もし雪ノ下雪乃に弟がいたら   作:黒い柱

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 お待たせしてしまった分、頑張りました。

 今日はガハマちゃんの誕生日らしいですね。おめでとうをここで述べさせていただきます


奉仕部vsリア充軍団〜波乱に満ちたテニス対決〜

 今の状況で俺に与えられた使命は、由比ヶ浜先輩を愛する者として彼女に華を持たせることだ。だから、理想は対峙する2人、三浦先輩と葉山先輩に甘い球を打たせてそれを由比ヶ浜先輩に決めさせる。というものだが、思いの外、そう簡単にはいかなかった。

 

 というのも相手はめちゃくちゃ上手く、自分的にはそもそもラリーを続けるだけで精一杯なのだ。つまりは防戦一方なのだ。

 

「ねぇ、せーくん。大丈夫……?」

 

 ラケットで息をつく俺に由比ヶ浜先輩が言う。

 

「大丈夫っすよ。先輩のためなら必死で動き回りますよ」

 

 心配してくれるのは嬉しいけど、俺にも男としての意地がある(やり口は意地が悪いが)。

 

 さて、ここまでは自分の予定通りの展開だ。反対コートにいる先輩2人があそこまで上手いのは予想外ではあったが、その方が都合がいい。つまり、「テニスの上手い先輩2人に果敢に立ち向かう頼もしい後輩」の姿を由比ヶ浜先輩に見せつけれたら、それが俺にとっての勝利なのだ。おそらくその真意に気づいているのは、由比ヶ浜先輩への恋心を知ってる比企谷先輩しかここにはいないだろう。

 

 そんなことを考えていたとき、コートの手前にボールが弾んだ。それに対して由比ヶ浜先輩が追いかけるが、その間勢いよく突っ込んでしまったらしい。コケると思った瞬間には俺は走り出していた。ボールに向かってではなく、由比ヶ浜先輩に向かってである。

 

「あっ……」

 

 由比ヶ浜先輩から焦ったような声が溢れる。

彼女自身も転ぶと思ったのだろう。幸いにも今手を伸ばせば十分間に合う。

 

 が、そこで俺は思った。確かにこのまま手を伸ばせば、由比ヶ浜先輩は怪我をしないで済むだろう。しかし、大勢のギャラリーがいる中、すっ転んで後輩に助けられた先輩というレッテルを貼られかねないのだ。人の顔色を見る傾向のある先輩にはそれはキツいことかもしれない。だとすれば俺のできる選択肢は一つ。そのレッテルを自分が貼られることだ。

 

 そう考えてからの俺の動きは人生で一番早かったかもしれない。ダッシュで駆け寄り、思いっきり躓く。ついでにギリギリでボールを打ち返したと同時に由比ヶ浜先輩の体重が俺の方にかかる。周りから見ればそれは一瞬でも、自分にとってはコマ送りのようにゆっくりとした瞬間に感じられた。

 

 カッコいいことのように長々と書いたが、状況はボールを追おうとした先輩と後輩がXの字になってテニスコートで横になっているという図である。つまり、由比ヶ浜先輩のアレが俺の背中に思いっきり当たっているというわけで……。

 

「あ、これ、ヤバいわ」

 

 俺は思わず呟く。ちなみに、俺たちの姿に気を取られたのか三浦先輩と葉山先輩は俺が返したボールを打ち返してこない。

 

「ちょっ! せーくん、大丈夫!?」

 

 慌てて起き上がった由比ヶ浜先輩が叫ぶ。

 

「え?」

 

「鼻血、めちゃくちゃ出てるよ!」

 

 勢いよく転んで鼻と膝を強打した上、先輩のアレを背中に押しつけられたことの興奮により鼻血が文字通り吹き出していた。

 

「大丈夫っすよ、まだやれます」

 

 止まらない鼻血を滴らせながら俺は言う。

 

「膝もめっちゃ血が出てるし、無理だって! それにあたしも、さっき筋やっちゃったみたいで……」

 

 マジかよ。俺が転んでも転ばなくても由比ヶ浜先輩は怪我するって訳かよ。なんだよ、神様、ふざけんな。そんな悪態を吐いている今も鼻血は流れ続けているようだ。

 

 駆け寄ってきた比企谷先輩の肩を借りながら言う。

 

