いや、決着までなんとか書き切れました。
「うぉおおおおおおおおおおっ!!」
ついさっきまで死に掛けだった筈の沢田綱吉は、その傷だらけの身体に似合わぬ俊敏さでマッドクラウンに詰め寄る。
虫すら殺せないような人畜無害さは欠片も無く、軟弱な面影を一切感じないぐらい荒々しい。
そして何よりも、感じる力はさっきまでとは比べものにならない。
「っ、舐メるなァ!!」
マッドクラウンは迎撃の為にチェンソーを振るう。
炎は既に放っていて使えない。次にあの一撃を放つにはある程度の時間が必要だ。
だが普通に使うだけでもこのチェンソーには破壊力がある。
むしろここまで近付かれたら大技を使う必要は無い。
相手は人間。身体を両断して真っ二つにすれば死ぬ。そう、人間一人を殺すのに建物を壊す程の破壊力は必要ないのだ。
「当たるか!!」
綱吉は自らに振るわれるチェンソーを回避する。
当たれば死ぬのだから、当たらないよう避けるのは当然と言えば当然だった。
そして、チェンソーを空振りした事で出来た隙を見逃さないのも当然だった。
「オラァ!!」
「ぐぁっ!!?」
マッドクラウンの腹部に綱吉の拳が刺さる。
全身のリミッターが外れ、潜在能力を解放した今の綱吉は超人といっても過言では無い。
マッドクラウンは反撃をしようと、再びチェンソーを振るう。
既に大怪我を負っているのだ。この一撃が当たれば勝てるのだ。
「はぁあああああああああああ!!」
それでも攻撃は当たらない。
傷だらけの筈なのに、軟弱な筈なのに、ついさっきまで虫の息だった筈なのに、一般人だった筈の沢田綱吉に攻撃が当たる事は無かった。
それどころかチェンソーを振るう度に、マッドクラウンは何度も攻撃を喰らう。
一撃一撃が重く、今にも意識を手放しそうになる。
「く、ソ、がぁああああああああ!!」
だが殺し屋としての矜持がマッドクラウンの闘志を燃やす。
いくら潜在能力を解放しようとも、こんな子どもに負ける事等あっていい筈が無いのだから。
マッドクラウンはチェンソーに自らの炎を叩き込む。
こうなったら炎を解放するしかない。こんな至近距離で使えば自分の身も危険だが、やるしかない。
そう判断したマッドクラウンはチェンソーのスイッチに手を伸ばす。
「させるかぁ!!」
炎を解放しようとした瞬間、綱吉の渾身の蹴りがマッドクラウンの右手に炸裂。
スイッチを押そうとした事でしっかり持っていなかったチェンソーは道化師の手中から離れ、弧を描きながら宙を舞う。
「これで、終わりだ!!」
そして、手品のタネを全て失い何も出すことが出来なくなった哀れな道化の顔面に、自らの怪我を無視して死ぬ気で戦う少年の拳が突き刺さった。
+++
宙を舞っていたチェンソーが少し離れた地面に突き刺さり、マッドクラウンの身体が仰向けに倒れる。
額に灯っていた、首から下げていたリングから燃え上がっていた炎が消失し、綱吉の全身に虚脱感が襲い掛かった。
「い、いてて…………」
全身から感じる酷い痛みに綱吉は顔を顰める。
元々傷付いていた肉体を死ぬ気弾で強制的に動かしたのだ。
さっきよりも激しくなった傷の痛み、そして死ぬ気弾で身体を激しく動かしたことによる筋肉痛が身体を苛む。
「だけど、勝てたんだ…………!」
顔を歪めながら地に伏しているマッドクラウンの姿を見下ろす。
あんなに恐ろしかった殺人鬼を相手に勝利できた。とてもではないが信じられなかった。
いや、自分一人だったら間違いなく勝つことは出来なかっただろう。
綱吉がそう考えていると、マッドクラウンが口を開いた。
「…………殺セ。依頼ヲ果たせなかっタ殺し屋に相応しイ末路ダ」
「なっ!?」
マッドクラウンの呟きに綱吉は驚きに満ちた声を上げる。
そして、マッドクラウンから顔を背ける。
