目指せ平均体重!
そして久しぶりの更新です。
「…………今日は疲れた」
あれから一週間、マッドクラウンの襲撃を退けて、病院から退院した綱吉は溜め息をつきながら帰路についていた。
久しぶりの学校で精神的に疲れたというのもある。
だがそれ以上にこの一週間で何も成長していない事が綱吉の心を蝕んでいた。
「どうやったらあの時のように炎を灯すことが出来るんだよ」
綱吉は首から下げていたリングを手に持つ。
マッドクラウンとの戦いでは煌々と燃えていたリングは、あの戦い以来完全に沈黙を貫いている。
あの時のマッドクラウンは。いとも容易くリングに炎を灯していた。
炎の色が違ったり、大きさや透明度等異なるところは数あれど間違いなく同種の炎。
あんな人の事を考えず、ただ自らの愉しみの為だけに平気で傷つけられる奴があの炎を灯す事が出来るのに対し、自分はリングに炎を灯す事が出来ないでいる。
やっぱり、ダメツナだからなのだろうか。
考えれば考える程、思考すれば思考する程、どんどんネガティブな方向に向かっていく。
「…………どうやったら強くなるんだろう」
一応退院してから走り込みをしたり、筋トレをしたり等はしている。
だがそれで強くなったかと聞かれれば微妙なところだろう。
トレーニングを始めたのは本当につい最近である為、効果が表れるのは時間がかかる。
その間に、マッドクラウンのような殺し屋がまた現れないとも限らない。
「本当に憂鬱だよ…………」
出来れば二度と表れてほしくない、そう思いながら綱吉は自宅に辿り着き、扉を開ける。
中に入ると待ち構えていたと言わんばかりにユニは玄関に立っていた。
ただ身に纏っている衣装はいつもの少女らしいものではなく、迷彩服のようなものだった。
正直な話、ユニにはあまり似合っていない。と、いうか服に着せられているような印象を感じる。
はっきりいってコスプレにしか見えない。
「おかえりなさい沢田さん!」
「ただいま、ユニ。ところで、その恰好はどうしたの?」
出迎えてくれた自分の家庭教師に綱吉は挨拶しながらも、ユニの格好について尋ねる。
するとユニは笑みを浮かべながら答えた。
「沢田さん。これからキャンプに行きましょう!」
「…………えっ?」
+++
マッドクラウンとの戦いは綱吉の心に深い傷を残した。
尤も、それも無理はない。つい先日まで極々普通の生活を送っていた一般人が裏社会の殺し屋と殺し合い、相手の命を奪ったのだ。
むしろ傷付かない方がおかしいだろう。
故に家庭教徒として、生徒のメンタルケアをしなければいけない。
例え生徒に守られるような無力な家庭教師だったとしても――――。
「それが急にキャンプに行こうなんて言った理由なんです」
並盛町にある山の中腹。
其処でユニは自身の生徒である綱吉に対し、ここに連れて来た理由を説明する。
正確にはそれだけではないが、実際にキャンプもするのだからまだ言わなくて良いだろう。
「色々ありましたしきっとストレスだってあると思います。だから、こうして自然の中で過ごせば沢田さんが抱えている悩みだって解消出来ると思うんです」
「ユニ…………ありがとう」
ユニの説明を聞いた綱吉は何とも言えないような表情になりながらも感謝の言葉を告げる。
「色々と心配かけさせてごめん。でも、もう大丈夫だから」
「本当ですか?」
「…………ごめん、やっぱり大丈夫じゃないかも」
綱吉は近くにあった大きな岩の上に座り、俯きながら呟く。
「自分でも分かってはいるんだ。強くならなきゃって自分で自分を追い詰めて、焦っていたから」
「確かにその通りですね。最近の沢田さんは見えない何かに恐れて逃げているようにも見えましたから」
「…………そうだったんだ。やっぱり、オレってダメツナだなぁ…………自分の事ばっかりで手一杯になって」
後悔と自嘲に顔を歪めながら綱吉は吐露する。
そんな綱吉にユニは近付いて、優しく抱き寄せる。
「ゆ、ユニ…………?」
「沢田さん。間違えても良いんです」
ユニは涙を流す綱吉に言い聞かせるように語り始める。
「最初から正しい解答を選ぶことが出来る人は居ません。大事なのは何が悪かったのかを理解する事、そしてその間違いを次に活かす事なんですから」
「間違いを、次に…………?」
「はい。沢田さんはやり方こそ間違えてしまいましたが、思いそのものは間違えていません」
抱き締めていた腕を解き、手を差し出す。
「だから一緒に頑張りましょう。家庭教師として私も協力します」
「…………ありがとう」
差し出した手を握り返し、綱吉は立ち上がる。
