早く他の仲間との関係を書きたいんですがもうしばらくお待ちください。
そして今回は成長回です。
「うぉおおおおおおおお!!! 死ぬ気でこの崖を登るっ!!!!」
死ぬ気弾を受けた綱吉は雄叫びを上げながら崖を駆け登る。
岩肌を掴み、凹凸に足を引っ掛け、一流の登山家でも出来ないであろう速度で登っていく。
それでもゴールである頂上は遠く、行手を阻んでいる。
挑戦して既に三回目。綱吉の身体は既に限界を迎えていた。
「あっ……………」
ついに疲労がピークを迎え、綱吉の額から燃え上がっていた炎が消失する。
死ぬ気弾の効力が切れた事で死ぬ気から元の状態に戻り、全身を襲う筋肉痛と虚脱感に襲われる。
とてもではないが崖にしがみ付いている事すら出来ない。
あまりの疲労からか、綱吉は岩肌から手を離してそのまま落下する。
「…………くそっ」
綱吉は苦悶に顔を歪めながら崖の上の方へと手を伸ばす。
しかし、そこに無い物を掴むことが出来ないように、遠くなっていく崖の上を掴んで這い上がる事は出来ない。
自らの努力を無に帰す残酷な現実を味わいながら落下し、崖の下にあった川に着水した。
+++
「はぁ…………」
焚き火に当たり、川に落ちたことで冷えた身体を温めながら綱吉は溜め息をついた。
元々ダメツナと呼ばれる程にダメダメなのだ。そう簡単に強くなれたり、修行をクリア出来るとは思っていない。
それでも心の何処かで思ってしまう。
本当にこんな事をして強くなれるのか、と。
「沢田さん。カレーです、どうぞ」
「あ、ありがとう」
差し出されたカレーライスを受け取る。
スパイスが入っているのだから当然の話だが、食欲を擽るとても良い匂いだった。修行で身体を酷使し、体力が尽きている事もあって食欲を刺激する。
「いただきます」
そう言ってスプーンで掬い口に運ぶ。
空腹は最高の調味料という言葉の通り、修行で身体を酷使した綱吉の身体に染み渡る。
スパイスの香りに野菜の甘み、入れていた牛肉の旨み。ルーに溶け込んでいるホクホクのジャガイモにカレーの辛さ。
「初めて作ったので自信は無いんですけど…………」
「美味しい、凄く美味しいよ!!」
むしろ初めての料理でここまで美味しく作れるのは本当に凄い。
ユニが作ったカレーライスを食べて顔を綻ばせながら、綱吉はスプーンを進める。
「気に入っていただけたようで何よりです」
自分が作った料理を美味しいと言われたからか、ユニは綱吉を見て笑みを見せる。
火を囲んで食べるという初めてのキャンプだったこともあってか、あっと言う間にカレーライスを平らげる。
「満足しましたか?」
「うん。本当に初めて作ったのかって思うくらい美味しかったよ。ユニって料理も上手なんだね」
「料理はイタリアに居た頃にお母さんに教えて貰ったんです。まぁ、お母さんも多忙で中々教えて貰えませんでしたが」
そう言ってユニは何処か寂しそうな表情を浮かべる。
元々、ユニは自分の家庭教師になる人間ではなかった。いや、そもそもとして彼女はジッリョネロファミリーとかいうマフィアの後継者。
そして、彼女はあくまでここに避難して来た人間。
本来ならばイタリアで、親の下で暮らすことが出来ていた筈なのだ。
「ユニは…………寂しい?」
「いいえ、寂しくは…………」
綱吉の言葉を否定しようとするが、ユニは言葉を詰まらせる。
そして、少しの時間考えた後、綱吉に視線を向けた。
「正直に言えば、寂しくないと言えば嘘になります」
「…………そっか」
別に不思議な事ではなかった。
見知らぬ土地で過ごす事やこの前のマッドクラウンに襲われた事。
不安になる事だって沢山あるし、悩むことはもっとあるだろう。
「でも、沢田さんの痛みに比べればずっとずっとマシですよ。むしろ私の方こそ沢田さんに迷惑ばかりかけて」
「そんな事は無いよ」
申し訳なさそうに呟くユニの言葉を否定する。
「オレはユニが来た事を迷惑だなんて思っていないから」
確かにユニが来た事で毎日が大変になったのは事実だ。
毎日家で勉強をする羽目になったり、ユニとの関係をクラスメイト達に聞かれたり、挙句の果てには人を殺してしまった。
取り返しがつかない罪を犯してしまい、今でも悪夢に苛まれている。
それでも、ユニとの出会いが無ければ良かったなんて思った事は一度も無い。
「むしろ、ユニと会えて良かったって思ってるよ」
ユニのおかげで産まれて初めてテストで満点を取る事が出来た。
ユニのおかげで今こうして無事でいられる。
ユニのおかげでダメツナだった自分にも勇気があるという事を知ることが出来た。
