男達が狙っているのは自分だ。
そう判断した綱吉は自分の手元に置いていた
「ナッツ、咆哮!!」
「GAO!!」
迫る攻撃を紙一重で回避し、匣からナッツを出現させる。
前方に居た男達は続け様に綱吉に攻撃を加えようとするがそれよりも先にナッツの咆哮が先に男達に襲い掛かる。
大空の特性である『調和』。それによって生じる石化を男達は防ぐ事が出来ず、なす術なく石像に成り果てた。
「ナッツ。そいつ等はそのまま石にしといて!」
自身の相棒に命令を下しながら後方に居た男達の方に視線を向ける。
残った三人の男達は自らの仲間が物言わぬ石像に変わったにも関わらず、間髪入れずに襲いかかって来る。
まるで戦闘機械のように。
「っ、くそ…………!」
怯む事なく攻撃して来る男達に対し、綱吉は苦虫を噛んだような表情を浮かべる。
念の為近くに置いてあったナッツが入った匣は兎も角、他の匣は少し離れた所にある。加えて、今の自分は右手が使えず匣を持つ事も出来ない。
匣を手に取って死ぬ気の炎を注入する。
そんな簡単な作業を今の自分はする事が出来なかった。
片手で何処まで戦えるか。そう思いながら左手に付けたリングに死ぬ気の炎を灯し迎撃体制に入ろうとする綱吉の前に恭弥が躍り出た。
「ひ、雲雀さんっ!?」
「きみ達、僕の前で風紀を乱すなんて良い度胸してるね」
恭弥の突然の行動に綱吉は驚く。
死ぬ気の炎を纏った物を前に死ぬ気の炎が使えない者が立ったところで勝ち目は殆ど無い。一応勝ち目がある場合も無いわけではないが、実力に余程の差が無い限り滅多に起こらない。
ましてや相手の数が多いなら、それが起こる確率は低い。
そして、綱吉の一部は違ったものの予想通り恭弥は押し負け、壁に叩き付けられた。
唯一予想と違ったのは押し負けはしたものの怪我が少なかった事だろう。
「……………」
恭弥は酷く不機嫌そうにムスッとした表情を浮かべていた。
恐らく力負けした事が気に入らなかったのだろうが、この際それはどうでも良い話だ。
「良かった…………」
トンファーを身を守る盾にしたおかげか、恭弥が負傷こそしていたものの大怪我をしていなかった事に綱吉は安堵する。
打ち所が悪ければ最悪死んでいてもおかしくないような状況だったのだ。トンファーが使い物にならなくなったものの、軽傷で済んだのは本当に運が良い。
「ツナ!」
綱吉の耳に武の声が響く。
声が聞こえた方向に視線を向けるとそこには匣を持った武が立っていた。
「山本!」
「こいつ等が誰なのか、これが何なのかは分からねえけど…………ツナが今必要としてるのはこれだろ? 今からそっちに投げるぞ!」
武は左手に持った匣を下から放り投げ、それは綱吉の近くに飛来する。
「ありがとう山本!!」
自身が今一番欲しかったもの。それを渡してくれた武に綱吉は感謝の言葉を伝える。
そして宙を舞う匣に綱吉が拳を叩き込むようにして死ぬ気の炎を注ぎ込む。
炎を注入された匣が開匣し、中に入っていた武器が飛び出して来る。匣の中に入っていた物はモルトとの戦闘の時、手に入れた剣だった。
「――――らぁ!!」
匣から出た持ち手を掴み剣を引き抜く。
引き抜かれた刃は大空の死ぬ気の炎を纏い、三人の男達に振るわれる。
男達は迫る斬撃を防ごうと雨、晴、霧属性の死ぬ気の炎を放出して防ごうとする。
しかし、大空の特性である『調和』は他の炎の性質を無効化する。
綱吉が振るった刃は男達の防御を容易く貫いて両断し、全員を地に沈めた。
「…………やっぱり、か」
倒れた男達を見下ろして、綱吉は予想していた事が当たった事に顔を顰める。
斬られた事によるダメージもあるし、出血しているのにも関わらず男達は動こうとしていた。
しかし、死ぬ気の炎が消失した瞬間、死んだように動かなくなった。
「つ、ツナ…………」
「ゴメン山本。こんな光景を見せたくは無かったんだけど」
綱吉は戸惑う武に謝る。
彼の顔を見るに、何が起こっているのか理解出来ていないのだろう。
だがそれは綱吉も同じだった。こんな真昼間から強襲を受ける事は今までに――――無かったわけではない。最初のマッドクラウンも明るい時間に襲って来たのだから。
しかし、こんな一般人が大勢居る状況でここまで大っぴらに強襲してきたのは初めてだ。
