本当はもうちょっと早く投稿したかったのですが忙しくてこんな遅くになってしまいました。
それでは今年もよろしくお願いします。
「いつつ…………」
病院の敷地内にて、ディーノは痛む個所を摩りながら歩く。
その身体は至る所に治療した痕が残っており、絆創膏が貼ってあったり包帯が巻いてあったり等、生傷が絶えない様子だった。
「いくらなんでも多過ぎだろ。襲撃」
うんざりしていると言わんばかりに顔を顰めながら呟く。
実際のところ、現状にうんざりしていた。それはディーノだけではなく、リボーンも同じ事を思っている。
ディーノ達三人が日本に来て早十日。敵は毎日のように襲撃しに来ていた。
倒しても倒しても次の日には何事も無かったかのようにやって来る同じ顔に同じ背丈、にも関わらず全員が全く別の属性の男達。
毎日毎日飽きる事無く襲撃に来る敵に対し、疲れないわけが無かった。
最初の内は難なく倒す事が出来ていたものの、疲労が蓄積していけばダメージを受けるのも当然だ。
尤も、自身の家庭教師であるリボーンからは「まだまだあめぇな」と厳しい評価だったが。
「怪我が治って、右腕が元通りに動かせるようになったとしても、今のツナには厳しいんじゃねぇか?」
新しく出来た後輩の事を考えながら道中、廊下を歩いていた看護師に黄色い視線を向けられるも、ディーノは気にする事無く綱吉の病室に向かう。
はっきり言ってディーノの想像よりも事態は悪い。
最悪ではないだけマシかもしれないが、それでも最悪の一歩手前、それよりも少し前ぐらいでしかない。
今はまだ何とか出来ているがこれから先も上手くいくとは限らない。
本当にままならないものだ。そう思いながらディーノは溜め息をつく。
「そんな面してると幸運が逃げ出しちまうぞ」
するとディーノの背後から自身の家庭教師の声が響く。
「リボーンか」
「気付くのがおせぇぞ。気配を隠してないんだからすぐに気付きやがれ」
「無茶言うなよ」
相変わらずの神出鬼没っぷりに乾いた笑みを溢しながら、ディーノは声がした方向に視線を向ける。
其処にはリボーンとユニの二人の姿があった。
「って、ユニも一緒に居たのか」
「はい。リボーンおじ様に少し相談したい事があったので」
「相談したいこと?」
「はい。沢田さんの件でちょっと…………」
あまり浮かない表情のユニを見て、悩みがあると察する。
むしろ悩まない方がおかしいだろう。こんな状況で家庭教師をやっているのだ。加えて、生徒は自分を庇い、繋がったとはいえ右腕を斬り落とされているのだから。
「そういや、凪って嬢ちゃん見かけねぇな」
「凪さんは今別行動してます。いえ、鍛えてるって言った方が正しいですね」
「そうか」
まだ一人だけではあるが、ツナはボス思いの
間違いなく良いボスになれる人間だ。
とはいえ、問題は山程ある。自分の時とは違う、解決しなければ前に進めないような難しい問題が。
そう考えるディーノにユニは意を決したかのように話し掛ける。
「もし、宜しければディーノさんも相談に乗ってくれませんか?」
「ああ、構わないぜ」
後輩の悩みを聞き、道を示すのも先輩の務めだ。
ディーノはマフィアのボスになった先人として、ユニの悩みに耳を傾けた。
+++
病院の中庭に場所を移し、ユニはリボーンとディーノの二人に吐露する。
この十日間、毎日のように見舞いに来ていたユニには綱吉の変化がよく分かった。
そしてそれが良くない変化であるということも、綱吉が今凄く精神的に追い詰められていて焦っている事も理解していた。
繋げられた右腕のリハビリが上手くいっていないのも要因の一つだろう。が、それはあくまで要因の一つに過ぎない。
いや、それすらも正しくはない。今綱吉が精神的に追い詰められているのは今までが原因だからだ。
マフィアのボスの後継者である事。それが原因で裏社会の殺し屋達に命を狙われている事。自分が原因で関係の無い誰かが被害にあう事。一歩間違えば取り返しのつかない怪我を負いかねない事。
そして、人間を殺す事――――。
列挙するだけでつい最近まで表社会で生きていた普通の少年が背負うにはあまりにも酷過ぎる現実だ。しかも全部が短期間の出来事だ。
そんな度し難い状況の中で自分という何の役にも立たない足手まといを守りながら一人で戦っている。
家庭教師であるにも関わらず、生徒を死地に送る事しか出来ず生徒に守られているようなダメな先生を、だ。
「――――リボーンおじ様。ディーノさん。私は、本当に沢田さんの家庭教師で良いんでしょうか?」
心の内に溜め込んでいた悩みを全て吐露するとユニの瞳から涙が溢れた。
それは
ユニが抱いていた思いを聞いてディーノは顎に手を当てて考える。
