家庭教師PRINCIPESSAユニ!   作:霧ケ峰リョク

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憤激と超死ぬ気

 どす黒い霧属性の死ぬ気の炎がモルトの全身を覆う。

 呪詛、怨念、憎悪といった負の感情から生み出された炎は見ているだけで恐怖を覚えるものだった。ヘルリングだけの時でさえ不気味な印象を覚えたが、所有者の精神をリングが喰らっている光景はあまりにも悍ましかった。

 そして全身を覆っていた霧の炎が爆散するかのように晴れ、モルトが姿を現す。

 

「はぁ…………この感覚、まるで戦場を思い出しますね」

 

 感慨深いと言わんばかりに呟いたモルトの姿は異形としか言いようのないものだった。

 まるで幽鬼を連想させるかの様な外見、額に出現した縦に割れた(マロッキョ)のヘルリングを連想させるかのような第三の瞳。

 一眼見ただけで怪物としか言いようの無い姿だった。

 

「これこそがヘルリングに己が心を喰らわせた姿。醜くも人の本性を曝け出した形。尤も、私の場合はあの時からずっと地獄に囚われたままのようなものなのでなんら変わりませんが」

 

 そう吐き捨てながらモルトは刃を振り上げる。

 

「ですがその分凄まじい力を発揮します。こんな風に――――!!」

 

 刃を振り下ろし、霧の炎と雷の炎が混じった斬撃が綱吉達に襲い掛かる。

 斬撃には鉤爪のようなものと眼球のようなものが混じっており、さっきのヘルリング単体で放った攻撃のような感じがした。

 

「っ、らぁ!!」

 

 綱吉は奪い取った剣を使ってモルトの攻撃を弾く。

 とてつもなく重い攻撃だった。加えて雷の炎による帯電もあり、防御するだけで帯電する。大空の炎の特性である調和を使ってダメージを軽減出来ているが、そう長くはもちそうにない。

 

「おお、今の攻撃を防げるとはやりますね。では、もっと強くいきましょうか」

「っ、くそっ!!」

 

 モルトはそんな綱吉の思いを知ってか知らずか、嬉しそうに攻撃を仕掛けようとしてくる。

 こんな攻撃を連続で続けられたら間違いなく死ぬ。

 そう判断した綱吉は腰から下げていた(ボックス)を手に取り、炎を注入する。

 

「ナッツ! お願い!」

「GAO!!」

 

 匣から飛び出したナッツに短く命令すると、普段の臆病さからは信じられない程の勇ましさで咆哮をあげる。

 大空の特性である調和の性質が乗った咆哮はモルトの斬撃を最初から存在しなかったかのように掻き消した。

 

天空ライオン(レオネ・ディ・チェーリ)…………!」

「元は幻覚の刃だ! 大空の特性で無効化出来る!!」

「ならば直接攻撃するまで!!」

 

 遠距離攻撃を無効化された為か、モルトは両足の炎をジェット機のように噴射して迫る。

 それを見た綱吉はもう一つ持っていた匣をモルトの方に向ける。

 匣の蓋が開き、中から大空の炎が灯ったダーツが複数射出され、モルトに殺到する。

 

「くっ…………!」

 

 両足から炎を出して接近しようとしていた事もあり、回避する間も無く射出されたダーツはモルトの身体に深々と突き刺さる。

 ダーツが突き刺さった衝撃とダメージが大きかったのか、モルトはその場で静止し怯んでいた。

 

「はぁっ!!」

 

 生み出した隙を綱吉は見逃す事なく、奪い取った剣を振るってモルトに斬りつける。

 受けたダメージに怯んでいたからか、死ぬ気の炎による防御は無く、綱吉の剣はそのままモルトに通った。

 

「ぐぉおおおおおっ!?」

 

 身体を斬り付けられ傷を負ったモルトは悲鳴を上げる。

 剣から伝わる肉の感触の不快感に顔を顰めるも、すぐさま攻撃を叩き込もうとする。

 しかし、攻撃がモルトに届く事はなく、剣で防がれてしまう。

 

「…………見事。と、言いましょうか」

 

 老人とは思えないような膂力でモルトが剣を振り抜き、鍔迫り合っている綱吉の身体が宙を舞う。

 綱吉は空中でなんとか姿勢を立て直し地面に無事着地する。

 

「皮肉か?」

 

 左の目の下に出来た傷から流れた血を服の袖で拭い、溜息混じりに吐き捨てる。

 さっきからモルトは自分の事を褒め、賞賛こそしているものの綱吉としてはあまり嬉しくはなかった。

 戦いや争いで褒められる事なんて無いと思っているし、そもそも間違っているとも思っている。他に方法が無いからやっているだけで、する必要が無いならば間違いなくやらない事だ。