それは他の誰かから見ればちっぽけで惨めなものだったのかもしれない。
だが彼女との出会いは決して忘れるが無い、忘れてはいけない大切な宝だった。
心の中でそう考えていると、ユニは顔を赤くする。
「…………沢田さんって何気に天然ですよね」
「えっ、何? どういう事?」
「何でもありません!」
不貞腐れているかのようにそう言い放つユニの言葉に綱吉は首を傾げる。
そんな綱吉を見てユニは呆れていると言わんばかり溜め息をつく。
「まぁ、良いです。それよりも、少しだけ真面目な話をしましょうか」
「…………分かったよ」
夕食を終え、楽しい談笑も終えた二人は雰囲気を変えて話し始める。
「沢田さんは死ぬ気弾を撃たれた際に出て来る額の炎を覚えていますか?」
「うん。勿論覚えているよ」
ユニの問い掛けに綱吉は首を縦に振って肯定する。
死ぬ気弾を撃たれるとテンションが上がり、自分でも荒々しいと思ってしまう程に態度が変わる。とはいえ、人格が変わるわけではない為、意識そのものははっきりしている。
だから死ぬ気モードの時に自分の額に炎が灯っている事もしっかり覚えていた。
「あの炎って何なの? オレが持っているリングやマッドクラウンが持っていたリングからも出てたし…………マッドクラウンの炎は色が赤かったけど」
自らが抱いていた疑問を、聞く機会が中々無かったが為に聞けなかった疑問を投げかける。
するとユニは一度瞳を閉じた後、目を開いて語り始めた。
「あれは死ぬ気の炎と呼ばれている、裏社会で語り継がれている力です」
死ぬ気の炎。
その正体は人間が有する生命エネルギーを圧縮したものであり、それ自体が破壊力を持った炎のような力。
鋼鉄をいとも容易く溶かす熱量や、炎を武器に纏わせる事で攻撃力を上昇させたりする事が可能で、ボンゴレファミリーやジッリョネロファミリー等の歴史あるファミリーが代々使用して来た。
事実歴代ボンゴレのボス達は一人の例外も無く、この死ぬ気の炎の使い手だったのだという。
「へー、そうなんだ。でも、それなら何でマッドクラウンが使う事が出来たんだ?」
ユニの説明を聞いた綱吉は疑問から首を傾げる。
マッドクラウンはどう見ても歴史ある立場ではない。
だが何故死ぬ気の炎を使う事が出来たのか、その理由はある程度理解できる。
そして、マッドクラウンと同じ物を自分は持っている。
「もしかして、リングが関係してるの?」
「はい。その通りです」
綱吉の呟きを聞き、ユニは肯定する。
「遥か昔、マフィア界ではリングは契約の証として伝えられていました。ですが、近年になってリングには人知を超える力があると分かったんです」
「それが死ぬ気の炎…………」
「そしてリングから出た死ぬ気の炎を動力源として動く兵器がこの匣兵器です」
そう言ってユニは懐から正方形状の箱を取り出す。
取り出したその匣はマッドクラウンが所持していたチェンソーが入っていた匣だった。
「それ、ユニが持ってたんだ」
「流石に放置しておくわけにはいきませんでしたからね。ついでにマッドクラウンのリングもここにあります」
「意外とちゃっかりしてるんだね」
だがそのままにしておいても良い事にはならなかっただろう。
もしマッドクラウンのリングが他の誰かの手に渡り、万が一にもその誰かが死ぬ気の炎を灯すことが出来たら目も当てられない事になる。
「でもユニがこのリングについて知ってるってことは、死ぬ気の炎の灯し方も知ってるってことだよね?」
「…………残念ですが、それはまだ分かってないんです。ただおじ様は覚悟を燃やすと言ってました」
「覚悟を、燃やす…………?」
それは一体どういう事だろうか。ユニの言葉に綱吉は頭を悩ませる。
覚悟は持っている、なんてとてもではないが言えない。少なくとも悩んで、迷って、優柔不断な自分には似合わない言葉だろう。
「沢田さんはあの時、マッドクラウンと戦っていた時、どんな事を考えていたんですか?」
「ど、どうって…………マッドクラウンに勝ちたいって」
――――本当にそうなのだろうか?
あの時、自分は何を考えていた?
マッドクラウンに勝ちたい、あんな奴に負けたくない。そう考えたのは確かに事実だ。
だけど、それだけではなかった筈だ。
綱吉は思い返す。あの時の戦いの事を。辛くて痛くて、けれど生まれて初めて目を背けないで戦った時の事を。
そして思い出す。あの時、何を考えて戦っていたのかを。
「…………そうだ、オレは」
――――ユニを守りたい、って思ったんだ。
その事を思い出した瞬間、綱吉の首から下げていたリングからオレンジ色の炎が、死ぬ気の炎が溢れた。