誰だ! こんな暗い展開にしたのは!!
先生怒らないから出てきなさい!!
「――――なぁボス。本当に挨拶だけで良かったのか?」
自己紹介をした後、病院を立ち去ったリボーン、ディーノ、ロマーリオの三人は並盛町を歩いていた。
ついさっきまではシャマルも居て四人だったが「可愛い子ちゃん達がオレを呼んでるのさ」と言って夜の街に消えていった。
恐らく暫くの間は戻って来る事は無いだろう。戻って来るとしたらお金が無くなった時ぐらいだろうか。
そんな事を考えながらディーノはロマーリオの言葉に耳を傾ける。
「ああ、今はあれで良いんだ」
「しかしよ。ただ挨拶だけして帰るってのもなぁ。怪我が酷いってのもあるとは思うが、もう少し親交を深めたりとか」
「今のツナ相手にそれはちょっと難しいと思うぜ」
ロマーリオの言葉にディーノは乾いた笑みを浮かべる。
脳裏に過ったのは握手をしようと手を差し出した時の綱吉の表情だ。
その時の顔は一見すれば戸惑っているだけにしか見えない。しかし、その時の綱吉の瞳からは友好的なものは一切無かった。
むしろその逆で敵意に近いものだった。
「いやー、オレも昔はあんな感じだったなぁ」
そう言ってディーノは昔の事を思い返す。
キャバッローネファミリーという五千近い組織傘下に収める巨大組織、その跡取りとして生を授かった。
しかし、昔の自分は誰の目から見てもボスに相応しくない子どもだった。
ドジでおっちょこちょいでへなちょこで、それに加えてマフィアのボスの子どもだったにも関わらずマフィアにはならないと言っている始末。
「昔のオレよりずっと根性あるけどな」
「だな。ダメツナもへなちょこディーノと一緒にされちゃたまらないだろうぜ」
「ひでーな!」
リボーンの毒舌にディーノはツッコミを入れる。
とはいえ、その言葉の通りだった。周囲から卑下され続けても命懸けで戦うダメツナと敵前逃亡して父親を死なせたへなちょこディーノ。
過去の出来事とはいえ、もし昔の自分に彼のような勇気と根性があれば少しは違ったのだろうか?
「とはいえ、あまり良い傾向じゃねぇけどな」
感慨深そうにしているディーノを尻目にリボーンは小さく呟く。
「そりゃそーだよな。あんな目にあい続ければ当然だろ」
リボーンの呟きにディーノも同意する。
裏社会に関わってまだ一月も経っていない。にも関わらず沢田綱吉がその目で見て、体験してきたものは自分の目から見ても酷いとしか言いようが無いものだ。リボーンならば関わらせないようにするだろうし、ディーノでさえ知るには早過ぎると思う。そんなものを知った表社会で育って来た子どもがどうなるかなど、火を見るよりも明らかだ。
現に自分達に対して嫌悪感を向けて来た。
いや、むしろあれで済んだだけでマシだったと言うべきだろう。
――――自分達は罵倒されることも覚悟してたのだから。
肝心のボンゴレファミリーは守る為に戦力を回す事すらせず、それどころか更に負担をかけさせようとしている。
本当に酷い悪循環だ。こんな目にあわせられれば誰だって不信感を抱くに決まっている。
「9代目がオレ達を日本に送ったのもかなり無理をしてるからな」
本当ならば自分達は日本に来る事が出来なかった。
それでもここに来れたのはボンゴレ9世が周囲の反対を押し切ったからだ。
本当に9代目には頭が上がらない。自分が離れてる間、キャバッローネファミリーのシマを守ってくれているのだから。
「さて。そういうわけだからとっとと帰ってくれると嬉しいんだが…………まあ無理な話か」
そう呟くディーノの視線の先には六人の人間の姿があった。
誰も彼もが同じような容姿をしており、額から死ぬ気の炎が燃え上がっている。
否、その表現は正しくない。六人の男達は全く同一の背丈と容姿をしていた。唯一違うのは死ぬ気の炎の属性ぐらいで、大空属性を除いた六つの属性の炎が各々の額に灯っていた。
「世界には自分そっくりな奴が居るってのは聞く話だけどよ」
死ぬ気の炎がそれぞれ別の属性というだけならば特別不思議な話ではない。其々得意とする属性を持つ者でチームを組むのは珍しい話ではないし、そこに大空属性の者が居ないのも稀有という理由だけで説明がつく。
しかし、容姿背格好が同じで全員が違う属性の人間達で構成されたチームというのは違和感を通り越して明らかに怪しかった。