何と答えれば良いか。家庭教師という立場に立った事があるわけではないディーノには彼女を納得させられるような、家庭教師として納得するような答えを出せない。
ならば生徒の立場として答えれば良いのだが、それはそれで納得するとも思えない。
彼女の中では自分は何の役にも立ってないと思っているのだから。
「その前に言わなくちゃいけない事がある」
ディーノが一人悩んでいると、リボーンがいつもの調子で話しかける。
「ユニ。イタリアに帰る気はないか?」
「えっ?」
リボーンのその言葉にユニは当然として、ディーノも呆気に取られる。
「沢田綱吉はマフィアのボスになるつもりが無い。なら日本に残って家庭教師を続ける理由も無い」
「お、おじ様…………それは…………」
「余裕がある時なら時間をかけてマフィアのボスになる事を選ぶようにする事も出来ただろうが今はそんな余裕は無い。日本も安全とは言えなくなってきたわけだし、ここらで帰るのも選択肢の一つとしてありだと思うぞ」
淡々と告げるリボーンの言葉にディーノは内心舌を巻く。
正論だった。正論としか言いようがなかった。これが普通の家庭教師、裏社会での家庭教師を基準に考えれば家庭教師失格といっても過言ではない。
しかし、ユニは正式な家庭教師ではない。家庭教師もやってはいるが日本に避難しているだけに過ぎないのだ。
だからこそ、リボーンから提示されたその道も選択肢の一つだった。
「いえ、それは出来ません」
ユニはリボーンから提示された考えを首を横に振って拒否する。
「私は、沢田さんの家庭教師として不適格です。教師なのに生徒に守られて、彼のその手を血で汚させた酷い女です」
思えばあの時、マッドクラウンを手に掛けた瞬間から狂ったのかもしれない。
マフィアになりたくないと言っていた普通の優しい少年を、後戻りする事が出来ない暗い道に引き摺り込んでしまった。
「なのに、沢田さんがマフィアになりたくないと言っているのを理由に逃げ出すなんて、出来るわけが無いじゃないですか…………!」
「なら答えは決まってるな」
ユニの言葉を聞いたリボーンは笑みを浮かべる。
いつものニヒルな、けれどもどことなく優しい慈愛に満ちた笑みを。
「ユニ。お前が家庭教師として相応しいかどうかなんて段階はもう過ぎちまってる。ダメツナの家庭教師はお前しか居ない。例えどれだけ未熟だとしてもだ」
「は、はい」
「ダメツナを導けるのは出会ったばかりのオレ達じゃあ出来ない。お前だけなんだ。お前の言葉しか今のあいつには届かない」
「で、でも私に沢田さんの心に届く事を言えるでしょうか…………? それに間違えてしまうかもしれませんし」
リボーンからの言葉にユニは自信無さげに呟く。
その呟きにディーノは笑みを浮かべ、口を開いた。
「大丈夫さ。家庭教師としてツナを見て来たあんたなら、きっとツナの心に届くだろうさ。仮に間違ったとしても今はオレ達も居るからフォローは出来るぜ」
「ヘナチョコが一丁前に言うようになったじゃねぇか」
「まあな。リボーンの教えのお陰だぜ」
互いに軽口を叩き合いながらもそこには確かな信頼がある。
その信頼関係がユニには少しだけ羨ましく思えた。
「そういえばディーノさんは沢田さんにどんな用事が?」
「ああ。ツナに渡したいものがあってよ。来た時はとても渡せるような状況じゃあ無かったからな」
ユニの質問に答えながらディーノは懐にある物に視線を向ける。
「オレのお古だがな。無いよりは役に立つと思うぜ」
ディーノは視線を綱吉の病室を見上げる。
「そんじゃ、そろそろツナの所に行くとするか」
そう言ってディーノが歩き出そうとした瞬間だった。
病院全体を覆うように薄い死ぬ気の炎がドーム状に張られたのは。
+++
――――今日も上手くいかなかった。
全くと言っても良い程に成果が見えてこないリハビリに綱吉は今日も浮かない表情をして項垂れる。
上手くいっていない、わけではないのだろう。看護師が言うには順調との事だし、想定以上に傷の治りが早いらしい。それでも綱吉が求める基準にはとても達していなかった。
こんなにゆっくりしていて良いのだろうか?
焦りと不安から綱吉の心はどんどん暗くなっていく。
そう考えていると病室の扉をノックする音が聞こえた。
「…………どうぞ」
この時間帯に来るのは恐らくユニだろう。
ならいつまでも暗い顔をしていてはいけない。綱吉はネガティブな考えに陥っている事を悟らせないように笑顔を作る。
そして病室にやって来た人間の顔を見て目を見開く。
「山本…………?」
「よっ、ツナ。元気か――――って、その様子じゃあんまり元気じゃないみたいだな」
病室に入って来た山本武は右腕を負傷しているのか、三角巾で固定していた。