コキュートスによるリザードマンへの侵攻作戦は敗戦に終わった。僕にとってそれは主人の顔に泥を塗るような失態であるだろう。コキュートスはすぐさま呼び戻された。他の階層守護者達も集まり玉座の間にてアインズへひれ伏している。カイトは気配を消し入り口付近の柱に隠れてエントマと戯れていた
「各階層守護者達よ。よくぞ私の前に集まってくれた。まずはヴィクティム」
”ヴィクティム”はナザリック地下大墳墓第8階層守護者である。外見は体長1メートルの胚子。尻尾がにょろっと生えており、やけに明るいピンク色の肌をしている。頭上に天使の輪あり、背中には羽のない枯れたような翼が生えていて、基本的に飛んで移動する。
「みながお前に会うのは初めてだったな」
ヴィクティムは体を反転させ他守護者達の方を向いた
『みなさま初めまして。私がヴィクティムです』
「第8階層の守護者であるお前を呼んだのは他でもない。シャルティアを狙った敵を未だ掴めずにいる。予定外の事件が起こることも考えねばならん。そもそも、私を含めて守護者を守るのにお前の死によって発動する強力なスキルが必要だからだ。すまないな、すぐに蘇らせるのを約束するので許してほしい」
『お気にされずにアインズ様。私は死ぬために生み出されたのです。その力で至高の御方のお役に立てるのであればこれ以上の喜びはありません』
「ナザリックのギミックとして用いられている1つにこんな言葉がある。”人はその友のために自分の命を捨てること。これよりも大いなる愛はなし”。まさにお前にふさわしい言葉だ。お前の愛に感謝しよう」
『もったいないお言葉!』
「次にデミウルゴス」
「はっ!」
「まずは事あるごとに呼びつけているお前を労わせてくれ」
「何をおっしゃいます。アインズ様に呼ばれれば即座に参りますのは当然の勤め」
「そうか。お前が持ってきてくれた羊皮紙用の皮は低位のスクロール作成での使用に耐えられることがわかった。安定供給することは可能か?」
「はい。それは問題ございません。十分な数を捕らえておりますので」
「なるほど。それで、何という名の獣だったか」
「獣?あぁ、聖王国良羊でアベリオンシープという名前ではどうでしょう」
「なるほど羊か...山羊の方がいいとは覆うが、いいだろうそのまま進めてくれ。そしてシャルティア」
「は、はい...」
「お前の心に未だ刺さったままの棘の件だ」
「あぁ...アインズ様。守護者の地位に立つ者でありながらあのようなことをしでかした罪深き愚か者にふさわしい罰をお与えください!」
「それに関しては先日カイト殿が与えたはずだがな。カイト殿が下した罰では不満か?」
「そ、そのようなことは...」
一瞬困ったような顔をするシャルティア。しかしすぐさま再び頭を下げる
「わかった。後に決定し与えよう。最後にコキュートス」
「ッ!」
「敗北で終わったな」
「ハッ!コノ度ノ失敗誠ニ申シ訳ゴザイマセン!」
「コキュートス。謝罪をするなら面をあげなさい!」
「失礼シマシタ!」
「コキュートス。敗軍の将の言を聞こう」
「ハッ!オ預カリシテイタ軍ヲ失ッテシマイ誠ニ申シ訳アリマセン!」
「違う。先に言っておこう。私は今回のお前の敗北を強く責める気はない」
部下の失敗に普通なら叱るべき場面で主人からそんな言葉を聞いてシャルティア、コキュートス、アウラ、マーレは驚きの表情を出した
「なぜなら誰しもがまた失敗するからだ。それはこの私だってそうだ。その上で質問だコキュートス。どうすれば勝てた」
「...リザードマンヲ侮ッテイマシタ。モット慎重ニ行動スベキダッタカト.......」
「ふむ、その通りだ。どんな弱い存在でも侮るのはいけないことだ。それで他には?」
「ハイ。情報不足ダッタカト思イマス。相手ノ実力、地形。ソウイッタモノガ不確カナ状態デハドウシテモ賞賛ハ低イト思イ知ラサレマシタ」
「うむ」
「...指揮官ノ不足モ問題デシタ。低位ノアンデッドナノデスカラ臨機応変ニ司令ヲ下セル指揮官ヲツケルベキデシタ」