容姿が全く同じというのは六子と考える事も出来なくはないが、全員が死ぬ気の炎を灯すことが出来るというのはおかしい。仮にそれに目を瞑っても、今度は全員異なる属性という事実が違和感を突き付けて来る。
「これは明らかにおかしいだろ」
ディーノの脳裏にある可能性が過ぎる。と、いうかその可能性の方が高い。
「M・C・ローバっつう科学者がプロトタイプを完成させたってのは聞いてはいたがな。既に量産も始まっているとはな」
拳銃を構えながらリボーンは反吐が出ると言わんばかりに吐き捨てる。
実際、事情を知っていれば反吐の一つでも吐き捨てたくなるような光景だ。
「本当、ツナには見せられないな」
ただでさえマフィアが嫌いだというのに、こんなものを見せられれば更にマフィア嫌いになるだろう。
別にそれはそれで構わない。が、少なくともこんなものを見るには早過ぎる。
例え、子どもでいられる時間がそう長くなかったとしても。
「そんじゃあ、行くぜリボーン!」
「オレに命令すんな」
二人は短く言葉を交わし、六人の男達に対し攻撃を仕掛けた。
+++
綱吉が病院に入院してから約一週間の時間が経過した。
この一週間は今までの騒動が嘘だったかのように平穏な時間だった。
とはいえ、忙しくなかったかと言われればそうではなく、むしろ忙しい日々を過ごす事になった。
意識が目覚めた事を聞いた奈々が病室にやって来て、泣かれたり慌てふためいたり色々と心配された。
その時の様子に困惑したが、よくよく考えれば当然の話だ。
子どもの腕が斬り落とされたのだ。何とか無事にくっつきはしたものの、親として心配するのは当たり前である。
傷がくっ付いたおかげでリハビリもするようになったが、それもまだ二日しかやってないにも関わらず辛い時間としか思えなかった。
斬られた右腕の機能を回復させる為に指や肘を動かそうとするのだが全くと言っても良い程、右手は動かなかった。少しだけ動かす事が出来るものの斬られる前に比べれば雲泥の差で、軽く指を曲げる事ぐらいしかできない。
そして、その指を軽く曲げる事でさえ痛くて辛くて匙を投げてしまいそうになった。
「ふぅ…………ふぅ…………!」
「はい。今日のリハビリは終わりですよ。ゆっくりとやっていきましょう」
リハビリで酷使した右腕を抑え、綱吉は涙目になりながらリハビリ室を後にする。
看護師が何か言っていたような気がしたが今の綱吉の耳には届かなかった。
そんな事よりも今は早く病室に帰って布団の中に突っ伏したかった。
「はぁ…………上手くいく気がしないなぁ…………」
そう言って綱吉は首から下げている自らの右腕に視線を向ける。
試しに右手を思いっきり開こうと力を込めるも、ピクッと微かに動くだけで開くことは無かった。
リハビリを始めてこれで三日目になるがとても良くなっているとは思えない。たった三日で良くなるわけが無いとは分かっている。それでもここまで動かないとネガティブな気分になって来る。
――――もしかしたら、このまま二度と動かないのではないだろうか?
腕が斬られた時した選択を後悔しているわけじゃない。あの時、自分が守らなかったら二人は死んでいたのだから。
それでも腕を失った事による喪失感は大きい。
「早く、元の状態に戻さないと…………」
首を真綿で締め付けるような焦燥感が綱吉の心を侵す。
今のこの平和な時間が一週間前にイタリアからやって来たリボーン、ディーノ、ロマーリオと名乗った人達のおかげで出来ている。
だけど、それもいつまでも続くわけじゃない。あの人達が日本に居るのは自分の怪我が治るその時までだ。
だから早く治らなければ、そう自分に言い聞かせながら綱吉は自身の病室に入り、ふと視線を室内にあった鏡に向ける。
鏡に映った自分の顔は以前の自分とは比べ物にならないくらい、焦燥感に包まれた顔をしていた。
いや、それだけではない。モルトとの戦闘で負った左頬の傷跡が酷く目立つ。
その傷跡は赤い十字架のようにも見えた。
『仮にマフィアのボスにならなかったとしましょう。それでも貴方がマフィアから離れて生活する事は絶対にできませんよ』
以前、モルトが言った言葉が綱吉の脳裏に過る。
左頬に刻まれた傷後がまるで自分に逃げられないと言っているかのようだった。
「…………言われなくても分かってるんだよ」
綱吉の絞り出すような弱い声が誰も居ない病室に響いた。