奉仕部が受けることとなった戸塚先輩の依頼で、テニス練習に付き合うこととなった。というのが、2行でまとめる前回のあらすじである。もっとも、陽姉とのシーンを欠かすわけにはいかないが、奉仕部としてのあらすじはこのくらいである。
雪姉の脳筋理論により、全員揃って筋トレをすることとなった。腕立て伏せをしたときに由比ヶ浜先輩の胸がチラリと見えて、比企谷先輩が鼻の下伸ばし先輩になり、俺は興奮のあまり鼻血を吹き出してしまいそうになっていた。青少年には刺激が強すぎるよぉ……。
そんなこんなで俺は戸塚先輩のラリー練習に付き合うこととなった。比企谷先輩はアリと遊び始め、由比ヶ浜先輩はすぐ飽きたのか疲れたのか休んでいる。いつの間にか来ていた材木座先輩は必殺技の開発に集中している。雪姉は指示をしてくれてるから別としても、奉仕部でもない自分が一番汗かいてるってどういうことなの……?
「星斗、もっと厳しいコースに打ちなさい」
雪姉から声が飛ぶ。そうは言っても、俺も実質素人だ。ていうか戸塚先輩も普通に上手いんだけど……。
「OK!」
ああは思ってても、雪姉と由比ヶ浜先輩の前で手を抜くわけにはいかない。カッコつける絶好のチャンスなのだから。
が、少し厳しいコースに打った結果、それを追おうとした戸塚先輩が転んでしまった。
「先輩! 大丈夫ですか!?」
俺を含め全員が近づく。大事はないようだが心配だ。雪姉が顔を顰めて言う。
「まだやるつもりなの?」
「うん。みんな付き合ってくれるから、もう少し頑張りたい」
「そう。じゃあ、由比ヶ浜さん、星斗、後は頼むわね」
雪姉はそう言うと、校舎の方へ歩いて行った。彼女が依頼を放棄するはずがないから、恐らく保健室に手当ての道具でも取りに行ったのだろう。
その後しばらく練習していたが、不意にはしゃぐような声が響いた。
「あ、テニスしてるじゃん、テニス!」
三浦先輩と葉山先輩である。うーん、なんで雪姉がいないタイミングで来るんだよ。
テニス練習の前日、俺は自転車置き場で比企谷先輩と話していた。
「葉山と三浦を明日の練習に呼び出す?」
「はい。俺もテニスは戸塚先輩の練習相手が務まるほど上手くはないので、運動神経抜群の葉山先輩と中学時代テニスで県選抜に選ばれた三浦先輩の協力を仰ぎたいと」
「雪ノ下と由比ヶ浜には話したのか?」
「由比ヶ浜先輩はともかく、雪姉には話せませんよ。雪姉は葉山先輩のこと、嫌ってますからね」
比企谷先輩はため息をつく。
「何か他の狙いがありそうだな」
と探るような目である。ここはあえて簡単にバラしてしまおう。
「その通りです。雪姉がいるときは、俺が呼んだってことで、葉山先輩と雪姉の関係を少しでもマシにできるよう手伝ってください。あの2人はどちらも俺にとっては恩人なので、仲違いしてほしくないんです。ただ、何らかの事情で雪姉がその場にいないときは、ここまでの会話を全部なかったことにして、リア充グループを追っ払うフリをしてくれると助かります」
「前者はともかく後者は何の意味が?」
俺は小さく笑う。
「これは先輩にもそこそこ意味があると思いますよ。葉山先輩はみんなで練習しようと言い出すはずです。でも、それを比企谷先輩が否定することで、奉仕部と戸塚先輩に借りを作れると思います。それは最終的には俺にとっても比企谷先輩にとっても大きな役割をもつと思ったからですね」
比企谷先輩は顔を顰めて言う。
「なんていうか、胡散臭えなぁ……」
「ま、雪姉の弟ですし」
この図太さは陽姉から教わったというのも大きいが。
「で、否定したあとはどうする?」
「押し切られるでしょうね。でも、そのあとは俺に任せてください」
俺はニヤリと笑う。比企谷先輩は呆れたように答えた。
「……本当に底が知れねぇな」
「褒め言葉と受け取っておいておきます」
戸塚先輩のまさかの怪我により、雪姉が不在の状態で葉山先輩と三浦先輩らリア充グループが来た。
三浦先輩が高圧的に言う。
「ねぇ、戸塚ー。あーしらもここで遊んでいい?」