「それ以外には?」
「申シ訳ゴザイマセン。スグニ思イツクノハコノ辺リガ...」
「素晴らしい!あのエルダーリッチ以外は簡単にポップするアンデッド。滅びたところでナザリックになんの影響も与えない。守護者が学んだと考えればお釣りがくるぐらいだ」
「アリガトウゴザイマスアインズ様!」
「とはいえ、敗北は事実であり罰は受けてもらうがな...コキュートス!その汚名をお前の手で拭え。リザードマン達を殲滅せよ!今度こそ誰の手も借りずにな」
「素晴らしいお考えです!リザードマン共をコキュートスが犯した敗北の罪ごと消し去ろうということですね」
「...アインズ様ニ!オ願イシタイ義ガゴザイマス!何卒!アインズ様!」
「栄えあるナザリックに敗北をもたらした身でありながらアインズ様に請願するとは己が武運を弁えなさい!」
「...」
「コキュートス!」
「よいアルベド。顔を上げよコキュートス。そしてお前が私に願う義とやらを教えてくれないか?」
「...」
「どうしたコキュートス。私はお前が何を口にしたいのかを知りたいだけだ」
「リザードマン達ヲ皆殺シニスルノハ反対デス!何卒ゴ慈悲ヲ!」
「コキュートス!あなた自分が何を言っているのかわかっているの!?」
「アルベド!でしゃばった真似はするな」
「失礼致しました!お許しください!」
「さてコキュートス。今の発言にはそれなりの理由があるのだろうな?ナザリック地下大墳墓にとって利益となる理由が。それを聞かせてくれ」
「ハッ!今後彼ラノ中カラ屈強ナ戦士ガ出現スル可能性ガアリマス!リザードマンニナザリックヘノ忠誠心ヲ植エ付ケレバ、部下スルノガ利益ニナルト判断致シマシタ!」
「確かに納得のいく提案だ。リザードマンの死体を使用してのアンデッド作成では人間の死体と同レベルのものしか作れなかった。であればリザードマン達の死体に固執する理由はない」
「ナラバ!」
「しかしだ!リザードマン達よりも私が作り出すアンデッドの方が費用対効果が良いはずだ」
「ッ!」
「何か他にメリットがあるなら聞かせてほしいな」
「ソレハ...」
「どうしたコキュートス?」
「...」
「何もないならば殲滅ということでよいな?」
「...」
「そうか。残念だ」
「アインズ様」
「ん?なんだデミウルゴス」
アインズの問いかけに何も言い出せないコキュートスの代わりにデミウルゴスが提案を出す
「はい。リザードマン達で統治の実験をしてみてはいかがでしょうか?」
「ほほぅ、おもしろそうな話だ」
「今後いくつもの種族を束ねるときがくるでしょう。そのときのために手始めにリザードマンの村を実験台にすることを具申いたします」
「ふむ。いい案だな」
「それに付け加えて恐怖以外での統治の実験をするのもありかと思いますよ?」
『っ!』
デミウルゴスが進言している最中に入り口の方からゆっくりと歩いて近づくカイト
「カイト殿。いつから...」
「最初からです。隠れていたのは謝ります。すいません」
「いえ。それよりも恐怖によらない統治の実験とは」
「そのまんまの意味です。おそらく言いたいことはデミウルゴスさんと一緒なんですけどね。恐怖による圧政では必ず反旗を翻す者が出てくる。しかし普通の統治ならばその心配は行きに減少するでしょう」
「ふむ」
「さすがはカイト様です!私のような者の考えなど既にカイト様は思いついておられたのですね」
「ありがとうございます。それにさっきコキュートスさんが言っていた屈強な戦士が出てくるってのも一概に悪いってわけではないと思います」
「ッ!」
「というと?」
「この世界にはユグドラシルにはない”武技”という概念が存在します。でもそれは種族によってレベルが違うかもしれない。それに固有スキルのように種族によって特有の武技があるかもしれない」
「ほぅ」
「それらをひっくるめてリザードマンの村を恐怖によらない統治の実験台とし、種族特有のスキル、武具、武技があるのかの調査を同時に進行すればナザリックへの利益は増えはしても減ることはないと思いますよ?」
