「――――話が違うぞ!!」
病院の外周にて白衣を身に纏った男、M・C・ローバは黒スーツの男達に掴みかかっていた。
その顔は心底怒りに満ちていると言わんばかりに歪んでおり、今にも掴みかかっている男を殺しても不思議ではない程だった。
しかし、男達は掴みかかって来たローバを軽々とあしらう。
「話が違うとは一体何のことでしょうかね?」
「私は、ここまでするなんて聞いていない!! お前達がいう標的だけを狙うだけで良かっただろう!!」
「…………あのですねぇローバ氏」
激高するローバに男達は溜め息をしながら告げる。
「貴方が開発した人間タイプの
「役立たず、とは言いませんがもう少し強くは造れなかったんですか?」
その物言いには嘲りも含まれており、事実男達はローバを嘲笑していた。
ローバが開発した人間タイプの匣兵器の数は文字通り沢山だ。そのどれもこれもが全て敵対者の手によって破壊されてしまっている。
「こっちだって予算は限られているんですよ。もっとより良い性能の匣を作る事は出来ないんですかね?」
「…………匣兵器そのものが未だ未知数のオーバーテクノロジーだ」
男達の言葉に対しローバは睨み付けながら反論する。
「人間ほど複雑な生物を匣兵器にするとなると高度な技術と時間、そして適合する炎も特殊なものでなければならない。お前達の言う通り、誰にでも使える兵器として作るには精度落とさなければ」
「それをどうにかするのが技術者ってもんじゃないんですかねぇ?」
「本当、不甲斐ない貴方の為に我々が標的を仕留めやすいように協力をしているんですよ。感謝こそされど恨まれる筋合いはありませんよ?」
ローバの意見を一蹴し、男達は自分達の意見だけを押し付ける。
そして男達の内の一人が懐からある物を取り出して見せびらかした。
取り出されたそれは一つの匣兵器だった。
「そうそう。それとも我等に協力するのを止めるのですか? 良いですよ、我々はそれでも。ただ協定違反としてこれは破棄させていただきますがね」
「っ、止めるとは言っていない!」
「なら大人しく我々の言う事に従いなさい。言う通りにさえしていればこの匣も、この場には無い匣の方も貴方に返却しますよ。勿論、貴方の望みも叶えましょう」
男の言葉にローバはその場で拳を握り締め、何も言えなくなる。
「そうです。貴方も我々と同じ穴の狢でしかないんですからね」
そう言って大声を上げて笑い出す男達にローバは嫌悪感から顔を顰める。
しかし、男達が言っている内容も事実であり、否定する事が出来なかった。
ローバの目的を叶える為には沢山の資金と自由に研究出来る環境が必須。
それを提供出来るのは男達の組織のみだ。
ましてや、かの有名なボンゴレの後継者の命を狙った以上、バックに何かしらの組織がついていないのであるならばどう足掻いても長生きは出来ない。
――――そうだ、今更善人ぶるのは止めろ。
あの日、あの時に決意して行動に移した以上、もう止まる事は出来ない。
人としての禁忌、倫理を踏み躙った研究に手を出したのも全ては自身の願いを叶える為。
悍ましい事をしていると分かって研究に手を出したのだ。自分に彼等を悪く言う資格は無いのだ。
そう自分に言い聞かせてローバは心の中にあった良心に蓋をする。
――――だからこそ、その願いが叶わないのは必然だった。
突然、何かが砕けるような音が鳴り響く。
ローバを含めた全員が音の出所の方向に視線を向けると、そこには病院全体を覆っていた結界に亀裂と穴が開いている。
何故結界に穴が、そう考える間も無く穴から何かが飛び出した。
中から飛び出たソレは目で追う事すら出来ないような速さで男達に接近し、自身の大切な物を持っていた男に攻撃を加えた。
攻撃された男の右腕が宙を舞い、ローバの大切な物が何者かの手に渡る。
「見つけたぞ」
結界の中から飛び出し、自分達に攻撃をした者。
それは最優先で対処すべき標的である、沢田綱吉が傷付き血に塗れた姿で立っていた。
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病院を取り囲む結界は綱吉が思っていたよりも硬く、生半可な攻撃で破壊するのは困難だった。
それもその筈、この結界は大空を除いた六つの属性の炎、その特性が互いの長所を食い合わないように練られているからだ。
雨の沈静化で結界に対する攻撃を弱め、嵐が弱まった攻撃を分解し、ほかの四つの属性で結界そのものを補強する。加えて結界そのものにも攻撃性があり、内部に居る者にダメージを与え続けるという嫌な性質を持っている。
そして、これは綱吉が結界を破る際に判明した事だが結界そのものにも攻撃性があり、結界に触れただけで晴属性の活性で強化された嵐属性の分解と雷属性が襲い掛かって来る。
「でも、傷付くことを覚悟すれば破れないわけじゃない」
自身の顔から流れ出る血を拭いながら綱吉は呟く。
確かにこの結界はカウンター機能が付いている上に非常に頑強である。しかし、それだけだ。
いくら攻撃が減衰されるからといっても限界はあるし、結界の強度だって固くなってこそいるものの破れないわけではない。