「オレには…………そんな事は出来ない」
人の命を奪う、相手を殺す。
どんな理由があれどそれだけは絶対にやってはいけない行為だ。
顔を顰めながらマッドクラウンの言葉を拒否し、背を向ける。
「っ、沢田さん! 避けて下さい!!」
瞬間、ユニが絹を割くような悲鳴を上げた。
その叫び綱吉はに一瞬戸惑うものの、背後から感じた殺気に思わず前方に跳ぶ。そのすぐ後、さっきまで綱吉が居た場所に何かを振るったような音が聞こえた。
「っチ。本当ニ運が良イね」
背後に視線を向けると、そこにはナイフを片手に持っているマッドクラウンの姿があった。
もし、ユニが教えてくれなければ今頃自分はあのナイフで斬られていただろう。その事実に綱吉は背筋がゾッとする。
「も、もう決着はついただろ!! これ以上やる意味なんて」
「そんなもの、あるに決まっテル!!」
死ぬ気だった綱吉の攻撃を何度も受けたマッドクラウンは既に満身創痍で、今にも気絶してしまいそうなほどフラフラとしている。
だというのにも関わらず、マッドクラウンは喜悦に顔を歪めながらナイフを振るう。
「力を使い果たシた今のお前を殺スのは容易イ!!」
「な、なんでそこまでして…………」
「楽しイから殺スんだよ。デモ、さっきは不快ダった。このストレスは弱ったきみと後ろのジッリョネロの10代目を始末シタ後、この町の人間をまた殺シテ発散することにするヨ」
「ま、またって…………もう既に!?」
「そうダよ。この町の子どもは本当ニマヌケだからスグに寄っテくるシね。本当、獲物に困る事ガナイ」
マッドクラウンの話した言葉に綱吉は顔を青褪める。
「お前…………人を、命を何だと思ってるんだ!!」
「ボクの楽しミだヨ。むしろボクを楽しませル為ニ殺さレル事を感謝シテほしいクライだよ」
愉快そうに言い切ったマッドクラウンに対し、綱吉の胸の奥からフツフツと怒りが湧き上がる。
並盛中にだって、決して性格が良いとは言えない人間は居た。
だがここまで酷い人間は見たことが無い。
「…………マッドクラウン。オレはお前を、許さない」
「ンー? キミ如きニ許されル必要ハ無いヨ。トットトくたばれ!!」
マッドクラウンはナイフを片手に突貫する。
低く、勢いよく突進するマッドクラウンを避ける事は不可能。
例え傷一つ無い状態だったとしても、ダメツナでは避ける事すら難しいだろう。
――――だから、もう避けない。
綱吉は地面に突き刺さっていたチェンソーの持ち手を掴み、勢いよく振り上げる。
回転する刃はいとも容易く、ナイフを持った右腕を斬り落とす。
「エっ?」
自らの腕を失った事が受け入れられないのか、マッドクラウンは間の抜けた顔をする。
武器を失い、右腕も無くなった。
終わりだ。もうマッドクラウンに対抗する術は無い。
だから頼む、これで終わってくれ。
そう思わずにはいられない綱吉だったが、何故かは知らないが脳がまだ相手が武器を持っており、それで反撃するつもりだと告げていた。
それでも綱吉はマッドクラウンがこれ以上向かって来ない事を祈る。
だがその思いを裏切るかのように、マッドクラウンは左腕の袖からナイフを取り出した。
マッドクラウンは自分達の命を奪うまで諦めない事が証明された。
「くそ……………」
綱吉は後悔と苦悶に満ちた表情を浮かべ、振り上げたオレンジ色の炎が 灯っているチェンソーを両手でしっかりと握りしめる。
――――もし、自分がダメツナでなければこんな方法を選ぶ必要は無かったのだろうか。
どちらにせよ、これからやる事は絶対に許されない事だ。
だがやらなければ自分達に未来は無いし、助けが来る事も無い。
もう、それ以外の方法が無かった。
「あぁぁああああああああああああああああああああ!!」
そう自分に言い聞かせながら綱吉は渾身の力でチェンソーを振り下ろした。
