高校生になってから、しばらく経った。今のところ俺は俗にいう青春というものを謳歌しているように感じる。超絶可愛い姉と信頼できる比企谷先輩、自分のハートを完全に射止めた由比ヶ浜先輩と仲良くなり、さらにいろはすという悪友というべき存在もできた。
「うーん、これは青春以外の何物でもないのではなかろうか」
「星斗くんってさあ、ときどき変なこと呟くよね?」
昼食中に突然語りだした俺に対して、呆れた表情でそう呟くのは、前述した一色いろはこといろはすである。
「手厳しいね。一色といると気が抜けっちゃってそうなるのかもしれない」
ウインクして答える。一色の背後で女性陣の声にならない叫びが聞こえたような気がしたが、当然スルーだ。
「ていうか、なんで星斗くん、わたしとご飯食べてるの?」
「ダメ?」
「いやダメってわけじゃないけどさ、星斗くんと食べたいって人なら、他にも何人かいるんじゃないの?」
「そうかもしれないけど、俺は一色がいいんだよ」
そう答えると、一色はジト目で俺を睨んできた。
「星斗くんがそんなこと言うから、周りの女子と変な空気になるんだよね。どうしてくれるの? あたし一人で取り持つの大変なんだけど」
ここまで言っておきながら、本心から俺を拒絶してこないのは俺のことを嫌ってはいない。むしろ、好いてくれているからだろう。それが分かっててつけ込む俺もどうかとは思うが。
こんな風なやりとりをしょっちゅう繰り返しているためか、一年生の間では俺と一色は付き合っているのではないかとかいう噂まで漂っている。一色ははっきりと否定しているが、俺がそこら辺をはぐらかしているため結局野放しになっているようだ。
「未だに星斗くんがよく分からないよ。なんであたしと友達になろうなんて言うのか」
軽く笑って俺は言う。
「今までは、男子からはプロポーズばかり受けてきたみたいな言い草だね」
「否定しないし、星斗くんも大体気づいてるみたいだからいいけどさ。猫被ってるのがわかったら、寄ってこなくなるのが普通だと思うけど?」
「そういう人たちは見る目がないね。あくまで自分は素の一色と友達でいたいと思ったから、一緒にいるつもりなんだよね。あっ、あくまで友達だからね? 恋人とは言ってないから、勘違いしないでね」
一色は呆れてため息をつく。
「勘違いとかしないし、男のツンデレとかダレトクなのよ。マジで引くわぁ」
そうは言いつつ、一緒にご飯を食べてくれる辺り、ツンデレはどっちなんだと言いたくなる。
授業をぼんやり受けていたら、いつの間にか放課後になっていた。光陰矢の如しというが、まさにその通りである。
さて、授業が終わった今、やるべきことはただ一つ。最推しの先輩たち三人と楽しい放課後の時間を過ごすことだ。そんなルンルン気分で奉仕部に向かっていると、比企谷先輩とかち合った。
「比企谷先輩も今から部活ですか?」
「まあな。星斗は部員ではないのに行くみたいだが、あの二人が目的か?」
「ですです。今日も雪姉と由比ヶ浜先輩と仲良くさせてもらいましょうかね」
俺はにやにや笑いながら言う。
「下心満々で行けるのには、少し尊敬するわ」
と比企谷先輩。下心なんて9割くらいしか含まれていないから問題ないだろう。ほとんど下心じゃねーかって声は聞かなかったことにする。
そんな風にぼんやりと比企谷先輩と話してたら、奉仕部の部室へ着いた。どういうわけだか雪姉と由比ヶ浜先輩が扉の前で立ち尽くしていた。一声かけるべきか様子を見るべきか迷っていると、比企谷先輩が声をかけた。
「何してんの?」
「ひゃうっ!」
と2人の身体が跳ねた。お二人の可愛い悲鳴、ごちそうさまでした。スマホの録音機能オンにしとけばよかった。一日中聴いてられるというのに。
「比企谷くん、びっくりしたじゃない。いきなり声をかけないでもらえるかしら? それと星斗、よく来たわね。嬉しいわ」
デレと不満をぶつける高等テクを放ちつつ雪姉は比企谷先輩を睨む。
「悪かったよ。で、何してんの?」
由比ヶ浜先輩が中を覗き込みながら言う。
「部室に不審人物がいんの」
「不審人物はお前らだ」
いえ。2人が好き過ぎておかしくなってしまう自分こそが真の不審人物かと思います。
「いいから、そういうのいいから。中に入って様子を見てきてくれるかしら」
その言葉に促され、比企谷先輩は慎重に扉を開いて中に入る。
そこに待っていたのは、大柄で暑そうなコートを羽織り、指ぬきグローブをはめている、一言で言い表すならば中二病と言うのがふさわしいと思われる男であった。
「クククッ、まさかこんなところで会うとは驚いた。待ちわびたぞ、比企谷八幡」
「な、なんだと!?」
このリアクションからして比企谷先輩とこの男は知り合いらしい。なんか特大の面倒臭さをもった依頼をぶち込んできそうだ。さらば、由比ヶ浜先輩と雪姉を愛でる穏やかな日常よ。
