仲間達は当分先です。
にしても一番最初はこのままだとあの子になりますね。
まぁ原作ブレイクは当然やるんですが。
「ちょっと買い物に行って来ますね」
そう言ってユニは綱吉が居る病室を後にする。
随分と情けないところを見せてしまった。綱吉は泣き腫らして真っ赤になった目を掠る。今まで涙を流した事は沢山あった。だけど、こうして自分の不甲斐無さに涙した事は初めてだった。
マッドクラウンに襲撃されて死に掛けて、結果人を殺してしまった。
その事は一生かけても償えないし消える事は無い。
むしろ今でもあの時の感触を思い返す。肉を引き裂き、骨を砕くあの感触を。
「うぷっ」
胃の奥から込み上げて来た嘔気に気分を悪くする。
そしてベッドに横になり、天井を見上げる。
「強く、なりたいなぁ…………」
もっと強ければマッドクラウンを殺さずに倒す事が出来ただろうか。
もっと強ければユニに自分の罪を背負わせずに済んだだろうか。
もっと強ければ――――。
綱吉は包帯が巻かれている腕で掛け布団を強く握り締める。
「強く…………強く…………ダメツナのままでいたくないなぁ…………」
もう二度とあんなことが起こらないように。
そう強く願わずにはいられなかった。
+++
並盛総合病院の屋上。
立ち入り禁止である筈のその場所でユニが一人で立っていた。
左手は飛び降り防止の為に設置された金網を掴み、右手はスマートフォンを持っている。
ユニは右手のスマートフォンをゆっくりと耳に運ぶ。
「…………リボーンおじ様。今、お時間はよろしいですか?」
『ああ。大丈夫だぞ』
スマートフォンの通話相手、聞き覚えのあるソプラノボイスを聞いてユニは安堵する。
『お前がオレに連絡するって事は、何かあったのか? まぁ、何を聞きたいのかは分かってるがな』
「流石ですリボーンおじ様。単刀直入に聞きます。どうして、マッドクラウンがこの日本にやって来たんですか?」
ユニは先日自分達を襲撃し、そして綱吉の手で殺された殺し屋を思い返す。
裏社会の要人、組織の後継者の命が殺し屋に狙われると言うのはよくある話だ。だがこの日本にマッドクラウンのような危険な人間がやって来るのはありえない。と、いうよりもそもそも来る事が出来ないのだ。
『その事を話す前にユニ。お前は沢田綱吉の事情については知ってるか?』
「はい。幼い頃にボンゴレ9世が力を封じた事、そして彼の父親である沢田家光さんがボンゴレ門外顧問のトップであり、ボンゴレファミリーの実質的なNo.2である事は知ってます」
『そうだ。そして家光が家族の身を守る為に裏社会の関係者が日本に行かないように注意して来た。まぁ、単純に旅行で行く奴や本拠地が日本にあるトマゾファミリーっつう例外もあるけどな』
「だから沢田さんが今まで裏社会に関わらず過ごす事が出来ていたんですね」
よく考えれば分かることだ。
イタリア最大最強のマフィアであるボンゴレファミリー、その創立者の直径の子孫が裏社会に関わらずに生きていく事が出来る程、世界は甘くない。ある理由で創立者の血を引く者しかボスになる事が出来ないのだから尚更だ。
にもかかわらず、裏社会の事を知らないで済んだのは家族に守られていたからだ。
『だが、最近になって発見されたリングの炎…………死ぬ気の炎とそれを動力源として新しく開発された兵器、
通話越しに聞こえて来るリボーンの声は何処か不満そうな気がした。
『今までの裏社会での実力者と言えば異能を使える奴を除けば腕っ節の強さが主なものだった。トッドファミリーのパオロ・マルディーナとかが有名だったな』
パオロ・マルディーナ。トッドファミリーの構成員であり、その攻撃力はマフィア界でも有数の実力者。
日本に来る際に目を通した資料にあった知識ぐらいしかないが、それでも要注意人物として記載されていたのを覚えている。