ましてや病院全体を覆うような死ぬ気の炎の結界を張った事も。
「待て、いや、ちょっと待て」
ある事に気が付いた綱吉は病室から飛び出して外の光景を見る。
死ぬ気の炎にはそれぞれの属性にあった特性があり、結界として張られた死ぬ気の炎には大空を除く六つの属性が使われていた。
雨の属性の特性は『鎮静』で晴属性の特性は『活性』。霧属性の特性は『構築』で雲属性の特性は『増殖』。
そして雷属性の特性は『硬化』で嵐属性の特性は『分解』。
――――もし自分の想像が正しければ、この結界は閉じ込めるだけのものじゃない。
結界とは外部から隔離する為にある。ユニからそういった技術があるという事を教えられた。
相手を閉じ込める為だったり、遠ざけたり等用途は様々だが結界は中から出さない為にあるものだ。
ならその結界に死ぬ気の炎の特性を乗せれば内側に
脳裏に過った最悪の可能性を否定したいが為に扉を開けた綱吉が見たものは、
「た、助け…………て…………」
「い、いたい…………」
「気持ち悪い、助けて…………お母さん…………」
――――残酷なまでの現実だった。
苦痛に悶え苦しむ看護師や患者、医者が床に転がっていた。
理由は明白だ。死ぬ気の炎による結界、その効果だ。
霧属性で結界を構築し雷属性で結界を強化、内部に居る者を雨属性で動きを止めて嵐属性で苦しめる。それに加えて晴属性と雲属性で嵐属性を強化する。
そうすれば張っているだけで中に居る者にダメージを与える結界の完成だ。
そして弱っているところを男達が強襲すれば確実に標的を始末できる。人道に反している事を除けば本当に効率的だ。
「これを考えた奴は、悪い事だなんて思ってもいないんだろうな」
今まで戦って来た連中は良くも悪くも自分が悪い事をしているという思いがあった。
だがこれには悪意は無い。超直感を通して相手を見たわけではないから分からないが、なんとなくこの結界や男達からは前向きな感情が感じる。
それがどうしようもなく許せなかった。
「…………ふざけんな」
今まで生きてきた中でこれ程までに怒った事は無い。
そう思ってしまうくらいに今の綱吉はこんな惨状を作り出した下手人に怒りを抱いていた。
武が投げ渡してくれたこの匣は保存用の匣――――道具等の物を収納する事が出来る匣だ。
その性質上他の武器用の匣兵器とは異なり、中に入っているのは厳密に言えば匣兵器じゃなくただの武器でしかない。
だが片手しか使えず、上手く匣を使えない今の状況ではそれがありがたかった。
「なぁ、ツナ。何が起こってるんだ? なんか、すっげぇ怒ってるみたいだけど」
心の底から沸き上がって来る怒りに身を震わせている綱吉に武が声を掛けてくる。
「山本…………?」
そう言えばどうして山本と雲雀さんは結界の影響を受けていないのだろうか?
結界の中に居るにも関わらずピンピンとしている二人を見て綱吉は疑問を覚える。
恭弥に至っては負傷しているにも関わらず既に立ち上がっている。と、いうか明らかに怒って不機嫌になっている。
一体どうして二人は無事なのだろうか――――。
「大空の特性、が原因?」
と、いうよりもそうとしか考えられない。
結界が張られた瞬間、嫌な予感がしたから綱吉は瞬時に大空の炎を放出した。
そしてその炎は近くに居た二人の身を守る事に繋がったのだろう。これが他の属性だったならばこんな結果にはならなかっただろう。
だがそれが良い方向に繋がるかはまた別だ。
二人が無事だったのは喜ばしい事だが、この予想が当たっているならば自分が距離を置けば二人も他の人達と同様に苦しむ事になる。
それを選ぶ事が出来る程綱吉は冷酷ではなかった。
だがその為には事情を話さなければいけなくて――――、
「…………ねぇ。きみ、この状況がどういうことか、知っているんだろう?」
「雲雀さん…………」
「いい加減に話してくれないかい?」
自身に向けられる雲雀恭弥の視線に綱吉は何も言えなくなり黙り込む。
そして少し考えた後、溜め息を吐く。
「…………分かりました。今から事情を話します」
事ここに至っては話さないというのは不可能である。
そう判断した綱吉は二人にどうしてこんな事になっているのか、その理由を話し始めた。
ちなみに今のツナは白蘭との最終決戦時ぐらいに怒ってます。