「うーん、こうなったら、比企谷先輩に女装してもらって材木座先輩と組んでもらうしかないなぁ。俺と由比ヶ浜先輩は多分ここで離脱することになるだろうし……」

 

「いや、無理だろ、それは……」

 

「んじゃ、どうします? 少なくとも比企谷先輩か材木座先輩はどちらかは女装することになりますよ? 嫌なら俺が女装してもいいっすよ」

 

 比企谷先輩は答える。

 

「やめろ、そろそろ女装から離れろ。まあ、最悪本気を出すさ。その気になれば靴舐めも土下座もやってみせるさ」

 

「あさっての方向に本気すぎる……」

 

 由比ヶ浜先輩が呆れたように呟いた。

 

 とはいえ、状況は変わらない。比企谷先輩が膝をつこうとする。どうやらさっき話した本気を見せるつもりらしい。俺も自分が蒔いた種だ。ここは責任を取らなくてはならない。そう考えて膝をつこうとする。まあ、俺の場合、謝るべきは反対コートの2人ではなく目の前の比企谷先輩にかもしれないが。

 

 その瞬間、毅然とした声が響いた。

 

「この馬鹿騒ぎは何?」

 

 相当キレてるであろう雪姉だ。救急箱を抱えて、体操服に着替えている。どうやら、いつの間にか由比ヶ浜先輩と服を交換したらしい。

 

「雪姉、この状況見て、だいたい察した?」

 

「……ええ。でも、一つ納得いかないのが星斗が怪我してることね」

 

「あー、それは何というか致し方なくて……」

 

 雪姉は小さくため息をついた。

 

「星斗、戸塚くんと由比ヶ浜さん、そしてあなた自身の応急処置、お願いね」

 

「雪姉はどうするの? まあ、だいたい想像つくけど」

 

 雪姉は葉山先輩と三浦先輩を睨みつけて言う。

 

「決まっているでしょう? 比企谷くん」

 

 こうやって2人揃うと、とても頼もしく見えるんだよなあ。

 

「へいへい、分かってますよ、部長様」

 

 焦れたのか三浦先輩が雪姉を挑発するように言う。

 

「雪ノ下サン? だっけ? 悪いけどあーし、手加減とかできないから、怪我したくなかったらやめといた方が良いと思うけど?」

 

 雪姉は無敵の笑みで答える。

 

「私は手加減してあげるから安心してもらっていいわ。その安いプライドを粉々にしてあげる」

 

 言うねぇ。これでこそ我が姉、雪ノ下雪乃だ。彼女は身構える三浦先輩と葉山先輩に対してさらに続ける。

 

「ずいぶんとうちの部員たちをいたぶってくれたみたいだけど、覚悟はできてるかしら? 私こう見えて結構根に持つタイプよ?」

 

 その通り。見たまんま根に持つタイプなんだよ、弟の俺以外に対しては。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうこうしているうちにテニス対決第二ラウンドが始まった。 

 

 雪姉はその実力をこれでもかと言わんばかりに見せつけ、試合を優位に進めていく。ここしばらくテニスはしていないというのに、県選抜相手に互角以上の戦いをするとは、さすが完璧超人の姉である。

 

「雪ノ下さん、すごい……」

 

 止血をしたのち、戸塚先輩が呟いた。

 

「テニス部の先輩から見ても、そう見えますかね?」

 

「うん。なんていうか、力強いというか気迫を感じるというか……」

 

 陽姉に追いつこうとして必死になって練習してたし、本当に努力家だと思う。

 

 そんなやり取りをしつつ自分の膝から流れる血を止めて、由比ヶ浜先輩の怪我したところに湿布を貼る。

 

「ゆきのんって昔からこんなに上手かったの?」

 

「もともと興味のあることにはのめり込むタイプですからね。俺は対して真剣じゃなかったんですけど、雪姉と一緒に練習してたら、自分もそこそこできるようになってました」

 

「仲良かったんだね、昔から」

 

 俺は軽く笑う。

 

「仲良いどころじゃないですよ。多分関東一のシスコンとブラコンだと思います。こういうのって普通ならどっちか一人が言うものなんですけど、俺と雪姉なら多分完璧に意見が一致しますよ」

 

「そ、そうなんだー」

 

 ……あれ? 由比ヶ浜先輩めちゃくちゃ引いてない?