 加えて、モルトが言っている賞賛の言葉も綱吉からしたらモルトに一方的に負けている状態で言われたものだ。煽りや侮辱としてしか思えない。

 

「いえいえ、心からの賞賛ですよ」

 

 しかし、モルトから向けられている感情に嘘偽りは無い。

 この男は本当にそう思っている。

 

「貴方以外の他のボンゴレ10代目候補。エンリコ・フェルーミ、マッシーモ・ラニエリ、フェデリコ・フェリーノはいずれもボスに足る資質の持ち主でした。実力だって今の貴方にも負けていなかったでしょう」

「……………」

「ですがそれは当然といえば当然の話です。彼等は貴方やもう一人よりも年長の人物であり長い間裏社会に身を置いていたという経験があります。あの三人が貴方のようについ最近まで表社会で暮らしていて、貴方のように突然戦いの日々を送る事になれば間違いなく生き残る事はできないでしょうね」

 

 モルトはその後「尤も、それは無意味な仮定の話ですが」と言うと剣を構え、刀身に二種の属性の炎を圧縮させる。

 ただ纏わせるのではなく刀身に凝縮している炎を見て、綱吉は目を見開く。

 あの攻撃はヤバい。防御することも、迎撃することも不可能だ。

 綱吉これから来る攻撃に対し全力で回避しようとして、背後を見てその選択肢を頭の中から無くす。

 

「くそっ!!」

 

 刀身に渾身の死ぬ気の炎を纏わせ、盾にする事で攻撃を防ごうとする。

 しかし、モルトの攻撃は綱吉の防御をいとも容易く突破し、刀身ごと綱吉の右腕を斬り裂いた。

 鮮血が飛び散り、斬られた右腕が宙を舞う。

 

「っ、ぅ…………!!」

 

 遅れてやって来た激痛に歯噛みし、その場で蹲りそうになるのをなんとか堪える。

 回避から防御に考えをシフトした時点でこうなる事は覚悟はしていた。

 それでもこの激痛と喪失感は我慢出来そうには無い。今にも泣き出してしまいそうな程、体験した事のない痛みだった。

 

「沢田さん!!」

「ボスっ!!?」

 

 右腕を斬り飛ばされた事にユニと凪の二人は声を上げる。

 幸いなのは二人の近くに自身の腕が転がっている事だろうか。

 二人にあんな表情をさせてしまっている時点で、本当に幸いかどうかは分からないが。

 

「今の攻撃、防げると思いましたか? だとすればそれは失策で――――ああ、なるほど」

 

 今の一撃を回避ではなく防御した事に怪訝な表情を浮かべるモルトだったが、綱吉の意図を察した事で納得する。

 

「回避すれば後ろの二人に攻撃が直撃しますからね」

「…………えっ?」

 

 モルトの言葉に凪は間の抜けた表情を浮かべる。

 一方、ユニはモルトが言った意味を理解したのか唇を歯噛みした。

 彼の言う通り、ユニと凪の位置は今の綱吉の真後ろであり、今の攻撃をもし回避していたら間違いなく二人は死んでいただろう。

 だからこそ、綱吉は攻撃を防御するしかなかった。

 

「これは、きみの事を少し過大評価し過ぎていましたね」

 

 綱吉のやった行動の意味を理解したモルトは落胆の意を示す。

 

「貴方は間違いなく強くなる。ですが、その甘さはマフィアのボスとしては不適切です」

「オレは…………マフィアのボスになんか、なるつもりなんか無いっ!」

 

 睨みながら吐き捨てた綱吉の言葉にモルトは目を見開く。

 

「成る程、表社会で生きて来たから色々と疎いのですね」

 

 モルトは溜め息を吐きながら綱吉に優しく説明するように語り掛ける。

 

「貴方はマフィアのボスになるつもりが無いと言いましたね」

「…………そうだ」

「仮にマフィアのボスにならなかったとしましょう。それでも貴方がマフィアから離れて生活する事は絶対にできませんよ」

 

 断言するかのように、実際に断言しているモルトの言葉に綱吉は目を見開く。

 

「理由はいくつかあります。貴方がマフィアボンゴレの初代の血統を引き継いでいるからです。他に後継者がいた頃ならばまだ普通に表社会で生活出来たのでしょうが、全滅した今、貴方はボンゴレにとって唯一の後継者です。ボンゴレが貴方を後継者として据えた瞬間、裏社会の住人はここに貴方の存在を知ってしまったのですよ」