だからこそ、綱吉は切っ先に全ての死ぬ気の炎を集中して攻撃した。
減衰されるのであるならば減衰しきる前に結界に直接攻撃を叩き込むという、何の策略も無いごり押しで押し通したのである。
結果、いくらかダメージを負う事にはなってしまったものの結界に穴を開ける事に成功した。
「と、いっても…………結構ダメージ受けちゃったけど」
死ぬ気の炎を防御に回す余裕が無かったからそれも仕方が無いか。
そう自分に言い聞かせて綱吉は眼前の敵に視線を向ける。
「わ、私の腕が、私の腕がぁあああああああああああ!!」
リングを装備した方の右腕を斬り落とされた男が叫び声を上げその場に蹲る。
それを見て綱吉の心がどんどん嫌な気持ちになっていく。
「やっぱり、傷付くのも傷付けるのも嫌な事だ。でも――――」
だからこそ、こんな酷い事を平気な顔でする目の前の男達が許せない。
死ぬ気の炎を灯す事が出来るのだから覚悟はあるのだろうが、他者を傷つける事は出来ても自分が傷付く覚悟も無いこんな奴等が平気な顔をしている事が、どうしても許せない。
「お前達に傷つけられた人達は、もっと痛かったんだ」
病院の中では今も苦しんでいる人が居て、命を落とした人も居る。
ユニも、今も苦しみ続けている。
「オレはお前達を許さない。でも今すぐリングを捨てて地に伏せて降伏すれば命の保証はする。無意味だとは思うけど、これが最後のチャンスだ」
「っぐ、総員! 戦闘態勢に入れ! 標的が向こうからやって来たんだ!! あんな死にぞこないのガキぐらい、今すぐ殺せぇ!!」
「…………やっぱりか」
腕を失った男が叫ぶと同時に他の男達がリングに炎を灯して匣に炎を注ぎ込み、複数の人間の匣アニマルが現れる。
そう、分かっていた事だった。分かっていた事とはいえ、事前に予想していたとはいえこうして目の前で見せられると怒りが溢れて来る。
怒ると逆に冷静になるという言葉があるが、そんな事は無い。
今にも噴火してしまいそうなこの怒りを抑え付けるだけで本当に精一杯だ。
「ヒャハハハハッ! いくらボンゴレの後継者といえど傷付き、疲弊し切った上に一人でこの数をどうにか出来るわけがな」
「確かに、その通りだ。一人じゃ無理だ」
敵の言葉を綱吉は肯定する。
ナッツも居るとは言え、その体躯は子どものそれだ。
オリジナルにして試作機、未だに性能が未知数の天空ライオンが傍に居るとてこの数を相手にするのは無謀だ。
「だから、お前等の力も使ってやる」
そう言って綱吉は敵から奪い取った匣を掲げ、リングに死ぬ気の炎を灯す。
すると敵の一人、白衣を身に纏った男が一歩前に飛び出してきた。
「ま、待て! それは――――」
「大空の属性だけは唯一全ての匣兵器を開ける事が出来る。お前等の兵器を使うのは癪だけどな」
他の敵とは違う何かを感じながらも綱吉は男の言葉を待たずに死ぬ気の炎を注ぎ込む。
そして、カチリという音が鳴ると同時に匣の蓋が開き、中から大空の死ぬ気の炎と共に一人の少女が現れる。
銀色の長い髪をツインテールにし、明快な青い色彩が印象的な少女だった。
左頬の下にはⅪと刻印されており、少しだけ妙な親近感が湧く。
「…………成程、当たりだったか」
武器型とはいえ他の属性の匣を開けた事があるから分かる。
この少女の姿をした匣はナッツと同じく大空属性の匣兵器だ。
目の前に居る数多の人間タイプの匣とは異なり、明らかに特別な存在だ。
「これでこっちは一人じゃなくなった。えっと、名前はどうしようか…………」
「…………レンジー。それが、私の個体名」
「そっか。ならレンジ―。一緒にあいつ等を蹴散らすぞ」
「分かった」
そう言って匣兵器の少女、レンジーは綱吉と共に敵に向かっていく。
――――ここから先はもう語る事は無い。
ただ結果だけを述べるのなら、綱吉達は十分も時間を掛けずに敵を殲滅した。
理由を挙げれば綱吉に余裕が無かった事が一番大きいだろう。
傷付き体力も限界寸前。そして敵に対する怒りが頂点に達していた事もあり手加減する余裕も無い。
故に綱吉は積極的に殺すつもりが無いとはいえ、死んでも構わないくらいの威力で攻撃した。
それを死ぬ気の炎を灯す事が出来るとはいえ戦闘畑ではない人間達では相手にならず、一人を除いてリングを付けた方の腕を斬り落とされ、匣兵器諸共地に沈む事になったのである。
原作では眉間に皺を寄せて戦うツナ君ですがこの作品では心の中で血涙を流して泣き叫びながら戦う事になりそうです。
まあでもマフィアのボスになるってそういう事だし、ここのツナ君の最終目的を考えるともっと辛い目にあうから仕方ないね。
――匣兵器紹介――
製作者:M・C・ローバ
属性:大空
所有者:沢田綱吉
解説
M・C・ローバが開発してしまった禁忌の匣兵器。
人間の亡骸から作られたそれは未知数の性能を有しており、オリジナルのジェペット・ロレンツィニの残した設計図から作られた大空の匣兵器にも劣らない。
現在、裏社会ではこの試作品を劣化コピーしたのが出回っている。
ローバは試作品としてこの匣を2つ制作した。
そしてこの2つの試作品を使い、より優れた匣兵器にアップデートしようと予定していた。