もし雪ノ下雪乃に弟がいたら   作:黒い柱

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なんとか書き切りました。今回は短めですが、割と重要な回です。あと、新オリキャラが出ます。やっぱりオリ主のみで展開するのは難しかったか。


世界一幸せな時間〜弟の出した答え〜

 川崎先輩の更生プロジェクトから2週間ほど経ち、中間テストや2年生の職場体験なども終わった6月の半ば。俺たち奉仕部はまた新たな問題に直面していた。

 

 由比ヶ浜先輩が部活に来なくなったのだ。

 

 何があったのか正直俺には分からない。だが、比企谷先輩と由比ヶ浜先輩との間ですれ違いのようなものがあったらしく、それがこの問題を生み出しているようだ。その根本的なきっかけも気になるところではあるが、とりあえずは比企谷先輩と由比ヶ浜先輩が部活で顔を合わせないことには話にならない。

 

 という訳で、俺は由比ヶ浜先輩を昼休みに電話で遊びに誘ってみることにした。

 

「もしもし、先輩。今日、時間あります?」

 

「せーくん? どうしたの、急に……」

 

「比企谷先輩と何があったのかはめちゃくちゃ気になるところではあるんですけど、とりあえずそれは考えないとして、先輩、俺と二人で遊びに行きませんか?」

 

 由比ヶ浜先輩は唐突な俺の誘いに戸惑っているようだ。

 

「えっと……。どこに?」

 

「どこでもいいですよ。先輩が行きたいところに行きましょう。正直自分も決まってないので、会ってから決めるってのもアリです」

 

「でも、部活が……」

 

「自分はもう雪姉には伝えてます。先輩も伝えれば、ダメとは言われないと思いますよ」

 

「……分かった。それじゃ、後でね」

 

 彼女はそう言って電話を切った。

 

 ……ふぅ。俺は一息ついて人気のない中庭で腰を下ろす。めちゃくちゃ緊張したわ、なにこれ。さも、自分平気ですけど感を装って話してたけど、実のところ心臓バクバクで大変だし、断られたりしたら、ショックのあまり自分まで部活に行けなくなるところだった。いや、まあ今日は行かないけども。

 

「っと、何してんだよ、雪ノ下。こんなところで」

 

「突然話しかけられるとビックリするから、せめて気配を発してくれ、旭」

 

 俺に話しかけてきたのは、席替えで偶然隣になってから仲良くなった旭修二という人である。旭はそのルックスから入学して5時間後には彼女を作るという総武高の歴代最高記録を達成するほどのイケメンであり、数少ない俺を上回るリア充である。

 

「いいじゃねぇかよ、別にさ。教室で女子らが騒いでたぞ、『私らの王子がいない』って。モテる男は辛いねぇ」

 

「そういうお前はどうなんだ、泉に内緒で女子に会ってたみたいに思われたら面倒だぞ。現に一色がこの前、慰めなきゃならなかった訳だしさ」

 

 泉というのは旭の5時間でできた彼女であり、本名を青葉泉という。5時間でできたのだから割とすぐに別れるものだと思っていたが、意外にもその仲は円満らしい。

 

「気にしなくていいよ、私もいるし」

 

 ボブカットを軽く揺らして現れた泉が横から答える。

 

「なんだ、いたのかよ。いたなら殺気出してくれ、気づかないからさ」

 

「……いや、日常生活で殺気出す機会なんてそうそうないでしょ。それより、星斗くん、誰と話してたの? もしかして恋人?」

 

 泉の質問に俺は首を横に振る。

 

「残念でした。部活の先輩だよ」

 

「なあ、お前がやってる部活っていったいどんなやつなんだ? 奉仕部って言ってるけどさ」

 

「正直、俺にもよく分からない。でも、誰かのために何かをする部活なんだと思う」

 

「いや、抽象的過ぎるでしょ」

 

 2人からダメ出しを喰らい俺も頷く。いや、本当そうだよな。入って2ヶ月くらい経つけど、未だに自分にもよく分からんし。

 

「でも、そろそろマジで教室戻った方がいいよ。たぶん星斗くんのことでいろはちゃんが質問責めにあってるところだろうから」

 

「そうは言いつつ本音は?」

 

