ボミンの町。その西門近くには冒険者と呼ばれる総合職を取りまとめるギルドが存在する。
それなりに大きな町にあるだけあってその規模はそこらのギルドとは格が違い、日夜問わず人の出入りがある。
やれ温泉が出ただの、やれ街道にでた山賊を片付けてくれだの、やれ誕生日のお祝いに演奏してくれだのと依頼はピンからキリまでやたらと幅が広い。これは荒くれ日雇い達の同盟が始まりだったためと言われている。依頼者、受注者のうちのどちらかに実績がなければ冒険者ギルドが仲介し、面談などによってトラブルを事前に回避していた。
さて、そんな冒険者ギルドともなれば当然有名な人物が存在する。夜明けのジェラルド、破壊者ベデデ、ヤベーメイドサティア、逃げ足のライカ、働かずのニート、植物に詳しいゲゲ、その他沢山。そんな珍妙な有名人の中、少々毛色が異なる人物がいる。それが、例のアレことナンテヨムカワカンニャイだ。名簿にある名前は複雑怪奇な謎の文字で登録されており、誰も読めず、担当者も聞き出すことができなかったとのこと。それだけであれば実は何人か存在している。たまに間者として国に処断される人物もいるが、珍しい程度の話だ。
その逸話は両手で足りないほどある。身長が4メートルある。目から光線がでる。ガッツポーズをしただけでホームランになった。などなど。総合すると生きた都市伝説的存在である。
春、この地方では春後半から一斉に農業が始まる。
とはいえ、畑仕事に注力できるのは大壁によって人の領域を確保した王都周辺のみであり、一般的には農家と冒険者、自警団が協力して行う。
畑を一望できる位置で監視する仕事はその中でも特に信頼される者が選ばれ、危険度が高い地方になるほど一種の特権階級のようになるほど重要視されるようになる。ボミンの町周辺では20人ほどがその役割を担当しており、場合によっては農家側に冒険者が引き抜かれるケースもままあった。
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2代目と呼ばれる少女は畑の監視員を父に持つ冒険者だ。父の血を濃く受けた彼女は人一倍目がよく、そして父の技術を受け継ぐサラブレッド。父が弓の腕を買われて衛兵に転職することになったため、半年の引継ぎ期間をへて正式に交代した。
見張り台の上で緊急連絡用の爆竹をチェックしながら2代目は事前に冒険者ギルド得ていた情報を反芻していた。
(例年より狩猟された魔獣の数が多い、か。父さんのメモ通りなら今年は鎧鹿が多くなる。貫通矢の在庫を後で見ておかないと)
地域差はあるが緊急連絡手段は爆竹・角笛・閃光石の3つが用意されている。角笛は一部の魔獣が引き寄せられてしまう場合があり、閃光石はまぶしく高いため大抵は爆竹が使われる。そのチェックを怠るようでは務まらないと耳にタコができるほど聞かされていた。
そしてもう一つ。
(そういえば例のアレが参加するっておっさん達が盛り上がってたな)
実在する人物だったことに驚きもあったが、実際打ち合わせには普通に参加していたし、たまにギルドで見かけていたのでかなり拍子抜けしていた。そのことを伝えたら妙に驚いていたのを覚えている。名前が読めないだけの普通の人だった、ということだろう。
(他の有名人と比べたらオーラも感じなかった――し?)