「見事な提案だ!デミウルゴス、そしてカイト殿」
「「ありがとうございます」」
「では2人の進言を受けリザードマンげの侵攻は殲滅から占領へと変更する」
『はっ!』
「デミウルゴス、感心したぞ」
「何をおっしゃいますアインズ様。貴方様は私の愚案など等にお気づきだったはず。コキュートスを待っておられたのですね」
「ふん、お前は私を買い被りすぎている。私が望んでいたのは何でも良いから自らの意思を示してほしかったということだけだ。聞け守護者達よ!命令に盲目的になって従っているだけでいいというものではない。その前に少しだけ思案を巡らせるのだ。何が最もナザリックの利益に繋がるか!」
『はっ!』
「さてコキュートス。したがってお前への罰も変更だ。リザードマン達をお前が統治しナザリックへの忠誠心を植え付けろ。恐怖による支配は厳禁だ」
「カシコマリマシタ!コノコキュートス、アインズ様カライタダイタゴ慈悲ニ見合ウダケノ働キヲ約束シマス!」
「では守護者全員に出撃を命じる!1つは囮として、そしてもう1つはリザードマンに我々の力を誇示してやるためだ!アルベド、兵の準備を整えよ。”ガルガンチュア”も起動させろ」
「かしこまりました。囮ということは盗み見が好きな相手を計算してこちらの戦力を勘違いさせる、という意味も含んでいると捉えても?」
「その通りだ」
「承知いたしました」
「では各員、行動を開始せよ!」
アインズが転移しとりあえずは終了した
「カイト様、感謝致シマス!」
「いやいいんですよ。自分がいなくてもデミウルゴスさんだけで進言は通ったでしょう。それにアインズさんはこうなると読んでいたでしょう」
『えっ!』
「全てはアインズ様のご計画通りというわけですね?カイト様」
「さっすがアインズ様ですね!」
「でも、えっと...でもですよ?コキュートスさんが負けることも想定済みだったのかなって」
「敗北、というよりコキュートス自身で調べて勝てるかどうかを進言するかも考慮されていたのではないでしょうか、カイト様」
「そうだったのかはわかりませんが、少なくともアインズさんの命令通りではなくコキュートスさん自身で何かしらのアクションを取るということは考えていたでしょうね」
「さすがはアインズ様!誠にすごすぎんす!至高の御方々のまとめ役にいらっしゃったと言わすのは伊達じゃありんせんと言わせんとでありんすねー!」
「ともあれ先程アインズさんも言っていましたがコキュートスのみならずみなさんには主人の命令をそのまま実行するのではなく、よりナザリックの利益になる方法はないか自身でも考えてほしいということです。それは自分も望んでいます。今の貴方達は自分の意思がある。アルベドさんやシャルティアさんがアインズさんを愛するという心もコキュートスさんの武人としての意思もデミウルゴスさんの底なき探究心も全て自身の意志です。アインズさんの望みを叶えてやってください」
「ご安心くださいカイト様。私はいつまでもアインズ様を想っております。妻として」
「そ、それはアインズさんもさぞ嬉しいことでしょう...」
「カイト様。貴方様は今や私の恩人でありんす。私の意思で貴方様にもさらなる忠誠心を誓いんす」
「ありがとうございます。それに応えられるよう自分も頑張ります」
「カイト様。貴方様モ至高ノ御方々ニ匹敵スル御仁ニゴザイマス!アインズ様カライタダイタゴ慈悲ト助ケテイタダイタカイト様ヘノ感謝ヲ次ノ働キデオ見セ致シマス!」
「えぇ。期待してます」
「私も頑張ります!」
「え、えっと...僕も頑張ります」
「アウラさんは元気が一番ですね。マーレさんはもう少し自身を持っていいですよ?」
「アインズ様、カイト様のお考えなど今の私では到底及ぶものではありません。しかしこのデミウルゴス、少しでも御二方のお力になれるよう精進致します」
「貴方のしていること、そしてこれからすることは間違いなくナザリックの、アインズさんの利益になるでしょう。自分も力を貸します」