 俺の問いに旭が答える。

 

「『2人でじっくりイチャイチャしたい』だよな?」

 

「……修二くん、君のそういうところどうかと思う」

 

 俺は旭と彼をジト目で睨む泉に手を振りつつその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、その日の放課後、俺は由比ヶ浜先輩を昇降口で待っていた。待ちに待った初デートのためである。

 

「ごめんね、せーくん。待った?」

 

 マジ可愛い笑顔とともに現れたのは由比ヶ浜先輩である。いや、本当尊い……。

 

「全然大丈夫ですよ。それにしてもすみませんね。お忙しいのに呼び出しちゃって」

 

「いいよ、全然。他の人と遊ぶ予定とかもなかったしさ。それじゃ、どこ行く?」

 

「うーん、無難にカラオケとかどうすかね。駅前の新しくできたところっす」

 

「分かった。んじゃ、行こっか!」

 

 カラオケを指定したのは2人きりになれる場所が欲しかったからだ。もちろん下心が多少なりともあることは否定はしないが、それを武器にするのはまた別の場面だろう。

 

 それはそうと、俺はカラオケはそれなりに得意だ。万が一、由比ヶ浜先輩とカラオケに行く機会があればと考えて女子受けしそうな曲もあらかじめ調べてきた。まあ、一色や泉から教えてもらっただけだが。

 

「せーくん、歌うまいねー」

 

 由比ヶ浜先輩が感心したかのように言う。

 

「ありがとうございます。由比ヶ浜先輩もお上手ですよ。見ていて癒されます」

 

「えへへ……。ありがと、せーくん」

 

 由比ヶ浜先輩は照れたように言う。めちゃくちゃ可愛いな。こんな先輩とカラオケ行けるとか幸運使い尽くして帰りに刺されそうな気さえする。

 

「先輩が元気になってくれてよかったですよ。そうだ、先輩ってもうすぐ誕生日ですよね? 何かほしいものとかってあります?」

 

「うーん、ほしいものか……。すぐには思いつかないかな……。あ、でも、せーくんからもらったものなら絶対嬉しいと思う」

 

「それは嬉しいお言葉ですね。では、自分もしっかり考えさせてもらいますね」

 

 そう言って、またお互いにひとしきり歌ったところで由比ヶ浜先輩が少し俯きながら聞く。

 

「……ねぇ、せーくんはなんであたしが部活休んでるかとか聞かないの?」

 

「気にならない訳ではないですけど、先輩が話したくないなら無理に聞く必要もないでしょうし」

 

「確かにあんまり話したくはないけど、せーくんならいいかなって……」

 

 そう言って彼女はジュースを一口飲み、再び話し始めた。

 

「せーくんはさ、ヒッキーが去年の入学式の日に交通事故に遭ったのって覚えてるよね?」

 

「ええ、まあ一応。その事故を起こした車が雪ノ下家のもので、それに雪姉が乗っていたということも」

 

「そっか。なら、なんでヒッキーが轢かれることになったのか分かる?」

 

 俺が黙っていると、由比ヶ浜先輩は沈痛な表情で答えた。

 

「あたしのせいなんだよ、あたしがサブレのリードをしっかり繋いでおかなかったから、あの子が車の前に行っちゃって、それを庇おうとしたヒッキーが轢かれちゃったんだよ……」

 

「そうですか……」

 

「そのことをこの前ヒッキーに話したらさ、『そのことで優しくするならやめろ』って言われちゃってさ。あたしはただヒッキーと仲良くできればって思ってただけなのに……」

 

 今にも泣きそうな表情で彼女は言う。それで比企谷先輩に会いづらくなって今に至るという訳か。お互いの誤解を解きたいところだが、そう簡単にはいかないようだ。

 

「由比ヶ浜先輩、今、ここには俺しかいません。比企谷先輩も雪姉もいないんです。だから、先輩が比企谷先輩に思ってる本当のことを教えてください」

 

「本当のこと?」

 

「はい。この前泊まったときに教えてくれたことは嘘じゃないと俺は思ってますよ。それでもすべて教えてくれたという訳ではないでしょう?」

 

 ここまではある意味予想通りの展開だ。ここからはどうなるだろうか。

 

