今回、葉山先輩が持ってきた依頼、チェーンメールの依頼には俺は関われない。原因になる葉山先輩のグループは2年生であり、それは1年生である自分にはどうもできないのである。
由比ヶ浜先輩のように気安く声をかけることも、比企谷先輩のようにその目で見て答えを出すことも自分にはできない。だとすれば……
「……その頭で考えるしかないよね」
昼休みにポツリと呟いた言葉に反応したのは同じクラスの一色である。
「独り言、丸聞こえだよ、星斗くん」
「聞こえちゃってたか。確かに悩み事というか問題があるんだけどさ……」
「ふーん、そう」
正直、このことを一色に話すべきかというのも悩みどころだ。厄介ごとに巻き込みたくないのが本音だ。しかし、自分一人で考えるのにも限界はある。
「……ていう訳なんだよね。どうすればいいと思う?」
俺は結局、一色に中身を話すことにした。だが、葉山先輩が関わっている以上、本名を伏せざるをえなかった。
「面倒臭ぁ。いったいどんだけ拗らせたらそんなことになるわけ」
「だよねぇ。一色ならどうする?」
「わたしにも正直、分からないよ。でも、わたしならほっとくけどね。そんな噂気にしても仕方ないし」
とはっきり言い切った。あら、この子ったら肝が太いわ。そんなもんどうでもいいとガンスルー決め込んでらっしゃる。
「さすがだな、一色は。でも、依頼主はそうはしたくないらしい」
「まあ、そりゃそうか。どっちにしろ星斗くんはあんまり強く出れないんじゃない? 学年違うんでしょ?」
「ああ、そうなんだよな。せめてもう少し情報があればいいんだけど……」
なら、自分を葉山先輩の立場に置き換えて考えてみるか。愛しい3人の先輩にチェーンメールが来たならどうするか。即刻潰したいものだが、それでは話が進まない。今回ではそれを抜きとして考える。とはいえ、仮にチェーンメールのような事態が発生し、俺を除く3人がその被害者あるいは加害者ならば、その原因というのはどこにあると考えるのが自然だろうか。もちろん、3人にある可能性も大いにある。しかし、それが唯一被害者ではない俺にあるのであるならば……。
「……そうか、分かったかもしれない」
「本当?」
「ああ。でも、これを言うべきは俺じゃないな。実際に見てる人間にそれは任せるとするよ」
一色に頷き返し、俺は先輩たちに期待を抱くことにした。だが、そのあとのことはどうするべきか。俺は持ちうる情報を頭の中でまとめることにした。
なお、このときはまったく気にしていなかったが、のちに相談した一色は厄介ごとの権化とも言うべき存在になるのだ。このときの俺には知る由もないことなのだが。
「それでどうだったかしら?」
部室に向かった俺たちに雪姉の声が響く。
「ごめん、ゆきのん! 女子に聞いてみたけど、ダメだった!」
と由比ヶ浜先輩。俺としてはこれはある意味想定内だ。
「そう。それでも、女子が男子の問題と関わりが薄いということが知れたというだけでも収穫だわ。ご苦労様。それで、比企谷くんの方はどうだったかしら?」
「俺も犯人は分からなかった。でも、1つ分かったことがある」
みんなが固唾を飲んで見守る中、比企谷先輩は力強く答えた。
「それはな、あのグループが葉山隼人のグループだということだ」
「はぁ? 当たり前じゃん」
「そのまんまの意味じゃないんですよね、先輩」
「ああ。正確には葉山隼人のためのグループって意味だ」
「つまり?」
「葉山。お前は自分がいないときグループがどんな風になってるのか見たことはあるか?」
葉山先輩は首を横に振る。
「自分がいないのに、見れるわけないでしょう」
「そりゃそうだよな。だから、俺は葉山がいないときのグループの様子を見てたんだが、彼らにとって互いは友達の友達でしかないんだ」
比企谷先輩らしい視点だ。俺がその場にいても同じ風に思えただろうか。
「つまり、アレですね。リーダーというか支柱のような人がいないとお互いに気まずくなって、話すことがなくなるような関係だと」
「まあ、そういうことだ。最初に言ったようにチェーンメールの犯人は分からない。だが、原因をなくすことはできる。どうする?」
比企谷先輩はニヤリと悪人らしく笑うのだった。比企谷先輩には目つきと相まって、その姿はかなり絵になっているような気がした。
