ならこうなる事もあり得たのではないかと思います。
ユニと出会ってからの短い時間の中、綱吉の想像を遥かに超えるような出来事が沢山あった。
殺し屋に襲撃される事は勿論、死ぬ気の炎や幻術といった超常の異能に最早SFの領域である
だが、目の前に七つの属性とは異なる黒い炎と共に現れたソレは今までの体験が大した事じゃないと錯覚してしまうくらいに悍ましく思えた。
この場に居るリボーンを除いた全員がその場で凍り付き、
「う、うわぁぁあああああああああ!! 嫌だぁ!!」
そして、首を鎖で繋がれた男達が悲鳴を上げて逃れようとする。
腕を斬り落とされた事も忘れて首輪を外そうとしている。その表情は涙や鼻水、血等の体液で酷く汚れている。
みっともない、等と口で言う事すら出来ない。
あの包帯が何なのかは分からないが、彼等があんなになるということはきっとそういう存在なのだろう。
「…………あれは、何?」
「復讐者。マフィア界の掟の番人だ。法では裁けない存在を裁く厄介な連中だ。ツナ、奴等には逆らうんじゃねぇぞ。ローバの亡骸は諦めろ」
あのリボーンをしてそう言わざるを得ない存在に対し息を飲む。
確かに見た目からして普通じゃないのは分かる。だがそれ以上に綱吉は違和感を覚えた。
まるでナッツやレンジーみたいな死ぬ気の炎を必要とする匣兵器みたいだ。
「なぁ、どうしてそいつ等を連れて行くんだ?」
疑問を抱いている綱吉の横でディーノが復讐者に問い掛ける。
「掟を破ったのは分かるんだけどよ。そいつ等、一体何をしでかしたんだ?」
「…………表社会ニ流シタ。死ヌ気ノ炎ト匣、ソシテ人間ノ匣兵器ノ技術モダ」
「っ、マジかよ」
「…………最悪だな」
復讐者から語られた事実にディーノとリボーンは顔を顰める。
「どういうこと?」
「マフィア界には
「それは確かに良くないと思うけど、そこまで悪いんですか?」
死ぬ気の炎は覚悟が無ければ使えないし、匣に至っては死ぬ気の炎が無ければ使えない。
例えその情報や現物が表社会に流れたとしても使う事が出来る者はそうはいない筈だ。
そう考える綱吉の思いを否定するかのようにディーノは語り始める。
「匣兵器っつーのは死ぬ気の炎によって動かす事が出来る。ならそれ以外のエネルギーでは動かせないのかって言われたら実はそうじゃないんだ。ただあまりにも莫大なエネルギーが必要だから現実的じゃないから死ぬ気の炎が使われている」
「それって、電気とかよりも死ぬ気の炎の方が遥かに強力なエネルギーって事?」
「ああ、その解釈であっている。死ぬ気の炎は人間の生命エネルギーでもある。そして何処の国でもエネルギー問題ってのは付き物だ」
「…………まさか」
ディーノの説明を聞いて綱吉の脳裏にある考えが過る。
「今までのエネルギーを遥かに上回る力を人間から取れるんだ。どうなるのかなんて、考えるまでも無い」
その考えが正解だと告げるかのようにリボーンがそこから先を言った。
「そんな事は――――」
無い、と言う事は出来なかった。
お金の為に人は人を殺すのだ。ならば人間から死ぬ気の炎というエネルギーを取る事だって出来るだろう。その対象は犯罪者だったり、敵だったり。いずれにせよ血で血を洗う結果になる事は変わりない。
死ぬ気の炎は覚悟を燃やす事によって引き出せる力だから。
覚悟さえあれば引き出せる力なら、覚悟せざるを得ない状況に追い込めば使う事も出来るから。
ただそういった状況でも使えない人も居る以上、死ぬ人だって沢山居るだろう。仮に使う事が出来ても超常の力を使えるようになったらそんな状況に追い込んだ存在に逆らうのは当然なわけで。
「心セヨ、ボンゴレ10世。時計ノ針ハ戻ル事ハモウ無イ。争イノ火種ハ既ニ撒カレタ」
復讐者は不吉な言葉を最後にそう言い残すと鎖に繋いだ敵とローバの亡骸を連れて去っていった。
全てを畏怖するような威圧感を放つ存在が去った事で空気が軽くなる。
「…………やっぱ、そう上手くはいかないよな」
安堵の息と共に綱吉は困ったようにそう呟いた。
+++
結果だけで語るのならこの一件で出た死傷者の数はローバを除いても4人も居た。
元々重病や重症、体調が芳しくなかったというのもあったせいか結界の攻撃に耐えきれず命を落とす事になったのである。加えて怪我や容体が悪化する人が沢山居た事で病院内は大騒ぎになってしまった。
それでも時間が経てばある程度の落ち着きは取り戻すものである。
「本当にすみません沢田さん。私も入院する事になってしまって…………」
「気にしないで。ユニは悪くないんだから」
病室にて申し訳なさそうにしているユニに綱吉は励ますように呟く。
綱吉の身体には包帯が巻かれており、顔に関しては左頬に付けられた傷跡が完全に広がってしまい、十字のような痣になってしまっている。
「沢田さんの傷もまだ治っていないですし、顔の傷も――――」
「だから気にしないでって。見た目程大きな傷じゃないから。それに顔の傷もさ、左頬にあるしユニのやつみたいで良いかなって思えるようになったんだし」
そう言って励ますもののユニの表情が明るくなる事は無かった。
無理も無い話だ。この前の一件で子どもにも死者が出たのだ。優しいユニには受け入れがたい事実だろう。