比企谷先輩は大きくため息をついて答える。
「何の用だ、材木座」
「むっ、我が魂に刻まれし名を口にしたか。いかにも我が剣豪将軍・材木座義輝だ」
どうやらこの材木座先輩は剣豪将軍という設定に入り込んでいるようだ。その姿を眺める比企谷先輩はひどく沈痛な面持ちであった。それもそのはず、
「ねぇ……、ソレ何なの?」
と由比ヶ浜先輩の不満げな声があるからだ。いくら由比ヶ浜先輩マニアの自分でもそんな言い方されるのは……。いや、普通にアリかもしれない。
「こいつは材木座義輝。……体育の時間、俺とペアを組んでるやつだよ」
と比企谷先輩が渋々答える。
「比企谷先輩の友達ってことですか?」
「んなわけあるか。俺はあんなに痛くはない」
「まあ、それはいっか。で、材木座先輩は比企谷先輩に用があるのでは?」
「フハハ、とんと失念しておった。八幡よ。奉仕部というのはここでいいのか?」
それには雪姉が答える。
「ええ。ここが奉仕部よ」
「む、ここは奉仕部で間違いないのだな。ならば、八幡、お主は我の願いを叶える義務があるわけだな? 幾百の時を超えてなお主従の関係にあるとは……これも八幡大菩薩のお導きか」
「別に奉仕部はあなたのお願いを叶えるわけではないわ。ただそのお手伝いをするだけよ」
「ふ、ふむ。八幡よ、我に手を貸せ。ふふふ、思えば我とお主は対等な関係、かつてのように天下を再び握らんとしようではないか」
「主従の関係どこいったんだよ。あとなんでこっち見んだっつーの」
「ゴラムゴラムっ! 我とお主の間でそのような些末なことはどうでもよい。特別に赦す」
「すまない。どうやらここは在りし日々に比べて穢れているようだな。あの清浄たる室町が懐かしい。そう思わぬか、八幡」
比企谷先輩の対応は至ってクールである。
「思わねぇよ。あともう死ねよ」
「ククク、死など恐ろしくはない。あの世で国取りするまでよ」
ここまで言ったところで由比ヶ浜先輩がドン引きしていた。ていうか、俺もドン引きしつつある。自分はコミュ力などには少々の自信があったため、人付き合いなどは多かったが、ここまでパンチのあるキャラも珍しい。
「比企谷くん、ちょっと……」
雪姉は比企谷先輩を呼ぶ。
「何なの? あの剣豪大将軍って」
その声に比企谷先輩は一声で答える。
「あれは中二病だ。一言で言い表すならな」
中二病に関する説明はもはや不要だろう。語彙の少ない自分が分かりにくく説明するよりも、ネットでパパッと調べてもらった方が早い。そう思ったが、比企谷先輩は雪姉と由比ヶ浜先輩に中二病が何であるかをしっかりと教えているようだ。
その説明会が終わったのちに雪姉は材木座先輩の眼前に立っていた。由比ヶ浜先輩は「ゆきのん逃げてっ!」とか言っているが、心配には及ばない。雪姉に何かしようものなら痛い目を見せてやることくらい軽い。何? お前が守られる側だって? それは男の沽券に関わる。
「だいたいわかったわ。あなたの依頼はその中二病とやらを治すってことでいいかしら?」
「それはないと思うよ、雪姉。この手のタイプは人の力で治るものじゃないからね。ですよね、比企谷先輩?」
「なんだよ。今更黒歴史をほじくり返せって言うのか。でも、まあその通りだな」
「そうですよね。まあ、材木座先輩の依頼ってこれってことですよね」
俺は足元に散らかっている用紙を手に取る。それを見た比企谷先輩は小さな声で言う。
「これって……」
「ふむ、言わなくても通じるとはさすがだな。伊達にあの地獄の時間を共に過ごしていない、ということか」
「これは、ラノベの原稿か?」
「その通りだ。いかにもそれはラノベの原稿だ。新人賞に応募しようと思っているが、友達がいないので感想が聞けぬ。読んでくれ」
「何かとても悲しいことを言われた気がするわ……」
と雪姉が呟く。
「投稿サイトとか投稿スレとかに晒せばいいんじゃねぇの」
「それは無理だ。彼奴らは容赦がないからな。酷評されたら死ぬぞ、我」
そのくらいで死なないでもらいたい。なにせ……。
「でもなぁ……」
比企谷先輩は雪姉をチラリと見る。
「たぶん、投稿サイトより雪ノ下の方が容赦ないよ?」
その通り。可愛い顔で毒を吐く雪姉は、投稿サイトとは比にならないほど叩いてくるだろう。今となっては自分はその毒に対して抗体ができてはいるが(そもそも毒が飛んでくることも滅多にないが)、慣れていない人など、文字通り木っ端微塵にされてしまうだろう。
まあ、そんなところもシスコンの自分にとっては大きな魅力の一つなのだが。
同級生ポジのいろはすの書き方がマジで分からん。なんか思ってたのと違うみたいな風に感じたら、海よりも広い心で許してもらえると嬉しいです。
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