「それじゃあ、早速ですが修行と」
「えっ、し、修行…………?」
「はい。ここにはキャンプで来ましたが、修行も出来ますからね」
ユニは懐から取り出した拳銃に死ぬ気弾を込める。
まだ早いとは自分でも思う。だが、相手が待ってくれるわけではない。
「とはいえ、修行をするしないの決定権はあくまで沢田さんにあります。ですので――――」
「分かった。修行するよ」
「…………良いんですね?」
「本当の事を言えばさ、修行とか辛い事はやりたくないよ。痛いの嫌だし相手を傷付けるのも嫌だ。でも、やらなかったら後で死ぬ程後悔するから」
そう言い切った綱吉の瞳には揺るぎない決意が宿っていた。
やはり、直径の子孫だからだろうか。ボンゴレⅠ世にとてもよく似ている。
外見だけではない。内面や、その精神性さえも。
「では、やっていきましょうか。先ずは体力作りの為にこの崖を登ります」
「こ、この崖を…………?」
「はい。ボンゴレⅠ世が死ぬ気をコントロールする為にやった修行の一つですから」
訝しむような目で崖を見やる綱吉にそう告げる。
かつて、死ぬ気をコントロールする為にボンゴレⅠ世が自ら課した修行で、その内の一つである崖登りでの体力作りだ。
元々はボンゴレに伝わる伝説の奥義を体得する為のもので、今の彼には早過ぎるかもしれない。
だが、例えどれだけ早くてもやらなきゃいけないのだ。
「それじゃあ、今から死ぬ気弾を撃ちます」
「…………分かった」
ユニは拳銃を綱吉の眉間に突き付ける。
綱吉は一瞬だけ身体を震わせるも、強い意志が宿った眼でユニを見つめ返す。
その視線に答えるかのように、ユニは拳銃の引き金を引き、乾いた音と共に死ぬ気弾が放たれた。
ドサリと音を立てて綱吉の身体が仰向けに倒れる。が、すぐに身体が風船のように膨らみ始めた。
「次の刺客が来るまで後三日…………それまでに死ぬ気モードを制御出来る様にしなければ」
不安そうな表情を浮かべながらそう呟く。
そして、綱吉の身体から風船が破裂するかのような音が鳴り響いた。
+++
――――どうして、こうなったのだろうか。
初老にさしかかる男は床に膝を着き、眼前にあるものを見て言葉を失っていた。
視線の先にあるもの、其れ等は怪物にしか見えない異形の姿だった。
膨れ上がった肉塊。無数にある関節。そして悲鳴と絶望が合わさったかのような絶叫を絶え間無く叫び続けている。
男は知っている。一見化け物にしか見えない其れ等が元は人間で、自分の家族だったという事を。
自分の目の前で化け物に変わっていくのを間近で見せられたのだから。
「あ、ぁあ…………」
「おー、すっごいねぇ」
言葉にならない嗚咽を漏らしていると、少女の声が耳に入った。
男は視線を声がした方向に向ける。そこには金髪碧眼の女性が居た。
一目見ただけで日本人とは思えない容貌をした女が、どうして自分の家に居るのか――――それは彼女が招かれざる客人であり、自分の家族をこんな酷い目に合わせた張本人だからだ。
「これが元々は人間だったなんて我ながら信じられないわ」
男の家族だったものを眺めながら笑う。
嘲り嗤うつもりもなく、ただ心の底から感心していた。
「でもまぁ、こうして手駒が簡単に手に入るんだから文句のつけようが無いわね」
「な、なんで…………こんな事を…………」
一人誇らしげに笑う女に男は問いを投げる。
どうしてこのような事をしたのか。何故自分達がこのような目にあわなければいけないのか。
自分は死ぬ、間違いなくこれから殺される。ならばせめて、その理由だけは知っておきたい。
だがその思いも虚しく、男の眉間に紫色の炎が灯ったダーツが突き刺さった。
「えっ、あっ…………」
「んもー、何でどいつもこいつも死ななければいけない理由を聞くのかしら。あほじゃないの?」
「え――――ヴぇ!?」
ボンっという音と共に男の身体が膨れ上がる。
関節が増えて、筋肉が増えて、更には目が増える。
身体中のあらゆる箇所が引き裂かれ、強引に増やされていくその激痛に男の正気は一瞬で失われた。
「やっぱり
女は呆れたと言わんばかりに男が変形していく工程を観察する。
「にしてもこの炎って凄いわね。薬の効果と合わせればこんな事も出来るなんて」
本当に愉快だ。ただの一般人に使うだけでこれなのだから。
新たに増えた手駒に破顔しながら女は踵を返す。
「さて、と。仕事に行きますか。沢田綱吉とユニ・ジッリョネロの二人を殺しにね」
――――この日、とある一家が消息を絶った。
FGOのイベントもので更新頻度は少しかかります。
ちなみに前回のマッドクラウンよりは短いと思います。