振り下ろす瞬間、世界がスローになったような感覚に包まれる。
刃が肉を割き、骨を砕く感触がチェンソーを通して腕に伝わってくる。
鮮血が飛び散り、臓物が弾け、辺り一面を真っ赤に染める。
そして、気が付いた時にはマッドクラウンだったものが転がっていた。
生きていないのは見ればすぐに分かる。身体を縦に両断されて生きていられる人間なんて存在しないのだから――――。
「はぁ…………はぁ…………」
綱吉はチェンソーを手放して、その場で膝を折る。
自分は、今、人間を殺した。その事実に綱吉は取り乱しそうになる。
覚悟はしていたし理解もしていた。殺さなければ自分達が死んでいたし、こうする以外の方法が無かったのも事実だ。
だけど、人殺しという事実をこうして突き付けられるのは酷く辛かった。
返り血に染まった両手で頭を抱える。今すぐにでも嘔吐したかった。 いっその事、胃の中のものを全部ぶちまけてしまえば楽になるだろうか。
「――――落ち着いてください沢田さん」
人を殺した事で自責に駆られている綱吉を、いつの間にか近付いていたユニが優しく抱擁する。
「ゆ、ユニ…………」
「大丈夫です。それよりも今はゆっくり休んでください」
ユニの慰めるような、許しを与えるような声を聞いた瞬間、非常に抗いがたい眠気に襲われる。
身体的にも、精神的にも疲弊し切っていた綱吉はゆっくりと瞼を閉じ、意識を闇に沈めた。
+++
マッドクラウンの襲撃から三日の時が流れ、綱吉は病院のベッドの上でユニからあの後どうなったのかを聞いていた。
自分がマッドクラウンを殺した後、ボンゴレの関係者がやって来て亡骸を片付け、情報の操作や証拠の隠蔽等を行ったらしい。
自宅の玄関は車が事故を起こし、そのまま逃げ去った事にしたり等。
そして自分はその際に事故に巻き込まれて大怪我を負ったという事。
「――――以上があの後の出来事になります」
「…………そっか」
ユニから一頻りの説明を聞いて綱吉は小さく呟く。
「オレ、アイツを殺したんだね」
「…………はい。沢田さんの言う通りです」
あの時の出来事は夢じゃない、その事を改めて実感した綱吉は自らの両掌に視線を向ける。
病院に居るということもあって両手は清潔に保たれている。
その筈なのに、ふとした瞬間に両手が血塗れになっているのを幻視する。
自分の手が血で汚れていないのにも関わらず、今もなお汚れているように見えるのだ。
「オレ、人殺しになっちゃったんだな…………」
許せない相手だった。許す事が出来ない相手だった。
だからといって殺す必要は無かったし、その命を奪う事は決して許されない。
しかし、自分はその命を奪った。
人を殺してしまったのだから自首すべきだとは考えた。だが既にその証拠は存在しない。仮に素直に自首したところで揉み消される、あるいは正当防衛というやつが適応されるとの事だった。
どちらにしろ十三歳の少年が背負うにはあまりにも重いものだった。
「沢田さん」
自らが犯した罪に押し潰されそうになっている綱吉の手を、ユニは優しく握り締める。
「私は貴方の
「ユニ…………」
「でも、その罪を一緒に背負う事は出来ます。あの時、貴方にその選択しか選ばせなかったダメな家庭教師ですから」
違う。ユニはダメな家庭教師なんかじゃない。
そう反論したい綱吉だったが、ユニの言葉に涙が溢れ嗚咽で何も言うことが出来なくなった。
強くなりたい。ダメツナのままで居たくない。
自分の事を認めてくれた少女にそんな辛そうな顔をさせたくない。
綱吉はそう思わずにはいられなかった。
原作ではリボーンに守られていましたがこの作品では強くならなければいけない。
なのでこの物語はハードモードです。
ツナはこれから先どんどん辛い目にあいます。