修行パートって本当に大変です。
なかなか展開が思いつかねぇ。
「り、リングから炎が…………!」
首から下げているリングから、噴き出る死ぬ気の炎に綱吉は驚愕の声を上げる。
今まで何とか灯そうとして、上手くいかないで頭を悩ませていたのが嘘のようだ。だが、今こうしてリングが燃え盛っているのは間違いなく現実だった。
「も、もう一回…………!」
リングに灯った死ぬ気の炎を消して、再度つけ直す。
消してはつけて、消してはつけてを何度か繰り返して、綱吉はこの死ぬ気の炎が偶然や火事場の馬鹿力でついたものでないことを理解する。
「や、やった…………!!」
死ぬ気の炎を灯せた事に綱吉は泣きそうになりながらも喜ぶ。
ようやく、ようやく死ぬ気の炎を自らの意思で灯せるようになったのだ。
「ユニ、本当にありがとう。ユニが教えてくれたおかげだよ」
綱吉はユニに感謝の言葉を告げる。
彼女の助言が無ければ、自分一人ではきっと炎を灯す事は出来なかっただろう。
そう考えていると、ユニは嬉しそうに笑みを浮かべながらも首を横に振る。
「いえ、いいえ。私はあくまで教えてもらった事をそのまま伝えただけ。炎を灯す事が出来たのは沢田さんに覚悟があったからです」
「オレに…………覚悟?」
「はい。それで、沢田さんはリングに炎を灯す時、どんな事を考えたんですか?」
「えっと、それは…………」
ユニの言葉を受けて、綱吉はリングに炎を灯した際に何を考えたのかを語ろうとして固まる。
だが、炎を灯す時に胸の内に抱いた覚悟を思い出し、顔を赤くする。
「あ、あぅ…………」
「顔を真っ赤にして、どうかしたんですか?」
「な、なんでも無いよ!」
心配そうに顔を覗き込むユニに綱吉は慌てながらそう答える。
場合によっては告白とも受け取られかねない覚悟だ。とてもではないが本人の前で言える事じゃない。
それに、自分には気になっている人が居るのだから。
尤もその人は剣道部の持田先輩と付き合っているという噂が流れていて、実際にその現場を見てしまっているが。
「さ、沢田さん。いきなり百面相なんかして、やっぱり何かあったんじゃ」
「本当に何ともないから。ただ…………ちょっと思い出したくない事を思い出しちゃって」
「…………そう、ですか。すみません。沢田さんが最初に死ぬ気の炎を灯したのはマッドクラウンとの戦いの時の事。辛い、出したくない事を思い出させてしまって」
「い、いや、そういうわけじゃないんだよ」
態度を見て勘違いしたのか、表情が暗くなっているユニの考えを綱吉は否定する。
考えていた事を察しているわけではないらしいが、だからといって彼女のそんな顔を見たくは無い。
「ただちょっと、人に言うには少し恥ずかしいというか…………」
「そうですか…………なら、沢田さんが話してくれるその時まで待ってますね」
暗かった表情から一転してにっこりと笑みを浮かべるユニに対し、綱吉は困ったように苦笑いする。
「沢田さん」
そして、笑みを浮かべていたユニの表情が変わった。
「実は沢田さんに伝えなくてはいけない事があるんです」
「伝えないといけない事?」
「はい。実は私、いいえ、私の一族は予知の力があります」
「よ、予知…………?」
「はい。その予知です。未来を視る事が出来るんです」
ユニの口から語られた言葉に綱吉は思わず固まってしまう。
今までも散々常識外の事は散々見て来たし体験してきた。
死ぬ気弾に死ぬ気の炎、
とはいえ、信じないわけではない。
彼女が嘘を言うわけが無いのだから、真実なのだろう。
「尤も、必ず未来が分かるというわけではないんですけどね。それに詳しい事は分からない事も多いですし」
「それで、どうしていきなりそんな事を言ったの?」
「近い未来、襲撃者が来るからです」
淡々と告げられたその言葉に綱吉の身体は凍り付く。
襲撃者――――その事実はつい先日のマッドクラウンを思い出す。
「…………その襲撃者って、いつ来るかは分かる?」
「すみません。そこまでは分からないんです。ただ、三日以内に来るかと」
「そっか…………大丈夫」
予知の内容を、襲撃者が来る事を聞いた綱吉は決意を固める
恐らくマッドクラウンのような殺し屋なのだろう。そんな恐ろしい奴が自分達の命を狙いにやって来る。