『尤も、パオロは既に殺されている』
「おじ様。もしかして」
『ああ。お前の予想通り、殺った奴は匣を使う事が出来た奴だ。マッドクラウンと同じ、前までは名すらあげられないような三下の手でな。当然だがパオロの奴が油断したわけじゃねぇ』
「…………それだけ、匣兵器が危険という事ですね」
リボーンの話を聞いてユニはポケットの中に入っていたあるものを取り出す。
面の一つに穴がある小さい四角の箱だった。
マッドクラウンが持っていた炎で燃え上がるチェンソー、それが中に入っている匣兵器だ。
『実力者の中にも死ぬ気の炎を使えない奴が居ないわけじゃねぇ。家光やその部下のバジリコン、オレの生徒であるディーノもその内の一人だな。だが、それ以上に今まで無名だった連中の方が多い』
「それは存じています。だから私も日本に避難したわけですし」
『本当に腹が立つ話だが、オレ達の方もそういった連中を抑え込むので手一杯の状態なんだ。どうしてもオレ達が対処する前にそっちに行っちまう奴が出て来る』
「…………そうですか」
『一応日本にもボンゴレの関係者が居ないわけじゃないがな。匣兵器に対応出来る奴じゃない。それでもマッドクラウンを止めようとはしてた筈なんだが』
そこから先をリボーンが言う事は無かった。
だがなんとなく予想は出来る。あの時、自分達の所には誰もやって来なかった。つまりはそう言う事なのだろう。
ユニは唇を噛み締めて、犠牲になった人達に祈る。
「すみませんリボーンおじ様。時間を使わせてしまって…………」
『いや、気にしなくて良い。それと、通話はまだ切るな』
「何かあったんですか?」
『ああ。それもあまり良くない、むしろ悪い方向でな』
電話越しでも分かるくらいに機嫌が悪かった。
『こんな事態が起これば一人や二人は護衛がつく。本来だったらオレがその役割も担ってる筈だったんだがな』
「…………筈、という事はつまり」
『ああ。ボンゴレの上層部の連中が沢田綱吉につける護衛の人数を減らす事に決めた』
「…………どうしてですか?」
『良くも悪くもマッドクラウンを撃退した事が原因だ』
ユニはリボーンからの説明を聞く。
元々沢田綱吉は他の10代目候補に比べてあまり期待されていなかった。
裏社会の事を知らず平和な日本で暮らしているというのもあるが、元々劣等生だった綱吉よりも他の優秀な後継者が居たからだ。
しかし、マッドクラウンを撃退したことでその評価は一転。
他の候補者三人が別件であるとはいえ命を落としてるのに対し、死ぬ気の炎が使えて匣兵器も有している残忍な殺し屋を返り討ちにしたのだ。
その事で綱吉の評価が覆ったのである。
『9代目や家光は反対していたが押し切られちまった。今、死ぬ気の炎を使う事が出来る貴重な戦力を本部から外す訳にはいかないってことと、沢田綱吉がリングに炎を灯す事が出来たからな』
「そんな…………あれは火事場の馬鹿力ですよ。それに沢田さんは好きでマッドクラウンの命を奪ったわけじゃ」
『だがそう思わない奴も居る』
リボーンのその言葉にユニは黙り込む。
『オレ達の方も出来る限りそっちに行かせないようにはするが気を付けてくれ』
「…………はい。分かりました」
『それと、沢田綱吉の精神状態には気を付けろ。マッドクラウンの一件は間違いなく悪影響になってるからな。まぁ、お前なら大丈夫だとは思うがな』
最後にそう言い残してリボーンは電話を切った。
ユニは通話を終えたスマートフォンを下ろして、空を見上げる。
「本当、前途多難です」
空はユニの心境とは裏腹に綺麗に澄み渡っていた。
+++
「ツッ君も不運だったわね。まさか帰って来た直後に車が家に突っ込んで来るなんて」
「は、ははは」
まさか本当に車が突っ込んできた事を信じるとは思わなかった。
綱吉は自分の母親のあまりの天然っぷりに思わず苦笑いする。