実際、自分だってあまり良く思ってないのだから。
「…………ユニ。オレさ、こんな事が起こるのは間違ってると思うんだ」
「沢田さん…………」
「多分、凄く難しいし時間も掛かると思うけどさ。やっぱり平和が一番だよ。争いとか嫌いだし、傷付くのも傷付けるのもやっぱり凄い嫌な事だから」
それは今まで思って来た事、戦いの中で導き出した自分の答え。
「オレが終わらせる、終わらせて見せる。こんな平和じゃない状況を、関係の無い誰かが傷付くようなこの状況を、どんなに難しい事だったとしてもやり遂げて見せる。でもオレはその手段も方法も、マフィアのボスとしてのやり方すらも分かっていない」
本当に情けない話ではあるけれど、そう言わざるを得ない。
何せ自分はダメツナだ。まだまだ知らない事が多過ぎる。
「だから色々と教えてほしいんだ。家庭教師であるユニに」
「…………私の事を家庭教師と言ってくれるんですね」
「オレにとっての教師はユニだけだよ。これから先、それが変わる事は無いよ」
「ありがとうございます。こんなダメな家庭教師をまだそう言ってくれるなんて」
「ユニはダメじゃないよ。むしろユニがダメだったら世の中の教師なんか殆どダメだよ」
それこそ並中の根津なんかは間違いなく教師失格だ。
そう思っているとユニは静かに微笑んだ。
「おじ様と比べたら不出来で未熟な家庭教師ではありますが、今後もよろしくお願いしますね」
「うん。よろしく。まあその前に怪我を治さなくちゃね」
「沢田さんこそ、無理しちゃダメですよ」
「ははは…………したくてしてるわけじゃないんだけどなぁ…………」
ユニの言葉に綱吉は遠い目をする。
出来る事なら暫くは平穏な時間を過ごしたいものだ。
「じゃあ、しっかり休んでね」
そう言って綱吉は病室を後にし、屋上に向かう。
屋上には既に恭弥と凪が待っており、現れた綱吉に視線を向けた。
「すみません。遅くなりました」
「別に、そこまで待ってないよ」
「それよりもボス。ユニは大丈夫だった? 結構一人で抱え込む事が多いから」
「多分大丈夫だと思う」
既に屋上に居た二人にそう告げると、綱吉は恭弥の顔を見据える。
「それじゃあ、早速話し合いましょうか」
「僕は良いけど山本武、彼はここに招かなくて良かったのかい?」
「山本には野球があります。こんな後ろ暗い事に関わって欲しくないですから」
「きみがそう言うのなら別に良いよ。さて、話し合うとするか小動物――――」
そうして綱吉と恭弥の二人は話し始めた。
+++
イタリア行きの飛行機の中でディーノとリボーン、そしてその隣に座っているロマーリオは座席に座り黄昏ていた。
今回の一件で自分の実力不足を痛感したのもあるが、それ以上にこれから起こり得る事態に憂鬱になっていた。
表社会に死ぬ気の炎や匣の流出。絶対にあってはならない事が現実となってしまった以上、あまり楽観的ではいられない。
復讐者が言ったように時計の針が戻る事は無い。多分だが、これから先大勢の血が流れる事になるだろう。
そんな中で唯一良かった事があるとするならば綱吉がボンゴレを引き継ぐと決意した事だろう。
「ツナの奴、良いボスになれるな」
生半可な覚悟や欲に目が眩んでなければああ言った言葉は吐けない。
そして綱吉は全て分かった上で選んで決めたのだ。
きっと良いボスになれる。そう思い何気無しに同意を求めて呟いた言葉だったが、リボーンはあまり良い表情をしなかった。
「どうしたんだ? リボーン。まだ体調が悪いのか?」
「そういうわけじゃねぇ。ただ不安なだけだ」
「不安? ツナがか?」
「ああ。今までのもそうだが今回の一件であまり良くない成長をしたみたいだったからな」
自分とは正反対の印象を抱いたのか、リボーンは言葉を続ける。
「お前の言う通り、良いボスにはなれるだろうな。だが、奴は何かを企んでいる。多分、歴代のボンゴレボス達が考えもしなかった事だ」
これが気のせいならまだ良いんだが、そう言い残してリボーンは口を閉じた。
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「ねぇ、沢田綱吉。きみ、正気かい?」
綱吉との話し合いを終えた恭弥は綱吉を妙なものを見るような目で見ていた。
それは凪も同様で、信じられないと言わんばかりの顔をして綱吉の事を見つめている。
実際、今言ったのは幼稚な子どもが見る夢のようなものだ。
こんな歳にもなってそんな事を言う羽目になるとは、そう自嘲しながらも綱吉は弁解する。
「あくまで平和にならなかったらの話です。平和になればそうする理由も無くなりますから」
「でも平和にならなければするって事だよね?」
「はい」
恭弥の問い掛けに対し綱吉は至極真面目に頷く。
「改めてもう一度言います。もし平和にならないというのなら、オレが世界を征服します」
利己的な白蘭と利他的なツナ。
手段や目的は違えどある意味そっくりですからね。
なのでたくさん酷い目に合わせてそう思わざるおえない状況に追い込みました。
だからといって白蘭が正義に目覚めるということは無い模様。
と、いうわけでこれにて第一部完結です。
続きは暫く待ってね、他の作品の更新とか英気とか養いたいので。