その事実に綱吉は少しだけ身体を震わせて、自らの腕を掴んで震えを止める。
怖くないと言えば嘘になる。痛いのは嫌だし、辛い事から逃げ出したいという思いもある。
だけど、それ以上にユニを守りたいという思いが強かった。
「ユニは、オレが守るから」
リングに灯る死ぬ気の炎が強くなった気がした。
+++
修行を開始してから二日目。
「凄い、ですね。まさか二日目で第二段階まで行くなんて…………」
ユニは修行をしている綱吉の姿を見てそう呟く。
事情を知っているとはいえ、こういったことに関しては素人な自分の目から見ても理解出来る。
それ程までに今の綱吉の成長速度は凄まじかった。
崖登りは早朝にやった一回で登り切った。第二段階の死ぬ気のコントロールも苦戦したのは最初だけで、すぐにコツを掴んで今では殆ど完成しているといっても過言ではない。
才能――――それもあるだろう。ボンゴレⅠ世の直系の子孫であり、幼少期にボンゴレⅨ世によって封印されたくらいなのだ。
だがそれだけじゃない。才能が成長の速さの理由にはならない。
「予知の事を伝えたから、でしょうか?」
恐らく、それも理由の内の一つなのだろう。
目の前に脅威が迫っている事、そして自分自身の覚悟を理解した事。
その二つが彼を急激に成長させているのだ。
「この調子なら今日で第二段階は終わりそうですね」
とはいえ、三段回目までは難しそうだが。
アレはボンゴレの奥義とも言われている特異な技だ。
流石にそう簡単に会得出来る程簡単ではない。それでも、この調子なら後一週間あれば会得出来るだろう。
尤も、その奥義を教える時間は無いのだが。
「ふぅ…………ユニ、どうだった?」
「ばっちりです。もう、死ぬ気のコントロールは完璧ですね」
「うん」
額の死ぬ気の炎を消し、平静に戻った綱吉。
その表情は少し不安そうにしているが、マッドクラウンとの戦いの後から続いていた迷いは既に消えている。
――――これなら大丈夫。
死ぬ気の炎のコントロールも出来ているし、この調子なら問題は無さそうだ。
強い決意に満ちた綱吉の顔を見て、ユニは懐からある物を取り出す。
それはマッドクラウンが持っていた匣兵器だった。
「沢田さん。これを受け取って下さい」
ユニはマッドクラウンが持っていた匣を綱吉に向かって放り投げる。
突然物を投げられた綱吉は落としそうになるものの、何とか手中に収めた。
「マッドクラウンが持っていた匣兵器です。大空の属性なら全ての属性の開匣する事が出来ますので。ただ開匣こそ出来ますがその力を全て引き出せる訳ではありません」
それが大空の属性の弱点だ。
開匣する事は出来ても、他の属性のように匣兵器を性能をフルに使える訳では無い。
大空の属性の匣ならば話は違うのだが、そんなものはここには無い。
「とはいえ、此方が使える武器には変わりありません。いざと言う時に使って下さい」
「…………分かった」
綱吉は手中にある匣兵器を見て、何とも言えないような表情を浮かべる。
マッドクラウンとの戦いで尾を引く事になった武器だ。
出来れば使いたくないのは分かるし、ユニとしてもあまり使ってほしくない。
だが、そんな事を言う余裕は此方には無かった。
使わないに越した事は無いが、相手も匣を使う以上、それは難しいだろう。
「あとは、そうですね。リングは指にはめておいた方が良いかと。首から下げていたら取られる可能性もありますから」
「確かに、言われてみればその通りだね」
自身のアドバイスを聞き入れた綱吉は首から下げていたリングを指に通す。
その瞬間だった、何かを閃いたかのような表情を浮かべたのは。
「ねぇユニ。襲撃はまだ、なんだよね?」
「はい。予知の内容はあまり正確ではありませんが、恐らく明日になるかと」
「ならさ。もうちょっとだけ特訓しても良いかな?」
「構いませんが…………どうしたんですか?」
綱吉の発言にユニは首を傾げながら尋ねる。
すると綱吉は安堵したような笑顔を浮かべた。
「ちょっとね、良い考えを思い付いたんだ。上手くいくかは分からないけど」
「けど?」
「上手くいけば、この匣兵器を使わないで襲撃者を撃退できると思う」
その言葉には強い思いが込められていた。