「でもツッ君の怪我がそこまで酷くなくて良かったわ」
「うん。そうだね…………って、母さんそれ何度も聞いたよ」
「息子が大怪我を負ったのよ。心配しない方がおかしいじやない」
奈々の言葉に綱吉は不思議と安堵する。
正直な話、前までは何かと言ってくる母親に対して色々と疎ましく思っていたり、酷い事を言った事もある。だけど、今ならば理解出来る。この人は本当に自分の事を心配してくれているから煩く言うのだと。
本当にどうして何もかも手遅れになってからこの事を理解するんだろうか。
「じゃあ母さんはそろそろ戻るわね。何か必要な物があったら遠慮せずに言いなさいよ」
そう言って奈々は病室を後にした。
再び一人きりになった綱吉は、父親からの誕生日プレゼントであるリングを手のひらの上に乗せる。
思い返せば、あの時マッドクラウンの攻撃を喰らって生きていられたのはこのリングのおかげかもしれない。死ぬ気弾を受けたというのもあるが、このリングが無ければあそこまで戦う事が出来なかった。もしこのリングが無かったら今頃自分とユニは死んでいた事だろう。
「そういや、マッドクラウンも持ってたよな」
マッドクラウンが持っていたリングが出していた炎と自分のリングが出した炎。
炎の色こそ違うものの種類としては全く同じものだろう。
いや、そもそも本当に炎なのだろうか。確かに熱かったが身を焦がす程のものじゃなかったような気がする。
「…………マッドクラウンは自分の意志でリングから炎を出していた。なら、オレにも出来る筈」
綱吉はリングを強く握りしめる。
だがリングはあの時のように炎を灯す事は無く、沈黙したままだった。
「やっぱり、そう上手くいかないよな」
だが、あの時は灯せたのだ。死ぬ気弾を撃たれて、文字通り死ぬ気になっているあの時は。
「でも、必ず灯せる筈」
ダメツナだから無理だ、不可能だなんて言い訳は通じない。
強くならなくちゃいけない。もっと、もっと強くならなくちゃ――――。
そう考えていると、突如として病室の扉が開いた。
「おーっすダメツナ。見舞いに来てやったぜ」
室内に入って来たのは綱吉によく絡んでくる二人のクラスメイトだった。
突然の来客に綱吉は驚きつつ手で握りしめていたリングを手放す。
「え、えっと…………見舞いに来てくれたんだ」
「ああ。貴重な時間を割いてまで来てやったんだからありがたく思えよ」
ケラケラと笑いながら茶化すような態度で二人は綱吉に接する。
「にしても家に帰宅した直後に車が家に突っ込むだなんて…………お前かなり不幸だな」
「しかも偶然とはいえテストで満点を取った直後だ。お前、呪われてるんじゃね?」
「は、ははは…………」
本当に見舞いに来たのだろうか、この二人は。
「んじゃ、俺達は帰るから早く怪我治せよ」
「ダメツナも居なかったら居なかったで寂しいからな~」
二人は綱吉に背を向けると病室から出て行こうとする。
「すみません沢田さん。遅れてしまって」
その瞬間だった――――買い物を済ませたユニが病室に入って来たのは。
ユニが入って来たことにクラスメイト達は時が止まったかのように静止した。
「あ、すみません。お客さんが来てたんですね。なら私は少し席を外してますね」
そう言ってユニは病室を後にする。
ユニの姿が見えなくなった瞬間、二人は綱吉の方にグリンと顔を向けた。
表情こそ笑顔であるものの心なしか全然笑っていないような気がした。
「なぁ綱吉君。彼女とは一体どういう関係だい?」
「見るからに親し気だったけど、ねぇ、どういうこと、ナノ?」
じりじりとにじり寄ってくるクラスメイト二人に対し、綱吉は乾いた笑いを浮かべる事しか出来なかった。
ツナもユニも元々不幸。
故にこの二人が組めば更に不幸が加速する!!
いやぁ、精神的に追い詰められて焦る少年は書いていて愉しいですねぇ!!