背格好について思考が向かったところでどうもぼんやりとしてわからない。見れば思い出すだろうと思考を切り替えて爆竹の点検を終わらせ、畑を見張る。
隣に誰も立っていない寂しさを日陰に入ったせいにした。
見張りを続けること2週間。最初は連携にもたつきがあったが、それもすぐに解消された。
魔獣の襲撃はほぼ例年と同じ程度繰り返され、大した負傷者もなく順調といったところだった。
一つ不満があるとしたら、例のアレの働きぶりだ。時折持ち場を離れたと思えばいつの間にか見張り台に上っていて、今もこうして隣で焼き菓子を齧っている。ここで何をやってるんだと視線を送るとしょうがないなぁというように半分千切って渡してくるのだった。そうじゃない。
それでも何かが出ればとんでもない速さで向かっていくので余り強く言えない。治療師の真似事もできるらしく、負傷者が世話されているところも見かけていた。何をどうやったら見張り台から警告を鳴らした瞬間に現場に立てるのかは聞いても教えてもらえなかった。
風のない日のこと。いつも通り見張りをしていたところ、森の境目にちらりとなにか白いものが見えた気がした。目を凝らしてみると、何かが揺れているような。見えそうで見えない。片手に持っていた物を取り落としてしまったが、そんなことはどうでもよかった。
ゆらりと揺れる。それはもう少しで見えそうで、解りそうで、歯痒さに苛立ちながらさらに見つめる。
(もう少し、もう少しで――)
不意に視界が遮られ、人肌を感じた。呑気にだーれだと宣うそれに苛立ちが噴火した。
「あんたねえ!」
目を隠していた腕をはじいて振り返る。そこにはやはり例のアレがいた。
そのまま苛立ちをぶつけるために口を開いて、それは言葉になることはなかった。
見なければという気持ちがきれいになくなってしまっていたのだ。その先にあった苛立ちも同じく消えてしまっている。
「あれ?」
混乱していたが、正面でばつが悪そうにしていた例のアレが何かを拾い上げた。
「あ、それは」
父の手記だった。大切に持っていたはずだがいつの間にか落としていたようだ。ようやく思考が追い付いてくる。それをどうでもいいものとして扱った先ほどの自分は明らかに正常ではない。震える手で手記を受け取り、強く抱きしめた。
ややあって顔を上げると例のアレは先ほどの自分と同じように森の方を見ていることに気付いた。あーなるほどね完全に理解したというふうに頷くと、父の手記のページを指で捲っていく。
なすがままにされていたが、見慣れない内容のページで止まった。意味が解らず前後のページを確認すればそこは今までも何度も見ていたページだ。
『アレン爺が引退する時に古い話をしてくれた。何か白いものが揺れていたら解ってはいけない。何か、人の精神に悪影響があるらしい』
「なに、これ。ねぇ、どうしてこれを知ってるの?」
例のアレの腕を掴んで問い詰める。困ったようにしながら話をそらそうとしてきたが、しつこくすればこの手記から妙な気配がしていたということだった。きっかけは知らないが目を付けられていたのだろう。
その日は襲撃もなく、例のアレはずっと隣で手記を読んでは質問をしてきた。とても一人でいられる精神状態ではなかったので非常に助かった。
去り際、礼を言ってやろうかと考えていると例のアレが何の前触れもなく額を小突かれた。
「いたっ」
思わず目を閉じた。目を開けるとその一瞬で見当たらなくなってしまっていた。逃げ足の速い奴だ。
文句を言ってやろうと翌日、見張り台で構えていたが例のアレは来なかった。
その次の日も、その次の日も。しかし本来は見張り台に来ること自体がよろしくなかった手前、こちらから何かを言うことはできない。
「礼くらい言わせなさいよ」
そんなこぼれた言葉は風に流されて行ってしまった。その理由はここ数日で何となくわかっている。
ふといつぞやの焼き菓子の匂いがした気がした。でも振り返ることはせず、肩越しに片手を差し出す。
千切られた焼き菓子に齧り付き、2代目は見張りを続ける。
風は強いが、不思議と肌寒さはもう感じなかった。
いわゆるくねくね系の話です。
遠目に見続けてしまった2代目はSANチェックです。
成功で1、失敗で1d20。コロコロ。
成功。ナンテヨムカワカンニャイさんの悪戯で大事には至りませんでした。
実は2代目ちゃんには神子だった母の血も出ていて、第6感的な意味での目を持っていました。
それゆえに余計なものが見えてしまったようです。
幼少期にも父に肩車をしてもらったときに一瞬目撃しており、その時から目を付けられていました。手記に干渉して2代目が記載に気付かないようにしていましたが、ナンテヨムカワカンニャイさんによって看破されてしまいました。
ナンテヨムカワカンニャイさんに小突かれてびっくりしたので"目"が閉じました。
この経験を母にすればコントロールする術を授かることでしょう。
呪われた装備とかを感知できるようになるのでダンジョン勢にはありがたい存在になりそうです。
悪戯したらなんか第六感が閉じてしまったっぽいことに気付いたナンテヨムカワカンニャイさんは2代目ちゃんを見かけた時、変顔をして様子を見ているようです。