「僕たちは遊んでるんじゃなくて、練習を……」
「え? 何? 聞こえないんだけど」
なんかこうやって見ると、ヤンキーが可愛い女の子をいじめてるみたいだな。まあ、三浦先輩は女子なんだが。
俺は彼らをここに呼んだ身の上なので、追い払うということはできない。というわけで、比企谷先輩に委ねる。
「あー悪いんだけど、このコートは戸塚がお願いして使わせてもらってるんだよ。だから、他の人は無理なんだ」
「は? だから? あんただって使ってんじゃん?」
「え? いや、練習に付き合ってる訳でアウトソーシングみたいなもんなんだよ」
「は? 何言ってんの? キモいんだけど」
比企谷先輩はここで黙らされる。比企谷先輩には本当に悪いことをしてしまったな……。
「まあまあ、みんなでやった方が楽しいしさ」
予想通り、葉山先輩が言う。
「みんなって誰だよ……。かーちゃんに『みんなもってるよ!』って言うときのみんなかよ……。誰だよ、そいつら……。友達いねぇから知らねぇよ……」
比企谷先輩の鬱モードが炸裂した。雲行きだけでなく、彼の周囲の空気まで悪くなっている気がする。
「あ、ごめんな。そんなつもりじゃなかったんだ。俺で良ければ相談乗るからさ」
とどこか申し訳なさげな葉山先輩。比企谷先輩のメンタルが崩壊する前に俺は叫んだ。
「なら、お二人ともやりましょうか。とは言っても、肝心の戸塚先輩が怪我してるんですけど、どうします?」
ここで葉山は、
「優美子、どうする?」
と三浦先輩に意見を求めた。
「……別に。あーしはテニスできればどうでもいいし」
「そうっすか。なら、やりましょうか、テニス。俺たちと」
比企谷先輩と由比ヶ浜先輩が驚いてこちらを見る。
「戸塚先輩が怪我して動けないんですから、ここで突っ立ってても仕方ないじゃないですか。なら、戸塚先輩へのイメージトレーニングの意味を込めて、テニスの上手い三浦先輩のプレーを見せるのも悪くないかと」
我ながら上手い方便だ。
「それは分かったけど、どうするんだ? 葉山と三浦のどっちも上手いんだよな? 勝算があるのか?」
「ないっすよ、そんなもん。ま、とりあえず由比ヶ浜先輩準備してください」
彼女は驚きの表情を浮かべる。
「わ、わたし!?」
「はい。後輩に、カッコいいとこ見せてくださいね、先輩」
ウインクを軽く飛ばして言う。並の女子ならこれで落とせるのに、由比ヶ浜先輩には相変わらず効かない。
「……お前、もしかして最初からこの展開が狙いだったか?」
と比企谷先輩。
「ここまで上手くいくとは思ってませんでしたけどね」
そう、俺の本当の狙いは由比ヶ浜先輩と一緒にテニスをすることだ。後の目的はあくまで達成できればいいなと思っていた程度であり、初恋の相手とダブルスを組むこと。それが自分の大きな目標だった。
「戸塚先輩、なんか妙なことに巻き込んでしまって申し訳ないです」
俺は彼の元に向かって言う。
「ううん、いいよ。星斗くんの言う通り、イメージトレーニングも大事だからね」
優しすぎるだろう。なんか小細工ぶつけた自分が情けなくなる。
「由比ヶ浜先輩、よろしくお願いしますね。俺、頑張ります」
「う、うん。よろしくね、せーくん」
どこか歯切れが悪く見えるのはいつも一緒にいる人たちと戦うことになってしまったからだろう。このくらいで歪む仲ではないだろうが、申し訳なくなる。
「よーし、やろうか。15ポイント先取でいいね?」
と葉山先輩。
「分かりました。雪ノ下家長男として、頑張らせていただきますね」
と俺はポジションにつく。とは言っても、俺が決めるのではなく、由比ヶ浜先輩にチャンスボールを決めてもらって笑顔を向けてもらうというのが狙いである。
愛しの人の笑顔のためなら、テニスだって上手くなってやろう。そう呟いて、俺はラケットを握り直した。
なんか、弟、暴れすぎ……。そう思った方、間違ってないです。自分でもどうしてこうなったと思っているところです()
感想、評価、お気に入り登録など、どうかよろしくお願いします。