翌日、葉山先輩の依頼は比企谷先輩により解決した。被害者の3人で職場体験のグループを組み、葉山先輩をボッチにするということにしたらしい。しかし、俺があらかじめ葉山先輩に「組む人がいないなら比企谷先輩と組めばいい」と言ったことで、結果的には葉山先輩はボッチにはならなかったが。
さて、そんな中で俺は新たな問題に頭を抱えている。その名も……
「由比ヶ浜先輩の誕生日プレゼント問題」である。
俺は今まで友達はかなり多い方だったため、誕生日プレゼントを渡すという経験はそれなりにある。しかし、それは友達に対してであり、想い人に対してというものではない。つまりは何を渡せばいいのか分からないのである。
もちろん、俺にかなり甘い由比ヶ浜先輩のことだ。何を渡したとしても喜んでくれることには違いない。ただ、よく分からないものを渡してドン引きされるのもダメだし、やたら重いものを渡して気まずくなるのもよくない。しかも厄介なことに、自分が想いを寄せてるのが由比ヶ浜先輩だということを知っているのは比企谷先輩と陽姉しかいない。
「万事休すじゃん……」
俺が奉仕部に向かいながら頭を抱えていると、
「よう、星斗。どうかしたのか?」
比企谷先輩から声をかけられた。
「比企谷先輩。少し相談乗ってもらえますか?」
「モノによるがな。どうしたんだ?」
俺は軽く頷き、悩みを話した。面倒臭がりの割に、聞いてくれるあたりこの先輩もかなり俺に甘い気がする。
「……という訳なんですけど、どうするべきすかね?」
「いや、俺もそういうの渡したことねぇしなぁ……」
確かに、比企谷先輩もボッチ歴は長そうだし、そう簡単には考えは浮かばないか。
「ふと、思ったんですけど、由比ヶ浜先輩にとって俺ってどんな存在なんでしょう」
「急にどうしたよ」
「俺にとって由比ヶ浜先輩は愛しい先輩ですよ。でも、由比ヶ浜先輩からしてみれば俺ってただの親友の弟って存在なんじゃないかと思いまして」
「確かに、位置の上ではそうかもしれないが、あいつときどきお前のこと、マジの弟のような目で見てるときあるぞ。つーか、恥ずかしげもなく好きって言えるのはある意味尊敬するわ」
「比企谷先輩はマジで信用してますから。俺の1番隠したいことも話せるんです。なんなら、借金の保証人だってお願いできますよ」
俺の冗談に呆れたように呟く。
「信頼が重てぇよ。まあ、なんだ、プレゼントの方は時間もあることだし、じっくり考えるってのはどうだ?」
確かにまだ1ヶ月弱あるため、急務というわけでもないだろう。そもそもなんで由比ヶ浜先輩の誕生日を把握してるかって? その情報ソースは秘密である。
そうして俺はいつも通り、奉仕部のドアをノックした。
「やっはろー! せーくん、ヒッキー!」
「こんにちは、星斗、比企谷くん」
愛しの2人が優しい笑顔で迎えてくれる。
「2人とも、こんにちは!」
「よう」
俺と比企谷先輩もそれに挨拶を返し、いつもの定位置に腰かける。
依頼も今のところないため、ぼんやりと座っていると、由比ヶ浜先輩が声を出した。
「そうだ、今度奉仕部で遊びに行かない!?」
「いいっすね!」
「却下」
「断る」
3人の声が同時に重なった。
「あはは……。綺麗に分かれたね」
「そうっすね。なら、俺と由比ヶ浜先輩の2人で行きます?」
由比ヶ浜先輩は苦笑いを浮かべて答える。
「それも楽しそうなんだけど、今回は4人で行きたいなぁって……。ダメかな?」
「俺からもお願いします。雪姉がいた方が楽しいしさ……」
俺と由比ヶ浜先輩の上目遣いが雪姉に直撃!
こうかはばつぐんだ!
「そ、そうね。一度くらいは言ってみても面白いかもしれないわね……」
仕方なくといった感じで頷き返してくれた。ここまで押しに弱いとなんだか心配になってくる。
「比企谷先輩も行きましょうよ」
「いや、俺はアレがアレだから」
「アレがアレというわけですか。ですが、行きましょう!」
「いや、お前スルーするなよ。俺にも予定というものがあってだな……」
「分かってます。ですから、比企谷先輩にも都合の良いに調整するつもりです。いいですよね、由比ヶ浜先輩」
「うん、それは大丈夫なんだけど、ヒッキー押されてるね……」
比企谷先輩は「くっ」と悔しそうにしている。
「また、予定は後日決めましょう。みんなの都合の良い日に」
俺は笑顔で言って、4人のイチャイチャを決定づけることに成功した。さあ、いつになるかが分からないが、その日が待ち遠しい。
また近いうちに続きを書きますので、感想、評価、お気に入り登録、よろしくお願いします。