冬休み最後の日、それは厄日だ。
別に、冬休みの宿題が残っているからじゃない。 理由は家庭の都合だ。
「あら、出来損ないにしては準備が早いじゃない。」
派手な晴れ着姿の女性が、僕を嘲笑うかのように言葉をこぼす。
「分かっているでしょうね、今日一日は私達の視界に入る事を許すわ。
でも、あくまでメイドの一人としてよ。良いわね。」
「分かっています、美希様。」
「ふん!」
僕の態度が気に食わなかったのか鼻で笑った後、倉庫けん僕の自室から出ていく。
「もう出てきて、良いよ。」
僕の言葉を聞いて、物が詰まれている部屋の隅から二つの影が出てくる。
ケルスとコロクだ。
『ふぅ~、見ているこっちが、ひやひやするわ。』
『なぁ、夢。 あのキャラの濃いおば・・・女性は誰なんだ。』
「彼女の名前は、紫吹 美希《しぶき みき》。」
『紫吹って、まさか!』
「コロクの予想通り、僕の母親さ。」
『・・・』
何か、思う事が有るのだろう。 コロクはしかめっ面で考え始めた。(メカだけど)
「ケルス、そこのメガネを取って。」
『あいよ~』
器用に机の上に置いてあった、黒縁のメガネを取って来てくれるケルス。
ケルスからメガネを受け取り、メガネをかける。年代物のスタンドミラーで確認する。
そこには、メガネをかけた小さなメイド服を着た僕が立っていた。
『ぉお~ 大分印象が変わったなぁ~』
ケルスの言う通り、普段の僕を知ってる人でも見違えるほどメガネ女子に見える。
・・・一応言うけど僕、男だよ。
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ケルスとコロクが入っているショルダーバッグを肩にかけ、
ブラウンのスマホ【リアックフォン】をスカートのポケットに入れる。
戸締りを確認して、いつもは使用禁止にされている表玄関に向かう。
今日は年に一度の親戚が集まっての食事会・・・と言う名の大人のマウントの取り合い。
家の家系は昔からお偉いさんと言うか、お金持ちの集団。
普通に、執事とかメイドを雇うくらいには大きい一族だ。
そういう家庭に転生した僕は、一族内では生まれていなかった事になっている。
本来ならその会食に参加券のない僕だが、
神楽の傍に使えるメイドとして父親が僕を参加させている。
「お姉ちゃん。行っておくけど、今日は神楽って呼ばないでね!」
「分かっています、お嬢様。」
前世では接客の仕事をした事の無い、高校生の僕だったけど、
まさかこんな形で仕事する事になるとは、思ってもいなかったな。
あっ!別につらい訳じゃないよ。その手の感情をまず、感じることが出来ないしね。
考え事をしている間に、車がやって来た。
一番最後に車に乗って、席に座る。 後は運転手が会場に連れていってくれる。
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会場に着いたら長い話を聞いて、自由行動。 僕の場合は神楽についていくだけだけどね。
毎年ながら、嫌な空気だ。
「リーム。なんか、取って来て。」
「畏まりました、お嬢様。」
【リーム】って言うのは、この場での僕の呼び名。
他の人達には僕の事は、外国からやって来た少女メイドのリームって事になってるから。
お皿にサラダと卵焼きにソーセージと、次々と盛っていく。
「あれ、リームちゃんではありませんか。」
後ろから声をかけられ、手に持つお皿を落とさないように振り向く。
「天羽様、ご無沙汰ぶりです。」
そこに居たのは、毎年この会場で会うお坊ちゃま。天羽 相馬《あもう そうま》君。
天羽家の跡継ぎの少年だ。
「お久しぶり。それより相変わらず神楽に、こき使われているのか?」
「いえ、そんな事はありません。」
「・・・君は、表情が変わらないから嘘か本当か、分かりづらいよ。
それより、俺のところに来ないか?神楽の所よりも好条件で雇ってあげるよ。」
「せっかくのお誘いですが、今の環境には不満がございませんので、断らせてもらいます。
では、私はこれで。」
相馬君と別れて神楽の元に向かう。
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(なんでなんでなんで、どうして神楽の方を選ぶんだよ!不満がない?
どうして、そんなやせ細った体って事は、ちゃんとした食事を取ってない証拠じゃないか!
・・・そうか!彼女は神楽に脅されているんだ、そうに違いない。そうと決まれば・・・)
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「紫吹家のメイド。リームさんで、間違いありませんね。」
「はい。」
神楽と居たら、何処かの執事に声をかけられた。
「私は、天羽家の執事長です。 お坊ちゃまがお呼びですので、来ていただけないでしょうか?」
・・・執事長さんの主に会いに付いていき、会場の外に出てきた。
「あの~どこまで行くのでしょうか?」
「今は、黙ってついて来てください。」
言われるがままについていくと、一台の車の前に辿り着く。
「さぁ、お乗りください。」
「えっ!ちょっと。」
僕が何かを言う前に、車に詰め込まれた。 大人の力って、こんなに強かったんだ・・・
「さっきぶりだね、リームちゃん。早くシートベルトを付けてくれ。」
「天羽様・・・」
もう、何もできないので言われた通り座席に座り、シートベルトを装着する。
「出してくれ。」
相馬君の言葉を聞いた運転手が車を走らせ、会場から離れる。
「さ~て、リームちゃん。家に来なよ。」
「・・・そのお話はさっきも、断ったはずですが?」
「君が紫吹家の脅されているのは知っている。」
脅されている。僕が?
あの後も、ひたすら喋りかけてきた相馬君だったが、簡潔に話すと、
僕は脅されていて、彼の家でかくまってあげるから、メイドに来いだと。
うん。勘違いしてるね。けど、どうやって説明しよ?