「絶対にゆきのんとヒッキーには、というか誰にも言わないって約束してくれる?」

 

「もちろん、絶対に言いませんよ。俺が由比ヶ浜先輩が悲しむことするはずないじゃないですか」

 

 そうして由比ヶ浜先輩は小さく頷いて、

 

「あたしさ……、ヒッキーのこと好きなのかもしれない。友達としてとかじゃなくて、恋愛感情として」

 

 これまた小さな声で呟いた。

 

「それは比企谷先輩が先輩の犬を助けたからという訳だけじゃないですよね?」

 

「最初はそうだったよ。でも、会っていろいろ話してるうちに本当に優しい人なんだって思っちゃってさ。まだ、自分の中ではっきりとはしてないけど、あたしはヒッキーのことが好きなのかも」

 

 ……これは振られたと考えるべきか。いや、それでもその誰にも話したくないであろう気持ちを俺に教えてくれたんだ。それほど俺を信頼してくれているのであれば、存外悪い気はしない。

 

「……先輩が俺に本音をぶつけてくれた。なら、俺もそれに応えなくてはならないな」

 

 その最後の一押しと言わんばかりに俺は息を吸い込んだ。

 

「せーくん?」

 

「俺も由比ヶ浜先輩のことが好きですよ。先輩が比企谷先輩を想うのと同じように」

 

 この気持ちを伝えるのはもっと先にするつもりであったが、ここまで先輩に本音を言われたなら仕方ない。

 

「……そうだったんだ」

 

「はい。でも、今それに返答をする必要はないです。というか、しないでください。もし『無理です』とか言われたショックで橋から身を投げたりしかねませんから」

 

「そんなこと、しないでよ。あたしも悲しくなるからさ」

 

 由比ヶ浜先輩は俺の冗談に小さく笑う。

 

「そう言ってくれてよかったです。でも、俺はただ由比ヶ浜先輩が好きな訳じゃないんですよ」

 

「……どういうこと?」

 

「俺は比企谷先輩を想う由比ヶ浜先輩も好きだ、という訳です。おかしいですよね、自分の方向じゃないのに。でも、そういうのも嫌いじゃないんです。比企谷先輩優しい人ですし。だから、一つ先輩にお願いがあります」

 

 俺は改めて、由比ヶ浜先輩を真正面から見る。

 

「俺は今も、そしてこれからも雪姉の味方でい続けます。だから、先輩だけは、何があっても比企谷先輩の味方でいてあげてください」

 

「味方?」

 

「はい。先輩って天邪鬼だし素直じゃない上、すぐに一人になろうとするでしょう? だから、敵も作りやすい。そんな先輩の味方でいてほしいという訳です。俺はこれでも比企谷先輩のことを尊敬してますし、好きですよ。だから、由比ヶ浜先輩が好きなあの人にも悲しい思いはしてほしくはない、という訳です。ま、もちろん、俺も比企谷先輩の味方でいるつもりではありますけど」

 

 俺の答えに由比ヶ浜先輩はしばらく黙って頷いた。

 

「……分かった。せーくんもゆきのんを支えてあげてよね」

 

「もちろんですよ。姉弟なんですから。それで、どうです? 本音をぶちまけて少しは気持ちは楽になりました?」

 

 俺が聞くと、由比ヶ浜先輩は笑顔で答える。

 

「そうだね……。誰かと話すことでこんなに楽になるとは思わなかったし、今日は誘ってくれてありがとうね」

 

「こちらこそありがとうございます。お互い有意義な時間を過ごせたことに感謝いたします」

 

 俺の声に由比ヶ浜先輩は軽く笑う。

 

「せーくん、固いなぁ。サラリーマンの挨拶じゃないんだから」

 

「確かに」

 

 その後はお互い肩の荷が降りたかのように歌いまくった。好きって伝えてOKもらえた訳でもないのに、こんなに気が楽になるとは。こればっかりは予想外もいいところだ。ま、これであと俺が考えるべきことは由比ヶ浜先輩の誕生日プレゼントのことだけか。

 

 一方、その頃、奉仕部では雪姉と比企谷先輩が平塚先生から新たに人員補充の依頼を出されていた。まあ、由比ヶ浜先輩を連れ戻せってことなんだろうけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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