 

「……けど、まあそろそろかな……」

 

 雪姉は言わずと知れた完璧超人。ただ唯一の決定がある。由比ヶ浜先輩が思わず叫ぶ。

 

「ゆきのんっ!?」

 

 スタミナ切れである。俺と陽姉がなんとかしようとしても、なかなかこれは治らなかった。

 

 ガス欠状態を勘づかれてからは、戦況は一変した。どうにか比企谷先輩も頑張ってはいるが、実質二体一ではどうしようもない。

 

 しかし、俺は信じていた。比企谷先輩ならこの状況を打開できるのだと。誰一人想像できない方法で解決できるのだと。そして、ついにその瞬間は訪れた。

 

「青春の馬ッ鹿野郎ぉぉぉ!!!」

 

 苦し紛れのロブを打ち上げたのだ。しかもめちゃくちゃ高い。観衆はどよめくが、普通なら少し下がってスマッシュなどを決めればいい。

が、ここで思いもよらぬ出来事が起きた。

 

 普段、外で昼食を食べている比企谷先輩だからこそ分かる浜風。それに高々と飛んだボールが流されたのだ。

 

 焦った三浦先輩は慌てて追いかける。ただかなり伸びすぎているので恐らくアウトになるだろう。足を止めようとする三浦先輩。しかし、勢いがつき過ぎたため、急には止まれない。そのまま金網に突っ込んでしまうと思われた。

 

 そこを止めたのは葉山先輩だった。三浦先輩を抱きしめてスーパーキャッチ。観衆が沸く中、チャイムが鳴って試合が幕を閉じた。

 

 そんなこんなで奉仕部vsリア充軍団のテニス勝負は勝ち負けつかずで終わった。というのも最後のショットが入ったのか入ってないのか分からないまま有耶無耶になってしまったためだ。

 

「すいません、戸塚先輩」

 

 俺は頭を下げる。

 

「いいよ、気にしないで。僕もみんなのプレーが見れてイメージトレーニングになったし」

 

 そう微笑んで彼は言う。葉山先輩たちを仕向けたのは自分なんだよなぁ。今になってとんでもない罪悪感がっ……。

 

 ちなみにそのあと比企谷先輩は由比ヶ浜先輩と雪姉の着替えを覗いてしまい、殴られてしまうのだった。まあ、彼としてはラッキースケベが見れたのだから本望だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、星斗。どこからどこまでが君の狙いだったんだい?」

 

 放課後、帰り際に昇降口でその質問をぶつけてきたのは葉山先輩である。

 

「明確な狙いはありませんでしたよ。それより、すみませんでした。悪役押しつけちゃって」

 

「……雪乃ちゃんを思ってやったことなんだろう?」

 

「もちろん。結果的に、葉山先輩は今回のことでより疎まれてしまったかもしれませんが……」

 

「それに関しては気にしなくていい。もともと評価が低いのは分かっていたからね」

 

「なら、少しホッとしました。今回はいい結果は得られませんでしたが、最終的には葉山先輩にとって最高の結果にしましょう。俺にお任せください」

 

 葉山先輩は首を振って答える。

 

「遠慮しておくよ。代償が高そうだしね。それに……」

 

「それに?」

 

「そういう大事なことは自分で解決するべきだ」

 

 彼はそう強く答えた。

 

「それを聞いて少し安心しましたよ。やはり、あなたは俺が買い被る価値がある」

 

 葉山先輩は再び穏やかな表情に戻る。

 

「そういうところは昔から変わらないな」

 

「雪ノ下家長男ですから。それでは、お先に失礼します」

 

 鞄を背負い直して、俺は学校を後にした。

 

 今回俺がコソコソ小細工をした最大の狙いは奉仕部と葉山先輩たちの接点を持たせることだ。雪姉も比企谷先輩も放っておいたら、誰とも関わらない閉鎖的な状態になりそうな気がしたのだ。もちろん、平塚先生や由比ヶ浜先輩が関わらせることもあるかもしれない。しかし、あの2人にはより積極的に行動してもらいたいのだ。

 

 結果的にその第一段階は成功した。俺も満足いく結果を得ることができた。しかし、自分は何か間違ったのではないか。そんな後悔ともいえるような感情を抱えながら、雪姉の待つ我が家へ足を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 




 何気に初の4000文字越えしましたね……。

 今後も感想、評価、お気に入り登録などいただけましたら嬉しいです。どうかよろしくお願いします
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