全部話せれば、楽なんだけど・・・
「うん? 家に行くには、さっきの道路を右に曲がるぞ。なんで、左に曲がったんだ?」
どうやら今年も、運命は僕の事が嫌いらしい。
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拉致られてやって来たのは、廃工場。
「ほら、歩け!」
「くっ!」
「・・・」
車を運転していた人に言われるがまま、廃工場の中に入る。
ちなみに手はロープで拘束されている。相馬君は怯えている・・・普通か。
「そこに座れ!」
大人しく言われた通りに座る。あいつは少し離れたところで、電話している。
内容は聞き取れないけど、身代金関係だろう。
「リームちゃんは、怖くないのか?」
「まぁ、恐怖を感じないし、最近こう言うのばっかだし。」
「えっ?」
あっ、素で返しちゃった。・・・もういいや、全部話そう。
「ど、どう言う・・・」
「僕は、君に謝らないといけない。」
「へっ?」
「僕は紫吹家のメイドじゃ無い。」
「口調が、それにメイドじゃ無い?」
相馬君は混乱し始めているけど、あいつが戻って来る前に話を終わらせる。
「そう。僕は紫吹 夢。神楽の双子の兄。 病気の関係で、世間一般的には居ないはずの人物さ。
だからメイドとして、あの会場に居た。この話、内緒にしていて。」
「分かった。」
流石お坊ちゃま、家庭の都合に察し良くて助かる。
話が終わったタイミングで、あいつが戻ってきた。
「よ~し、大人しくしとけよって! 高級そうな宝石見っけ!ラッキ~」
男性の視線を追うと群青色の鉱石・・・ソルト結晶!?
「うぁぁぁぁァァァァーーーー!!」
男性がソルト結晶を手に取ると、ソルト結晶から虹色の光が発生する。
光が男性を包み込み、カマキリの怪人【カマキリソルト怪人】に変化する。
「バ、バケモン!?」
「相馬君、スカートの右ポケットからスマホを取り出して。」
「えっ!」
「早く。」
「あぁ・・・」
相馬君に取り出してもらったスマホを受け取って、電源ボタンの下にある赤いボタンを押す。
するとリアックフォンはガジェットモードから、アニマルモードのコウモリへと変化する。
リアックフォンは僕の手元を離れ、旋回してこっちに突撃してくる。
「ちょ、ちょっと!」
相馬君が驚くのを無視して、僕と相馬君の間をすり抜ける。
すると僕達を縛っていたロープは、切り裂かれていた。
この子は、神甲虫と同じくAIが組み込まれておりある程度自分で思考し動くことが出来る。
ちなみにケルスとコロクとは違い、神甲虫もリアックフォンも喋る事は出来ない。
「今のうちに逃げるy」
「リーm・・・夢君!」
気がついたら吹き飛ばされたけど・・・何が起きた。
「うぁぁぁぁ!!」
「っ!」
相馬君の叫びを聞き、無理やり視線を動かす。
視線に入って来たのは、カマキリソルトが相馬君に詰め寄っており、
リアックフォンが超音波を放ちそれを防ごうとしている姿だった。
何とか起き上がろうとして両手に力を入れようとするも、右腕にしか力が入らない。
左手を見ると、見事に折れていた。よく見ると切り傷もあり、出血している。
痛みを感じ無いのをいいことに、無理やり立ち上がる。
ゴキッ!っと嫌な音が鳴ったが無視して足を進める。
「カネダ!金ガ必要ナンダ。 オ袋ノ病気ヲ治スタメニ!!」
ソルト結晶の影響で狂ってしまった思いが、耳に入ってくる。
やり方は許された事じゃない。でも、その思いは間違っているって誰が言えるのだろうか?
きっと僕は、既に狂っているのだろうか。それでもいいや、だから・・・
「行くよ、ケルス。」
『おぅ!』
いつの間にか傍にいたケルスが、ウィッシュドライバーに変形し、そのまま腰に装着される。
帯が装着されたことにより、待機音声が流れる。その音に気付いたソルト怪人がこちらを見る。
「変身・・・」
〈チェンジ・ウィッシュ! アミナス!〉
右手でイネインスイッチを押すことで、紫色の光に包まれる事により、
身長が伸び、ケルベロスを彷彿とさせる
「グオォォォォ!!」
カマキリソルト怪人が突進してくるのを右腕で防御する。
数メートル後ろに押されるも、受け止めきる事には成功した。
「君の歪んだ願いは、此処で止める。」
カマキリソルト怪人の腹に膝蹴りを入れ、怯んだ所に顔めがけて回し蹴りを入れる。
カマキリソルト怪人が倒れている間に、右腕にイネインエネルギーをかぎ爪状に纏う
【ケルベロスクロー】を発動し、ソルト怪人に向かってかぎ爪を振るう。
「グワァァ!」
左腕が使えない今、とにかく反撃させない事に集中する。
『今だ決めろ、夢!』
いつの間にか、相馬君の傍にいるコロクからの合図が聞こえ、
ベルトの右手側の口型のスイッチを閉じるように操作をする。
〈ケルベロス・イネインチャージ!〉
音声が聞こえた後、両肩のショルダーフェイスの瞳が発光する。
イネインスイッチを二回押し真ん中のケルベロスの顔を操作する。
〈ケルベロスザンパー〉
今出せる最高速度で走り、黒色に変色した右腕のケルベロスクローで何度も相手を切り刻む。
最後に切り上げる。地面に着くと同時にソルト怪人は爆散した。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
意識が朦朧とし、膝から崩れ落ちる。
最後に聞こえたのは、みんなの心配する声と、サイレンの音だった・・・・・・・