春の夕陽が差し込む中、喫茶店で文字通り女神のような姿でコーヒーを口に運ぶ女子大学生がそこにはいた……。
彼女こそもう一人の我が姉、陽姉こと雪ノ下陽乃である。
最近、俺は雪姉のマンションで生活しているため、あまり会う機会がなかったが、彼女のその美しさはまったく衰えてはいない。それどころか、より磨きがかかっているようにすら見える。そこらの女優やアイドルなどよりかは遥かに可愛らしい。
「星斗ー。こっちこっち」
俺に手を振ってくれたので、真っ直ぐにそこに向かう。
「久しぶりだね、陽姉」
「久しぶりって言うほど久しぶりでもなくない? 星斗」
そう言って俺の頭を軽く撫でてくれる。
「それで、今日は何の用があったの?」
椅子に腰を下ろした俺に陽姉が聞く。
「主に2つなんだけど……。まず1ついいか?」
陽姉は小さく頷く。
「雪姉が……、可愛すぎるんだ」
陽姉はキョトンとした顔で聞き返す。
「えっ……そんなこと? 確かに雪乃ちゃんは今も昔も可愛いけど、星斗がそんな風になるほど……?」
俺は勢いよく答える。
「ああ、そうさ! とりあえずこの写真を見てくれ!」
俺はスマホを取り出す。そこにはベットの中でスヤスヤ眠る雪姉や材木座先輩の小説を徹夜で読んで部室で寝息を立てる雪姉の姿が収められている。俗に言う隠し撮りだ。
「どうだ、陽姉! これを天使と呼ばずして何と呼ぶか!」
陽姉は食い入るようにそれを見たのち呟いた。
「……我が妹ながら、恐ろしいわね。にしても、よく耐えられるわね。真っ当な男子なら姉弟とはいえこの姿を見たなら、理性のタガが外れてもおかしくないと思うけど」
「強靭な精神がなければ我慢するのは不可能だろうね。送ろうか?」
そう言って、スマホを突き出す。
「もちろん。見返りはいる?」
俺は小さく笑う。
「今更そんなのいらないよ。陽姉が俺を凌ぐほどのシスコンなのは分かりきってるからね。その代わりと言っちゃなんだけど、もう一つ相談に乗ってもらえるかい?」
「お姉ちゃんにできることならなんでも任せて」
「……どうやら、俺、一目惚れしちまったらしい」
一呼吸置いた後の俺の言葉に陽姉は目を見開く。
「えっと……。一目惚れされたんじゃなく、したの?」
「ああ。どうやらぞっこん惚れ込んでしまったみたい。しかも雪姉の友達なんだよ、その子」
「へぇ、何ていう子?」
「由比ヶ浜結衣先輩っていうんだよ。もうヤバく可愛くてさ」
彼女の名前を告げたそのとき、陽姉の表情が凍りついた。
「由比ヶ浜結衣って……」
「陽姉、知り合いなの?」
「知り合いっていうか、関わりがあるっていうか……」
そう答える陽姉はどうも歯切れが悪い。
「怪しいね。気になるから、教えてよ」
俺が詰め寄ると、陽姉は渋々といった感じで口を開く。
「……去年の4月にうちの車が事故起こしたっていうのは覚えてるわよね?」
「うん、まあ。事後処理とか大変そうだったよね」
「そのときの被害者の1人が星斗が惚れたであろう由比ヶ浜さんなのよ」
俺は思わずため息をつく。
「……うっわー、マジかよ。被害者の1人ってどういう意味?」
「由比ヶ浜さんは犬の散歩をしてたらしくてね。その犬が車の前に飛び出してきて、その衝突から守った人をうちが轢いてしまったっていうわけ」
……なるほど。陽姉の話を聞いた上で自分の推論を頭の中でまとめてみる。
由比ヶ浜先輩はそもそもなぜクッキーを作る手伝いを奉仕部に頼んだのだろうか。犬を助けてくれた人にお礼をしたかったからか。いや、それは少しおかしい。1年も経った今、渡したとなるとさすがに遅すぎる。なら、別の気持ちがあったのか。そう考えるのが自然だろう。愛犬を助けてくれた人だ。ヒーローに思って好意あるいは恋心を持ってもおかしくない。だとすれば、あのときクッキーを渡した相手が由比ヶ浜先輩が好きな相手という可能性が高くなる。となると、比企谷先輩になるのか。つまり犬を助けたのも比企谷先輩なのか……?
