物に比べれば遥かに脆く、本物よりも遥かに劣る程度の物しか作れない事等だ。

 だがモルトが生み出した有幻覚の盾は本物と何ら変わらない強度だった。

 

「そこです」

 

 綱吉の攻撃が盾に塞がれている間に地面から刃を引き抜いたモルトは、そのまま綱吉を斬り裂こうと剣を振るう。

 刃が振るわれる瞬間には盾も最初から存在しなかったかのように消失し、綱吉の眼前まで刃が迫る。

 とてもではないが回避は不可能。しかし、それは一人だった時の話。

 

「ボスっ!!」

 

 凪が綱吉の事を呼ぶと同時に、綱吉とモルトの間に有幻覚の盾が出現する。凪が作り出した有幻覚の盾だ。

 現れた盾はモルトが生み出したものとは違い、バターを斬るかの如く刃が通る。

 それでも僅かな時間を稼ぐ事は出来、綱吉はモルトの攻撃を回避する事に成功した。

 

「今度こそ…………! メテオ、アクセル!!」

 

 攻撃が空振ったモルトの身体に拳に炎を集中させた渾身の一撃を叩き込む。

 回避する事はおろか、防御する事すら出来なかったモルトは綱吉の攻撃をまともにくらい、剣を手放して後方に吹っ飛んでいった。

 

「良い、良い連携です…………!」

 

 モルトはそう呟くと両脚のFシューズから炎を放出して空中で姿勢を立て直す。

 浅かった、というわけでは無い。今の一撃、メテオアクセルは確かに直撃した。

 今まで戦った敵、マッドクラウン達ならば間違いなく勝負が決まる攻撃だ。

 それでも意識を刈り取る事が出来なかったのは、このモルトという老人がマッドクラウン達とは比べ物にならないぐらいに強いということ。

 

「お見事、流石はボンゴレ10代目。その剣は貴方に差し上げますよ」

「…………どうも」

 

 此方を賞賛するモルトの言葉に耳を傾けつつ、綱吉は警戒を更に引き上げる。

 地面に落ちた剣を拾い、その刀身に炎を灯す。

 

「武器に炎を灯すのは少々コツがいるのですが、即座に出来ますか」

 

 そう呟きながらモルトは背中からもう一本の剣を取り出す。

 

「もう一本持ってたか」

「ええ。普段は持ち歩きませんが、念の為に予備を持ってきておいて正解でした」

 

 此方を観察するような態度を取るモルトに綱吉は内心舌打ちをする。

 ああも苦労して武器を奪い取ったというのに、本当にやり辛い。

 そう考えながらも綱吉は武器を構えつつ、モルトに話しかける。

 

「…………本当に、戦わなくちゃいけないのか?」

「ふむ、その問いに答える前に聞きましょう。どうしてそう思いますか?」

 

 綱吉の投げた問いにモルトは逆に問いを投げてくる。

 

「貴方は、そこまで悪い人には見えない。戦わないって選択だってある筈だ」

「私は殺し屋ですよ? 依頼をされた以上、それを達成する為に動かなくてはなりません」

「嘘だ。貴方は、そんな事を思ってない」

 

 モルトが語る言葉には偽りがある。

 超直感はそう告げており、ならば戦いを回避出来るのではないかと綱吉は考えた。

 だが――――、

 

「そうですね。嘘です。私は既に引退済みの人間ですから荷が重いとクライアントに告げてキャンセルも可能です」

「なら」

「ですが私にその気はありません。私は貴方と戦い、殺されに来たのですから」

 

 綱吉が抱いたその考えは絶対に叶わないと思い知らされる事になった。

 

「な、なんで…………どうして?」

「下らない理由です。私はかつて戦争に参加して、おめおめと生きて帰ってきてしまった。それに罪悪感を抱いた私は死ぬ為に裏社会に身を投じたのです。尤も、この歳になるまで生き永らえてしまいましたがね」

 

 自嘲するかのように身の上話を語り出すモルトに対し、綱吉は全く理解出来ないと言わんばかりの表情を浮かべる。

 本当に何を言っているのかが理解出来ない。

 

「そして、今貴方と戦ってよく理解しました。貴方は優しい。優し過ぎて裏社会で生きるには不相応。ですがその優しさは欠点でもありますが美徳でもある。だからこそ、貴方になら殺されても良いと思いました」

「な、何を言ってるんだよ!! 殺されても良いとか、そんなわけないだろ!!」

「ええ、ええ。全くもってその通り。ですが、世の中にはそれじゃあ納得出来ない人間もいるんです」

 

 モルトがそう言うと右手を、ヘルリングを顔に近付ける。

 

「ヘルリングは所有者の精神を地獄に堕とす。ですが、私からしたら生きているだけで地獄です。なので、むしろ救いになってしまいますね」

 

 そして、地獄が始まった。

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