「それが、どうした」

「鈍いですね。分かりやすく言うと、貴方はマフィアにならなくても裏社会の人間に身柄を狙われる立場になったのです。ボンゴレファミリー初代の最後の血統、狙われるにはそれだけで十分です」

 

 なんて理不尽な話だ。モルトの説明を聞いて改めてそう思う。

 

「血統なんか、関係無いだろ。オレなんかよりも優秀な人を指名してやれば…………」

「他の組織ならそれも出来たのでしょうがボンゴレファミリー、そしてジッリョネロファミリーは他とは違います。血統を重視しているのではありません、血統じゃなければいけないのです。詳しい理由は分かりませんがね」

 

 モルトは「さて」と話を続ける。

 

「貴方がボスになろうがならなかろうがどちらにしろ表社会では生きてはいけません」

「それでも…………オレはマフィアのボスになんか」

「言い方を変えましょう。貴方のせいで沢山の人間が死にます。こんな風に」

 

 何の脈絡も無くモルトは瞳のヘルリングの鉤爪を出現させ、ユニや凪に向けて放った。

 

「っ!! ユニ! 凪! ごめん!!」

 

 超直感のお陰で攻撃を察知する事が出来た綱吉は二人を蹴り飛ばす。

 片腕を失ってしまった為、手荒な真似しか取れなかったものの二人はなんとか攻撃に当たらず、綱吉も強引に身を逸らして回避する。

 

「い、いえ、大丈夫です…………!」

 

 綱吉に蹴り飛ばされたユニは特に怪我をしている様子はなく、斬り飛ばされた綱吉の右腕を抱えている。

 

「お前、何をする…………!」

「何と言われましても、彼女も標的ですので。そこの術士のお嬢さんは標的ではありませんが、消しても問題は無いですし」

 

 怒りの形相を浮かべる綱吉に対し、モルトは飄々とした態度を取る。

 

「いずれにせよ遅かれ早かれこうなる運命でしょう。本当に勿体無い話です。才能や素質は感じるのに、その甘さはマフィアとしては不向き。貴方は私の結末にはなりませんでしたか」

 

 酷く残念そうにモルトは呟く。

 

「こうなれば致し方ありません。貴方達を殺し、後継者が居なくなってボンゴレが崩壊した後に訪れる動乱を待ちましょう。裏社会の主柱たるボンゴレが壊滅すればその後の覇権争いは確実ですからね」

「…………そんなに、争いたいのか」

「ええ。今の裏社会を見れば分かる通り、誰も彼もが争いを求めています。この技術や死ぬ気の炎が表社会に流れているのを察するに、かの悪名高い復讐者(ヴィンディチェ)も時代の流れを止める事は出来ていない。もっと沢山の血が流れて人が死ぬ事になるでしょうね」

「何で、争う?」

「色々と理由はあるでしょうが結局のところ、この世界やルールが気に食わないから壊したいだけなのでしょうね。暴力が支配する世界こそが彼等の望みかと。私の場合はその理由に加えてさっきも言いましたが、私は死に損なってしまった亡霊です。平和で安穏な中で最後を迎える等、かつての同胞に申し訳な――――」

「もういい黙れ」

 

 モルトの話を一方的に打ち切り、綱吉は真っ直ぐモルトを見据える。

 表情こそ冷静なままだがその瞳は憤激に染まっており、額に灯っている死ぬ気の炎も激しく燃え盛っていた。

 

「さっきから聞いていたけど本当に理解出来ない。何でそんなに壊したい、何がそんなに気に食わない。どうして関係無い他人を傷つけてへらへら笑っていられる」

 

 最早右腕の痛みと喪失感等綱吉の頭からは消え失せている。

 それに呼応するかのように普段は臆病で大人しいナッツも怒っていた。

 

「何の関係も無い他人だからでしょうね。苦しんでも壊れてもどうでも良いのだから」

 

 そしてモルトのその言葉を聞いた瞬間、綱吉の雰囲気が変質した。

 死ぬ気モードから感じた荒々しさは消失し、落ち着いているようにも見える。

 しかし額の死ぬ気の炎の純度が上がり、瞳の色が死ぬ気の炎と同じ色に変化している。

 

「自分の喜悦の為だけに他人を犠牲にするお前を、オレは…………許さない!!」

 

 それは死ぬ気モードよりも上の戦闘形態。

 通常ならばリングを介してなければ使う事が出来ない死ぬ気の炎を意識的に使う事が出来るモード。

 

――――(ハイパー)死ぬ気モードに覚醒した瞬間だった。

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