「星斗? どうしたの?」
怪訝そうに陽姉がこちらを見る。俺はかぶりを振って答える。
「いや、なんでもない。今日はありがとうね」
「うん。それとたまには雪乃ちゃんに実家に帰ってくるように伝えといて。顔見たら久しぶりに会いたくなっちゃったから」
「OK。素直に応じるかは分からないけど、とりあえず頼んでおくよ」
そう答えて、俺は喫茶店を後にした。その帰りにふと考える。
さっきの推論が真実なら……。とんでもなく面倒臭い三角関係に俺は足を突っ込んでしまったのかもしれない。
4月もいつの間にか半分ほど経ち、俺は学校での立場を確立しつつあった。どうやらクラスでは一色いろはと双璧をなす、モテキャラとして定着したようだ。俺も一色もあざとく過ごしているだけというのに、アイドル的存在になれるとは不思議な話だ。俺など、シスコンの由比ヶ浜先輩のオタクというのが中身だというのに。
さて、今日も部活に行くこととしよう。俺のあの推論を抜きにしても、あの部活はとても楽しい。まあ、好きな人たちに囲まれているなら、そら当然か。
いつも通りノックしてドアを開ける。
「雪姉、お待たせ。遅くなってごめんね」
「気にしなくていいわ。私も今来たところだし」
凛とした所作で紅茶を淹れながら雪姉は答える。いつ見ても美しいな。
「比企谷先輩と由比ヶ浜先輩はまだかな?」
そう呟いたところで比企谷先輩が入ってきた。
「よう、雪ノ下、星斗」
俺と雪姉のことなんだろうけど、自分にとっては名前言われてるだけなんだよなぁ。
「こんにちは、比企谷先輩」
「こんにちは、比企谷くん」
俺と雪姉の挨拶が偶然にも被った。
「ホント息ぴったりなんだな」
雪姉は胸を張って言う。
「15年の付き合いよ。当たり前でしょう?」
「……そんなものなのか」
それからしばらくした後、再びドアが開いた。
「やっはろー!」
その声とともに現れたのは由比ヶ浜先輩だ。ていうか、やっはろーってなんなの、めちゃくちゃ可愛いじゃん。
彼女とともにいたのは超絶美少年であった。確か、テニス部の戸塚先輩だったっけか。めちゃくちゃ男の娘で、男子女子先輩後輩関係なくファンがいるらしい。せっかく築いた俺の立場が半月で揺らいでるやん。まあ、戸塚先輩可愛いから仕方ないか。
俺の脳内ツッコミをよそに、由比ヶ浜先輩が言う。
「今日は依頼人を連れてきたんだよ、ふふん」
彼女は自慢気だ。
「ほら、あたしも奉仕部部員じゃん? だから、ちょっとは働こうと思って。そしたらさいちゃんが悩んでる風だったから連れてきたの」
「由比ヶ浜さん」
「ゆきのん、別にお礼とかいいから。部員として当たり前のことをしただけだから」
「由比ヶ浜さん、あなたは部員ではないのだけれど……」
「違うんだっ!?」
ついでに言うなら俺も部員じゃないんだけどね。居心地が良いから住み着いてるだけで。ってこれだとネズミみたいだな。
「ええ。入部届けももらってないし、顧問からの承諾ももらってないから、部員ではないわね」
「厳格だなぁ」
俺は思わずこぼす。
「星斗も入るのであれば書いてもらえると助かるわ」
その後、由比ヶ浜先輩は叫ぶ。
「書くよ! 入部届けぐらい何枚でも書くよっ! 仲間に入れてよっ!」
由比ヶ浜先輩は涙目になりながらルーズリーフに「にゅうぶとどけ」と書いた。いや、専用の用紙があるんだけど……。まあ、涙目の由比ヶ浜先輩が可愛いし、どうだっていいか。
さて、戸塚先輩の依頼というのはテニスの練習に付き合ってほしいということだった。雪姉は数分前に、比企谷先輩との会話で脳筋なことを口にしていたが、どうやらそれを実行する気でいるようだ。
「奉仕部は便利屋ではなく、手伝いをして自立を促すだけ。強くなるもならないのもあなた次第よ」
「そう、なんだ……」
少し厳しい雪姉の言い方に戸塚先輩は項垂れる。あー、これは可愛いわ。周りの女子が好きになる理由が分かった気がする。
その後由比ヶ浜先輩が雪姉は煽って、依頼を受けることになった。こんな負けず嫌いなところもまた、雪姉の魅力の一つだ。
「手伝うのはいいがどうすんだよ?」
比企谷先輩が言う。
「さっき言ったじゃない。覚えてないのかしら?」
「おい、あれ本気で言ってたのかよ……」
死ぬまで素振りとかいう脳筋理論て今回は解決を目指すようだ。
戸塚先輩は震えながら比企谷先輩にすり寄って行く。
「ぼく、死んじゃうのかな……」
「大丈夫だ。お前は俺が守るから」
比企谷先輩は格好つけて言う。いや、気持ちは分かるけど、それを男子に言っても意味ないだろう。
「比企谷くん、それ本気で言ってくれてるの、かな?」
「ごめん、ちょっと言ってみたかっただけ」
戸塚先輩は小さくため息をついた。
「戸塚くんは放課後はテニス部の練習があるだろうから、昼休みに特訓しましょう。コートに集合でいいかしら?」
戸塚先輩が頷く。
「よーし、じゃあ、戸塚先輩が強くなれるように頑張っていきましょう、おー!」
そう言って俺は手を突き上げる。
「「おー!」」
由比ヶ浜先輩と戸塚先輩がそれに倣ってくれる。比企谷先輩も雪姉も小さく「おー」と答えてくれたようだ。つーか部員でもない俺が仕切っちゃっていいんすかね。
そんな風にして、奉仕部の依頼が再び始まった。
次からテニス回です。更新ペースを上げたいけど、時間とネタがない……。ていうか陽姉の書き方難しいな……。
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