『カイト様、私もアインズ様とカイト様のお力になれればと思います』
「はじめましてヴィクティム さん。貴方は貴方でしかアインズさんの力になれないものをお持ちだ。そのときは頼みます」
カイトは守護者達に一度頭を下げてから入り口に向かって行った。扉の前にはエントマが今か今かと待ちわびていた
「カイト様ぁ」
「おっと、お待たせしました。それにしてもこのところ急に甘えん坊ですね」
「カイト様とはぁ、ずっと触れ合っていたいですぅ」
「それは嬉しいですね。ですがみなさんの出撃に自分も同行します。なので準備をしなくては」
「お手伝いします」
「いや、仮面つけてローブ羽織るだけなんですけど...」
死神のオーラを放つアインズを先頭に軍は出陣した。手始めにアインズはリザードマンの拠点の周りの湿地全てを魔法で氷漬けにした。そして背後の森から三十メートルを超える巨大な像が大きな足音を立てて近づいていた。そしてその巨像は自分と同じぐらいの岩を持ち上げリザードマン達の目の前に放り投げた。そして落下したその岩に背に盾を装備した大量のスケルトンが近づき次々と四つん這いになりその上に重なっていった。それはまるで組体操のピラミッドのように積み上がっていきやがて階段となった
そして今度は金の魔法武具を装備したスケルトンが<ギルド:アインズ・ウール・ゴウン>の旗を持ちその階段の一段一段の両脇に立ち中を向いて旗を掲げる。そしてその通り道をアインズを先頭にコキュートス以外の各階層守護者、そしてカイトが続いて取り岩の上に並ぶ。中心には玉座が現れアインズはそこに腰かけた。そしてアインズはメッセンジャーモンスターを召喚する
『偉大ナル御方ノ言葉ヲ伝エル』
『偉大ナル御方ハ対話ヲ望マレテイル』
『聞キ届ケル者ハ即座ニ前ニ出ヨ』
『無駄ナ時間ノ経過ハ偉大ナル御方ノ怒リヲ買ウダケダト知レ』
アインズが出したメッセンジャーモンスターはシャルティアが手を一度叩くと全て消え散った。そして数秒後2匹のリザードマンが近づいてきた
「リザードマンの代表、”シャースーリュー・シャシャ”だ!そしてこの者こそリザードマン最強の者!」
「”ザリュース・シャシャ”だ!」
「...」
「私達の主人は貴方達には聞く姿勢ができていないとおっしゃっています。デミウルゴス」
『平伏したまえ』
デミウルゴスの声で2匹のリザードマンは強制的に頭を地面につけた。それは氷にヒビを入れる勢いで
『抵抗するな』
「アインズ様、聞く姿勢が整ったようです」
「ご苦労。頭を上げよ」
『頭を上げることを許可する』
リザードマン2匹は頭のみ上を見上げる
「私はナザリック地下大墳墓の主人、アインズ・ウール・ゴウン。まずは私の実験に付き合ってくれたことに感謝の意を示す。さて本題だが私の支配下に入れ」
「な”っ!」
「しかしながら君達も自分達が勝利を収めた相手の支配下に入りたくはなかろう?故に4時間後再び攻める。攻め手は私の信頼できる側近、コキュートスただ1人。もし君達が今度も勝利を収められたなら私は完全に君達から手を引くことを約束しよう」
「降伏を...」
「戦わずして降伏などというつまらないことは言わないでほしいな」
「見せしめか...」
(聞こえてるんだよな〜)
「話は終わりだ。では4時間後、たっぷり楽しんでくれ」
「待ってほしい!この氷は溶けるのか!」
「あぁそうだったな。泥で汚れるのが嫌だっただけだ。後ほど魔法の効果は解除するとしよう。ではさらばだリザードマン。”ゲート”」
「さようなら、リザードマン」
「じゃあね!」
「さらばでありんす」
「えっと、あの...じゃあ元気でいてください」
『ではさようなら』
『自由にしてよい』
「さて、ゆっくり楽しんでくれたまえリザードマン」
「...」
最後にカイトが綺麗に一礼して空に向かって剣を振ってゲートをくぐりそれは消えた。そして空の雲を見上げたリザードマン達は驚愕に満ちていた。雲が、真っ二つに割れていたのだから...